【撮影遠征】不思議の海のわかめ_十二夜
さて、まぁ……案の定とでも言いましょうか。
正直に申しましてですね、予想外のことなんて何一つとして起こりませんでしてですね。
「はい勝ち~~~~(咲喜島ミャークはそこそこ動けるため)」
「えーっと……ごめんっていうか何というか」
「………………」
「はわわわわうわうわうわう」
「わかめどの、わかめどの。吾輩がんばって玉を拾ったのであるぞ」
「し、小生も! 小生もちゃんとぽんぽんしたで御座いまする!」
「………………………」
「わ、わかめどの?」「ご主人どの……?」
「しんでる……」「合掌」
「はわわうわうわうわうん……」
死んではいません。生きてます。生き返ってます。なぜならみんなかわいいので(蘇生)。
特にですね、われらが霧衣おねえちゃんがですね、そのやわらかで暖かなふとももでおれのことを膝枕してくれてイイコイイコしてくれているので、体力的にはしにましたがメンタル的には無敵なのです。ちょう役得。
さてさて、気になる試合内容でしたが……気になる? いや気のせいだな。結果とか聞くまでも無いやろ。わが方の敗北です。
われらがかわいいおたすけ神使三姉妹が替わりばんこでコートインする中、おれは局長なのでずっとスタメンで戦い続けまして。案の定ガス欠とでも申しましょうか、終盤(というか中盤から)はもう足を動かすことも叶わず、手の届く範囲のボールにしか手を出せませんでしたね。
途中から明らかに『やいみゃー』のお二人が多分に手心を加えてくれ、軽いトスばかり投げ込んでくれていたような気がしたけれども……そこまでしてもらっても、結局ろくに対処できなかったからな。自慢じゃないが。
……そんな中でも、ネットの向こう側で『やいみゃー』のお二人が躍動感たっぷりに身体を動かす様を存分に堪能させていただいたので、おれ個人としては収支プラスなのでとてもありがたい。よってこの後の沙汰は甘んじて受けさせて戴く。
たいへんよい揺れ具合と躍動感でした。ごちそうさまです。
実際のところ、霧衣ちゃんも棗ちゃんも朽羅ちゃんも、皆ビーチバレーのルールこそ知らないながらも、生来の運動神経の良さが幸いしてめきめきと上達していった。
つまりは……三人とも立派に戦えていたので、予想通りに足を引っ張りまくったのは局長であるおれだったわけだ。
まぁ、そんなわけで。
ここまでわかりやすい戦犯だったら……特に審議の手間も無く、安心して罰ゲームに臨んで貰えるってわけですよ。まぁ戦犯おれなんだけど。
「はいじゃあ準備いいですかー? ベルトの緩みはありませんねー? 緩んでたらすっ飛んでっちゃうかもしれませんからねー?」
「なにそれ怖っわ! ねぇちょっと!? 大丈夫なんですか!? 本っ当に危険は無いんですよね!?」
「そりゃあ絶叫アクティビティっすからね。スリルあってナンボっすよ」
「本ッッ当に『スリル』の域に収まってくれるんですよね!? 命の危険は無いんですよね!?」
「はいじゃあ船乗る人は乗り込んで下さーいもうすぐ船出ますよー」
「ちょっと!? ディレクターさん!?」
今回のビーチバレー対決だが……罰ゲームの内容として用意されていたのが、こちら『絶叫マリンアクティビティ』の体験レポートである。
現在のおれは、先程のビーチバレー対決に引き続いてのスポーティーな水着姿に、更に物騒なものをプラスアルファされた装いだ。
上下セパレートタイプ(子ども用)水着の上から、長袖ラッシュガードとショートパンツでセンシティブ要素をガードした防御強化型……現在その上から更に、モノモノしいハーネスが取り付けられている。
両肩から両脇下から脇腹からお股の間からガッチリ雁字搦めにされるパターンの、割と危険度の高いロケやバンジージャンプなんかでよく見られるやつだ。
なんならご丁寧にヘルメットと、そこから伸びたアームに取り付けられた防水アクションカメラまでスタンバイ。ははーんさてはズブ濡れになるやつだな!
