【大晦日】もうすぐおめでたいからおめでたい記念配信するよ【新年秒読み】 その④
おひさしぶりです。
おげんきですか。
おれたちの独特な容姿の隠れ蓑にするため、主に『にじキャラ』さんたちを盛大に巻き込んで展開した、仮想容姿投影デバイスによる『実在仮想配信者』計画。
その根幹を成す特殊デバイスの取り扱い――初期設定やチュートリアルやその後のフォロー、そして貸与関連手続きなどなど――を主な業務とする、各方面の助言のもとでおれたちが立ち上げた新設企業。
それこそが『株式会社マテリアライズアクター』であり、その経営や対外折衝や人材管理を担っているのが、何を隠そうこちらの山本五郎さんである。
……いやまあ隠してないけど。ホームページとかにバッチリ顔も名前も出してもらってるけど。言葉のアヤってやつ。
『それにしても……ここまで市場が拡がったのは、他でもない若芽さん御一行のお陰でしょうな。実在仮想配信者の第一人者である若芽さんが、こうして記念すべき日を迎えたこと。……仕掛人としても、大変光栄です』
「こちらこそ! こんな心踊る革新的な技術を試みるにあたって、わたしたち『のわめでぃあ』にお声かけ頂けて……おかげさまで、金枠まで来ることができました! 本当にありがとうございます!」
『恐縮です。……あなたの後輩となる個人配信者も、順調に増えていっています。まさに順風満帆、実在仮想配信者業界は、これからもっと盛り上がりますよ』
「えぇ……盛り上げていきますとも!」
デビュー当初から各界隈で話題になっていた、まるで実在しているかのような緑エルフの美少女配信者。
3Dアバターとはとても思えない、実在の人物としか思えない、しかし実在しているはずがない、そんな謎に包まれた配信者の正体は……なんとマテリアライズアクター社の手掛けた新型配信デバイスの、極秘先行モニターだったのだ。
……多少無理矢理感が否めないが、つまりはそういう筋書きである。
おれ個人は得体の知れない存在なんかではなくて、とある企業がすべての元凶であり、立役社なのであり……要するにおれたちはちょっとデバイスの扱いが上手いだけの、ただの個人配信者グループにすぎないのだ。
そうすることで、ここ一年に渡っておれたちが繰り広げてきた、ある種の幻想的ともいえる演出の数々は……『全てMA社のプロモーション活動の一貫である』と、盛大に責任転嫁することができるのだ。
加えて、プリミシア博士が提唱する『魔素』関連の理論。
すなわち、おれたちの配信者活動はその実証試験の一環としての、暫定呼称『魔法』技術の試験でもあった……というのが、今日現在までに突貫工事で築き上げたおれたちの立ち位置である。
よくよく考えてみれば粗だらけだが、そもそも『魔素』じたいが全く新しい研究分野であるため、ウソがバレる危険は少ないだろう。
万が一、面倒くさそうな輩に絡まれたとしても……吹けば飛ぶような個人勢とは違い、いち企業であればいろんな意味でしたたかに立ち回ることが出来るだろう。
ゴローさんもそのテのことに強い味方はいっぱい持っているらしいし、実際『頼ってくれて構わないよ』と言ってもらった。つまり良い隠れ蓑になってくれるにちがいないのだ。がはは。
『唐突に我が社のプロモーションなのですが……先日、弊社の仮想容姿投影デバイスの登録ユーザー様、つまりは実在仮想配信者がですね、なんと百名の大台を突破致しまして』
「おぉーー! すごい! おめでとうございます!!」
『ふふふ……ありがとうございます。……放送を御覧の皆様はご存じでしょうが、かの『にじキャラ』様や『netファン』様、『ユアライブ』様といった大御所の方々に始まり、特に最近はいわゆる『個人勢』のユーザー様が増えてきてまして』
「聞きました。日に日に増える申し込みに審査が全く追い付いてないって。……あの、お疲れ様です……ほんと」
『いえいえ。まぁ、なにぶん最新魔素技術の結晶ですので……貸与にあたっては、かなり慎重にならざるを得ない経緯がございます。……審査をお待ち戴いている配信者の皆様には、此の場をお借りして深くお詫び申し上げます。若芽さんが』
「んヒェ!? アッ、エット、あっ、ご、ごご、ご迷惑をお掛けしております!!?」
おれたち『のわめでぃあ』が㈱MA社の関係者であることをアピールし、やんわりと宣伝しておくという姑息な作戦。
