お客人どの、お客人どの。博識なるお客人どのに於かれましては、今年の『干支』など当然御存知のことと存じておりまするが、はてさて一体如何なる者にて御座いましょうや? …………ええ、ええ! 然り、此れ即ち
仕事の合間を縫ってがんばってかきました
ほめて(前々から準備しろ)
「…………はい。じゃそういうわけで、今いるメンツで反省会のほうをですね、始めてこうと思います。まだだよまだ。ステイ。みんなおはしはステイ。お席ついてー」
ヘィリィ。ご無沙汰しております、親愛なる視聴者の皆さん。
魔法情報局『のわめでぃあ』局長、自分と身内が題材と思しき薄い本は全部通販予約しました木乃若芽です。
いやー……通販なんですよ、通販。できることなら会場の空気を満喫したかったんですけどもね。
あとツテで言えば、それこそ壁やシャッター前常連の神作家先生おじさんの知り合いがいるっちゃいるんですが……最近われわれの活動に巻き込みすぎたせいで、ほんと久しぶりの祭典なもので。あんまり迷惑は掛けられませんで。
……ていうかまぁ、そもそも『主』が買いものに行けるわけないわけだが。
とにかく、今回は冬の祭典は置いておこう。おれは勿論、ユアキャスのみんながフィーバーしてるのは自分のことのように嬉しいけれど……今日のメインは、そっち方面じゃない。
というのもですね。私共ですね、何を隠そう祭典当日は『おつとめ』を頑張っておりまして……まぁ『こっち』に専念していたわけで、とても祭典に参加できるような状況じゃなかったんですよね。
そしてその『おつとめ』の内容がですね、冒頭の『反省会』に繋がるわけですが……まぁ年末年始の『おつとめ』といったら、もちろんあれです。
今となっては遠い昔のことのように感じられる、われわれが身に余る御縁を頂く切っ掛けとなった……愛智県は鶴城さんの『助勤』でございます。
……まぁ、とりあえず今年は常人レベルのスケジュールでした。
うちの幼年組もいたからね、よかった。
「はい、じゃあまず霧衣ちゃん」
「は、はいっ! 私も久方ぶりのお務めに御座いましたゆえ、若芽様や巫女衆の皆様にご迷惑をお掛けしてしまいまして御座いまする。……わ、わぅぅ…………もっと『てきぱき』こなせるよう、精進して参る次第に御座いまする」
「霧衣ちゃんのアレはオイタしてきた一般来訪オタクくんのせいなので気にしなくていいんだよ……!!」
「そうそう! ちゃーんとボクが追っ掛けて【混乱】と【酩酊】ブチ込んでオトシマエつけといたから!」
「そんなことしてたのラニちゃん!?!? 境内で勝手したら布都様にバチボコにキレられるよ!!? ナミタチされちゃうよ!!!?」
「だぁーいじょうぶだって! …………フツノさま直々の指令だからね。阻害系に留めたのはボクの……せめてもの良心、ってヤツだよ」
「ヒュッ」
おれと霧衣ちゃんはもちろん、完璧な巫女装束姿(&特別限定版黒髪美少女エルフ)姿にて、授与所の主戦力として大活躍だった。
配信では拝めないそんな姿を撮影するため、画像や映像素材をラニちゃんに押さえてもらってたわけだけど……このぷに○な妖精ときたら、気がついたらプチ布都様とツルんで悪巧みしてるんだもんよ。マジ心臓に悪いですって。
……しかしまぁ、駆け出し配信者だったあの頃は、霧衣ちゃんとふたりで頑張ってたわけだけど。
あれから月日が流れ、より多くの御縁を繋ぎ、にぎやかになった『のわめでぃあ』には……とっても心強くて可愛らしい、頼りになる仲間が増えたのだ。
「はいじゃあ、棗ちゃん」
「にっ。…………うぅむ……年始めの大祭は、此れ迄は吾輩警邏しか請けおったことがないのである。授与所のお務めは初めてであったし……たくさん迷惑をかけてしまったので、精進するのである」
「大丈夫に御座いまする、棗さまっ! 御品物の選定も、御代の勘定も、過ち無くこなされて御座いましたゆえ」
「そうそう、むしろ初めてであそこまで安心感あるのすごいっていうか、さすがっていうか。……まあ、確かに霧衣ちゃん先生に比べると手際の良さは届かないけど、それは比べる対象が『つよすぎ完璧かわいいおねえちゃん』だっただけで」
