【休日呼集】ハイヨロコンデー!
『のう、長耳の。ぬし最近さぁ……わしのとこ御無沙汰じゃない?』
「アッ、ハイ。お邪魔させて頂きます」
『よろし。はやくね』
「ウッス…………」
こうして、木乃若芽の穏やかな休日は終焉を迎えた。
かわいい白狗お嬢さんの真心込もった朝ごはんを美味しく頂き、さてじゃあヒーロータイム満喫しながらのんびりしますか……なんてことをぼんやり考えていた、とある日曜日のこと。
その日のおれは、積み重なってるタスクやルーチンワークと化しているお礼メッセージ録音の進捗率が大幅に巻きで進んでいたこともあって、『久しぶりに休日をのんびり過ごそうかなぁ』などと考えていた。
配信者であるおれたちは、視聴者さんたちに配信を視聴してもらってナンボだ。そのため在宅の人が多いであろう休日はある意味狙い目ではあるのだが……おれは『たぶん他の配信者さんも配信するだろうな』との考えから、日曜日に配信することは少ない。
おれは別に、他の配信者さんを押し退けてまで出しゃばりたいわけじゃないのだ。
おれたちの最優先は、視聴者さん……ひいては人々に楽しんでもらい、プラスの感情を抱かせることである。
おれも当然それに向けての努力は惜しまないが、それは別におれだけでやる必要も無い。今や広く普及してきている実在仮想配信者をはじめ、数え切れない配信者のご同輩ががんばってくれているのだ。
なので……稼ぎどきである日曜は彼ら彼女らに頑張って稼いでもらって、おれたちは別の日に頑張ればいい。そういう考えだ。
……まぁ、たまには『観るがわ』に回ってみたいというのも、無いわけでは無いのだが。
そんなわけで。
配信をするつもりがなく、宿題も順調に進んでいる、ゴキゲンな日曜日。
さぁどうしようか、久しぶりに可愛い同居人たちとどこかにお出掛けでもしようか、シオンモールに繰り出してこの子たちの『かわいい』を手当り次第にお見舞いしてやろうか……などと考えていたところ。
冒頭のような……比喩でもなんでもないそのままの意味での『神の通話』が、おれのプライベート用スマホへと届きまして。
本日の予定が、三恵県は神々見神宮へのお参りに、鶴ならぬ『神の一声』で決定したのでした。こわ。
………………………………………
「ご無沙汰してます、荒祭さん。……これ、よかったら皆さんで。蒔之原の『棹留』です」
「気苦労を掛けるな……恩に着る、若芽殿。……朽羅も、息災のようだな」
「……っ! はいっ!」
例によって万能系アシスタント妖精さんのお力を借りつつ、身支度を整えたおれたちは神々見神宮へとひとっ飛び。
お出かけ日和の日曜日、しかも東海地区有数の観光地ということもあって、この『お神見さん』はかなりの参拝客で賑わっていたのだが……まぁ、それはあちらがわの話である。
この世ならざる異界【隔世】を根城とする神様一派にとっては、表の喧騒などどこ吹く風だ。
「荒祭様、荒祭様! 其なる『棹留』は小生が腕によりをかけて淹れて御覧に入れまする! ンッフフフぅー、実を申しますと小生、霧衣御姉様より緑茶の淹れ方をお勉強してして御座いますれば! この最高級と名高い『棹留』であれば小生でも美味し〜〜く淹れられると確信しておりますゆえ!」
「ハッハッハッハ!! そっか、ありがとうな。……却下だ。頼むぞ風宮」
「ふええええ!?」
悲壮な悲鳴を上げながら、それでも嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるウサガキちゃんを引きずり、おれたちは件の『明らかにこの向こう神様いまっせ』って感じのオーラ漂うお部屋へと辿り着く。
荒祭さんに促され、久しぶりにその神域へと足を踏み入れると……相も変わらず色々と見えちゃいそうなラフい格好で、人どころか神をもダメにしそうなビーズクッションにもたれ掛かり寛ぐ、悠々自適な少女にしか見えない最高神(の一角)が出迎えてくれた。
「…………まぁ、茶葉を奉納したのは良い心掛けだし。鶴城に感けて神々見を軽んじた件は、水に流してやっても良いし」
「いえ、別ン、ッ、…………あ、ありがとう、ございます……ヨミさま」
「ん。…………口は禍の元。よくわかってるね」
「…………恐縮です」
手土産に持参した『棹留』(※鎮岡県蒔之原産最高等級・霧衣ちゃんの秘蔵の品)のお陰で、どうやらヨミさまのご機嫌は悪くない様子。