事実、量産型デバイス貸与によって誕生した新たなる実在仮想配信者のみなさんは……恥ずかしながらおれはあまり追っかけられてないのだが、皆なかなかの手ごたえを感じているらしい。よろこばしいことだ。
そんな状況に、更なるテコ入れを企ててくれたということなのだろうか。
本日の『凸待ち』に現れたわれらが山本社長さんは、おれたちにとある提案を持ちかけてきた。
それすなわち、おれたちの後輩である実在仮想配信者の子たちを――さすがに全員とは行かないだろうが――この『凸待ち』の場に招いてあげてほしい。
偉大なる先輩として彼ら彼女らと接し、話題に花を咲かせ、見所をつくってあげてほしい。
つまりは……かわいい後輩が注目されるように、きっかけ作りに協力してあげてくれ、ってことだな。
なるほどなるほど。それくらいならお安いご用です。偉大なる先輩ですので。
「アッ、じゃあ良いっすね? わかめちゃんにオッケー貰えたんで、繋ぐっすよ? ビデオ通話」
「えっ?」
『どうか宜しく頼む。本人たっての希望だからね……『どうか初コラボはわかめちゃんと』ってね』
「えっ? それは光栄です……えっ? あの、はつめちゃ」
「おっけーコンタクト取れました。今から通話繋ぎますんで、お相手ちゃんがメイン画面でわかめちゃんをワイプに入れます。では……心の準備はいいっすね?」
「は、はいっ!!!?」
あれよあれよという間に言質を取られ外堀が埋め立てられ……㈱MA社取締役のテコ入れによって、後輩である実在仮想配信者ちゃんと『わかめちゃん』とのビデオ通話の場が急遽設けられることとなった。……本当に急遽なんだろうな、手際よすぎるんだが。さては謀ったな初芽。
とはいえまぁ、内容そのものに対しては別に不満は無い。おれの行動の大原則である『人々が未来への希望を抱くようにする』ためには、人々に『たのしい』を提供する同業者は多いに越したことはないのだ。
なので……だったら、ちゃんと前もって言ってくれればよかったのに。
こんなサプライズというか不意打ちぎみに持ってこなくたって、入念に打合せした上でプロモーションコラボとか設定すればよかったのに。
……なんてことを、ちょっとだけ拗ねながら考えてたんですけどね。
なるほど……これは不意打ちありきですわ。はいはい、そういうことね。
『どもどもー! みんなネバってるー? メイ・グラツィオーソです!』
『どもどもどもー! サツキ・キーノートでぇーす! 二人合わせてぇー!』
『『となりのマブダチ『ねいばーベスティ』でーす!』』
「なるほどねーーーーーー!!」
なんだかか聞き覚えのある声。
どこか馴染みのあるテンション。
まるで漫才か寸劇かのように息の合った、抜群のコンビネーションの女の子二人組。
そしてなによりも決め手となった……彼女たちのモチーフである音楽用語を盛り込みつつも、なんだかどうにも引っ掛かりを覚える、その名前。
メイ・グラツィオーソさんと、サツキ・キーノートさん。
……メグちゃんと、サキちゃん。
おれたちが初めて、仮想ではない配信者としての街頭企画に挑んだときの……なかよし女子高生吹奏楽部員コンビである。
『はじめましてわかめさん! このたびは金枠達成おめでとうございます!』
『こんなおめでたい場に呼んでいただいて、ありがとうございますっ!』
「い、いえっ! あの、えっと……こちらこそ、ありがとうございます! えーっと……メイさんと、サツキさん?」
『メグです!』『サキです!』
「アッ、ハイ。……えっと、わたしは恥ずかしながらはじめましてになると思うんですが……じつはですね、うちの子でめっちゃ目を光らせてる子がいるんですけど…………朽羅ちゃん?」
「ぽェあ!? ふ、ヒゃ、ひゅゃいッ! ……す、すごい! ほんとうの……ほんものの『ねいベス』に御座いまする!」
『『……!!!』』
えーっと……お恥ずかしながらわたくし木乃若芽、自身の後輩である実在仮想配信者のことをですね、ぶっちゃけますとあまりよく知らなかったりするわけでして。
……えぇ、誠に恥ずかしい限りなのですが……なかなかね、彼ら彼女らを追えなかったりするんですよ。いやほんとお恥ずかしいのですが。
まあ、その理由を『忙しいから』と片付けるのは楽なんだけど……おれの『願い』的にも、また立ち位置的にも、全く無頓着というのは色々とよろしくないわけで。
