【撮影遠征】不思議の海のわかめ_第十夜
今回の翁縄遠征においての『おれたちがやるべきこと』は、なんと二日目にしてあっという間に完了してしまった。
検証用のサンプルとして、この世界由来(※魔素組み換えでない)純度百パーセントの魔素も蓄魔筒に回収させてもらったので、これで今後の【異世界開拓】魔法の研究がスムーズにすすめられる……ということらしい。しらんけど。
「……済まないね、急かしてしまったようで。…………本音を言うと、もう少しゆっくり過ごしたかったのだが」
「わたし達よりも、博士のほうが大変でしょう。落ち着いてごはんも食べれませんで……ほんと、お疲れ様です。また今度お土産持って顔出しますので、すてらちゃん達にもヨロシクお伝え下さい」
「ねぇねぇノワ、ステラちゃんにアレおみやげ買ってこうよ、チンチスーコとかいうやつ。なんか好きそうじゃない? あの子」
「あぁー、いいかも。地域色っていうか『ならでは』感も出てるし、小分けにされてるから食べやすいし。お仕事の合間のティータイムにも良さそうで」
「…………まぁ、君の考えはなんとなく察するがね、ニコラ。……私の口からは何も言わないからね?」
「あはぁー!」
「…………?????」
プリミシア博士をお招きしての第一次実地調査はつつがなく完了し、ついでとばかりに市街地エリアへ繰り出してご当地グルメを満喫。しかし残念なことに、今回の彼女の持ち時間はここでタイムアップとなってしまったらしい。
帰り際には笑顔で【繋門】されていったプリミシア博士だけど……多忙を極める彼女の、束の間の休息となれたのだろうか。
さて、プリミシア博士を見送ったとはいえ、わが『のわめでぃあ』の滞在はまだまだ続く。
市街地エリアで腹ごしらえを終えたとこだが、もちろん目的はそれだけでなく、ここぞとばかりに各方面へのお土産をバッチリ確保。
また良い感じに穴場っぽい路地裏を見つけたので、ちゃっかり第二次以降の調査(ついでに気分転換ヴァカンス)用の【座標指針】セットも完了。
これで今回の遠征案件を終え、浪越市に戻った後でも、いつでも好きなときに神路島へと飛んでくることができるのだ。
しかも無料で。一瞬で。やべーよ。まじぱねーしょんだよ。
「ごしゅじんどのっ! ごしゅじんどのっ! 夕餉が小生らを待っておりまする!」
「はっはっは朽羅ちゃんや、慌てなくても晩ごはんバイキングは逃げないからちょっと落ち着いてほしいなって聞いてるねぇ聞いてねえなこいつオイオイオイ待て待て待てステイ! まって!!待て! オッケーわかったお仕置きをご所望だな!? いいんだな!? ヤるぞおれはヤるぞ!?」
(ノワどうどうどう。一般の方々びっくりしちゃうでしょ)
(わたしは危うく顔面からベシャップェするとこだったんですが!!)
実地調査と水遊びを終えて、行きと同様に鍾乳洞をくぐって戻ってきて、市街地エリアでおなかを満たして【座標指針】を打って、再びタクシーをピックアップしてホテルへと帰還して、と……慌ただしくも充実した一日を満喫しまして。
塩でベタつく足をシャワーで洗うなかよし三姉妹を眺めたり、明日に変更になった収録の段取りを確認したりと、豪華なお部屋でしばしくつろいだ後……こうして、待ちに待った二日目晩御飯のお時間がやってまいりまして。
本日は昨日のコース料理(およびお子さま膳)と趣向を変えて、好きなものを好きなだけ堪能できるバイキング形式。
お肉料理も当然好きなだけ食べられると聞いて、目に見えてハシャぐ朽羅ちゃんはもとより、霧衣おねえちゃんと棗ちゃんのイイコちゃん姉妹も闘志を漲らせている。
ホテルのバイキングと聞いて思い出すのは、都心ベイエリアの会員制ホテルでの出来事。
あのときは前夜にスパゾーンで、当時は魔王の使徒だった聖ちゃんと遭遇した直後だったこともあり、イマイチ心の底から楽しめなかったりもしたのだが……今回はワケが違う。
今やおれたちを悩ませる敵なんて居ないし、それどころか心強い仲間がたーっくさん増えたし、なによりも一緒にごはんを楽しむカワイコチャンだって二人も増えているのだ。
つまりは……あのときよりも、もっともっと楽しめるってわけなのだよ!
