【オフレコ】のわめ荘✿開花戦線_開幕
※ おはようございます
※ ただのお茶濁しです
※ そんな特別な展開とかないです
※ やっぱ緑茶だよ
「…………というわけで。……お花見、いきたい。……ほら、そろそろいい陽気だし」
「ごめんちょっと色々と待ってほしい」
暖かくなったり肌寒くなったりを繰り返しながらも、しかし総合的に見れば確かに暖かくなってきているのだろう。
うちのお庭には明らかに緑が増えはじめ、春の訪れを感じさせるとある日の……朝。
…………そう、朝。
「…………おはようございます、シズさん。色々と言いたいことはありますけど……とりあえず下行きますか。ラニちゃん起こしちゃう」
「…………ンむにゅ……んゅ…………ぐへへ、せくしーまいくろびき」
「なんか叩き起こしてもいいような気がしてきましたけど…………まぁいっか。とりあえず、リビングでお願いします」
「…………ん。わかった」
おれがパッチリ目を覚ましたときに目の前に陣取っていた、神出鬼没睡眠満喫系ダウナー美少女使徒である彼女……宇多方鎮ちゃん。
多少びっくりしたものの、目覚め一発至近距離で美少女のかんばせを堪能できた幸運を噛み締めながら、おれは彼女を引き連れ階段を降りて一階へ。
いつもどおり、かわいい可愛いあの子が朝ごはんの準備をしてくれている気配を感じながら、キッチンへと足を踏み入れる。
「わ、わう……? おはようございます、わかめさま。……お客様……に、ございますか?」
「おはよう霧衣ちゃん。……うん、お客様みたい」
「ん。……おじゃましてます」
お茶のご用意を、とお世話を焼こうとする彼女を宥め、お礼を述べつつ引き続き朝ごはんをお願いし、代わりにおれが手早くパパっとお茶を準備する。
だしパックに木匙でお茶っ葉を入れておいて、大きめの土瓶に水栓からお水をどばどば。お水には【加熱】をぶちかまして六四度に温め、そこへお茶っ葉入りだしパックを入れて蓋を閉めて……はい、二分ほど待ちます。
「…………それで、なんでしたっけ? お目覚め一発ゼロ距離美少女くらったせいで記憶が曖昧なんですけど……気のせいですかね、確か『お花見』とか聞こえたような」
「ん、気のせいじゃない。……お花見、したくない?」
「可愛らしく『こてん』って首かしげて上目遣いしないでくださいただでさえ可愛いんですから!」
「キミのおウチ……お庭、広いって聞いた。……お花見……できるかなぁ、って」
「わたしの話を聞きなさい! 自分ペースなとこも可愛いんですからホントにもー! ……出来る出来ないで言えば、まぁ……鬱蒼としてますけど、ピクニックとかは出来ると思います、けど」
「…………けど?」
いい感じな頃合いになった土瓶から、四つの湯呑へちょっとずつ順番に回し入れ、あっという間にわかめちゃん特製『おいし〜い緑茶』の準備が整う。
そのうちひとつを『ずずいっ』とシズちゃんに勧めると、律儀に『ぺこり』とお辞儀をして湯呑を手に取り、ふーふーしながら薄く目を閉じて『ずずずっ』とすすり始める。
は? お行儀よし子ちゃんなんだが? かわいいんだが?
「……まぁ、そもそもの話……桜の木があるのか、ってとこからなんですよ、ウチのお庭」
「………………ないの?」
「あるか無いか、っていうか……単にわかんないんです。お庭まだまだ手つかずのゾーンも多いですし、木の種類まで細かく調べたわけじゃないですので」
「………………(しょんぼり)」
……うっっわ、何ですかねこの罪悪感。
普段大人びた言動でおれを振り回してるかと思えば、こうして見た目相応に子どもっぽい表情を垣間見せたり。
彼女の正体を知らない以前は、そんな彼女に薄気味悪さを感じることも度々あったけれど……この子の『人となり』を知ってしまった今となっては、単純に愛らしい。
……あぁ、やっぱおれ、病気だなって。
身体や存在が変わっても、性根の性癖の部分は変わらねんだなって、……最近ではむしろ逆に誇らしくなってきたよね。歪みねぇな。
まぁとにかく。
口ではああ言ったものの……せっかくおれたちを頼ってわざわざ来てくれた、健気なおねえちゃんたっての希望である。
せっかくのお願いだ。叶えてやらなきゃ男が廃るってもんですよ。
男が! すたるってもんですよ!!
