481【最終演目】帰りはエグい
やさしい邪龍のウィルムさんから、本来は勇者エルヴィオさんの小道具である『聖なる剣』を借り受け……復路で再び待ち構えていた聖女と勇者と女魔法使いと上級悪魔ら四天王(お化けマスク装備)を『聖なる剣』の力で蹴散らし。
わるい邪龍のお嫁さんとして拐われてしまった棗ちゃんを救出せんと、朽羅ちゃんの導くがままに邪龍のねぐらへと急行した、彩門さん海月さんくろさんの三人が見たものは。
「わたし天使ぞ! 抱っこしてくれてもよくない!?」
「しらすどの、いまはだいじな配信中だって我輩聞いてるのである。配信中は、あんまりほかのひとの迷惑になることをしちゃだめだって、わかめどのが言っていたのだぞ」
「大丈夫、ちょっとだけだから。ほら今カメラ無いし、カメラ無いから大丈夫だから。ちょっとだけ。ね?」
「だめなのである。わかめどのと『あとでいいこいいこしてあげる』って約束したので、我輩まじめにやるのである」
「ええーーいいなぁーーーー!!」
「…………おっ、戻ったかお前ら。何かよーわからんけどフラグ立ててきたんやろ。あの幼女先輩何とかしてくれ」
「「「………………」」」
可愛らしい白無垢姿の棗ちゃんに詰め寄り、しきりに『抱っこ』をねだる超大手配信者事務所所属の大御所実在仮想配信者であらせられる、セラフさん。
まぁたしかに『あの三人が戻るまで適当にお話しして場を繋いで』とお願いしていたのだけど……もしかしなくともこれ、演技抜きで本人の願望がにじみ出てないかこれ。
「じゃあなあに!? 配信が終わったら抱っこしてくれるっていうの!?」
「それは構わないのである。わかめどのも『かめら』が『おふ』のときは思いっきり甘えていいよってもごもごもご」
「さ、さあ旅のお方! その『聖なる剣』にてわるい邪龍をビャーーッて追っ払っちゃうでございまする!」
「ヨッシャ。頼むでウェイ」
「やっちまえウェイ」
「ぇえ……俺ぇ? …………悪く思わんで下さいよセラフさん! ウオー(棒読み)」
「ぎゃーー! だずげでママーー!!」
「―――― お 喚 び で す か」
「「「「うわぁーー!!?」」」」
ここに至るまでの脅かし手がどうにも適当だったことや、現在進行形で進んでいる謎の寸劇……これらによってターゲットの四名様は、一時的に『肝試し』の最中であるということを忘れてしまっていたことだろう。
…………そんな中。
手持ちのランタン以外にロクな光源の無い、真っ暗だった夜の山中に……突如として朧気な『灯り』が姿を現す。
「ちょ、ちょっ……ちょっ!?」
「…………うそやん」
「待って、まって違うの」
「………………わぁ」
不規則に揺れ、明滅を繰り返し、まるで意思を持っているかのように自由気ままに飛び回る、青白い小さな炎。
『ひとだま』とか『鬼火』とか『狐火』とか呼ばれるそれだが……こうして見てみるとなかなかに不気味であり、仕込みがわのおれも背筋がゾクッてするほどだ。
それもそのはず、この火の玉はまさにそういうものなのだという。
術者の認識範囲を拡げるとともに、敵対者……というか見た者に【恐慌】のバッドステータスを付与する、戦闘補助用の術。これを展開しながら近接戦闘を仕掛ければ死角を無くしつつ相手の動きを削ぎ、つまりは戦闘を優位に立ち回れる……とは術者の談。
そんな【行灯】を引き連れ、天使……もとい、わるい邪龍の背後から、ひとつの人影が近づいてくる。
からん、ころん……と、どこか雅さを感じさせる下駄の足音ともに姿を現したのは……恐らく彼ら彼女らには、その正体を察することは難しかっただろう。
元は純白だったであろう着物の殆ど、そして白い顔の半分ほどを、赤黒い血糊(※文字通り演出用の血糊です)でべっとりと汚し。
無秩序に伸ばされ腰に届かんばかりの黒い髪を、なびくがまま夜風に広げ。
その右手には……真っ赤に染まったボロボロの刀を、地面に引きずるように携えて。
「――――うぅぅ、……ぅあぁぁ、
あ ぁ ぁ ぁ ぁ あ あ あ !」
「「「わあああああああああ!!!」」」
鬼気迫る表情で刀を振り上げ、挑戦者四名を追い立てる血濡れの女。
暗がりに浮かぶ明らかにヤバイその姿と、周囲を飛び回る火の玉に追い立てられ……まぁ、当然だろうな。挑戦者四名はゴール目掛けて、一目散に逃げ帰っていった。
なお挑戦者四名の中でただ一人……玄間くろさんは心から楽しそうに、ケラケラと笑っていた。
おれは一生懸命追いかけた。ほめて。
…………ってな具合で、チームワルノリと『おにわ部』全面協力のもと生まれ変わった『肝試し』でございました。
特に今回『緩急』つけることを主眼において演ってみましたが、いかがでしたでしょうか!