出掛ける前に『御供えの品を持っていくべきに御座いまする!』と助言してくれたとっても良い子な霧衣ちゃんには、感謝してもしきれない。お礼に今晩たっぷりなでなでよしよしぎゅっぎゅくんかくんかすーはーしてあげようと思う。……わんこ姿に。健全なので。
「よいかね」
「ひゃいッ!!!」
「……聞くところによると、ぬしら……鶴城の広報に噛んでるみたいじゃない? わしは別に良いんだけど」
「えー。っと…………公開動画でしょうか? 鶴城さんシリーズの」
「ふぅん……一つじゃないんだ。鶴城の。ふぅん……これはわしの独り言だけど…………神々見のは無いよね。広報」
「…………えぇー、っと…………」
「……まぁ、わしは人の子らの自主性を重んじる神だし? ぬしらがやりたいようにやれば良いけど? ……ただまぁ、しいて言うとするならば……それがぬしらの考えなのだと、神々見よりも鶴城に重きを措くのだなと、そう受け取らざるを得ないわけだし」
「あ、あのっ! ヨミさま! よろしければぜひ神々見神宮でどうかぜひ動画の撮影をよろしければ何卒させていただけるととてもうれしいのですが!」
「うん。ぬしがそこまで言うなら、わしはべつに構わないし。なんなら献身に褒美を取らせることも吝かではないし」
「…………素直に『ツルギばっかずるい、カガミでも撮って』って言ってくれてもごもごもごご」
「ありがとうございます!! ご期待に沿うようがんばります!!」
「……ん。……わかってれば良いし」
(口は禍の元だよラニちゃん!!)
(ぇええ……めんどくさい神だなぁ……)
わかりました。理解しました。わたしはかしこいので。
やはりこの神はフツノさまのいうとおり、なんというかナンギな性格をしておられる……!
神様としての立場なのか、はたまたヨミさま本来の気質なのかはわからないけど……とにかく、神様のほうから『お願い』をしたくないのだということはよく理解できた。
ただそれでも、ラニちゃんがお漏らししそうになったように、『鶴城ばっかりずるい、神々見でもなんかやれ』っていう気持ちはあったようで。
だからこそ、こんなにもメンド……いえ、まわりくど……えーっと、気を利かせた言い方になっているのだろう。
要するに『こちらからは別に頼みはしないけど、もしソッチがやりたいならやってもいいよ、なんなら褒美を取らせるつもりもあるよ』と……このお方はそう言ってくれているのだ。
「……ちょうど都合良く、氏子に協力的な店が居るし。供前町の食事処巡りでも取り上げてやるといいし」
「アッ、わかりました。ありがとうございます(そのお店を取り上げて『食事処巡り動画』をつくれってことだな)」
「……うん。それと…………そうね、せっかく布都と百霊の眷属も居ることだし……ここはそなたらにも働いてもらおうかの」
「わうぅ!?」「んに……?」
「っ、いや、あの……ヨミさま!?」
同席している二人……それぞれフツノさまとモタマさまよりお預かりしている、霧衣ちゃんと棗ちゃん。
さすがは神様にお仕えしていたこともあり、二人ともいい子で可愛くてかしこい、おれの自慢の仲間だ。……くちらちゃんはね……うん、まぁ……そう。……そうね。
とにかく、この気難しい神様は、同僚でもありライバルでもある二柱の神様の眷属に、なにか仕事を押し付けようとしているようなのだ。
そんなひどい。いくらなんでも横暴が過ぎる。おれだけならばまだしも、かわいいこの子たちに労働奉仕させるだなんて。
一方的に無理矢理働かせるだなんて、そんなのはぜったいに良くない。ここは一つ、局長であるおれがガツンと言ってやらければならない。
おしごとをさせるなら……ちゃんと本人がやりたいお仕事をやらせてあげなきゃ、だめなのだ。
「……くだんの店がね、良さげな肉を炭火で焼いて供する店なんだけど」
「「おにく!!?!??」」
「アッ、アノ、エット」
「……興味あるよね?」
「はいっ!!」「うむっ!!」
「アッ、……………(ッスゥーー……)」
アッ、はい。同意の上のようです。ありがとうございます。
神々見供前町の、良さげな肉を炭火で焼いて供するお店……まぁつまり焼肉屋さんだな、よさげな焼肉屋さんの広報案件。
われわれ『のわめでぃあ』一同、全力で取り組ませていただきます。
あしたこそが8月29の日なので、あしたも(たぶん)更新します。
更新できなかったらごめんなさい、そのときはらにちゃんに責任をとってもら




