【撮影遠征】不思議の海のわかめ_第六夜
おれたちに対して事前に告げられていた『進行は基本こちらにお任せ下さって大丈夫です!』『皆さんは素直なリアクションを見せて下されば!』とのお言葉だったのだが……なんというかビックリなことに、どうやらその言にマジで偽りは無かったらしい。
ホテルの説明や、このダイニングレストランの説明や、コースや料金の説明や、お料理一品一品の説明に至るまで……基本的な進行は全て、実際に咲喜島姉妹が引き受けてくれていた。
おれたち四名はただただ、この見るからに美味しそうでいい値段しそうなコース料理を、失礼の無い所作でおいしそうに頂いていれば良いのだという。……まったく、美味しいお話ですわ(二つの意味で)。
(じゅんちょーだね、ノワ。あちらのスタッフさんみんなほっこりしてるよ)
(そりゃそうでしょ。あの子たちめっちゃ幸せそうに食べるんだもん)
(えっ? いやあの、それもなんだけど、なんていうか、ノワも…………あー、うん)
(ねぇねぇラニぃ、やばいよこれぇ……まぐろのスモークだってぇ……やばいよぉぉおぉ)
(…………うん。いい画が撮れてそうだね)
メインの進行役である『やいみゃー』のお二人が、お料理を口に運び食レポをしつつ給仕スタッフさんの解説を引き出している間……われわれ『のわめでぃあ』はですね、マジで食べてるだけなんですわ。
一応、おれたち(おれと霧衣ちゃんと棗ちゃん朽羅ちゃん)の前にカメラは設置されてるし、声を拾うためのマイクもセットされているけれど……それ以外はノータッチだ。
スタッフさんから『映像と声を拾わせて頂くので、表に出されたくない会話さえ慎んで頂ければ』と言われていたので、あんまりプライベートすぎるお話こそ自重しているけど……その他の会話、特にお料理の感想に関しては、むしろどんどん溢すことを望まれてるのだろう。
たとえば……そう、こんなふうに。
「~~っ!? っん、っふ……っ! …………んふぅっ!! んぅぅ~~……っ!!?」
「あ、あねうえどの、あねうえどの、それは肉にあるか? 牛の肉なのであるか?」
「ごしゅじんどの! 御主人どのぉぉ! 御主人と霧衣御姉様の御膳のほうが豪華に御座いまするゥゥ!!」
「大声上げないの! あっち収録してるんだから! 朽羅ちゃんたちの『お子さま膳』だっておいしいでしょ!!」
「そうに御座いまするがぁぁ……!」
「あの……わかめちゃんも声量気を付けて下さいよ……?」
(ほんとそれね……)
本日のコースのメインを飾る肉料理、味噌漬け和牛のグリル。
こぢんまりとしていながらも数日分の食費に当たるであろうそれを、お箸でおそるおそる口へと運んだ霧衣ちゃんが……こわれた。
細められた目許は涙で潤み、頬と首筋をほんのりと朱に染め、天を仰ぎながらお口をむにゅむにゅと咀嚼させ、声にならぬ声と熱い吐息を溢し、形のよい小鼻をひくつかせ。
……やがてこくりと嚥下し、ぺろりと艶かしく唇を舐める。
虚空を見つめ歓喜に打ち震え、元気いっぱいにぶんぶん振られる純白の尻尾。
普段は大人しく控えめで清楚で粛々としている彼女が、ここまで『歓喜』の感情を露にするのも珍しい。……って!?
「き、霧衣ちゃん落ち着いて! しっぽ! あの、しっぽが! しっぽが元気いっぱいでスカートが! 大変なのが見えちゃうから!!」
「………………はっ!? ひゃ、あっ……わぅぅ!」
「あねうえどの、あねうえどの……我輩の『えびふらい』と其なる牛の肉を、どうか一切れ交換しては貰えぬであろうか」
「あー! ずるいで御座いまするずるいで御座いまする! ……あ、あのっ、御主人どの? 御主人どのの膳の肉と小生の『ぶろっこり』を交換しては如何に」
「ハンバーグ没収すんぞこのマゾガキウサギ」
「んフぅぅぅぅッッ!!?」
(あっ! ノワちょっと! お言葉づかい!!)
(だ、だってぇ!!)
幸いにして、カメラが配置されているのはテーブルの上だ。スタッフさんもおれたちから見てテーブルの向こう側なので、捲り上げられた霧衣ちゃんのスカートとその中身を見られることは無かったようだ。
一方、すぐ隣で白狗美少女の純白の尻尾と聖布とおしりと恍惚顔を拝んでしまったおれは……もし今現在の『本番中である』という事実が無かったら、恐らくだが顔中の穴という穴から鼻血を吹いて爆散してたと思う。
何があっても配信を成功させるという、この身体に籠められた呪いじみた設定……それこそ『プロ配信者補正』とでも呼ぶべき技能は、マジで神掛かっているらしい。
ありがとうおれ。いつもお世話になっております。
そんなこんなで、こちらは(多少騒がしかったものの)概ね先方のご期待に沿うことができたようで、無事にデザートまで片付けることができた。
おにくさえ絡まなければ霧衣ちゃんも暴走しないし、暴走さえしなければとても素敵な食事シーンを提供してくれる激可愛美少女なのだ。
普段はくーるな棗ちゃんも、今夜の『お子さま膳』には満足してくれたらしく、なんだかぽやぽやと心地よさそうな表情を浮かべている。
おれたちはオマケの立場であるとはいえ、撮れ高のほうは充分だろう。……あっ、オッケーのようですね。よかったです。
唐突な罵声を浴びて顔を赤らめ痙攣してる見た目(だけは)美幼女うさちゃんのことは……うん、触れないようにしよう。
晩ごはんの時間はとても平和でした。ごはんとてもおいしかったです(幼並感)。