「ノワそれそれそれノワそれそれ! オムレツ取ってそれオムレツ! おむれつ!!」
(ラニちゃんちょっと声のトーン落とそっか! 姿は見えないのに声だけ聞こえちゃうから!)
「わかめどの、わかめどの! ほ、ほんとうに……本当に、すきなだけ『さしみ』を食べてもよいのであるか!」
「食べ放題だからねー。いいんだよー緑エルフだよー」
「あ……あの、ご主人どの……? 小生……あの、またなにか仕出かしてしまって御座いましょうか……? 此れすなわち『最後の晩餐』と云うやつでは御座いませぬか……? 小生ついに獄門に処されるのでは……?」
「大丈夫だから。打首にはしないから。イタズラしてもせいぜい『おしりたたき』くらいで勘弁してあげるから、好きなだけ食べな? ホラおいももあるよ。おいしいよ?」
「ふふふっ。皆様たいへん元気いっぱいで、とても嬉しそうにございまする。……まこと温かな夕餉の席、霧衣めは幸せ者にございまする」
「そだね、やっぱみんな笑顔が似合うよ。霧衣ちゃんもほら食べ放題だから好きなだけウワァ取ってきたのね。すごいいっぱいだねぇ。ローストビーフおいしそう。そんなのもあるんだね」
幸いというか有り難いことにというか、先方が手配してくれたこちらのホテルは、客層がそもそもハイクラスのようで。
なのでおれたちのようなカラフルヘアーな目立つ集団が騒いでたとしても、あからさまにジロジロ凝視してくるような人は見られない。
まぁ、これがハイシーズンだったらまた違うんだろうけど……少なくとも今は、他の方々から『不快』『嫌悪』の感情は感じられない。たすかった。
各々がわいのわいの好きなお料理をお皿に取って、席に戻ってお行儀よく『いただきます』のあいさつをして……そこからは例によって、すきなものをすきなだけスタイルの宴が幕を開けた。
「なつめどの、それなる刺身は何の魚に御座いましょうや? 小生の目利きによると桜鱒のようにも見受けられまするが、だとすると小生とても興味が湧いて御座いまするが!」
「んに。……駄兎め、じぶんで取ってくればよいだろうに……仕様のないやつである、その茶碗蒸を代わりに寄越すが良い。『とりかえっこ』なのである」
「ねぇねぇナツメちゃんそれなあに!? もしかしてタマゴ!? それタマゴの色もしかして!? ボクの知らない新たなるタマゴ料理……ってコト!?」
「しらたに様、それは『茶碗蒸』に御座いまする。鶏肉や蒲鉾や椎茸などを卵とお出汁で閉じた、『ふるふる』で『しっとり』で『ちゅるん』な、たいへん美味なるお料理に御座いまする」
「ギャワーーーー食べりゅゥーーーー!!」
見たこともないようないろんなお料理に舌鼓を打ちつつ、お隣の子のお皿にも興味を示しつつ、仲良くおしゃべりしたりシェアしたり。
普段とはひと味もふた味も違う夕食の席を、とびきりの笑顔で堪能する彼女たち。
「良いな…………」
「あぁ、良い…………」
それをおじさんと中身おじさんはビール片手に、緩みきった顔で眺めながら上等なアテを存分にかっ込み、役得な幸せを享受する。
あぁ……最高だな。これはマジで良いお話いただきましたわ。
このご恩をお返しするためにも……明日の案件は撮れ高マシマシで、全身全霊で臨ませていただかなくてはならないだろう。
「飲み過ぎだけは気をつけないとっすよね。わかめちゃん明日お仕事ですし」
「さすがに仕事に悪影響するような飲み方はしないと思うけど、最悪【治癒】魔法で二日酔いも一発ポンよ。……まぁ、多少『酔い』が残ってた方が気が楽かもしれんけどな……」
「それは…………エーット、まぁ、頑張って下さいとしか言えないっすけど」
「まぁまぁまぁ……まぁ、ね。ここまで楽しませて貰っといて、さすがにNoとか言えませんわ。……大丈夫、おれの悲鳴と泣き顔は数字取れっから」
「コッチの撮影は任して下さい。わかめちゃんの犠牲を無駄にはしません」
「縁起でもない! おれは死にませェん!」
あの子たちが……みんなが、好きだから!
おれは死にません!
笑顔いっぱい、幸せいっぱいな『のわめでぃあ』が好きだから。
おれは……わたしは、もっともーっと頑張れるんだ。




