【オフレコ】のわめ荘✿開花戦線_終幕
【コントラクト・スプラウト】だめ知識
『皆食べ尽くし』ちゃんは当初、文字通りのガチでヤベェ存在になるはずだった
んだけどどうしてこうなった。いやわかってる、やっぱこの作者ろりこ
「えー、それでは……どうぞ皆さん、心ゆくまでお楽しみくださいっ! かんぱーい」
「「「「かんぱーい!!」」」」
ぽかぽか陽気のお昼どき。場所はわれらが活動拠点(通称:のわめ荘)裏手の山林某所。
未開拓だった奥地に、ほんの二時間ほど前に突如姿を表した、広さ二十坪ほどの屋外ひろば。
おれたちがよく目にする花見会場なんかに比べると、たいへんこぢんまりとした規模ではあるのだが……まぁ身内しか招かない場なので、広さは何も問題にならない。
六畳サイズの灰色ブルーシート(?)を二枚、あわせて十二畳。灰色ってもうブルーシートではない気もするけど、気にしたら負けだ。
ハトメ部分をしっかりとペグ固定された宴会場では、ローテーブル(ラニちゃんに運んでもらった和室用座卓)の上に、おいしそうなごちそうと取り皿と各種ドリンクや紙コップが『これでもか』と広げられている。
つい先程ふたたびシオンモールへとひとっ翔びして、急遽調達してきたお惣菜オードブルプレートには……からあげやシューマイやミニハンバーグ、エビフライやエビチリ等といった人気のおかずが勢ぞろい。
デリカコーナーのよくあるお惣菜とはいえ、こうして頂く環境がまたスペシャルでプライスレスなのだ。いつも以上のおいしさと興奮を、宴の参加者たちに与えてくれていた。
そんなオードブルプレートも、そりゃあもちろん(主に小さい子たちに)人気だったのだが……中でも参加者みんなに好評だったのが、ほかほかごはんとそのお供たちだ。
それすなわち……特製おいしい牛丼と、特製しあわせカレー(あまくち)である。
「ほら、つくしちゃん『あーん』してごらん? ちゃんとお口で食べなさい? せっかくわかめちゃん達が作ってくれたお料理だからね?」
「!! ……、……! …………♪ ……!!」
「ほーら、もー、がっつかないの! ……ちゃんと『おいしい』わかるでしょ? ゆっくり味わって食べようね」
「……ねーねー、キノちゃん。……ボクにも、辛いやつちょうだい」
「んへ? シズちゃん実は辛党でしたか。顔に似合わずイケるクチですか。…………はい、どうぞ。ほかモリアキくらいしか使わないんで、そっち置いてていいですよ」
「…………ん。……ありがと」
「……成程……これはこれは。……小麦粉の生地にて具材を包み…………高温の油にて『揚げ』た品に御座いますか。……然し、一方のこちらは揚げではなく『蒸し』と。……どちらも小麦由来の生地でありながら、調理工程にて此程迄に変化が生じるとは……」
「頭領頭領、こっちのもスゴいっすよ! 此ら同じ『餃子』なる料理に御座いますが、『揚げ』と『焼き』では全く別物に御座います!」
「……聞く処に拠れば、其なる『餃子』は『煮る』ものもまた美味であるとか。大陸の料理は誠興味深いものに御座います」
「…………ちゅーか、てんしん……奥が、深い」
「どーすか若芽ちゃん! これが男子流必殺コンボ『牛あいがけカレー』っすよ!」
「負けるわけないんだよなぁ! 最強の組み合わせなんだよなぁ!! …………ホレ、目玉焼きトッピングで更に火力アップだぞオラァ! エビフライも乗っけちまうぞオラァ!」
「な……なんてやつだノワ! 恐ろしい子! それぜったいおいしいやつじゃんか! マヨネーズもやっちゃおうぜ!」
「ゆでたまごとマヨネーズだいすきだもんねラニちゃん。カレーに合わさったら美味しくない訳ゃ無いんだよなぁ!」
「どうであるか、朽羅よ。吾輩がお鍋を見張っていた『ぎゅうどん』であるぞ。ぎゅうにくがたくさん入っておるのだぞ」
「んフゥ〜〜っ!! 大変、たいへん美味に御座いまする! 此程迄に美味なる『ぎゅうどん』は小生初めてに御座いますれば! いたく感動致しまして御座いまする!」
「ふふふっ。……棗さまのお手伝いの御陰に御座いまする。朽羅さま、きちんとお礼を言わなきゃ『めっ』で御座いまする」
「んフぁい! なつめどの、これ大変美味に御座いまする!」
「ん…………んむっ。よきにはからうが良い」
あちこちで溢れる笑顔と、湧き上がる歓声。やはりおいしいごはんはみんなを幸せにする。
ぶっちゃけ『花より団子』な面々が多い今回だが、そうはいっても『花』あっての『団子』だろう。そうでなければ屋外でお食事会なんてやろうと思わなかった。
白ごはんをいっぱい炊いてくれたおかげもあって、どうやらみんなのおなかは満足してくれそうな様子。やはり大鍋料理は対多数につよい。
ひとつひとつ手間暇かけた手作りのおかずも、そりゃもちろん気持ちが籠もってて良いものだと思うけど……さすがに十何人ものお腹を満たす必要がある今回は、そんなことを言ってられなかった。
……まぁつまり、だいたいノリで予定決めた悪い上司であるおれのせいなんだけど。ごめんね霧衣ちゃん。
まぁそこは、自ら率先してカレー作りを買って出たおれに免じて、許してとまでは言わないけど『(公序良俗に反しない範囲で)何でも言うことを聞いてあげる権利』で勘弁してほしい。
なあにラニちゃんキミじゃないよ座って。何でもないよ気のせいだからその物欲しそうな顔するのをやめなさい!