「…………そこんとこ、どうでしょう? おはようございます、天繰さん」
「……お早う御座います。御屋形様、霧衣御嬢様……並びに、御客様」
「おはようございますっ、天繰さまっ!」
「ん。…………おじゃま、してます」
霧衣ちゃんが朝ごはんの仕度を続けてくれているキッチンに、ここで新たなる戦力が仲間入り。
こと『つくる』ことに関して並々ならぬ技量を誇り、ついにお料理の分野にまで手を伸ばし始めた、われらが万能優秀無欠職人系大天狗メイドお姉さんであらせられる、天繰師匠でございます。
なにを隠そう隠しゃしないけど……じつは天繰師匠、モーニングルーティーンの一環として、朝のお料理に勤しむ霧衣ちゃんのお手伝いをしてくれているのだ。
というのも、じつは烏天狗三人組のごはん(というか差し入れ軽食)も手掛けてくれている我らが霧衣おねえちゃん。さすがに一人に背負わせるには重かろうと、烏天狗たちの元締にして早起き余裕勢の天繰さんがフォローに入ってくれるようになりまして、そのまま朝ごはんをご一緒するのが恒例となったわけだ。
……まぁうん、おれもお手伝いしなきゃとは思うんだけど……霧衣ちゃんがめっちゃ申し訳無さそうなお顔しちゃうし、その上ぶっちゃけジャマになりそうな気配さえしたので、キッチンには踏み込まずにお箸やお茶碗を並べたり、こうしてお茶を用意する係を拝命している。
いゃ、ね。だって、すごいのよ、手際が。あれキッチンうろうろしてたら逆に作業効率下げちゃうやつ。あそこに踏み込めるのは天繰さんくらいだろう。
……まぁ、それはそうとして。
「……して、櫻の樹に御座いますか。……遠景に御座いますが、其れらしき落葉高木を視た記憶が御座います」
「おお!」「おぉー」
「…………そうですね。近くから検める必要は御座いましょうが……望みは有るかと。時節的にも、そろそろ花の時期でしょう」
「「おぉー……!!」」
充分に希望が持てるということなら、やってみる価値はあるだろう。久しぶりとなるお庭探索、なんかテンション上がってきた(ひゅんひゅん)。
とりあえず例によって、現在『わかめちゃん』が抱えるタスクは極めて健全な閾値である。……これは負債を溜め込んでないっていう意味だよ。まあ健全ですけど。
しかし今回は他所様の娘さんが絡む以上、さすがに動画ネタには出来ないだろうけど……ならまた改めて身内だけで動画用に撮ることもできるし、なんなら知人ご一行様に情報提供するのも良いだろう。
……つまりは、問題なく動ける。
それが新たなる『たのしい』に繋がるものであるならば……尚のことだ。
「わかめさま、大変お待たせ致しました。只今朝餉のご用意が整いましてございまする。……それと、あの……差支えなければ、でございまするが……」
「……御客様の分も……序ででは御座いますが、御用意して御座います。宜しければ」
「ありがとうございます、二人とも。……というわけですので、せっかくです。朝ごはん一緒にどうですか? シズさん。……ついでに作戦会議といきましょう」
「…………じゃあ……ありがたく。……お言葉に甘えて」
霧衣ちゃんおねえちゃんはおネムの幼子(に見えるけどちゃんと一人前なお年頃)ふたりと手のひらサイズの大人(のはずなのに寝相が致命的な)ひとりを起こしに行き、その間におれはお料理の大皿やお鍋を食卓へと運んでいく。
一方で天繰さんは、ダイユウさんたち三人娘用の軽食を、ガレージ内のアウトドアテーブルへと届けに行き……やがて我が家のダイニングテーブルに、見た目もサイズもバラエティ豊かな総勢六名が集まってくる。
そこへお客さん一名様を加えて……今朝の食卓はいつもに比べ、更にちょっとだけ華やかだぞ。まぁ基本いつも華やかなんですけどね。
美少女だらけの食卓とか、そりゃご褒美ですが。
「……じゃあおれは、ごはん終わったら天繰さんとお庭探ってくるから……」
「ん。……ボクも、ついてく。……言い出しっぺだし」
「お目当てのブツに【座標指針】打っとけば後がラクだろ? ボクもいくよ!」
「はいはいはい! なにやら楽しげなる気配を感じ取りましたゆえ、小生もご一緒させて頂とう御座いまする!」
「……んー……まぁいっか。棗ちゃんはどうする?」
「んに……んに。……吾輩は『おかたづけ』の、あねうえのお手伝いをするのである」
「んふふふっ。ありがとうございます、棗さま」
「最高。すき。プリンあげちゃう」
「お……おぉ! 感謝する、わかめどの。後であねうえと『はんぶんこ』するのである」
うさちゃんの愕然とした顔を横目に、目の前で健全にいちゃつく仲良し義姉妹を堪能する。
あぁ……今日もわがやは『尊い』にみちている。世界はこんなにも温かく、美しい。世に平穏のあらんことを。
そうしてこうして、やがて賑やかな朝ごはんは終わりを告げ、各々がそれぞれやるべきことをやるべく動き出す。
……まぁ、そういうわけで……我々は久しぶりの、お庭探検といきましょうや!
※ 性懲りもなく何日か続きます
※ 時期的にはギリ許容範囲だと思います




