466【企画初日】騙して悪いが
『コントラクト・スプラウト』前回の三つのできごと!!
ひとつ。われわれの拠点のお庭で、キャンプコラボ配信をすることになった『にじキャラ』Ⅰ期生の皆さん。
ふたつ。晩ごはんを終え、いい感じにお酒が入った勇者さんの提案で、急遽『肝試し』をすることになった。
みっつ。トップバッターに選ばれ(てしまっ)た勇者さんと魔王さまコンビは……盛大に悲鳴を上げつつも、なんとか中間地点へと辿り着いたのだが。
「…………はいっ! 夜分遅くに、たいへんお疲れ様で御座いまする!」
「……お疲れ様で御座います、御客様」
「アアーー!!」「すきーー!!」
心身ともに疲労困憊なターゲット二人を出迎えたのは……われらが清純派癒し系和装白髪狗耳尻尾美少女霧衣ちゃん、ならびに神秘系職人メイド強キャラ美少女大天狗天繰さん。
単純に可愛らしいお出迎えだったり、あるいはツボを突いた『お気に入り』の子だったり……ここ中間地点がおうちのすぐ裏手、こわいのが出て来なさそうな安全地帯ということもあり、いい感じに脱力して(しまって)いるようだ。
とりあえず駆けつけ一杯、疲れた身体の水分補給として、持ち帰るのとは別のお茶を振る舞って落ち着いてもらう。
勇者と魔王が、それぞれ霧衣ちゃんと天繰さんから手渡しでコップを受け取り、おいしそうに喉を鳴らして飲み干していく。
……うん、どうやら違和感を感じていない……気づいていないようだ。
天繰さんのチャームポイントであり、いつもそのお顔を彩っている天狗の半面……それが今日このときに限って、顔全面を覆うものに変わっていることに。
「……はいっ! ご立派な呑みっぷりでございます。まだ道半ばではございますが……お疲れ様でございました」
「…………大層お疲れ様に御座います。……何やら、相当に慌てておられた御様子で」
「そう、そうなんえしゅわ。脅かし方がね……」
「なんてーか……もう、ガチ過ぎるんだよなぁ。いやすげーわ本当」
「ふふっ。……棗さまも、朽羅さまも、ちゃあんと御勤めを果たせているようでございますね」
優しげに微笑む霧衣ちゃんに、ついつい警戒を緩めてしまったターゲットお二人。おいしいお茶のおかげもあるのだろうが、呼吸も脈拍も落ち着いてきたらしい。
残されたもう半分の行程を、復路をこれからこなすべく……その重い腰を、いよいよ上げようとしていたわけで。
そのときを待っていたんだな、これが。
「それでは、こちら。『なみなみ』と注がせて頂きましたこちらを、すたあと地点までお持ち帰りくださいませ」
「こぼしちゃったら減点なんですよね。……おいクソ魔王お前持てよ」
「えっヤだよ俺様。お前持てよ。さっきだってアホ勇者のせいでクチラちゃんされたんだろ」
「は? オレのせいじゃねえだろアレは! むしろクソ魔王のせいだろアレは!」
「…………ほう、朽羅嬢が。……中々に刺激的だったご様子に御座いますね」
「そう! そうなんよテグリちゃん! いやーもう……俺様は『やめろ』っつったのにこのアホ勇者が!」
「オレのせいじゃねぇって! だって『のっぺらぼう』とか想像できねぇだろ!!」
「ほう……『野箆坊』」
はい来ましたーキーワードいただきましたーさすがⅠ期生の売れっ子配信者さんですわーさすがわかってますわー!
いやはや、特に打ち合わせとか示し合わせとかしたつもりは無いんですけどね、ここまでこちらの意を汲んだ言動とってくれると……さすがにテンション上がってきますね!
