【撮影遠征】不思議の海のわかめ_最終夜
なんとか着地しました……させました……
多少強引になった感は否めませんが……
「…………って事ぁ、何だ? 南覇空港からは一歩も出なかったと? ロケは咲島ばっかで、本島エリアは全然、少しも、これーっぽっちも見て回んなかった……って事か!?」
「エッ、アッ、エット、あの…………ハィ」
「ゥァぎじゃびよォォォォイ!! くっそ……ああ! 何てこった! 俺様が居りゃァウミガメツアーもマングローブカヤックもパラセーリングも徹底的にお見舞いできたってェのに……!!」
「アッ、あの……だ、大丈夫です。だいたいそのあたりを咲喜島姉妹にひと通り満喫させて頂いたので……」
「くッそォォォォRyuKyubeの小娘共がァァァァァ!!!」
「「「こっわ」」」
「は、はははは…………」
とっても楽しかった翁縄収録ツアーも無事に大団円を迎え、浪越市の空港からひとっ飛びで岩波市山中のわれらが本拠地(通称:のわめ荘)へと帰還し、旅の疲れを癒すべくその日はちょっと早めにオヤスミグースカして。
一夜明けた本日、現在地は東京都渋谷区碑実坂の某オフィスビル八階、今やわれわれ『のわめでぃあ』とズブズブでズブな関係を構築してしまっている株式会社NWキャストさん……まぁつまるところ『にじキャラ』さんのオフィスだ。
例によってラニちゃんの【繋門】にて一瞬で到着、事前にご案内を頂いていた八〇三号室にお邪魔しまして、噂を聞きつけ待ち構えていた見た目賑やかな男女複数名に取っ捕まって会議室へと連れ込まれ、そうしてこうして現在に至るわけだ。
とはいえ、まぁ……商談だとか打ち合わせだとか、そんな肩肘張った用向きでは無い。
単純に『翁縄のおみやげ買ってきたんですけどいりますか?』『絶対に要ります!!ぜひ遊び来て下さい!!』といったやり取りがあって、まぁご迷惑でないならとお邪魔した次第だ。
ちなみに先述のやり取りだが、お相手は鈴木本部長さんな。よりにもよってトップだよ。
ちなみに……先方さん側から『のわめでぃあさんと収録しました!』レベルのアナウンスは既に出されているので、おれの『翁縄いってきました』アピールは現時点で既に解禁となっている。
……まぁ、おれの特徴である派手派手グリーンわかばヘアーの目撃証言が神路島各地で上がり、SNSでも話題になってたらしいからな。遅かれ早かれバレていたことだろう。
おかげで各方面からのお問い合わせがハンパないんですけどね。ポロリは無ぇよ。
動画の本公開も秒読みらしいので、お問い合わせいただいた皆様には『もうちょっとだけ待ってほしい』とお伝えしてあります。局長できる子。
「しっかし……ラニちゃんのワープ魔法、相変わらず半端無ェな。愛智県から此処まで十分も掛からず飛んで来れるたぁ……」
「でしょでしょ! ほらほらノワ、ボクってばやっぱスゴイんだって! もっとタイグーを良くしてくれてもいいのよ!」
「ですがラニさんのお陰で、ぼくは起き抜けを拉致られることになったんですけど! いやまあ嬉しいですが! 若芽さんからのお土産もお誘いもめっちゃ嬉しいんですが!!」
「いえあの、あの……すみません。翁縄行ったらやっぱミルさんにお声かけしとかなきゃ、って気分になったので……以前蝶羽湾とかのお話聞きましたし……」
「ええやんええやん。ミルミル浪越住みやし、なかなか事務所来ぇへんやろ? うちもミルミルとなかなか会えんねんでたまには存分に遊ばせーや! もちろんウチになぁ! ホラ手始めにちょっと捲って見せぇやオラァ!」
「う、うわーー!!」
「シレッとミルで遊ぼうとすンじゃ無ェよドアホ! 自重しろやこの馬糞頭!」
「誰ァれが馬糞や! 紫や言うとるやろこの顔黒陽キャが!!」
「ガングロじゃないですゥー! これは魔族肌なんですゥー! 山姥と一緒にしないで貰えますかァー!」
「ヤマンバ自体もう死語やろがァい!!」
「ンだとコラ誰がオッサンじゃオラァ!」
……えー、相変わらず仲いいなこいつら。
じつは魂が翁縄県ご出身ということもあり、今回のわれわれの翁縄遠征にひときわ大きな反応を返してくれたⅠ期生のハデス様。
……せっかく地元を紹介するなら一役噛んでみたかったということなのだろうが、残念ながらあなたさまは『魔王(という設定)』ですので。
ほら、公式プロフィールにも『出身地:魔王領イーセ・カイ』って書いてあるでしょ。
本気で悔しがってくれるその熱量は買うけど……さすがに地域振興が主目的である以上、残念ではあるけど適性でいえばご当地配信者さんに敵わないでしょう。
あとは……まぁ、単純に報酬の問題もあるんだろう。彼ら彼女らにご当地PR案件とか、いったいおいくら万円用意すれば良いのか。なにせここは大御所も大御所、登録者数百万人プレイヤーどもの巣窟である。こっわ。
しかしながら、改めて見回してみても……ほんの一年前くらいには画面の中でしかお目に掛かれなかった方々が、こうして当たり前のように実在して団欒し、お茶を飲み、お菓子を食べ、罵倒し合っている。
魔族の長が、水底の領主が、ウニが、聖女が魔法少女が男子高校生がノルウェーサーモンが、デスクワーク中のスタッフさん達に紛れて確かに存在しているのだ。
……まぁ、配信中以外でも【変身】しっ放しなのはちょっとどうかと思うけど……ウィルムさんみたいな規格外でもなければ、まわりに迷惑にもならないだろう。
まさかオフィスの外にまで【変身】したまんま出てるわけでもないだろうし。
…………ないよな? 信じてるぞ?