見るからに物々しい防具類に加えて……トドメとばかりに、ハーネスに繋がれスタンバイされているもの。
それを認識したおれは叡智をもって、この絶叫アクティビティがどういうものなのかを完璧に理解してしまった。なぜならおれは賢いので。
「はいじゃあー! そろそろ良い感じですのでー! 心の準備は良いですかー!」
「大丈夫ですーー!!」
「はいそれではー! 『大興奮アクティビティレポート』そのいち! お願いしまぁーーす!!」
「ちくしょぉぉぉおおおお!!!」
フル装備で固められ船尾でスタンバイするおれと、それを心配そうな面持ちで見守る可愛い子ちゃん達と、心から楽しそうな笑みを浮かべるヒトデナシどもを乗せたボートがポイント付近へと到達し……ヒトデナシ筆頭もとい先方ディレクターさんの音頭以下、ついにそのときが訪れようとしている。
ディレクターさんの号令によって、マリンレジャーのスタッフさんが機器を操作。おれの背後で畳まれていた布の塊が、一気に『ぶわっ』と開いてその姿を表す。
海面を疾走するモーターボートの船尾、海風を受けて大きく広がるそれの正体とは、燦々と輝く太陽のイラストが施された巨大なパラシュート。
高速で動く船の上でそんなもんを拡げては、ましてやそれがおれの身体にガッチリ繋がれてるとあれば。
まぁ……要するにですね、早い話が凧揚げですよ。
「おああああああああああああ!!!?」
「「「「おぉーーー……」」」」
ボート備え付けの電動リールが勢いよく回転し始め、巻き取られていたワイヤーが一気に放出されていく。
風を受けて揚力を稼ぎ出したパラシュートは、おれの小さく軽い身体なんてものともせずに、一気に空高く上昇していく。
高さ的には、ぶっちゃけおれ自身は【浮遊】の魔法によって耐性がある。
だがしかし、完全に自分の制御を離れた強制飛行、かつ上空の気流によって前後左右へとぐわんぐわん揺さぶられるとあっては、これは飾るまでもなく素の悲鳴が『これでもか!』と溢れ出てくる。
「たかいたかいたかいたかいたかいたかい!! かぜが!! かぜがつよい!! 待って待ってたかいたかいたかい!! ちょっ、アッ!! やああ!! アアア!! 落ち、っ、…………アア゛ッ!? わ、や、ばばばアアアばばアバァーーーー!! わダァ゛ーーーー!! かぜァ゜ーーーー!!!」
(おーおー……いい悲鳴いただきました。ナイス撮れ高。 さっすがノワ)
「ラあ゛ーーーーーー!!」
後で聞いた話によると……このとき放り出されたワイヤーの長さは二〇〇メートル、高度はおよそ九〇から一〇〇メートルにも達していたという。
これだけの高さで飛ばされてればね、そりゃお腹の下のあたりがスーッてなってもしかたないからね。ヒュンてする感じ。これでもかとスリル味わいましたとも。
……ボートとこれだけ離れていれば、多少がまんできなかったとしてもきっとバレていないだろう。水着で良かった。
およそ十分後、ワイヤーリールを巻かれることで少しずつ高度を下ろしていったおれは……船上で待ち構えていた皆さんから、たいへんいい笑顔と労いの言葉を頂戴したのだった。
なお足腰はガックガクで立ち上がれなかった模様。
またこの後待ち受けていた『大興奮アクティビティレポート』その二(海面疾走超高速バナナボート)によって、おれはこれまた悲鳴と絶叫を搾取されることとなった。
ついでに何がとは言わないけど我慢のほうは本格的に決壊することとなったのだが……最後に握力が限界を迎えて海中に没したこと、ならびに【浄化】魔法による迅速な証拠隠滅の甲斐もあってか、なんとかだれにもバレずに済んだ。
……水着着といて、ほんとうに良かった。
よくないわ。二度とやらんからな。ばか。




