【休日呼集】次回をお楽しみに!
果たしてわかめちゃんは無事やきにくすることができるのか!?
さて、本日わたくしどもがご紹介させて頂きますのが、こちらの『八洲香々味鶏』。
ご覧のように焼き鳥はもちろんのこと、水炊きや炊き込みご飯や唐揚げなどなど、煮物焼物揚物なんでもござれの、万能で大変美味しいお肉に仕上がっております!
神々見神宮の加護が広がるここ三恵県の、雄大な大自然の中でのびのびと育てられた鶏たち。
地元の広葉樹から抽出された木酢液を配合した特殊飼料を食べさせることで、そのお肉は旨味が凝縮されているだけでなく、とても香り高く臭みが無いのが特徴だとか。
加えて、広い敷地でストレスなく、長期に渡ってのびのびと成長させることで、確かな噛みごたえと程よい弾力を備えた肉質になっている……とのことです。
ちなみに『八洲香々味鶏』、イントネーションは『マジでマヨネーズ』と同じだぞ。ここテストに出ない。
……さてそれでは、先程から夢中で『もくもく』と食べ進めているこちらのお嬢さんに、ちょっとお話を聞いてみましょうか。
いかがですか、この金賞を受賞した『八洲香々味鶏』のお味は。
「もふ、……んくっ。…………ひふれい致しました」
「こちらこそ。お食事中にすみません。……おいしいですか?」
「はいっ! あの……噛み締めた感じが、とっても……わたくしの顎に、お肉の新鮮な歯ごたえが伝わってきまして。……肉そのもののお味も、雑味が無くて、旨味が濃ゆくて。…………はふぅ……とても、とても良いお肉に御座いまする……」
「やっぱり、歯ごたえとお肉の旨味が特徴のようですね。……焼き鳥はどうでしたか? 今回が初挑戦でしょうか?」
「……そう、で御座いますね…………なによりも、こちらの『たれ』に御座いましょう。濃い味ながらもしつこ過ぎず、塩気の中に確かな甘みと旨味、それに……なんと申しましょうか、お醤油とお砂糖と味醂と……酒精? さまざまな味と香りとが複雑に絡み合った…………わ、わぅぅ……わたくし恥ずかしながら、この味を作れる自信が御座いませぬ……申し訳ございませぬ」
「アッ!? えっと、気にしないで! おいしく食べてもらえたならそれでオッケーだから! ……おいしかった?」
「……はいっ! とっても……とっても美味にございまする!」
いやいやいや……素敵な笑顔をありがとうございました。とってもかわいいですね。最高か。
それではせっかくですので、わたくしもお一つ頂いてみましょう。こちら焼きたてをご用意して頂きました……ねぎまですね。
もも肉と白ネギを交互に串に通した、焼き鳥の定番。霧衣ちゃんが絶賛したタレで頂きます。
それでは……失礼して。
………………もぐもぐ。
………………………もぐもぐ。
……………………………ごっくん。
…………え、なにこれ……ヴッメ。
香ばしく焼かれた表面。口に含んだ瞬間広がる、焦げたタレの香り高さ。
主役の鶏肉は猛烈な旨味を秘めて、噛めば噛むほど味と香りと肉汁が溢れてくる。
そこへ加わるのが、この白ネギ。
あっさりさっぱりとした味わいながら、確かな存在感を感じさせる。
火を通されてなお瑞々しさを失わない名脇役は、鶏肉と同じタレを纏うことで統一感を出しつつも、複雑かつ繊細な味へと昇華されている。
スッと鼻に抜けるネギの香りでクールダウンされた口の中に、再び投入される起爆剤……鶏肉。
そして更に冷却剤……白ネギ。
濃厚で芳醇な鶏肉と、青々しく瑞々しいネギの二交替勤務。
おれの口の中は絶え間なくフル稼働だ。腹の底から尽きることなく、生きる活力が湧いてくる。まるでおれは実在エルフ火力発電所だ。んおォン。
(ね、ねぇノワ? 大丈夫? 起きてる? ノワだよね?)
(なにですか、おれですよ。わかめちゃんですよ。起きてますが。どうしましたラニちゃん)
(いや……その…………『ヤキトリ』を頬張ってから、なんていうか……雰囲気っていうか、語り口が変になった、っていうか……なんなの、その『エルフカリョク』なんちゃらって。あと『んおォン』って)
(そこはあまり深く触れないでいただけると。ただの勢いなので)
(ただの勢い)
相棒からのツッコミに我に返ると……確かにおれのいまの言動は少なからず奇妙だったようで、周りから向けられる視線は妙にニコニコしているようだった。
まぁ……これは恐らく『苦笑』だろうな。火力発電所のあたりのモノローグは口に出していなかったはずだが、だからっていきなり黙りこくってもぐもぐしてたら奇妙に映るだろう。申し訳ないことをした。す○んこすま○こ。
「お気に召して頂けたようですね」
「アッ、エット…………すみません、めっちゃくちゃ美味しいです」
「ふふふ。ありがとうございます。……やはり、美味しそうに食べて頂けるのは嬉しいもので」
「ン゛ッ! ……あっ、ほんとですね。もう、一心不乱に。みんな普段はこんなにがっつかないんですけど……すみません」
「なんの。料理人冥利に尽きるってもんです」
全身で焼き鳥を満喫している彼女たちに、これ以上話しかけて邪魔をするのも憚られる。インタビューはこれくらいで良いだろうか…………あっ、オッケー出ましたね。大丈夫みたいです。
画像や映像のほうもバッチリみたいで、広報スタッフさんもなにやら満足げな表情を浮かべている。
細かな説明の音声とかトークとかは、必要なら編集のときにでも追加してしまえば良いだろう。
つまりは『お仕事のノルマ』はこれで達成できた、ということですので………
「「「「「ご馳走様でした!」」」」」
「はい。お粗末様でした」
(ヴッメ。焼いたトリゔっめ)
(もう『ごちそうさま』の時間よラニちゃん! いつまで食べてるの!)