「……ってワケで本部長さん! 俺様達にも旅ロケ頼むよ本当! わかめちゃん達が演ってんだから俺様も許されるっしょ!?」
「ふふふふ…………ご心配無く。まだ本人達には内緒なのですが、近々MagiColorSの皆さんに旅企画をですね、例のサイコロをお見舞する予定ですので」
「「「「おぉーーーー!!」」」」
ちょっと!? 鈴木さん今何か言ってなかった!?
あぁ…………ついに来たかぁ……。
全然音沙汰無かったから流れたと思ってたんだけどなぁ……油断した。
諦めろ緑。主にお前がターゲットだ。お前だけは絶対逃げられんからな覚悟しとけ。
や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛
うぉーぃ……まぁしゃーねぇーなぁ、おれも旅支度しとくかぁ。
会議室の外から、何やら魔法少女五人組の悲鳴や慟哭や諦観のお声が聞こえてきた気がしたけれども……まぁきっと気のせいだろう。
楽しい実在仮想配信者の楽しい旅企画に、ネガティブなイメージなんてあるわけがないもんな。楽しみだろ。楽しみっていえ。
今回のわれわれの案件が一般公開されれば……実在仮想配信者による旅番組適性を、これまでの仮想配信者視聴者以外の層にもバッチリ証明してやれるだろう。
旅の楽しみも苦しみも、酸いも甘いも余すところなく、見た目も賑やかな配信者たちの全身で伝えることができるのだ。
そんなの……楽しみで楽しみで仕方ない。
なのでMagiColorSちゃん達は早く深夜バスされてほしい。悪夢にうなされてほしい。
……そういうふうに考える人は、おそらくおれだけじゃないのだろう。
演者たちの、つまりは『推し』の姿がたくさん摂取できるということは……たとえそれが少しずつであろうと、この世界を確かに希望あふれるものへと転じさせる力となる。
それはおれにとって……おれの相棒とその同志にとって、何よりも喜ばしいものなのだ。
でもさぁ実際、MagiColorSって五人組じゃん? サバゲーのときも思ったけどさ、チーム分けし辛いじゃんね。
あーおれも思ったわぁ。紅白戦とかしよーにも二人と三人じゃ明らかに戦力差出るからなぅ。
……じゃあ、わたしお休みしてる。
逃がさねぇよ桃! ……ていうか単純にさ、二人旅より三人旅のほうが見ごたえあるじゃん?
じゃあ一人増やす? ……でもどうやって? Ⅲ期生の中に一人だけ別チームってめっちゃ荒れそうじゃん?
わかった! 外部から助っ人呼び込めばいいんだよ! わかめちゃんとか絶対いい声で鳴いてくれるって!! あたしってば頭いい!!