「「「……………………」」」
「んっふふゥーー!」
おやおや、まさに(一名除いて)精も根も尽き果てたといった様子。
気を抜いて守りを緩めたところに叩き込まれる一撃は、やっぱり効果抜群のようでございますね!
(一名除いて)大変なことになってしまっている同僚の様子を目の当たりにし、次なる挑戦者である赤組の皆さんがいい感じに顔青ざめてますが……残念ながら撤退は認められません。
わたくしどもも某大御所配信者さんから確固たる意思で作戦決行を頼み込まれてますので、引くに引けないわけでして。恨むなら某魔王配信者に煽り絡みしていた誰崎だれさんを恨んでくださいね。
ということで、無事(?)帰還した挑戦者の方々の撮影は『にじキャラ』がわのスタッフさんにお任せして、運営スタッフであるわたくしはわたくしのお仕事を全うさせていただきましょう。
それすなわち、進行上の小道具にして最奥地点到達の証拠品である『聖なる剣』の回収である。
カメラの注目が出発を控えるチーム赤組に移ったところで、おれは剣を握りしめてへたり込んでいた彩門さんへと接触を図る。
「ウッス。お疲れッス。剣回収に来ましたッス」
「…………もう、本当……いや…………お疲れ様」
「こちらのせりふですけどね。……どうでした? 天繰さんの迫真の演技」
「あぁー……やっぱテグリさんだったのね。…………なんというか、初めて見る素顔がアレっていうのが……」
「…………よかったら、また今度遊び来てください。歓迎しますよ」
「前向きに検討します。……ステキな御御脚でしたとお伝え下さい」
「…………脚フェチでしたか」
(なかなか見所あるね彼)
(おだまりなさいエッチフェアリー。……お願いね)
(がってんえっち)
脚フェチ彩門さんから回収した小道具をエッチフェアリーへとパスし、折り返し地点である管理棟へと運んでもらう。
また道中、脅かし手の方々にスタンバイのお声かけもしてもらい……同時におれのほうも、例によって無音撮影ドローンモードへと意識を切り替えていく。
やがて相棒から『準備完了』の思念が届き、おれはその旨を『にじキャラ』スタッフさんへと伝える。
程なくして赤組のみなさんにも伝わったみたいで……『誰が一番ビビりか』で盛り上がっていた彼女らのテンションが、あからさまに下がっていくのが見てとれる。
とはいえ、ミルさんはさほど取り乱すこともなく平然としているし、道振さんとういかさんは不安そうながらも、その口許はほころんでいる模様。どこか楽しそうにそわそわしている感じだな。
ただ一方で、全ての元凶でもある村崎うにさんに至っては……もはや表情が完全に『無』だ。ミルさんの服の裾を力いっぱい、『逃がすもんか』とばかりに握りしめている。
……まぁ、本人たちの心境は置いといて。
とりあえずコメントのほうは大盛り上がりらしい。
というわけで、最終夜の最終組。
全ての出演者と視聴者さんたち、みんなに『いい夜』を迎えていただくためにも。
一同、張り切って行ってみましょうか。