「わ、わかめさまぁ!?」
「えへへ……比べるのは失礼かもだけど、一般のバイト巫女さんよりうまくできてたと思うよ。ありがとね」
「わ、わたくしも! 棗さまにはたくさん感謝で御座いまする!」
「んふー」
そう、何を隠そう(隠しはしないけど)今年のおつとめは一味違う。
おれと霧衣ちゃんの経験者コンビに加え、小さくてもとってもかわいい新戦力がお披露目となったのだ。
巫女さんのおしごとが初めてだったらしい棗ちゃんだが、持ち前の真面目さと『ねえさまだいすき』パワーに起因する観察力は、はっきりいってかなりのものだ。
お隣でてきぱきと頒布に臨む霧衣おねえちゃんの手際を観察し、見よう見まねでバッチリ高速学習してみせた。
まじめで、がんばりやさんで、澄ました顔での『ほめてほしい』アピールがとても可愛らしい。
彼女が『ねえさま』と慕う霧衣ちゃんとのなかよしツーショットは、万病には効かないがそのうち効くようになると大好評なのだ。
「…………はい! じゃあ霧衣ちゃん棗ちゃんの『良い子ちゃんズ』および保護者のラニちゃんは、お務めお疲れ様でした! 鶴城さんにケータリング頂いたので、美味しく召し上がりましょう!」
「わーい!」「は、はいっ!」「にっ!」
「あ、あのぅ…………ご主人どの? 小生は――」
「ん?」
「えっ? あっ、えっと……あ、あの、小生も……ごちそうを、その……」
「ん???」
「………………えっと、」
「じゃあそういうわけでね、改めてね、自分の口から言ってみようね……朽羅ちゃん?」
「あっ、えー、えーーーっと、で御座いましてそのぉ…………あの、例のアレなる行為には深ぁーい理由が御座いましてその」
「言ってみよっか? 朽羅ちゃんが何したのか。言ってみよっか?」
「アッ! ッスゥーーーー…………」
連れ出されたネット弁慶のようにというか、借りてきた兎のようにというか、とにかく沙汰を待つ罪人のようにお座りしているのは……日本三大すごい神様の御一神であらせられるヨミさまよりお預かりしている野兎の神使、朽羅ちゃんである。
黙っていれば確かに愛らしい少女なのだが、その言動が兎にも角にも(※うさぎだけに)構ってちゃん気質というか、色々とお調子に乗りがちな困ったちゃん気質というか。
つまりは……ええ、やってくれたわけです。この子は。年末年始の鶴城さん助勤の場面にて。それはもう大々的に。
「あ、あのっ、あの、で御座いましてですね…………ま、まず小生、斯様に愛らしいうさちゃん神使にて御座いますゆえ、」
「うん、そうだね。それで?」
「んに……あねうえどの、お飲物が無いのである。吾輩ねえさまに『おれんじ』を注いで差し上げるである」
「ふふふっ。ありがとうございます、棗さま」
「………………そ、それで、その…………聞くところによると、本年の干支は奇遇なことに【卯】に御座いますれば、それ即ち小生も此れ『うさちゃん』にて御座いますゆえ、干支飾のように『ちやほや』されて然るべきにて――」
「ん??????」
「ヒュッ! …………え、えー…………えーーー、っと、その、えっと」
「あねうえどの、『からあげ』をどうぞなのである。吾輩あねうえどのが『おにく』すきだと知っているのである」
「わぅぅ、んぅぅ……! 棗さまのような優しい子と、若芽様達のような素敵な御方々と御縁を頂けて……私は大変、幸せ者にございまする……!」
「んふー」
「んぅぅぅぅ、ひグゥゥゥゥゥ……」
われらが拠点『のわめ荘(通称)』ダイニングスペースにて、椅子の上でお手々を縛られた上で『きをつけ』ポーズを余儀なくされる朽羅ちゃんを傍らに、存分にいちゃつき『尊ぇ』を全面放射している二人の可愛い娘ちゃんズ。
そんな仲睦まじい絡みをチラチラ横目で盗み見ながら……一方で罪状を追及される兎ちゃんは、どうやら冷や汗が止まらない様子。
かわいそうに、引きつった顔で奇声を上げて、小刻みにぷるぷる震えはじめてしまった。かわいそう。
