【オフレコ】のわめ荘✿開花戦線_肆幕
【コントラクト・スプラウト】だめ知識
最近うちのラニちゃんがミステリアスキャラを目指しているらしいぞ
おいやめろ馬鹿どう考えても勝ち目の無いケンカを仕掛けるんじゃないよばかえっち
実はひっそり危惧していた『こんなにしっかり道を作ってもらったのに桜じゃなかったらどうしよう』問題だったが……幸いなことに杞憂だったので、おれはただただ安心した。お詫び配信しなくて済んだ。
まあ要するに、この聖ちゃんお手製の遊歩道の行き着く先には、ガッシリとした立派な枝振りの『桜の木』が待ち構えていたのだ。
天繰さんによる所見を伺うまでもなく、おれたちが『桜の木だ!』と理解できた理由。
それすなわち――まだまだ五分咲き程度ではあるが――既に薄桃色の可憐な花が、その姿を見せてくれてたからに他ならない。
「「わあああああ…………」」
「なんとなんと……ありましたね、桜」
「…………ん。……これで、できるね。お花見」
「……此は……山桜、で御座いましょうか。……花の規模は控えめに見えましょうが……この種であれば、近く見頃を迎える頃合いに御座います」
「アッ、よく公園とかに植えてるのとは違う種類なんですね?」
「……ええ。……染井吉野桜とは異なり、花と葉を同時に付けるのが特徴に御座います。……花を咲かせるまで年数を要する種で御座います故……之程の規模の樹が見つかったのは、幸運に御座いました」
「…………なるほど、つまり『いい規模の木でラッキー』ってことね」
「……えぇ、仰る通りに御座います」
「………………………………」
「こちらフェアリーワン。ぶっちゃけわかりにくすぎたと思うよ」
「う、うさちゃんつー! 理解し申した、言葉遊びで御座いますか。さすがはご主人どのに御座いまする」
「えーっと……こちらラブホスリー。正直イマイチかな……さすがに一文字はわかりにくいって」
「……ベッドフォー。……滑るの、好きなの? スキーとかやってみたら?」
「朽羅ちゃん以外パンツのゴム切れろ!!」
わかめちゃんがちょっとした悲劇に見舞われたりもしたが……しかしこうして、無事に桜の木を発見することが出来た。ひとまず作戦は成功と言えるだろう。
もちろん、辺りに生えているのは桜の木だけではない。むしろ『様々な木々の中に桜の木が点在している』といった感じであり、また桜の種類も見慣れたものとは違うようだ。
さすがに、たとえば恩賜公園とか合歓木公園でのお花見のように『桜一色』というわけではなさそうだが……しかしそれでも、完全プライベートなお花見会場である。それだけでテンション爆アガり待ったなしだろう。
この木を見つけて記憶してくれていた天繰さんと、反則級の便利魔法による移動手段確保に動いてくれたラニちゃんと、快適で安全な散歩道を舗装してくれた聖ちゃんと、おれのギャグに理解を示してくれた朽羅ちゃんと……なによりも、キッカケを持ち込んでくれたシズちゃん。
ここゴール地点は全員の貢献によって得られた、いわば『お宝』なのだ。つまりわれわれワンチームの勝利なのだ。
……えっ? ええ、もちろんおれも含めて全員ですよ。……いやだなあ、おれだってこう見えてたぶん決して何もしてなかったわけじゃぜったいにないと思いたいですので。応援とかしたし。
「…………ところでさ、わかめちゃん?」
「はいっ! なんでしょう?」
「桜じゃない木にさ……あたし、さっきみたいに『ちょっと退いてほしいな』って出来るんだけど」
「ほァ…………!!」
「……ビニールシートとか広げたり、霧衣ちゃんとか棗ちゃんがはしゃぎ回れるスペース。……欲しくない?」
「ほ……ほしい! すてらちゃんほしい!」
「じゃあ、さ…………ホラ、おねだりしてごらん? ……やり方、わかる?」
「っ、……お…………お願いします! わたしも、いっぱい(ビニールシートとか)広げて……みんなと(楽しいお花見)いっぱいしたい、っ! ……うぅ……(あそべるスペースが)ほしい、(ステキな環境)ほしいんですっ! すてらちゃん……おねがいしますっ!」
「ッシャ任せときなさい! 今夜のオカズはコレで決まりね! 永久保存ボイスのお礼はキッチリバッチリこなしてみせるわ!! 【総員傾聴】ッ!!」