「ホラホラ猫の御嬢様! 鬼さん此方で御座いますよー!」
「んにぅ……! 良かろう、烏の。吾輩の本気を見せて遣ろうぞ」
「迦葉貴様……御嬢様に何と無礼な」
「だだッ、大丈夫ですってダイユウさん! 棗ちゃんもむしろ遊んでもらってニコニコですから!」
「……じゃあ……微睡の御嬢様は、手前求菩提とお手合わせ……どう?」
「……ん……奇遇。……ボクもちょっと、興味っていうか…………親近感?」
鼬鼠のような小動物に【変化】したカショウさんと猫ちゃん状態の棗にゃんは、地上樹上問わず枝葉を揺らしながら、元気いっぱい追いかけっこに興じ始め。
旋風を纏いながら跳び回るクボテさんを、当たり前のように宙に浮いた(←?)シズちゃんが往なし、払い、受け止め、お返しとばかりに複数のシズちゃん(←?)から可視化された魔力弾(※非殺傷魔法)が振る舞われ。
おなかが膨れ、暇と体力を持て余した只人ならざる参加者たちは……周囲に只人の眼が無いのをいいことに、自由気まま思い思いに『のんびり』し始める。
……あぁ、そうだよな。
おれたちだけじゃなくシズちゃんたちも、普段は普通の人々の営みの中で、【魔法】を隠して生活しているのだ。
四六時中他人の目を気にして、只人のように振る舞い続けるのは、少なくないストレスになることだろう。
たまにはこうやってひっそりと、しかし思う存分に羽根を伸ばしてみるのも……決して悪いことじゃないはずだ。
「いかがで御座いましょうや、つくしどの! 之小生が腕によりをかけて磨き上げた神々しき泥団子に御座いますれば! 小生の独創性溢れる銅鑼焼き形にて、またその艶そしてその価値たるや、かの『ちょこぱい』にも匹敵する逸品にわああああああーーーーーー!!?」
「ああーーーー!? ちょ、っ……つくしちゃん! ダメでしょ食べちゃ! くちらちゃんのお団子! 勝手に……ってか食べちゃダメでしょ!? ちょっ、もっ…………もぉ……ゴメンね、くちらちゃん……ほらつくしちゃんも! ごめんなさいは!?」
「ぴぅ…………い、いえっ、小生おとなの『れでー』に御座いますれば……これしきのことで、悲しんだりなど……」
「…………、……………、…………。…………………、………、…………!」
「…………はぁ、もう…………えっとね、『すごく温かくて、気持ちが籠もってて』『とってもおいしそうだった』『我慢できなかった』『ごめんなさい』……ですって」
「…………!! な…………なんと! なんという…………ッ!! ご心配めされるな、つくしどの! あの程度小生にとっては昼餉後のおやつ前に御座いますれば!! 次はこの小生が腕によりをかけて、特製『ふるこーす』をおみまいしてご覧に入れましょうや!!」
「!! ……、…………! …………♪」
「…………ありがとうね、くちらちゃん」
様々な思いが紡がれ、新しい縁が生まれ、次から次へと尊い絡みが産声を上げている。
その尊みあふれる光景を遠巻きに眺め、こっそり感涙にむせび泣いているおれたち保護者組が見守る中。
小さくも明るく温かい彼女たちは、心から楽しそうに笑っている。
「んッフフフー! この小生の魅力がわかるとは、つくしどのは大成する器に間違いないで御座いまする!! 然ればこの朽羅めが全力を以て! なかよしさせて頂くだけのこと!!」
「…………♪ ………、……! ………!!」
「んふぇッへへ、ちょ、もぷぁっ……や、やめるで御座いましゅよつくしどの! しょっ、しょこはくしゅぐったいで御座いましゅンヘヘェ〜! まったく、こまったちゃんで御座いますなぁ、やはり小生の魅力にわーーーーーーー!!?」
「あぁ!? 朽羅ちゃん!?」「ちょっ、つくしちゃん!!?」
「!!?! ……、…………!!? …………!!!!」
あーもー、つくしちゃんが勢いよく抱きついてスリスリするもんだから……甘えられ慣れてない朽羅ちゃんがふにゃふにゃになっちゃって、そのおかげで足元もふにゃふにゃになっちゃって。
その結果が……うん、ふたり仲良く泥んこまみれになっちゃったね。
あーあー、あっちはあっちで少女姿の棗ちゃんが元気いっぱい追っかけっこしちゃってるよ。
そっちはまだ草を整えてないから、露とか枯れ草とか蜘蛛の巣とかで汚れちゃ…………あーあー。もー。
服も泥んこ汚れがついちゃったし、草や葉っぱや砂利がくっついちゃってるし、お顔や髪の毛も泥んこまみれだし……これは後できれいきれいするのが大変そうだ。
あっという間に大変なことになってしまった『のわめでぃあ』幼年組のふたりと、その大切なお友達。
これにはあちらの『お姉ちゃん』担当も、思わず可愛らしく苦笑い。
まったくもー次から次へと、ほんとにもう大変で大変で。
そんなの……とっても嬉しくなっちゃうじゃないか。
……なお帰宅後、娘3人から楽しそうに報告を受けたお父様社長。
一人ハブられたことを密かに、しかし割と本気でガッカリしていた模様。




