【特別企画】仁義なきおすしすごろく 〜懐かしき漁港のかおり〜【てまきずしの日】_その3
なんとか更新できました。
よろしくおねがいします。
「お……おぉ、『二』なのである」
「おめでとうで御座いまする、棗さまっ!」
「まぁ、確率でいうと六分の五でアガリだもんね。ここで逆に『一』引いたらホント大したもんだよ」
「ず、ずるいで御座いまする! ずるいで御座いまする! 小生は六つだけに御座いますに、棗どのは十二個もねたを仕入れて居るでは御座いませぬか!」
「進みが牛歩でしたからねぇ、棗ちゃん……出目が平均で三以下という。いっぽう朽羅ちゃんは平均で五の快速急行でしたねぇ……」
「わあーーん小生の『大とろ』ぉー!」
……はい、これでめでたく全員がゴールへと辿り着きました。
いちばん最後にゴールインした……つまり一番多くの寿司ネタを集めることに成功したのは、わが『のわめでぃあ』いちのラッキーガール棗ちゃんだ。やっぱ親御さんの加護なんだろうか。
一方で、いの一番にゴールへと辿り着いてしまったのは朽羅ちゃん。ウサギが幸運の印って誰が決めた。
全てを見透すというヨミさまの眼をもってしても、さすがに未来までは見通せないということだろうか。……いや単に朽羅ちゃんがアレなだけか。アレが何とは言わないけど。
「……はい、というわけで……みんなには今手元にあるネタをつかって、これから手巻き寿司をつくっていただくわけなのですが……」
「ご……ご主人どの、ごしゅじんどの。日頃の感謝の意を込め、かわいいかわいい小生に『大とろ』を振る舞ってあげても良いのでは御座いませぬか? ほら、なんなら小生の『きゅうり』と交換でも」
「わかりましたそんなに『かぶとむし』がほしいんですか朽羅ちゃんいいですよわたしはいつでも交換に応じますよさあプリーズプリーズ交換しましょ」
「た、戯れに御座いまする! 戯れに御座いまする! ほんの可愛らしいうさちゃん冗句に御座いまする! ……あとやっぱり『かぶとむし』はお寿司のネタじゃ無いと思うで御座いまする!!」
「わかってるんですよそんなことァ!! わたしだって寿司ネタじゃないと思いますよ!! だって『かぶとむし』だもん!! ちくしょう誰ですかこんな地雷仕込んだ子は!!」
「ノワだよ」
「だよねぇ」
……まぁ『かぶとむし』とはいっても、さすがにそのへんの木にしがみついてるヤツじゃない。ちゃんと食用基準を満たした上で、食品加工工場で加工されたものだ。
衛生的にも、安全性の観点からも、そして栄養価的にも、食品として取り扱っても問題ない。
しかしながら、その……圧倒的『かぶとむし』感あふれるビジュアルと、どう取り繕ったところで『虫を喰う』ということには変わりないことから、平然とお召し上がりになれる方は少数派だろう。
そんな『かぶとむし』を採用した理由は、きわめて単純にして明快。
それすなわち……視聴者さんのリアクションが、おおいに期待できるからだ!