「いやぁいやぁ……やっぱ見どころあるね、ステラちゃん」
「な、なぜで御座いましょうや……小生これ詳しく踏み込んではいけないようなキモチが浮かんで来て御座いますれば……」
おれのオネダリに気を良くしてくれた聖ちゃんの号令によって、再び魂無き者らに魂が宿る。
桜の木は生育に悪影響が出ない程度にその身を寄せ合い、その他の木々はえっちらおっちら周囲へと散らばっていき……かくしてオウチのお庭、山林の奥深くに、ちょっとした広場と山桜の群生地が姿を表す。
余分な木々や植生を纏めて消し飛ばすのではなく、可能な限り保全した上での移設。こういう細かいところに彼女の気遣いというか、本性が現れてくるわけだよな。
まるで森そのものが意志を持って、命を得たかのように動き出す、スーパーでカリフラでジリス的なエクスみある光景。……こんなの、さすがにディ○ニー映画でしか見たことないわ。
さっきまでは根っこをうねらせ、地面を掘り返しながら文字通り『歩き回っていた』木々のみなさんも……はい、どうやらキチンと根っこを張り直して、落ち着いたみたいです。
……いえ、わたくしどものためにお手間をお掛けしました。今度よさげな堆肥持ってきます。
「……此は…………驚きました。……式神の一種を降ろしての、擬似的な使役術……に、御座いましょうか」
「ん。…………すごいでしょ。……ボクの、妹」
「直接やり合ったときから薄々感じてましたけど、やっぱスゴいですね。……こんなに、自由自在に使いこなして」
「それ相応に疲れるんだけどね。……まぁダルくはなるけど、死ぬわけじゃないし。さっきも言ったけどあたしが好きでやってるんだから、イイトコ見せさせてよ」
「無理しないでね、ステラちゃん。ボク充魔霊薬持ってるから、キツかったら言ってね?」
「大丈夫よ大丈夫。そんなガムシャラに暴れてるわけじゃないし。……あれから色々と練習したし、もーっと上手に使いこなせるわよ」
かつておれたちを苦しめた、汎用性に富みまくった【愛欲】の権能。
今やそれは、この世界の平穏を脅かすためではなく……この世界に『たのしい』を提供するために振るわれ、まわりに笑顔を振りまいてくれている。
おれは……そのことが、とっても嬉しい。
「…………なるほど、ほんとに大丈夫そうですね。よかったです。……てっきり『魔力回復のためにエッチさせろ』とか言い出しかねないなって密かに警戒してたんですけど」
「「!!!!!!!!」」
「いらぬ心配だったみたいですね!! いやーよかった!! 魔力大丈夫なんですよね!! どうしたんですか聖ちゃんあとついでにラニちゃん!! 何ですかその『その手があったか!』と言わんばかりのお顔は!! ダメですブブーです許しませんよなぜなら弊『のわめでぃあ』は健全ですので!! 局長の目の黒いうちはエッチなのは許しませんよ!!」
「「みどり色じゃん」」
「はォご、ッ」
「な……なるほど、これが『のわぎゃく』に御座いますか! いやはや確かに、確かにえもしれぬ高揚感に満たされて御座いまする!」
「……見どころあるね、キミも」
「やっぱ全員パンツ砕けろ!!」
……さてさて、わかめちゃんがちょっとした悲劇に見舞われたりもしたが、ともあれ無事にすべての障害は取り除かれた。
あとはじゃあ、本番の『お花見』をいつにしようか、って決めるだけなトコまで来たわけだけど。
「ねぇねぇノワ、べつに今日で良くない?」
「はいはい! 小生は賛成に御座いまする!」
「ん…………異議なし。つくし呼んでこよ」
「ちゃんと先本人に確認取んなさい。……ってか身支度整えてあげなきゃじゃん、一回帰っていい?」
「あっ、じゃあボクが送迎役するよ。【繋門】なら能動的じゃん? 色々と運べるよ?」
「んー……まぁラニちゃんならいっか。おウチに招いてもお父様は反対はしないでしょ、たぶん」
……まぁ、そうなりそうな気はしてました。
おうちで家事を片付けてくれてる霧衣ちゃんと棗ちゃんと、あとモリアキにも聞いてみないとだけど……『たのしいこと』に関しては常に全力な我々『のわめでぃあ』だ、多分みんなノリノリでしょう。
さて、それじゃあ……おれもお弁当づくり、手伝うとしようかね。
※ 生き残ってたら明日も更新します




