498【驚天動地】ゴッドフェス
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…………は?
え、何……どこここ。
おれは確か……【魔王】に組み付かれて、繭に閉じ込められて。
……ということは、たぶん大変なことになってるんだけど……おれの混乱を更に助長する『声』が、どこからともなく聞こえてくる。
――――『前例が無い』から何だ、薄鈍の耄碌爺共めが! 貴様等には現状が視えとらんのか!? 抑も貴様等が此んな埃の被った茶会に拘った所為で在ろうが!!
――――わしの『眼』が信じられない……と。それはそれは。それはまた……面白く無いね。我が神々見本宗が嘗められたもんだし。わし以上に厄を視透せる神が居るなら、是非とも面を貸してほしいものだし。
――――おうちが荒らされてるわたしとしては……やっぱり、一刻も早く決をいただきたいな、って。奉行からの連絡も芳しくないみたいだし、ここ数十年みんな平和に浸かっちゃってたし……対処が遅れれば遅れるだけ、復旧も隠蔽も難しくなるわよ? …………残念だけど、もう既に『隠しきれる』規模じゃないの。
聴覚からではなく、頭の中に直接響くような……とてもふわふわした認識ではあるけれど。
なんだか、白熱する議論のような空気がぼんやりと伝わってくるような気がする。
真っ暗闇の中で、身動きひとつ取れない状況で、自分の身体の存在さえもが不確かな中で……あの方々の声だけが、どういうわけか確かに感じ取れる。
――――くどいわ耄碌爺めが! 既にあ奴は貴様なんぞより多くの信仰を得て居るとも! 『現つ柱の素質は在ろう』と幾度も申したでは在るまいか!
――――わたしたちが出雲から出られない以上、ほかの神にお願いするしかないでしょう。……さすがにこれはちょっと、奉行や与力じゃ手に負えないわ。……わたしが今すぐ帰っても良いなら、そりゃあ何とかしてみせるけど。
――――布都の言った通り、本件はそもそも、そちらに責任がある。わしが散々警告してきたにもかかわらず、大した対策も講じずに流したのは何処の誰。布都も、百霊も、勿論わしも、『もしも』に備えて布石は打ってきた。
――――そうとも! 此迄我等が打ってきたその『布石』が! たかだか貴様等の感傷によって無為にされようとして居るのだぞ!? 喉元に刃を突き付けられて居るのだと何故解らぬ!!
……ここまでガチギレ……もとい、ご機嫌斜めな様子はお目にかかったこと無いが……まぁ、フツノさまで間違いないだろう。
あとのお二方も、これまた間違えようがない。モタマさまとヨミさま。……つまりは、ありがたいことにおれが縁を繋がせていただいた、三柱の神様だ。
そんな神様たちだが……現在はどうやら、嶌根県は出雲地方へと出張中であるらしい。
つまりは、十月――神無月――の名に由来するアレコレなのだろう。
しかしながらそもそも……『神様がみんな出雲に行っちゃって居なくなるから神無月』なんていうのは、ぶっちゃけ由来としては正しくないらしい。
ただしかし、『わかりやすい』『それっぽい』といった観点から多くの人々がそう信じてしまったこと、また当の出雲の纏め役的な神様が気に入って(調子に乗って)しまったことで……不本意ながら、本当に『出雲で会議をする』ことになってしまったのだという。
フツノさまご本神に散々愚痴られたのは、おれも記憶に新しい。
とはいえ実際、翌年のことを話し合うには確かに都合が良い場だったことは事実なので……やや惰性的なところはあるが、これまで集会が行われてきたのだという。
そして今回は、まさにその集会を利用されてしまったわけなのだけど……どうやらフツノさまたちはこの事態を把握しており、どうにか対処したいようだ。
なるほど、朽羅ちゃんが居るもんな。ヨミさまは朽羅ちゃんの眼を間借りして、この戦場をリアルタイムで盗み見れているわけだ。
そしてそして……どうやらフツノさまたちの勝手な行動を快く思っていない神様が居るようで。
そんなわけでフツノさまたちは――別世界からの脅威を正しく認識しているお三柱は――旧き体質に凝り固まった神々に対し、先程からひどくおかんむりなのだろう。
それにしてもフツノさまたちは、いったい何を画策してるんだろう。
恐らくは【魔王】対策なんだろうけど……ほかの神様たちがそこまで反対する布石とは、いったい。
――――あの子を……一時的にでも『神』に仕立て上げるのが、いちばん得策。わしが朽羅に繋げば、儀式は可能。
――――貴様等は何もする必要が無いと……あの現つ柱めに『信仰』は『神力』と成り得るのだと、其を伝えるだけだと云って居よう!