そんな中で、わがやにおいて日夜ぐうたらしてる(あぐらかいてたり脚開いてたり着崩しちゃってたりと)いろんな意味でけしからん娘……だと思っていた、クソガキウサギこと朽羅ちゃん。
なんとなんと、彼女が四六時中眺めていたタブレット(棗ちゃんとおそろい)に映し出されていたものこそ、大御所から新人までそれはそれは幅広い実在仮想配信者たちの活動風景だったのだ。
ぐうたら食っちゃ寝してたのかと思っていたが、その実自主的に市場調査や情報収集に臨んでくれていたということがわかったので、感動したおれはその日の晩ごはんのデザートにプリンを追加してあげた。
後日、それら朽羅ちゃんの情報収集は荒祭さんの助言あってのことだったということを知り、おれは謎の納得と共に彼女の評価を元に戻した。
「は、は、は、はじめましてに御座いまする! 小生『のわめでぃあ』いちの愛され美少女、朽羅に御座いまする! 『ねいベス』の後両名におかれましては、小生いつも楽しく拝見させて頂いておりまする! 先日の『実在ゲーセン音ゲー堪能コラボ』も大変すばらしいものに御座いました!」
「なにそれめっちゃおもしろそう」
『えっ、あっ、えっ……ま、まじで!? 見てくれたの!? ……アッ、ごめんなさい! 見てくれたんですか!?』
『ウソ……だってウチ、まだ駆け出しで……知名度だって、全然…………』
「……ほお? ……ふむ…………小生、貴嬢らの『知名度』はよく存じませぬが……御主人殿より『実在仮想配信者はみんな仲間で友達で、同じ目的の同志だから』と仰せつかって居りますれば、御同輩の健闘は此見逃さざるべきと心得まして御座いまするゆえ」
『……(ずびっ)』『……(ぐすっ)』
「ぅえええ!? な、な、な、何ゆえに!? ちょっ、あの…………ご、ご主人どの? 小生、また何やら……遣ってしまって御座いましょう、か……?」
「…………うん、そうだね。間違いなく朽羅ちゃんのせいなので……後で楽しみにしててね」
「ホェェェェ!!?」
最近はその性格もいくらか丸みを帯びてきて、棗ちゃんに邪険にされつつも仲睦まじい様子を見せる朽羅ちゃんだが……彼女の性根そのものは、初めて会ったときから変わらない。
構って貰いたがりで、イタズラや他人をおちょくることが好きで、そして『楽しいこと』『楽しそうなこと』に対する嗅覚がとても鋭い。
おれの『実在仮想配信者みんな仲間』宣言があったとはいえ……彼女が興味を抱いたということは、それそのものが『おもしろい』保証となるわけだ。
そんな鋭敏なアンテナを備えている朽羅ちゃんは、暇さえあればユースクに張り付いて『たのしい』の情報収集に取り組んでくれている。
おれのかわいい(けど追いきれてない)後輩ちゃんたちのがんばりを見守り、面白そうな事件があれば教えてくれたり、またおれたちのことを話題にしていたらきちんと報告してくれたりと……まぁ、なんとか役に立ってくれてたりする。
今回はそんな『ゆーすく調査担当』の朽羅ちゃんのアンテナがビビビッと反応した、仲良しマブダチ美少女コンビ配信者のご登場ということで……先方にとても詳しい子が味方にいるっていうのはね、とても心強いですね。
「と、とにかく! 小生『ねいベス』御両名の御活躍と御健勝を、僭越ながら我が主神様に御祈り申し上げて御座いますゆえ! ……今後とも御活躍、楽しみにしておりまする!」
『う゛ん……っ! がんばるね!』
『ありがどうね……っ!』
「うーん、いいはなしだなぁー。……なんだかいい雰囲気で終わっちゃいそうですが……そうは問屋が卸さないんですよねコレが! 霧衣ちゃんヤっておしまいなさい!」
「はいっ! いざいざ、参りまする!」
この場に来たからには、皆さん平等に話題ルーレットダーツの餌食となってもらいますので。
……いえ、若干一名の大正文学美少女配信者には逃げられましたけど。だからこそもう仕損じるわけはいかないわけでして。
それでは……わたしたちのかわいい後輩にして、息ピッタリのマブダチコンビにして、前途有望な現役女子高生実在仮想配信者のお二人、彼女らの『今日のパンツの色』と『最近ハマっていること』、そして嬉し恥ずかし極秘エピソードをですね、是非ともお聞かせ願おうではありませんか!
たのしいよるはこれからだぜ!
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