『ガンバレヨッ!!』『ファイトー!』『ワカメガンバッテ』『【¥6,464】ご祝儀』『カブトムシだ!!』『ワカメガンバッテ!!』『体張ってるなぁ局長』『ィエェスッ!!』『【¥146】テーレッテレー』『いや虫とか無理無理無理www』『なんで幼女にひどいことす……局長ならいいかな』『【¥1,129】口直しのいい肉代』『わかめちゃんかわいそう』『ブリタニア米軍』
「自分で蒔いた種だからね……がんばってね、ノワ……」
「もちのロンですとも。まかせてくださいよわたしはエルフですし森に住んでる出身ですのでカブトムシくらいいましたことが知ってるので、つまりは何も大丈夫ですので」
「お、おう……」
幸いなことに、わたしの寿司ネタは(かぶとむしを除いて)良いネタが揃っている。
白えび、まあじ、くろまぐろ、めじまぐろ、明太だし巻き玉子、白えび、大とろ、サーモン……そして、かぶとむし。
計九回の仕入れを経て、幸いというか踏み抜いた地雷は『かぶとむし』の一つだけだ。つまりはこの『かぶとむし』さえ処理できれば、あとはおいしい手巻き寿司パーティーをおっ始めることができるわけだ。
また、幸いにしておれ以外に地雷を踏む子は現れなかった。
いやまあバラエティではございますので、いちおう『誰が当たるかはサイコロ次第!』的な感じでご案内してましたけども……そうはいっても、うちの可愛い娘ちゃんたちに無理やり昆虫を食わせるなんて、そんなハラスメントはしたくない。
ひと通り乙女チックなリアクションを堪能した後は、適当なところでおれが引き受けて爆死するつもりではあった。
つまり最初から『かぶとむし』されるのはおれだけのつもりだったのだが、他でもないおれが自分で『かぶとむし』踏んだからね。局長のイケメンムーブを披露することなく爆死するってわけ。
「……では、みんな準備はいいですね? ではこれから、みんなが仕入れたネタを使っての『手巻き寿司パーティー』を始めたいと思います!」
「「わぁーーーい!!」」
「「わーー(ぱちぱち)」」
「焼き海苔と酢飯とお醤油と、あとわさびは好きなだけ使って大丈夫です。どのネタをどの順番で巻き巻きしても良いので、好きなスタイルで巻き巻きしてもぐもぐしちゃってくださいね」
言うが早いか、みんなは四者四様、思い思いに『巻き巻き』し始める。
一つの手巻き寿司にいろんな具材を詰め込んで鮮やかな作品に仕上げてみたり、逆に一本目はあえて『のどぐろ』のみに絞って高級食材を堪能してみたり、きれいな円錐形に巻けずに円柱状の『のりまき』になってしまっていたり、手巻き寿司だって言ってるのに玉子焼きに抱きついて食べ始めたり。
みんなおしゃべりも忘れて黙々と、個性あふれる食べ方を堪能してくれている。
おしゃべりは無いけれど……みんなのおいしそうな表情や、楽しそうな歓声はバッチリ拾えているらしい。コメント欄の方も、彼女らの可愛らしさを称えるコメントで大盛り上がりだ。
あの子たちにはしばらく堪能する時間をあげるとして……その間のにぎやかしは、局長であり保護者であるおれが引き受けようじゃないか。
「…………では、わたしはまずはこの……問題の『かぶとむし』を処分しましょうかね……」
『処分』『カブトムシかぁ……』『ワカメガンバッテ!!』『厄介なのから片付ける作戦』『ファイトダヨーー!』『処分ておま』『地雷処理かぁ……』『まじか……やるきか……』
事前に仕入れておいた情報によると……さすが『甲』の名を冠するだけあってか、頭の部分はかなり堅いらしい。
そのため無理に全部食べようとはせず、思い切ってガブリと齧りついて、頭を残して胴の部分を一思いに行くのが良い……みたいだ。ほんとかよ。
というわけで、すべてはおいしい手巻き寿司を食べるため。
およびバラエティ分野に対する『のわめでぃあ』の、その局長たるおれの覚悟を示すこと……あとはネット界隈における話題づくりのため。
四人の可愛い子ちゃんと、一人のカメラ担当と、そして十三万人の視聴者さんたちが固唾をのんで見守る中。
