432【夜間修練】あの子たちのため
少々……いやほんの少々、取り乱してしまったところもあったけれど……朽羅ちゃんのお披露目を兼ねた定例生放送通称『生わかめ』は、いつもどおり無事に閉幕を迎えることができた。
朽羅ちゃんが自らを『わかめどのの嫁』と称したことに端を発する一連の騒動は、一時『きりえ派』『なつめ派』『ラニ派』そして新勢力『くちら派』の四つ巴の泥沼状態へと陥った。
最終的におれが『みんな大切なわたしの嫁です!』宣言を発したことで、なんとか沈静化の兆しを見せたかに思えたのだが……そうしたら今度はおれが『攻め』か『受け』かどちらになるのかで、またしても不毛な論争が巻き起こる始末。
こちらに関してはおれが『わかめちゃんは万能なのでどちらでも戦えます!』と、半ばヤケクソで声を張り上げたことにより……とりあえずは強引に事態を終息させることに成功した。と思う。
ちなみに下馬評では『わかめちゃん攻め』が五分に対して『わかめちゃん受け』が三割、そして『わかめちゃん総受け』が六割五分だった。ちょっと待ちたまえ視聴者さん。
そんなこんなで時刻は深夜。配信を終えたおれたちは現在、取り急ぎ霧衣ちゃんのお部屋へとお邪魔していた。
配信のときには場の空気に流されてか、一人で寝ることを余儀なくされるというかわいそうな扱いを受けてしまった朽羅ちゃんだったが……そこはわが『のわめでぃあ』が誇る慈愛の狗耳美少女おねえちゃん霧衣ちゃんである。
あからさまに『しゅん』としている小さな彼女を見かねてか……『わたくしのお部屋で一緒に』と、いたずらうさぎちゃんを受け入れる姿勢を見せてくれたのだ。
涙目だった朽羅ちゃんも、この霧衣ちゃんの救いの手には思わずむせび泣き、いつぞやの御斎所SAのようなしおらしさを垣間見せていた。
同居人の棗ちゃんも、『あねうえが決めたならば』と反対することもなく(※ただし『あねうえのおふとんは我輩のものであるぞ!』とキッチリ牽制していたが)、こうしてなかよし(?)三人娘は仲良く(?)一緒のお部屋でおやすみすることとなったのだ。尊ぇが。
「ノワおまたせ。持ってきたよ」
「ありがとラニ。じゃあえーっと……このへんいい? 霧衣ちゃん」
「はいっ。問題ございませぬ。それと朽羅様、物入れの下段をお使いくださいませ。わたくしと棗様は上段にて、私物はすべて収まりまして御座いまする」
「うぅぅぅぅ…………霧衣どのぉぉーー!!」
「んふふっ。ご安心くださいませ、朽羅様」
((アァーーーー尊ェーーーー!!))
一階の客間から、以前『なかよしゲーム部』の方々が遊びに来た際に調達していただいたお布団(女の子用)を一セット、ラニが【蔵】を活用して運んできてくれたので、部屋主の許可のもと設置していく。
ざっくり北側に入り口がある和室の、窓がある東側に霧衣ちゃんと棗ちゃんのおふとんが配置され……その反対側の西側(スタジオ側)が朽羅ちゃんスペースとなるらしい。
ちなみに南側には、吹き抜けから一階リビングを見下ろせる通風窓(兼・棗にゃん専用出入り口)があるぞ。
こうして三人で共用することになったとはいえ、十畳ともともと広さには余裕がある二階和室。三方向に開口を取れることもあり、居住環境は悪くないだろうとは思っていたけど……さすがに三人暮らすのはちょっと手狭かもしれない。
おれの私室なんて、この倍の広さをおれとラニで二人占めしてるんだもんな。時間ができたら、ちょっと部屋割を考え直したほうがいいかもしれない。
「じゃあとりあえず……今日はお疲れさま。また明日からよろしくね、朽羅ちゃん」
「お任せくださいませ! ではでは……ご主人どの、おやすみの接ぷ」
「「(ギロッ)」」
「冗談に御座いまする! ほんの戯れに御座いまする!!」
「ははははは……ほどほどにね」
朽羅ちゃんと棗ちゃんのアグレッシブな関係性が少々気がかりではあるけども……棗ちゃんは幼く見えてもれっきとした上位神使だ。善悪の区別はきちんとついているし、心配はしていない。
一方の朽羅ちゃんも、その根底にあるのは『構ってほしい』『自分のことを見ていてほしい』という承認欲求である。積極的に構って、ときにはおしおきしてくれる相手が居てくれるのなら、そんなに悪いことはしないだろう。
それに……彼女たちには、われらが良心霧衣おねえちゃんが着いていてくれるのだ。
おんなのこ部屋のことは……まぁ、なんだかんだで心配は要らないだろう。
「そーだよノワ。他の子の心配してる場合じゃないよ?」
「ヴッ!! …………でもさ、あの……本当にやるの?」
「なにを今さら。ノワが決めたんでしょ?」
「それはそうですがぁ!!」
もうそろそろ日付も変わろうかという深夜。おんなのこ三人組と別れたおれたちは、またおれたち自身も睡眠をとるべく、寝床へと向かっていた。
階段を降り、廊下を歩き、正面の引き戸を開け……そうして辿り着いたのは、インダストリアルテイストのカッコいい家具でコーディネートされたおれたちの寝室、ではなく。
「お疲れ様っす先輩……と、白谷さん。布団敷いときましたよ」
「ありがとね、モリアキ氏……じゃなかった、初芽おねえちゃん!」
「ッフヘヘー」
「チクショウかわいいなぁおまえ……!!」
「おまかわっすよ若芽ちゃん」
半袖シャツとスパッツというたいへんラフな格好に身を包んだ、世にも珍しい長い耳と褐色の肌と手ごろなサイズの双つの実りをもつ、年の頃は十四そこらに見える……笑顔が眩しい美少女。
おれこと若芽ちゃんの設定上の姉にして、産みの親(の一人)でもある彼女の名は……初芽ちゃん。
そしてその魂は……なにを隠そう、モリアキこと烏森明だ。
そんな彼がこの部屋に待ち構えており、おふとんが二組敷いてあるということは……つまりは、そういうことだ。
「オレもこのカラダなら竿無いんで、万が一のまちがいの心配も無いでしょうし……それにあの子らと違って中身オレですんで、どんだけ迷惑掛けても大丈夫っすよ、先輩」
「よかったねノワ、モリアキ氏と同じ部屋で眠れるよ!」
「それはそうだけどぉ!!!」
そう……全てはおれのたいせつなあの子たちに、寂しい思いをさせないため。
おとことしての心をもっているおれの、おれ以外の女の子に対する免疫力をつけるため。
初芽ちゃん全面協力のもと……おれの『美少女耐性獲得プログラム夜の部(※意味深)』が、唐突だが幕を開けたのだった!!
いうておとこどうしだから健全だからな、なにもやましいことなんかないわけだ!!
そう頭では理解しているけども!!!




