437【納涼作戦】夏のハッピーセット
「…………あっ、お館様ぁー! おやかたさまぁー! ヤッホーご機嫌麗しう! ようこそご足労下さいました!」
「どもども。お疲れ様ですカショウさん。天繰さんはプールのほうですか?」
「そうですそうです! なんでも水温をちょうどいい感じに温めてるそうで、お館様方にお気を遣わせぬようにようさりげなーくヒト手間加えておきたいとのことで」
「迦葉」「阿呆姉ぇ」
「あっ!!!」
おれたちが例の地点へと近付くと、烏天狗三人娘のにぎやか担当カショウさんがいち早く駆けつけてくれた。
どうやら天繰さんも来てくれてるらしく、つまりは『おにわ部』勢揃いというわけだな。
本人に悪気は無かったとはいえ……ネタバレしてしまった彼女は、もしかすると後で頭領にお仕置きされるのかもしれない。
三人娘のまじめ担当ダイユウさんと、同しずか担当クボテさんに白い目で見られながらも、しかし本人は『テヘペロ』と余裕の態度を崩さない。
……なかなか大物だわ。かわいいが。
まぁ、気を取り直して。
おれたち『のわめでぃあ』一同が本日足を運んだのは、この度おにわの一角に造成された『渓流遊びエリア』だ。
ほかでもない『おにわ部』の方々によって、およそ一ヶ月の歳月と少なくない予算を費やし……安全かつ多用途に遊べるエリアとして、この度めでたく完成と相成ったのだ。すごいぞ天狗パワー。
元はそれほど大きな流れでもなかった沢のすぐ側に、深さ五十センチ程を広く浅く掘り下げ、外周は岩で囲いながらも底には足触りのよい砂を敷き詰め、そして沢の水を引き込み池状に仕上げた……完全プライベートのアウトドア渓流プール。
そのすぐ近くに建てられたのは……着替えや休憩や仮眠などなど多用途に利用できるであろう、三坪程のこぢんまりとした平屋建ての小屋。
小屋の出入り口は急な雨に備えてか、大屋根の掛かった作業スペースとなっている。足下こそ土がむき出しの土間だが、コンロやテーブルを置いてバーベキューなんかもできるつくりだな。
更に頭上を仰ぎ見ると……いったいどうやって建てたのだろうか、地上から三メートル程は離れた高さに、しかしながらがっしりとした造りの監視小屋。烏天狗三人娘の詰所である。
沢辺に根を張る三本の針葉樹をそのまま基礎兼柱とした、あそびごころ溢れるツリーハウスだ。
「「「「おぉーーーー……」」」」
「なんというか……やっぱスゴいですね、天繰さん」
「……恐悦至極に御座います」
「めっちゃテンション上がるっすね! 男心わかっていすぎっすよ!」
「だよな!! オトコゴコロにビンビン来るよな!! オトコゴコロに!!」
「「「「………………?」」」」
「な、なによぉ!!!」
憤慨するおれを置いといて……天繰さんは休憩小屋の錠前をはずして扉を開き、荷物を提げたぎゃるずを中へと案内してくれる。
おれは建築中に何度か視察(という名目で見学)に来ていたことがあったけど、霧衣ちゃんたちは今回が初めてだ。
実質プロの万能職人である天繰さんの手によって仕上げられた室内は、広いとは言いがたいが天井の解放感があるためか窮屈さは感じず、また隙間や歪みも見られない。
六畳ほどの室内の床は、よごれやカビに強いクッションフロア。なんと床断熱もバッチリとのことなので、地面からの冷気も(ある程度は)シャットアウトできるらしい。
壁際に作り付けのベンチがぐるっと巡らされており、端材を寄せ集めて作ったというテーブルがちょうどいい位置に鎮座している。このままお弁当を食べることも出来るだろう。
「テグリさんスマセン、このハシゴってもしかして……」
「……えぇ、はい。……御館様がたが監視小屋へと昇る際には、彼方の小窓から屋根上へと出ることが出来ますので」
「「おぉーーーーーー!!」」
片流れの大きな屋根の小屋裏形状を活かし、入り口がわの壁の上のほうに設けられた小さな扉。そこへは入り口すぐ横のハシゴからアクセスすることが出来るらしく、さっきの玄関前作業スペースの屋根の上へと出ることができるらしい。
更にそこからツリーハウスの監視小屋(=三人娘の住処)へと出入りすることができるらしいのだが……住人である三人娘は直接屋根の上まで跳んでこれるので、わざわざハシゴを使うことはない。
つまり……わざわざおれたちが遊びに来るときのために、このルートを作っておいてくれたということだ。
なんだそれ。うれしい。すきだが。
天繰さんと、ダイユウさんと、カショウさんと、クボテさん……『おにわ部』の皆さんのおかげで、ぶっちゃけ期待をはるかに上回るクオリティの建物が完成していた。
契約に従いこのお礼は近々若干の心付けと共にお支払するとして……今はとりあえず、もうひとつの作品も拝見させていただこうではないか!
