【撮影遠征】不思議の海のわかめ_十一夜
「では到着までもー少しありますので……念のためもう一度、本日の行程を確認させていただきますね」
「「はぁーい」」「は……ハイッ!」
予報通りよく晴れた明くる日、お空を見上げれば雲ひとつない快晴。今日はいよいよおれの出番、見せ場にして魅せ場たるお仕事が待ちうけている日だ。
全行程四日間のうちの三日目、なんか十一夜な気もするけど三日目です。三日目なんですよ、ふしぎですね。
……なんなんですかね十一夜って。不意に頭の中に浮かんだんですけど……よくわかりませんね!
ともあれ今日は本格的な撮影の日。現在は人員輸送用のバン車輌にて、うちの可愛い子ちゃん(+烏森氏)ともどもホテルを出発し、咲喜島姉妹ならびにRyuKyube撮影スタッフの皆さんとロケ地へ向かっているところである。
「一箇所目。だいたい九時半頃を予定してます。セザキビーチにてビーチバレー対決ですね。うちの『やいみゃー』対のわめでぃあさん側二名とで試合形式、負けたチームは絶叫系マリンアクティビティの体験レポートを行って頂きます。……大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。もー全て受け入れましょう。ていうかあんな豪華なおもてなしされといて今更『いやです』とか言えませんって」
「おぉー」「かっこいいぞ局長!」
「ふふん、そうでしょう! わたしは『のわめでぃあ』の局長ですので!」
「ちなみに、その……私共はよく存じませんが、『のわめでぃあ』さんのアシスタントさんからですね、なんでも『バフ禁止で』とのことでメールを承っておりますので」
「な゜ォョ゛」
(…………いや、あたりまえでしょ。ノワは運動神経よわよわって視聴者さんみんな知ってるし……共通認識だし)
(そ、それわそうですが……!!)
「あ……あの、わかめちゃん?」
「大丈夫ですか……?」
「大丈夫です!!!」
まぁ、さっそく出鼻をくじかれたが……やると言ったからにはしっかり務めさせていただこう。男に二言は無いってやつだ。なぜならおれはおとこなので。
とはいえおそらくほぼ間違いなく、体力クソザコナメクジであるおれが足を引っ張る形となるだろう。やいみゃーのお二人がどれくらい動けるのかはわからないが、おれよりも体力クソザコということは無いだろう。
……つまり正直認めたくはないが、我が方の負けおよびバツゲームは実質確定してるので、ならばおれが今すべきことは決まっている。
「絶叫系アクティビティ、って……資料見たんですけど、二つでしたよね?」
「そうですね。本来なら『やいみゃー』に一つずつ『おみまい』しようと思ってたので」
「「ひぇっ」」
「わかりました。大丈夫です。じゃあ我々が負けたらそれ、両方わたしに引き受けさせてほしいんですけど」
「それは願ったりですが……良いんですか? 結構しますよ?」
「大丈夫です。うちの娘たちに『そういうの』はちょっとやらせたくないので……すみません」
「あぁ……いえ、こちらこそ。失礼しました」
そうとも。ここ最近特に距離感がバグりつつあるので忘れそうになってしまうが……そもそもこの子たちはお客様であり、それはそれはやんごとなき方々からお預かりした大切な子たちなのだ。
こわい思いをさせたり、泣かせちゃったり、ましてやそれを映像に収めて晒し者にしようだなんて……まぁ某うさちゃんはぶっちゃけ大丈夫なのかもしれないけど、しかし背後を考えるとやっぱり気が引ける。
というわけで、代わりに当店の売れ筋商品である局長の絶叫を大盤振る舞いさせていただくことで、先方には溜飲を下げていただくとする。
実際サラッと言ってたもんな、『願ったりです』とかな、スタッフさん言ってたもんな。ほんとな、ひどいぞRyuKyube。後でウチナお姉様にチクってやる。
「その後途中で昼食を挟みまして……予定としては午後一時頃を目安に二箇所目、蝶羽湾にてグラスボトム船ツアー。こちらは特に落とし穴とか無いので、演者の皆様にご搭乗頂ければと」
「『落とし穴』て…………いえ、すみません。まぁ実のところ、お魚がいっぱい見れるって楽しみにしてる子がいますので、ぜひお世話にどうどう棗ちゃん落ち着いて! あぶないから! 走ってる車の中だから!」
「に! んにっ! んに!」
「おやおやおやおや? 江戸辺境の山猫娘はまったく、落ち着き無く無作法に御座「先方にも山猫娘ちゃん居るからそれ以上はご飯抜きだよ」ふええ!? しょんなぁ!」
「おっとぉー? 山猫娘がなんだってぇ? ナマイキなこと言っちゃうのはこのお口かぁー? くちらちゃんのお口かぁー?」
「に。みゃうくどの、吾輩もお手伝いするのである」
「えへぇー、ありがと棗ちゃん。……うわ、見て見てヤイマちゃん、ほっぺめっちゃ伸びる」
「わぁほんと。すごい」
「はひゃぅゆゆゆゆュュ」
突如飛び出た朽羅ちゃんの猫っ娘ディスに内心ヒヤッとしたのだが……幸いなことに先方の山猫娘ちゃんとスタッフの皆様は気にしていない様子。
ミャークちゃんが悪い子ちゃんのほっぺをムニムニしているのを、ヤイマちゃん共々あたたかな表情で見守ってくれている。
あぁ……なんて尊くて、そして温かい。この場には『やさしい』が満ちている。
われわれ『のわめでぃあ』も温かなチームである自覚はあったが、こうして他者を慮っての行動が自然と出てくるRyuKyubeさんも、きっととても温かくて(※皮肉的な意味ではなく)アットホームなチームなのだろう。
今はこうして、イタズラ朽羅ちゃんのほっぺをもちもちして可愛がってくれてるミャークさんも……実際のところ、いつもは部長であるウチナさんならびに姉妹分であるヤイマちゃんに、文字通り猫可愛がりされているのだ。山猫娘だけに。
そんな彼女たちに、おれの『推し』である皆さんに、恥ずかしい思いはさせられない。
一宿一飯どころじゃない恩義に報いるため……不肖この木乃若芽、今回ばかりは甘んじて虐められて差し上げようじゃありませんか。
「いやほんと、すごいねこのもちもちほっぺ。ミャークちゃんのほっぺもぷにぷにだけど、朽羅ちゃんも負けず劣らず」
「でしょお? いやーちっちゃくて可愛いねぇ朽羅ちゃん。やーほんと『のわめでぃあ』さんトコは可愛い子揃ってるねぇ」
「はややややや……あ、あめてほひいれおしゃいまひゅぅぅ!」
「だめなのである。元はと言えば朽羅が猫をけなすのが悪いのであるゆえ、これはお仕置きなのである」
「ひゃえー!?」
「…………なるほど、オッケーっす。とりあえず貰ったスケの通りで良さそうっすね」
「はい。急遽変更が入りそうな際は、また都度ご相談させて頂くと思いますので」
「ん、わたしもオッケーです。了解しました。……それじゃあ、もう少し眺めてますか」
「そっすね。……いやぁ、生『やいみゃー』っすよ、ホント尊ぇ」
「わかるそれな」
「光栄です。いやしかし、生『なっちら』のじゃれ合いと霧衣ちゃんスマイルもハチャメチャに尊ぇですよ」
「「わかるゥーー!」」
撮影現場へと向かう、貸し切りの車内。
そこにはおれの大好物が……同好の士たちが存分に『すき』を語り合える大変濃い空間が、飽きることなく繰り広げられていた。