(ば、バレなきゃいいかなって……)
……はい。ブランド鶏の焼き鳥、みんなで一緒においしくいただきました。
おれやモリアキ(&こっそりラニちゃん)ならびに広報担当の皆さんも、しばしの間ではあるが銘柄地鶏の焼き鳥を存分に堪能して……これにて『暁月』さんでの取材、一丁上がりだ。
あとはおれたちはおれたちで動画に編集して(とはいっても外注なのだが)、適当なタイミングで投稿するだけ。
広報課の方々はなんか、本日集めた画像素材をライターさんとかデザイナーさんとかに渡してなんやかんやするらしい。
……つまり、どっちにしろ『後はお任せ』なのだ。
そんな感じで、おれたちは悠々と『暁月』さんを後にし、状況報告とご挨拶のために神々見神宮へと戻ってきた。
荒祭さんに案内されてヨミさまのお部屋へと通され、お二方に『順調である』とご報告をして……その後の反応に度肝を抜かれた。
「よろし。……じゃあ、荒祭。つぎの店は……また来日曜で良いかね」
「おァ……ッ!?」
「は。現状、三軒から要望が上がって居りますので……順次」
「さん、っ!?」
「まぁ……今日はもう腹一杯であろ。……朽羅も相変わらず、食い意地は健在のようだの。…………どうね、長耳の。あやつの食費だが、もう少し色を付けたほうが良いかの?」
「い、ッ!? ……い、いえっ! おかまいなく……」
「ふぅん? ……そう? …………まぁ、わしはそなたらと良い関係を続けたいわけだし? 朽羅の世話も任せてるわけだし……なにか要望ができたら言うが良いし」
「あ……ありがとう、ございます。…………あの、ところで……つぎの店、って……」
「…………? つぎは、つぎだし。……あと三軒、だったかの? また日を改めて取り掛かってもらうし」
「………………あぁー……」
オッケー。なるほど。完璧に思い出しました。わたしはかしこいので。
そもそも今回の案件は『とある名店の紹介動画』ではなく、『ブランド食材の販売促進PR』なのであって。
というか……ほかでもないヨミさまが、最初に言っていたじゃないか。『食事処巡り』って。
PRする商品である『八洲香々味鶏』を取り扱うお店は、当然一軒だけであるわけが無いわけで。
……鶏を取り扱う。んフフッ。
「……あぁ、心配せずとも報酬は都度支払わせるし。嫌なら断って貰っても良いし、要するに……細かな仕事を立て続けに任せよう、って形なわけ。……わかる?」
「アッ、大丈夫です。……えぇ、次もぜひやらせてください」
「……ふぅん。まあ……ぬしが遣りたいと言うなら、わしはべつに構わないし。……組合のやつらにも日取り聞かなきゃならないし、ぬしらの都合もあるだろうし…………荒祭、なんかいい感じに調整しておけ」
「御意に」
「…………よろしくお願いしますッ!」
「ん。……よしなに」
その言葉を最後に、ヨミさまは『言うべきことは言ったし』とばかりにおれたちを退室させ、再びクッションに深く沈み込んでいった。
あまり神々見神宮に長居しても(主に朽羅ちゃんが)お仕事の邪魔をしてしまうだろうとのことで、おれたちの参拝は終わりを告げる形となった。
ヨミさまのお部屋を追い出されるとき……普段は気怠げな雰囲気を隠そうともしない神様のお顔が、心なしか嬉しそうな笑みを湛えていたような気がするのは……おれの思い上がりだろうか。
まあ……追加のお仕事も頂けそうだし、少なくとも嫌われているわけでは無さそうだ。ならばとりあえずはそれでいい。
それに……ものすごく簡単に考えてみるだけでも、また来週みんなで『美味しい思い』ができるってわけですので。
おれたちにとっても、一週間後を楽しみにする理由ができたわけでして。
来週の日曜『おいしい地鶏料理が堪能できる』っていう『たのしみ』があれば……明日からの一週間、たとえつらい予定が待ち構えていても『がんばろう』って気になるわけですよ。
なのでおれたちも、そんな『たのしみ』が提供できるような存在にならないと……だな。
……よっしゃ。帰ったらもっともっとがんばるぞ。
われわれは魔法情報局『のわめでぃあ』、ひとよんで『楽しいときをつくる放送局』ですので!
「……のう、荒祭。さっき組合のやつらが撮った写真……わしらも手に入るかの?」
「まぁ……可能だとは思います。一応形式としては、我々が用立てた広報演者という体ですんで。事務所と確認を取るだとか理由付ければ」
「ほう…………よいね。……荒祭」
「はッ」
「長耳らの、写真。身内の説得用に、写りが良いのを適当に見繕っておけ。あわよくば神々見で、祭事の客寄せを演らせるし」
「………………鶴城が……怒りませんかね」
「は? なんで鶴城に伺い立てる必要があるし。……いつまでもフツノにデカい顔させんし。わしらのほうが『縁』が深いって、いまに思い知らせてやるし」
「…………まァ、持ちかけるだけやってみましょうかね」
「ん。……そうさね、どうしたらもっと『縁』を深められるか、ほかにも考えておけし」
「御意に。……お任せを」
「…………ん」