年端も行かぬ(見た目だけは)幼気なエルフの美少女の、小さくて瑞々しくて艶々で可愛らしい唇へと、慄えながら甲虫の死骸が近づいていき……
『うわああああああああああああ!』『うあああああ!!』『行ったアアアアアアアアwwwwww』『ぐあああああああああああ!!!、!』『すげえwwwwマジで行きやがったwwww』『うわうわうわうわうわうわ』『限りなく虚無顔wwwww』『ギャアアアアアアアアアア!!!!』『うわああああああ!!』『虫やぞこれ!!虫だよこれ!?!?』『ワカメガンバッテル!!』『もぐもぐしてる』『わかめちゃん目が死んでる』『虚空を見つめてるwwwwww』『そらそうよだってカブトムシだもん』『すげえ……初めて局長のこと尊敬したかもしれん……』
「「「「……………………」」」」
「…………(ゴリっ、ジャリっ、ゴリっ)」
「あ、あの…………ノワ?」
「…………(ボリっ、ザリっ、ジャリっ)」
「……えー、っと……あの…………お味、とか……あの、コメント、できる?」
「………………(ゴリゴリゴリ、ごくんっ)」
「……………………」
「…………大自然を……んグっ、……自然の、力強さを゛ェッ、感じる味……でずね゛」
「大自然の力強さ」
「ん゛ェ、っ。……漢方薬とか、生薬とか売ってるお店あるじゃないですか。口の中にそのお店が出来ました」
「お店が出来る」
「………………あっ、あ゛っ、なるほど。おばあちゃん家でずねごれ゛。……うん、やっぱ田舎のおばあちゃん家の味がします」
「おばあちゃんち」
「……ふぼいですよこれ。濃縮した土属性って感じ。噛めば噛むほど口の中で大地の重みが炸裂するみたいな。なんかじゃがいも出てきそう」
「濃縮した土属性」
……うん、ぶっちゃけあまり美味しくはないかな。いちおう塩味は付けてくれてあるけど、いかんせん素材そのものの……えーと、『大自然感(※オブラートに包んだ表現)』が半端なく強い。
塩味とボリボリ感は可もなく不可もなくって感じだけど、わざわざかぶとむしである必要も無い。それこそ揚げ餅やおかきでいいじゃん、って思ってしまう。
それになにより、やっぱ『虫を食ってる』って認識しちゃうとダメだ。生理的な忌避感というか、鳥肌的な感じが『ぞわわわわ』って駆け上がってきそうになる。口の中とか舌で探って『アッこれはどの部位だな』とか考えちゃうとマジでダメ。おれに昆虫食は向いてない。
ただ、インパクトそのものに限って言えば、やっぱり非常に強いのだろう。おれがかぶとむし喰ってからコメント欄の勢いも一気に増したし、おれの健闘を讃えるスパチャもたくさん送ってもらっている。
プライベートな時間に味わうにはちょっと、いや正直かなり向かない気はするけど……おれのような配信者が使うぶんには、結構いい働きをしてくれると思う。
……うん、いいデータが取れた気がする。今度うにさんたちにも教えてあげよう。
「…………はい! ということで……無事に『かぶとむし』もやっつけましたので、晴れてわたしも巻き巻きできるってわけですよ! どうですかみんな、おすしおいしいですかー?」
「おいひいえふ!」
「おいしゅう御座いまする」
「おいしいである」
「美味に御座いまする!」
「…………あの、わかめちゃん! オレいい加減辛抱たまらんっていうか、割とマジで辛いんすけど……!」
「あー…………そう、ですよね……もう拷問ですもんね、これ」
「そうなんすよ! それに……ほら! ネタもまだたくさん余ってますし…………オレも仲間に入れてほしいっていうか、仲間外れはさすがに悲しいっていうか!」
「…………まぁ、そうですね。……わかりました。いっしょに巻き巻きしましょう、初芽ちゃん!」
「ヤッタァーーーー!!!!」
「じゃあ、まぁせっかくですし。それに、余らせちゃってもしょうがないですし……みんな好きなネタ、好きなだけ使って良いですよ! 無礼講です!」
「「「…………!!!?」」」
はじける笑顔。ブチ上がる歓声。テンアゲそして高まるバイブス。