――――囘珠に被害が出ちゃってる以上、わたしはすぐにでも動きたいところなの。神域の存続が危ぶまれてる以上、ある程度のわがままは赦されるはずよね?
……そういえば、『おにわ部』の天狗さんチーム……テグリさんやダイユウさんたち。
彼女たちは『のわめでぃあ』メンバーとして出演したことで、いわゆる『魔力』が大幅に増えたと言っていた。
ネット越しとはいえ多くのひとに愛され、信仰されることで力を増す。
それはすなわち……ひとびとの祈りと願いを糧に、その願いを叶えることで更なる信仰を得、ひとびとの生活と繁栄に寄り添わんとする『神様』の在り方に、もしかしなくとも近しいのではないか。
…………もし、そうなのだとしたら。
それは……もしかしなくても、おれにも当てはまることなのでは無いだろうか。
フツノさまたちが画策していることが、果たしてそういうことなのかは判らないけれど。
魔力を備え、多くの視聴者さんに支持され、彼ら彼女らの『また次の配信も楽しみたい』という願いを叶えるためならば。
『この楽しい世界がこのまま続いてほしい』という願いを叶え……おれのことを信仰してくれている人々が住まう、この世界を守るためならば。
そして……おれが信じるフツノさまたちが、少なからず期待してくれているのならば。
おれは、もしかして…………もうちょっと頑張れるんじゃないだろうか。
(っ!? な…………あり得ん……! 意識が戻った、だと!?)
……そうだ、思い出せ。思い出せ。
おれは……わたしは、そもそも何のために生まれたのか。
(馬鹿な!? 魔力を侵し、意識を封じ、身体を奪い……完全に支配下に置いた筈! 『ソフィ』もろとも【結実】の糧とした筈だ!)
鶴城の霧衣ちゃんに、囘珠の棗ちゃんに、神々見の朽羅ちゃんに。
あの子たちに繋いでもらった『縁』は、何を願い結ばれたものだったか。
あの子たちと共に神様から託された願いは、いったい何だったのか。
この身体に込めた祈りは。ラニの決意に誓った願いは。モリアキと語らい夢見た未来は。
お別れ配信さえ出来ず、視聴者さんに『さよなら』さえ告げられずに、こんなところで独り寂しく幕を閉じるような……そんな無様なもので良い筈が無い。
(くっ、……意識が戻ったところで、今の君に何が出来よう。未だこの身体の自由は取り返して居るまいに!)
(なら……力ずくで返してもらうだけだ)
(渡すものかッ!! 指の一本さえ動かせまいに! このまま【結実】の贄となるほか無かろうが!)
(…………って思うじゃん?)
確かに……赤黒い『根』によってがんじがらめに固められたこの身体は、物理的な枷により動くことが出来ない。
対攻撃魔法の結界が張られた『繭』の内部では、精密な魔法制御は望めない。
加えて、現状は人質を取られたような形といえる。自爆覚悟の魔法は使えず……つまりは、内から『繭』を破ることは出来ない。
なら……簡単だ。
外から『繭』を破ればいい。
きっとできる。やってみせる。むしろやれないはずがない。
何故ならわたしは……人々に笑顔と希望を届ける、この世界の人々の願いを果たす配信者にして。
世界の破滅と混沌の氾濫を否定する、この世界唯一にして最高の……超超熟練魔法使いであるからして。
(かわいくてカッコよくて優秀な『使い魔』の一人や二人! 持ってたって不思議じゃないでしょう!)
「…………そういうわけで! 今だからこそ実装叶った、本邦初公開の超稀少特別版、人呼んで『平穏を乞願う賢者』! ……こちとら伊達や酔狂で長命種やってませんから!」
(…………そん、な…………出鱈目な!?)
あるときは、魔法放送局『のわめでぃあ』の敏腕局長。
またあるときは、世界の守護者『勇者』の頼れる相棒。
そしてまたあるときは……特例臨時『神様』代行(自称)。
悪夢だって裸足で逃げ出す現人神(臨時)『木乃若芽』ちゃんなのだから!!
※ 速さは重視しないのと健全なので
スカートはバッチリはいています。
悪しからずご了承下さい。