「……野箆坊。…………幸か不幸か、手前は此迄お会いしたことは御座いませぬが」
「「………………………………」」
うふふ、気づいたみたいですね。
天繰さんの今日の装いが、顔全部を覆い隠す天狗面だということに。
そのお面の下の顔がどうなっているのか……窺うことが出来なかったということに。
「……それは、野箆坊とは……もしや。
此 の 様 な 貌 で は
御 座 い ま せ ん か ?」
「「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛!゛」」
天狗面をゆっくりと外した天繰さんのお顔は……まぁ、のっぺらぼうだったわけで。
先程の朽羅ちゃんに続いての、二度目となるドッキリ特殊メイク(という設定)に、ターゲットのお二人は本日何度目かの絶叫を上げて駆け出していってしまった。
配信の要である小型カメラを、縁側の休憩場所に置き去りにしたまま。
「あっ! お、御客様ぁ!」
「……はて、如何致しましょうか」
(あー…………これおれが唯一の映像じゃん! 『撮影ドローン』頑張んなきゃ見失っちゃうやつじゃん!)
(しかたないね。あの二人はもう……オーバーキルだろうし。ボクがキリちゃんとこ行ってくるよ)
(おねがい。おれは二人を追ってるから)
「「わああああああああああ!!!」」
(……こっち、目ぇ離せないから)
(しかたないねー)
復路に待ち構えていた(※ただ道のど真ん中に突っ立ってただけ)のっぺら朽羅ちゃんに絶叫し、彼女の左右を風のように駆け抜け、その後もカラスの鳴き声やガサガサ掻き鳴らされる茂みや謎の霧に嗚咽を漏らしながら……
ついに彼らは、ゴールまで辿り着いた。
「お疲れ様じゃよー! めっちゃ楽しそうじゃったな!」
「ここまで叫び声聞こえてきたんだけど……そんな怖かった?」
「だ、大丈夫か? 二人とも……割とガチで腰抜けちゃってる系?」
「とりあえずお茶飲んで落ち着いて…………あれ? そういえば得点計測のお茶は?」
「「…………………………」」
「お忘れものに御座い「「わあああああああ!!?」」…………ま、す?」
「あっ! きりえちゃんじゃ! やっほー!」
「きーりっと様。夜分に失礼致しまする」
恐怖によるものとは別の理由により、顔面を蒼白に染めたお二方の背後から……わすれものを届けに、白髪狗耳和装美少女がひょっこりと姿を表す。
本来ならば、われわれ裏方は極力出しゃばらないのが望ましいのだが……さすがにカメラは返さなきゃならないだろう。
「えるにお様と、はです様。中間地点にて、かめらのお忘れものが御座いましたゆえ、僭越ながらお届けに参った次第に御座いまする。……また、道中こちらの『かみこっぷ』が落ちているのを見掛けましたゆえ……もしやと思い」
「それって…………もしかして例の、得点計測用のお茶が入ってた?」
「左様に御座いまする。……微かでは御座いますが、『一颯』の香が残って御座いまする」
「「「「あぁー…………」」」」
なんとかゴールしたものの、勇者と魔王いずれの手にも無かった紙コップ。
道中に転がっていた『とてもおいしいお茶』の香りが微かに残る、空っぽの紙コップ。
まぁ……つまりは、そういうことなわけですね。
「えー、エルヴィオ・ハデス組。まぁわざわざ言うまでも無ぇだろうけど……〇点」
「ぐあーーー!!」
「ちくしょォーー!!」
がっくりと項垂れるお二方をよそに……おれはカメラを【浮遊】させて定点撮影を行いつつ、スタッフさんのもとへと静かに駆け寄り手短に打ち合わせを済ませる。
幸いなことに、『撮影ドローン』ことおれの撮影はなかなか高評価を頂いているようで、その調子でお願いしたいとのお言葉を頂きまして。
また……勇者と魔王ペアが置き去りにしたカメラの回収に関しても、お礼の言葉を頂きました。
なんでも……配信しっぱなしになっていたカメラを覗き込んだ霧衣ちゃんの至近距離フレームインによって、コメントの数がものすごいことになっていたのだとか。
まじか。あとでアーカイブ確認しよ。
……というわけで、運営側である霧衣ちゃんにも『持ち場』に戻っていただいて、おれも再びカメラを回収して『撮影ドローン』状態に戻りまして。
(そろそろ第二陣いくよー。周知おねがい)
(あらほらさっさー!)
ターゲットの方々にも、全体の流れを理解してもらえただろうなので。
それでは……第二走者。
はりきっていってみましょうか。




