【目指せグランマ】クッキーフリーカー 〜つよくてかわいい新戦力〜【WD特別企画】_その1
「…………というわけで。……クッキー、作ってほしい。……めっちゃいっぱい」
「ごめん意味が全くわからない」
長かった冬も終わりに近づき、まわりの山々も若葉が溢れ、少しずつぽかぽかしてきた三月の始め、ある晴れた日の昼下がり。
人里離れた山あいの某別荘地、自宅兼スタジオのおしごとルームにて作業中だったおれに……突如として現れたダウナー美少女のお口から突如突拍子もない突然の要求が突如として唐突に告げられた。
そりゃもう、突如も突如よ。
「……ごまかさない。……チョコ、貰ったんでしょ? 嫁たちから。…………お返し、作るでしょ?」
「いやまぁ、えーっと、そのエヘヘッ、まぁ…………うん。そりゃあ作ろうと思ってました……けど」
そうなんですよ……聞いてくださいよ、いや聞いてくれなくても話しますねなぜなら自慢したいので。
先日ですね、可愛いKAWAIIうちのなかよし三姉妹たちがですね、珍しくもったいぶっていじらしく可愛かったので『どうしたのかな?』と思ってたんですが……なんとなんとですね、なんと『てづくりチョコ』をですね、なんとプレゼントしてくれたんですよ……。
なんでも二月十四日の例のイベントをどこからともなく聞きつけたらしく、『日頃お世話になってるノワにお礼をしよう!』とラニちゃんが陣頭指揮をとって密かに計画してくれていたらしくてですね……。
なんとなんと……材料の買い出しから調理から、全てあの子たち(&みまもり万能アシスタント妖精ラニちゃん)だけで挑戦してくれていたらしくてですね……。
それらの努力と愛情の結晶を、ちゃっかりバッチリ撮影された動画データ(おかいものシーン&おりょうりシーン豪華二本立て)と共に受け取ったおれとモリアキはですね……もう、あれよ、大号泣よ。あのとき多分おれら死んだわ。尊死したわ。尊死からの即再誕だったわ。
おれなんかもう感極まってボロッボロ泣きながらテンションとやる気が限界突破しまして、徹夜で動画編集して翌日即公開させていただきましたわ。
ちなみに動画編集のお供には、例の愛情たっぷりチョコをおいしく頂きました。
たぶんだけど『作業の合間に摘めるように』って、コロコロ丸い形にしてくれたのかな。おそらく幼年組の二人が丸めたのであろうチョコはちょっと形が歪になっちゃってるけど、そこがまた可愛いね。悪気は無いからね。
凸凹してたり棒状になっちゃってるのもあったけど…………うん、ちょっとだけ、ほんのマジでちょっとだけ、茶色い凸凹の棒状のものを摘まむのに抵抗感じちゃったりもしたけど……うん。これはちゃんとチョコだったよ。うん。これね。
話は変わるけど、奈良県のご当地銘菓で鹿のアレを模したチョコ菓子があるとかないとか人気だとか。いや関係ないけど。ぜったい関係ないんだけど。
っとまぁ、そんな尊さとこううんに恵まれた大事件が巻き起こった次第でしたので、これはなんとしても翌月の『お返し』は頑張らないとな……と、ちょうど思っていたところなのですよ。おれは男なので。
そう、なぜならおれは男なので(念押し)。
「……それにしても……よくわたしが『お返しを画策してる』ってわかりましたね?」
「…………あの子たちなら……まず、キミに送るかな、って思ったし……それにキミ、元は男でしょ」
「な゜ォ!?」
「……自覚あるか、わかんないけど……ときどき『おれ』になってたし。熱くなってるときとか。……まぁ、半分はカマ掛けだったけど……はっきりしたね?」
「 、 ? 、」
「……まぁ、だから、律儀な男なら『お返し』作るかなって……そのついで。……材料は、全部ボクが提供するから…………たくさん作れば、動画映えすると思うし」
「ま待マま待って、まって、待って。え? 待って何『たくさん作れば』って。……どんだけ作らせる気?」
「…………まず、薄力粉……ね。十キロの袋、買った」
「………………は?」
「…………あと、バター……五キロ。北海道産」
「は?」
「……それと、卵。とりあえず……五キロの箱、買ってきた」
「はこ!?!??」
大慌てで一般的なクッキーのレシピを検索し、今しがたこの無駄に鋭い魔性の無茶振りロリから提示された材料の量と比較し、とてもかしこい頭脳で大雑把に計算。
……とりあえず大まかな完成予想量と、それに伴う映像を思い浮かべる。
なるほど確かに、ただ単純にクッキーを作るだけでなく、これほどまでの量を一度に作るともなれば『動画映え』はするだろうし……まぁ、同業他者との差別化もできるだろう。
ただ当然、完成品の量が半端ないことになるので……フードロス削減に全力で取り組む『のわめでぃあ』としては一瞬だけ悩んだのだが。
(……まぁ、お世話になってる『にじキャラ』さんにも配ればいいし……余ったらラニの【蔵】で保存してもらっても…………いや、まぁ……そっか。余らないな)
今のおれの交友関係と、そして目の前の美少女の妹のことに思い至り、余る可能性なんて絶対に無いということに気がついた。
であれば、全ての不安は払拭できる。確かにこまごまとした道具を買い足す必要はあるが、おれの目の前でこれ見よがしに積み上げられている食材に比べたら安いものだ。
……うん、なるほど……悪くない。
楽しそうだし……色々と美味しそうだ。
「……わかりました。確かにウケそうではあるので……超大量クッキー生産、このわかめちゃんが引き受けましょう。ただし!」
「…………ただし?」
「型抜きとか成形とか、あと『焼き』の補助とか。……動画には映さないので、ちゃあんと手伝って貰いますからね? シズさん」
「…………………………えぇー……」
「いやいやいやいや『えぇー』じゃないが! ここまで来といて今さら何を面倒くさがってるんですか!! 手伝わないとクッキーわけてあげませんよ!?」
「…………しょうがないにゃぁ…………いいよ」
「んグゥ、ッ! ……ああもう、可愛いなぁ」
「…………こういうの、好きだね? ホント…………はぁ」
「アッためいき! アンニュイ!」
……こうして、いきなり家に押し入ってきた睡眠欲満たしまくり系ダウナー美少女使徒であらせられる、宇多方鎮ちゃん(ぶっちゃけ好み)からの依頼によって。
おれとシズちゃん、可愛いKAWAII妹分たちが好きで好きでたまらない大黒柱ふたりによる、作ってびっくり撮ってびっくりあげてびっくり食べてびっくりなホワイトデー計画が……人知れず始動したのだった。
「それはそうと……よくウチの場所わかったね……」
「……ん。……後、つけてた。ストーキング」
「ほグぉホ、っ!?」
「……ボクの、分体……【夢遊病】。…………希薄にすれば、たぶん……見つけづらい」
「なんでもありじゃん」
「……まぁ、本体じゃないし。魔力の塊だし。密度を増せば、こうして触れるし…………逆に落とせば、それこそ……壁抜けとか、盗聴とか」
「遊びに来るときはちゃんと存在感出してね!! こっそり来たり壁抜けや盗聴すんのも禁止!! じゃないともう口きいてあげないから!!」
「…………むう。……それは、やだ」