「ごめんなさい聞き捨てならないので処してきて良いですか?」
「「「「どうぞどうぞ」」」」
「ヨッシャァゴラァウォォン悪い子誰だァ!!!」
「「「「緑です」」」」
「な゛ん゛で゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!゛!゛?゛」
………………………………………
…………………………
……………
「…………って事は……何? ビーチバレーしただけ? 海に入ったり泳いだり潜ったり波を被ったり解いたり解けたりは全然、少しも、これーっぽっちも堪能しなかった……って事なの!?」
「エッ? アッ、アレッ? あの、エット…………ハイ」
「ちょっとぉぉぉぉ!! もう、ほんと……ああもー、何てこと! あたしが居たらビーチバレーとかヌルいこと言わずビーチフラッグとかバランスボールでお■■とか■■■■とかドアップ狙わせるし何なら人けの無い岩場の奥のほうで■■■■とか■■■■とか色んなシチュで徹底的に■■■■■■撮影(■■■■もあるよ)やってやったってぇのに!!」
「アッ、(ッスゥーーー……)だ、大丈夫です。そういう心配が無いようにバッチリ長袖ラッシュガードでガードしておいたので」
「くッそォォォォあたしのオカズがァァァァァ!!!」
「こっっっわ」
「やーやーやー……ホンットいい趣味してるよね、この子」
「わたしはノーコメントです」
ところ変わってお相手変わって、現在おれたちがお邪魔しているのは、浪越駅前高層ビルエリアの一角、見るからに高所得者向けタワーマンションの高層階である。
都会的でスタイリッシュなリビングスペースはキチッと整い清掃が行き届き、こちらの入居者の方々の几帳面さが見て取れるようで。
おれたちが腰かけているソファから見て正面、床から天井まで繋がる大開口ガラス窓からは、大都会浪越市中心部の雑踏が見下ろせる。わははは人が歩行者のようだ!
そんなこんなで、おれたちを出迎えてくれた『社長秘書』さんの性癖をワッと浴びせられて若干引いちゃったけども……まぁ彼女がそういう娘だということはよーく知っていたので、今更多少引いたところで幻滅することは無い。平常運転だ。
……これが平常運転なのはそれはそれで色々とマズいのかもしれないが、彼女はそのへんのオンオフの区別をしっかり行えるハズであり、三姉妹の中では一番対外コミュニケーション能力が高い筆頭秘書のハズなので、まぁ大丈夫だろう。大丈夫ってことにしておこう。おれはあまり深入りしたくないな、うん。
「………………あれ、…………おぉ。なあに……きてたの? 木乃ちゃん」
「…………!! ……、……♪ …………!」
「あっ! こんにちわ、シズさん、つくしちゃん。お邪魔してます、お元気してましたか?」
「ヤッホーお久しぶり! オキナワのオミヤゲ持ってきたよ! チンチコッコとかいうやつ!」
「ラニちゃんマジで他所で口に出さないでよそれ!?」
ぱっと見は高所得者向けタワーマンションであり、まぁ実際そのとおりなのだが……実はこちら、㈱マテリアライズアクター社の事務所(のひとつ)兼自宅ということになっておりましてですね。
つまりは現在おれたちがお邪魔しているリビングスペース、これそのまま応接室というか商談コーナーだったりするわけで。そりゃきっちり掃除されてるわけだ。
こちらの物件、普段は代表取締役社長である山本五郎さんとその秘書三名と、多忙を極める赤い美少女学者がお住まいとのことなのですが……残念ながら、山本社長と美少女学者さんは本日不在の様子。
こりゃまた山本社長まじ凹みしちゃうかな、なんて考えながら……まぁそのへんのケアは秘書三人に任せるとして、おれたちは無難におみやげを手渡していく。
「山本社長は……どうですか? 最近忙しいって聞きますけど」
「そうなのよ。ぶっちゃけマジで忙しいっていうか、忙しい以上に仕事が進まないっていうか…………うーん、まぁ……わかめちゃんなら言っちゃってもいっか。ゲーノー界がね、最近妙に茶々入れてくんのよ」
「ホェ!? …………あっ、もしかして」
「ん…………テレビ、とか…………荒されたくない……みたい」
「今までは嫌がらせにも、秘書のあたしに対するセクハラ……になってすらいないセクハラ未満にも、まぁ笑って流してたんだけど…………まぁ、いい加減度が過ぎるって判断したみたいでね、カチコミ行ってるのよ。お父様とセンセ」
「あぁ……それで今日雁屋さん居ないんですね」
「そうそう。お陰で今日一日お外に出れないなぁーって思ってたんだけど……わかめちゃん達が遊びに来てくれたからね。万々歳よ」
「大変ですねっていうか……色々と苦労をお掛けします。何か手伝えたら良かったんですけど……」
「…………圧力、掛けるには……ボクらの『見た目』じゃ、効果無いから。…………実力行使なら楽なのに」
「そうなのよね。ヤっちまえば早いのに」
「どうどうどうどうどう」
雁屋さん、というのは……今現在聖ちゃんがお世話になっている保護司さんにして、㈱MA社の顧問弁護士先生である。