「えー、それでは……盛り上がってまいりましたのでですね、このあたりで被告人朽羅ちゃんの罪状をですね、これから読み上げていこうと思います」
「ワーー!」「わうぅ!?」「……ふん」
「ざ、罪状だなどとそんな大袈裟――」
「ん?????」
「ぴっ」
……そもそも今回、鶴城さんで助勤としてお手伝いさせて頂いたおれたちだが……正直なところ、ほかのお宮さんからもお誘いのお言葉は頂戴していたりするのだ。
東方の某大神様は『布都ちゃんばっかりずるい!』『うちでも巫女さんやってくれなきゃやだ!』『夏祭りはうちに来て!』と可愛らしくおへそを曲げ。
一方で西方の某空神様は……なんというか、擬音にすると『ギンッ』とでも表せそうな目つきで、淡々とお小言を溢しておられました。うわヨミさま目ェ怖。
「は、反省はちゃんとしてるで御座いまする! ちゃんと小生心を入れ替えて、過去のことは水に流し明るく生きると心に決めたで御座いまする! だからこの手枷をそろそろ外して――」
「外すわけ無ぇだろ被告人うさちゃんがよぉ。生半可な『おしおき』は悦ばせるだけって知ってんやぞ。だからわざわざこうして拷問に掛けてるわけで、よって御馳走はお預けです」
「しょ、しょんなぁ……!!?」
「…………なるほど、これが『かわいそうはかわいい』ってやつか」
「ただの自業自得なんだよなぁ」
……ともかく、そんなやんごとなき方々の光栄なお誘いを断ってしまった以上、生半可な覚悟で臨むわけにはいかない案件だったわけで。
年末年始の大切な時期であるし、中途半端な気持ちで失礼があってはいけないと、みんなにもそう言い聞かせて円陣組んでエイオー気合入れていた……にもかかわらず。
この困ったうさぎちゃんはというと……巫女装束姿の自分を『大層愛らしく御座いましょう!』と周囲誰彼構わず見せびらかし。
かと思えば『小生幼少の砌より神々見の宮にて勤めてございますれば!』と唐突なキャリア自慢(?)を始め。
何よりも酷かったのが……『干支に御座います【卯】を尊ぶのならば、それ即ち小生も尊ばれ然るべきにて御座いまする!』『ささ、ご遠慮めされるな、存分に小生を『ちやほや』なさいませ!』という、割とどうしようもない理論を手当たり次第に押し付けて回っていたことであり。
……まぁそれでも、ちゃんとおシゴトしてくれれば文句は言われないんだろうけど。
連絡係の巫女さんたちや、参拝者の方々にも同様に『小生かわいい』および『うさちゃん小生をありがたがるべき』アピールを欠かさず。
教えられていた言葉遣いや頒布応対の文面を一切無視し、いつも通りの少々独特な言い回しで『ちやほやしろ』と捲し立て。
お守りを求める参拝の方々を待たせまくり、あまつさえお隣で真面目におシゴトに臨む棗ちゃんにちょっかいを掛けて困らせていたので。
「………………まぁつまりね、他所様での狼藉はね、罪ありきなわけでして。さすがに反省してもらわないと」
「ぺうゥゥゥゥ………!」
「……箱の中なら、どんなに…………は、言い過ぎだけど、ある程度は『わがまま』も良いんだけどさ。さすがに他所様にまで迷惑掛けるのは、ちょーっと看過できないわけよ。あと今回は相手が悪かった」
「み゜ゃっ!?」
「そうだね。プチフツノさまあの場じゃ大笑いしてたけど、アレ目と雰囲気は笑ってなかったからね。今頃ヨミちゃんさまに苦情行っててもおかしくないよ」
「ひュゴほォ!?」
「あー……………………ご愁傷様」
「いん゛ッ……………!!?」
「あねうえどの、あねうえどの。吾輩きづいたのである。これなる『えびふらい』に『まよねーず』をつけるとおいしいのである」
「ふふっ。棗さま、えびさんの尻尾は『ぺっ』てしてしまっても構わないので御座いまする」
「大丈夫なのである。吾輩、えびさんのしっぽもおいしく、ちゃんと『ごちそうさま』するである」
「まあ。……そうで御座いますね。頂戴したお命には、ちゃんと『ごちそうさま』しないとで御座いまする。……棗さまは、大変ご立派に御座いまする」
「むふー」
