【撮影遠征】不思議の海のわかめ_第五夜
健全です(挨拶)
おれこと木乃若芽ちゃんは、肉体年齢こそ十歳相当の見てくれではあるものの、ご存じのようにその魂は三十代一般成人男性である。
水着を着ること自体は、これまで何度か経験してきてはいるのだが……しかしそうはいっても、選択肢はいつだって小さな女の子用水着(もしくは学校指定水着)だ。
ぶっちゃけ毎回、顔にこそ出さないものの血を吐くような心境で女の子用水着を身に付けてるわけだけども……それは当然、今回も同様の心境なのである。
ちなみに監督のチョイスにより、今回おれはワンピース型の水着を着用しているぞ。
ワンピース型とはいっても『スク水とか競泳水着みたいな一体整形の』って意味じゃなくて……そのままの意味で、服装としてのワンピースのようなデザインの、つまりはスカートが長めの可愛らしいやつだ。
おしりまわりや下腹部の露出を嫌うおれの意を汲んでくれたのはありがたいし、実際露出度でいえばふつうのワンピーススカート程度なので、そんなに忌避感を感じることがない。
なるほど、こういうのもあるのか。これなら羞恥心も控えめで済むので、問題なく撮影に臨めそうだ。やはり事前に下調べしておいてよかった。
……ワンピーススカートみたいな女の子スタイルに違和感を感じなくなってきてる自分がこわいけど……いやいやこれはお仕事だから。おしごとだから割りきれる。
「御主人どの、御主人どのー! ゥえっへへぇーへぇー、かわいい可愛い朽羅めの水浴み着姿は如何に御座いましょう! 小生霧衣御姉様と同様の『びきにすたいる』に挑戦してみて御座いまするが!」
「わかめどの、我輩もちゃんと独りで水着を着れたのだぞ。あねうえどのは『似合っている』と褒めてくれたのだぞ。……して、どうであろうか? 似合ってるであろうか?」
「ン゛ンッ!!」
本日の利用客はおれたちだけだという、『しぃふろん棟Ⅲ』一階の屋内プライベートプール……の、専用更衣室。
色鮮やかなレンタル水着を見繕ってその身に纏ったスーパーかわいい神使ガールズのおふたりは、その全力の可愛さをおれに向けて容赦なくぶち撒けていた。もちろんおれはしんだ。いきかえった。
自らの可愛さを積極的にアピっている朽羅ちゃんは、その小さいながらも一部いけいけな身体をピンク色のビキニ水着(と本人は言うもののトップスはヘソ出しタンクトップくらいあるので、つまりそれはただのセパレートタイプ)で可愛らしく包み。
いっぽう落ち着きある棗ちゃんのほうは、シックな紺色ワンピースタイプの女の子用水着をチョイス。おれのとは異なりこちらは競泳水着のようにスポーティーなデザインで、可愛いらしさの中にアスリートさながらのカッコよさを秘めている。
そして……幼げながらも可愛らしいこの二人によって盛大にお見舞いされ、息も絶え絶えなおれに。
わが『のわめでぃあ』が誇る最大戦力が、満を持してその姿を表す。
「わかめさまっ! わかめさまっ!」
「ア゛ッ!? すき」
(語彙力ゥ)
いつぞや東京ベイエリアの高層ホテルでお見舞いされたときのような、清楚さ溢れる白色ビキニ。
しかし今回はやや趣を変え、下半身は同じく白のビキニの上にショートパンツ状のウェアが追加されており、より健康的でアクティブなイメージへと昇華されている。
ラニちゃん(の【義肢】)によって回されているカメラの前、ショートパンツを身に付けている都合からか尻尾とお耳は隠されているものの……感情を表しやすいそれらを目にするまでもなく、彼女の『嬉しさ』『楽しさ』はひしひしと伝わってくる。
「きゃっふぁー!! 小生がいちばんのりで御座いまするゥー!!」
「っ!! …………あの駄兎めが。ちゃんと『じゅんびうんどう』をしなきゃだめなのであるに」
「うふふっ。棗さまは大変『いいこ』に御座いまする。……ではわたくしとご一緒に、らじおたいそうで御座いまする。そおれ、いち、にー、さん、しい」
「アッ! うでをまわして! アッおむねがうごいて! そんな! わきをひらいて! アッ! おなかが! アアッそんな! あしをひらいちゃ! アア!!」
(ノワが痙攣している……)
プールサイドでとても仲睦まじく柔軟運動に取りかかる二人と、いっぱいいっぱいになりながらそれを凝視する一人と、先走って飛び込んだプールから泣きそうな顔で見つめてくる一人と……それら四人をカメラに納めていく一人。
大変混沌とした様相を呈しているプールエリアだったが、幸いなことにおれたち以外の目は存在しない。
あんまりヤバそうな画が撮れちゃったら編集依頼を掛ける前に消去してしまえばいいので、つまりは安心してプールあそびを楽しめるわけだな!
「ふぅ…………では、わかめさまっ!」
「ヴッ!! ……ッスゥゥゥゥゥ…………アッ、エット……じゃあ、泳ごっか」
「はいっ!」「にっ!」
(ヨッシャ【義肢】が鳴るぜ!!)
(センシティブ過ぎるのはダメだかんね!?)
(えっ!? アッ…………も、もちロン……ヨ?)
(オッケーやる気だったなこのエッチフェアリー! わかった後で『けんぜん』の刑な! 理解らせてやるから覚悟しときなさいよ!?)
(あいええええ!!?)
カメラ担当フェアリーにはちゃんと釘も刺したので、エッチすぎる映像を撮られる心配も……まぁ、たぶん無いだろう。生配信ではない撮影なので、その点でも安全マージンは充分だといえる。
全ての懸念を払拭したおれたちは、とりあえず眼前で繰り広げられる美少女三義姉妹の尊ぇじゃれあいを、全身全霊で心とカメラのファインダーに納めつつ…………
「わかめさまっ! 捕まえまして御座いまする!」
「はっや!? 霧衣ちゃん泳ぎ早っや!? まぁ捕まっちゃったからには仕方ない…………よしじゃあハイ朽羅ちゃん捕まーえた」
「にュぶああああ!? う、う、浮き輪を掴むのは! 浮き輪を掴むのは些か卑怯に御座いまする!!」
「そう思うなら己の体で泳げばよかろうに」
(アァ~~尊ェ~~~~)
見た目は美幼女エルフであるキャラスペックを遺憾なく発揮し、自局の動画に使うための映像収集に貢献していくのだった。
ちなみに我々がプールでキャッキャウフフしている間、われらがモリアキ先生はお部屋のクソデカオーシャンビューバスルームで、ゆっくりのんびりリゾートタイムを満喫していた模様。
海眺めながら風呂入りながらヒエッヒエのオレンジジュースをキメるとか、ぶっちゃけ最高だとおもうのでとても羨ましい。
後でそのことを愚痴ったら『だって水着美少女だらけの空間に魔法使いオレがいたら間違いなくあの子らとの関係性が死ぬんで』と真顔で言われた。
…………うん、そうだね、わかる。ごめんね。
いつも気を使ってくれてありがとうね。ごめんね。ありがとうね。