かつて彼女たちが『魔王の使徒』として、おれたち(というか『正義の魔法使い』)と完全に敵対していたとき。
第二の使徒である佐久馬聖は、民間の化学工場一つをその権能をもって破壊し……現代日本において『甚大』と言える物的および人的被害を生じさせている。
ただ、表面上は『石油利権が絡んだテロ事件』ということになっているので、表立って逮捕や起訴されているわけじゃない。
また『使徒』に身をやつすに至った経緯や置かれた状況、年齢、反省の意思や技能の将来性等を見込まれ、拘置所や刑務所といった結末は避けられたのだが……だからといって危険人物を手放しで放置するほど、この国の『裏』は甘くない。
結果として……彼女、佐久間聖ちゃんは。
引退神使であり、警視庁のOGでもあり、つまりは神様たちと少なからず関わりのあるスーパーキャリアウーマン雁屋おねえさん(自称・永遠の十七歳)の監視下に、しばらくの間置かれる形となっているのだ。
社長秘書の一人として、普段は会社でお仕事をしている彼女だが……何かにつけて行動記録が義務付けられていたり、隔週で面会および面談が義務付けられていたり、職場以外の外出や遠出の際なんかも(一部の例外を除いて)雁屋さんの同伴……つまりは『監視』が必要だという。
あらゆる点において不便を余儀なくされて、ガッチガチに戒められているように思えるのだが……当の本人は意外なことに『けろっ』としているんだよな。
なんでも、こうして時々とはいえおれたちと直接会ってお話しできたり、ユースクで動画や配信を見たり、何がとは言わないけど彼女の『欲求』を解消する手筈を整えて貰ってたりするからだそうで……本人は『シたい事ぜんぶサセてくれるんだよ』『至れり尽くせりじゃん』といった感じで、とても前向きに捉えている。
なおそのへんの細かい仕組みは、ざんねんながらおれにはよくわからない。ぶっちゃけそれって倍々な旬のものであるような気がしなくもないし、援助した上で高裁に行ってしまうような気もするし……そんなわけで、詳しく聞こうとすると知っちゃいけないことを知ってしまいそうな予感がしたので、おれはぜったいに何も知らない。
当人たちが納得して法の番人が何も言わないなら良いんじゃないですかね! 何をしてるのかわかりませんが!!
……まぁ、とにかく。
自分を愛し、構い、好いてくれる人々が周りに居てくれる限りは……彼女は社交的で、まじめで、世話焼きで頑張り屋さんな女の子なのだ。えっちだけど。
自らがかつて仕出かした罪をしっかり自覚した上で、保護観察を受けながら社長秘書業務をバリバリこなしてくれているらしい。……強い子だ。
そんな彼女の……仕事に明け暮れる社長の筆頭秘書として日夜頑張る聖ちゃんの、せっかくの休日なのだ。
翁縄のおみやげだけ渡して『ハイ終わり』というのは、あまりにも味気ない。
……実のところ、件の『同伴』ならびに『監視』だが……ほかでもないわたくし木乃若芽ちゃんも、その御役目を任されることが出来るのだ。さっき言ってた『一部の例外』というのが、何を隠そうソレである。
まぁもともと、暴れまわる使徒をふん縛って取っ捕まえたのが、ほかでもない『正義の魔法使い』ことおれなわけで。
実力的にも、そしてなにより性格的にも、任せて安心だと判断してもらえたというわけなのだ。ふふん。
っとまあ、前置きが長くなったけど……つまりは、だ。
監視役である雁屋さんが不在であり、通常であれば外出に制限を受ける状況下であっても、おれが着いていればお出かけが許されるということなのだ。
「…………それじゃ、そろそろ行きますか? あんまり時間消費しちゃっても勿体ない」
「っ!! そうね……危ない危ない。時間は有効に使わないとだわ、寄りたいトコも買いたいモノもいっぱいあるんだから。……もう行けるの?」
「わたしたちは、いつでも。……シズちゃんとつくしちゃんは?」
「…………………………えっ? えっ、いや…………えっ? …………え、ボク?」
「…………? …………、……?」
「そーよ。二人とも全ッ然、可愛いカッコしてくれないじゃない。わかめちゃん共々、今日こそ徹底的に着飾ったげるから……覚悟しときなさいよ?」
「ぇええぇえぇえええ…………」
「……!! …………、……♪」
おれたちの出会いそのものは、それぞれ不幸が連なった結果だったけど……今このときの平穏があるのは紛れもなく、確かな『幸運』に恵まれてたからにほかならない。
せっかくこうして、超常の力を備えた者たちどうしが『縁』を繋ぐことができたのだ。可愛くてカッコよくて強い意志を秘めた彼女たちが居れば、どんな困難だって乗り越えられるだろう。
だって、ほら。かつての敵どうしが和解して、共通の目標に向かって共に歩むのとか……胸熱でしょう。世の男の子たちはそういうの好きだろ。
この世界の平穏を脅かす『悪しき存在』は、もう居ない。
ここにいるのは、おれとともに愉快痛快な娯楽物語を紡いでいく……歪ながらも楽しいこの世界の未来を担う、心強い仲間たちなのだ。
まったく、楽しみで仕方ないな!
【ゆるぼ】番外編ネタ(書くとは言っていない)