彼女の古巣であり、また慕っている者が居る神々見さんから『お叱り』が入ることを想像してしまい。
また……目の前で繰り広げられている仲睦まじい食事風景を、弱り目にまざまざと見せつけられ続け。
…………トドメに、さっき調子に乗って『おれんじ』を次々とゴクゴク入れていたその『結果』が、どうやら表れはじめてしまった様子で。
「…………ご、ごヒュじん、どの、あの」
「ちなみに漏らしたらおやつ一ヶ月抜きだからね」
「ヒュんんんんん!? ごごご、ごめんなさいで御座いまする! ごめんなさいで御座いまする!! もうお外で無礼かつ不相応な立振舞いは厳に謹むと御約束致しまする!! ……だッ、だから、あの、とり、とりあえず厠に――」
「ほかには? 特に棗ちゃんに何か言うことあるんじゃない?」
「ななな棗どの! 棗どのっ! ごめんなさいで御座いまする! 真面目にお務めに臨む棗どのの邪魔をして、あと未発達な『すっとん』体形と馬鹿にしてごめんなさいで御座いまする! あとあと『くりーむぱん』こっそりひとつ食べたのもごめんなさいで御座いまする!!」
「わかめどの、吾輩『くりーむぱん』のお話は知らなかったのである」
「だよね。棗ちゃん食べてないはずなのになんか減ってた気がしたから、とりあえず買い足してたんだけど…………やっぱり、かぁ」
「ヒュっ」
…………まぁ、おれだって鬼じゃない。
色々とクレームが入っても仕方ない体たらくだったとはいえ、それでも超繁忙期を乗り切った『おつかれさま』の場ではあるし……我が家のリビング、しかもお食事中に『おもらし』されるわけにもいかない。
それに……うちに来た当初に比べれば、これでも『ごめんなさい』がスムーズに出てくるようになったのだ。
朽羅ちゃんの今後の成長に期待、ということで。
「…………ラニちゃん、解いたげて」
「はいはーい。おっけー劇場」
「ら、らにちゃんどのぉ……!」
「あ〜〜〜イイね、涙で潤んだ表情めっちゃソソる」
(……大人しくしてれば、実際かなり可愛らしいんだけどね)
(それねぇ………言動が……)
……ともあれ。
ついに戒めを解かれ、ひとまずこの場での追及を終えた朽羅ちゃんは、心なしかひょこひょこしながらお手洗い目指して一目散。
ちなみにウチの一階お手洗いには現在、年末の祭典を乗り切り成し遂げた某神作家先生が住んでるぞ。なんでも打ち上げで牡蠣にアタった可能性が高いとかで、もう一時間は奮闘中の模様。
入居時にタブレットとお水も持ち込んでたから、アレは当分出てこないやつだと思うんだけど……。
『ふなャぁーーーーーー!?!!?』
『きゃーーー!! 何ィーーーー!!!?』
甲高い女の子の絶叫と、けたたましく扉を連打する音と、絹を裂くようなおじさんの悲鳴がどこ遠くで聞こえたような気がするけど……まぁ『水漏れ』のような音は聞こえて来ないから、たぶん大丈夫でしょう。
いちおうウチには二階にもお手洗いはあるし、最悪すぐ近くにはお風呂場もあるので……詳しくは言わんが、まぁつよく生きてほしい。
(………………まぁ、ボクもたびたびやっちゃってるからね……おフロ)
(おれが魔法できれいきれいしてるから大丈夫よ)
(さすがノワ、助か…………いや、よく考えたらボクがやっちゃうのだいたいノワのせいじゃん! ひどい! マッチョパンツだ!)
(マッチポンプかな? いやいや、おれのせいって言うけどさ、その原因はそもそもラニちゃんでしょうに。また洗濯かごからパンツ盗んだの知ってんだからな?)
(さて、ボク一応くっちーの様子見てこよっかな)
(流さんからな?)
(なるほど、お手洗いだけに?)
(いいかげんにしろ)
(んへへ〜〜〜〜〜〜!!)
…………まぁ、そうだな。
たのしいがいっぱいなのは、それはとても嬉しいことなのだけど。
同じくらい、いやそれ以上に……騒動もいっぱいなわけだけども。
それでも……やっぱり、おれは『のわめでぃあ』のみんなが大好きだ。
願わくばずっとこのまま、世界が平和でありますように。
※時系列は特に気にしないでください。特に深い意味はありません。(いつもの)