やはり『おいしいもの』はみんなを笑顔にしてくれる。だいすきな仲間や家族と一緒であれば、なおのことだ。
当初から予定していた通り、おれたちは一芝居の後、演者のかわいこちゃん三名に対して全寿司ネタの解禁を布告。
逃した魚だと思っていた、憧れのあのネタを食べられると理解したときの、あの子達の嬉しそうな顔よ。
よそでは滅多に味わえない、その土地ならではの貴重な食材を。
大好きな義姉上が趣向を凝らした、特製特別な手料理を。
長きに渡って恋い焦がれ、憧れ続けてきたごちそうを。
それらを手にし、食し、素直な気持ちが表情に現れた彼女たちを、この特等席から見守る贅沢を。
「うわ……『白えび』メッチャ好きっすわオレ。これスゲェっすよ」
「うっわ、すご……わたしも『のどぐろ』とか初めて食べましたよ。普段絶対に買おうとしないですもん」
「はふぅ、さすが北陸のお魚さんに御座いまする……誰も彼も、たいへんに美味で御座いまする……」
「これが……これが、あの! これがあの大とろにございまするか! なんと……なんと甘美な!」
「……む、これは! だし巻きに『ちーず』が入ってるのである! あ、あねうえどの、これ! これおいしいのである!」
無礼講の発布とともに無秩序と化し、前半で行った『すごろく』の意味を完全に喪失しながらも、この場と画面の向こうには、確かに笑顔と『たのしい』が溢れている現在の状況。
自ら企画をオシャカにしたわけで、当然視聴者さんからの非難も少なくないと覚悟していたのだが……蓋を開けてみたところ、思っていた以上に好印象だったみたいだ。
まぁ、そりゃそうだよな。
こんなに美味しくて、楽しいもの。みんなで味わったほうがいいに決まっている。
好きな子と、好きなコトして生きていく。
今までありふれた『仕事』からは、ちょっと……いや、かなり毛色が異なる『配信者』というお仕事。
この世界を破滅から救うべく、力になると決めたおれにできる『最善』の方法。
こんなに楽しいことを視聴者のみなさんにおすそわけして、それでこんなに喜んでもらえて、おまけに世界も救えるだなんて……なんて幸せなお仕事なのだろう。
「……えーっと、最後のほう大騒ぎになっちゃいましたけど……そろそろ閉店のお時間となってしまいました。次の定例配信のお品書きは明日の朝SNSで告知しますので、来週もまたお楽しみに!
……というわけで、『NOWA‐IT、NOWA‐IT、こちらはインターネット放送局『のわめでぃあ』です。以上で今回の放送を終了いたします』。それでは……ヴィーャ! そしてぇー?」
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」
「はいっ! おそまつさまでした!」
やっぱりおれ……この仕事向いてるかもしれないな!
「わかめどの、わかめどの。吾輩にもその『かぶとむし』をひとつ貰えるだろうか」
「エッ!? ちょ、食べたいの棗ちゃん!? かぶとむしだよ!? 昆虫だよ!?」
「うむ。なかなか歯応えがありそうである。相手にとって不足はあるまい。蝉なんぞよりよほど楽しめそうだ」
「せみ」
「うむ。あ奴らめ、夏には捕って捨てる程に湧きおるが……どうにも中身が『すかすか』ゆえ、食べ応えに欠けるのである」
「たべたの」
「うむ。……して、一方でその『かぶとむし』は中身が詰まってそうなのであったが、しかし捕ると金鶏どのに叱られるのである。なんでも『子供が悲しむ』とかでな。……なので、できればちょっとだけ味見させてほしいのである」
「いやいやいやぜんぜんいいよ。むしろぜんぶ食べていいよ。むしろお願いだからぜんぶ食べて棗ちゃんお願いだから!」
「う、うむ。わかめどののお願いは、吾輩ちゃんと聞くのである」
「ありがとう!!! すき!!!!」
「うむ……? …………うむ。吾輩もである」
「ア゜ッ!!!!」
※『のわめでぃあ』ではスタッフ一同、フードロスの削減に取り組んでいます。