小屋の撮影はえーっとあーうーん……まぁまた後日でもいいよね!
とりあえずは水着だ水着。霧衣ちゃんたちの喜びはしゃぐ姿を、一刻も早くカメラに納めなきゃならないのだ!
「…………というわけで、各々水着に着替えようねー」
「アッ、じゃあオレ外で準備してるんで、また後で」
「おっけー! すぐいくわ!」
テーブルの上にみんなそれぞれトートバッグを置き、美少女三人がおもむろに着衣を脱ぎ始める。
おれはそんな光景から全力で顔を背けながら、一人壁を向いて壮絶な早さで着衣をぽいぽいと脱ぎ捨ててパーカーを羽織り、脱いだものを籠に丸めてドーンしていそいそと小屋の出口扉へ手をかける。
というのも……あのままあの小屋の中にいたら、素っ裸の美少女たちに捕まってそれはそれはたいへんなことになってしまう危険が危なかったためだ。
こんなこともあろうかと、おれは普段着のローブの下にあらかじめ水着を着ておいたのだ。
セパレート式の最新型とはいえ所詮はスクール水着であるからして、世の女学生たちの創意工夫をおれも利用させてもらったというわけだな。まぁおれはおとこなわけだけど。
こういった賢い作戦の甲斐あって、おれは一足早く女子更衣室から脱出することに成功する。
出てすぐのところは地面が踏み固められた土間のようになっており、向かって正面に耐力壁とそこに掛かる屋根が頭上を渡っている。
そんな半屋外のスペースでは、先程一足早く小屋から外へ出ていったモリアキが身支度を整えながら待っているはずなのだが……あれれおかしいな。
なんか。
褐色エルフの。
美少女が。
すっぱだかで。
……ぜんぶ見えちゃってるんだけど。
「いや…………だって先輩早すぎっすもん。オレだって今【変身】使って初期服脱いだばっかっすもん」
「『もん』じゃねえんだよ!! なんですっぱだかなの!! えっち!! 初芽おねえちゃんのえっち!!」
「しょーがないじゃないっすか。先輩のセパレートとは違ってオレの水着はこうしなきゃ着れませんし。テルテル坊主のタオルが無い以上は腹括るしか無いかなって」
「でも!! おっぱいが!! なんでおっぱいが!!」
「いやホラ、そこは……男の習性っていうか。男って着替えるときまず上脱ぐじゃないっすか?」
「なるほどぉ」
そんな問答を繰り広げながらも、神絵師モリアキ改め初芽おねえちゃんはテキパキと水着(学校指定・Uバックワンピースタイプ)に両脚を通して引き上げていき、その形のよい双つのふくらみを『ぎゅむぎゅむ』と押し込んで形を整えていった。……おぉ、見事な手際。
こうして姿を表した『緑髪褐色肌神絵師おじさん美少女スク水おねえちゃんエルフ』という……なんというか『これでもか!』と盛りに盛られた属性を持つ彼女は。
その褐色肌と紺色布地の組み合わせが美しい魅惑のぼでぃを……おれへ向けてイタズラっぽい笑みを浮かべると、『さっ』とパーカーに隠してしまった。
「あっ…………」
「んフフフフ。……後のおたのしみっすよ、先輩」
「アッ!!!?」
ははーん!
さては悪女だなオメー!!
(※おじさんです)




