419【夜戦会戦】『護衛騎士』の戦い
魔法使いのほうは……まぁ調子を取り戻したみたいだし、任せてしまって大丈夫だろう。
基本的にはハイスペックなのだが、ときどき調子に乗りがちで手痛い失敗を被るというのが、魔法使いのひとつの特徴でもある。
たまにポンコツさを垣間見せるという、ほかでもない俺が盛り込んだ設定……配信や動画撮影においては撮れ高を稼ぐ『愛されムーブ』に繋がるのかもしれないのだが。
だがさすがに、こと命のやり取りを行う場面においては……それはちょっと、さすがにご遠慮いただきたいわけで。
「まぁ……欠点がわかってるなら、それをフォローすりゃいいだけで」
「おっ、お客人……? その声色は、お客人で御座いましょう? あれっ、でも……あれっ? あの弓師も……あれっ?」
「はいはーい朽羅ちゃーんちょーっと隠れててねーはい危ないよー」
「えっ? えっ? な、何を言ぴゃああああああああああああ!!!」
魔力砲を防ぎきった騎士の【対砲城塞】と、それを繰り出す騎士に興味を抱いてくれたのだろうか。
巨大な体躯を躍動させ、立ちふさがる木々を殴り飛ばし薙ぎ払いながら、大型ダンプに匹敵するその巨体が迫り来る。
おれの姿と盾の影から、その威圧感半端無い光景を目にしてしまったのだろう。朽羅ちゃんが甲高く可愛らしい悲鳴を上げる。
まぁそりゃあそうだろうな。なにせ今彼女が感じている印象とは、それこそそのまんま大型ダンプ(くらいのサイズのキモいコワいキケンな非生物)に跳ねられる直前なわけで。
「な、な、な、何を呆っと突っ立ってやがりますお客人!? 小生を守ると言っアッしぬ! しぬ! 小生これしぬ!! やだやだやだやだ助けてェ――荒祭様ァ――――!!」
「アァーやっぱ尊ぇんじゃァー」
悪戯っ子のけなげな恋心に満たされるものを感じながら、慌てず騒がず騎士は防御用の戦闘技能を発動する。
そもそもだ。あんな地形を変えるほどエグい魔力砲を容易く霧消させる騎士に、あの程度の質量攻撃が防げないわけがない。
「【戦闘技能封印解錠】【耐衝撃防御体勢】」
≪――――蜿ゥ縺肴スー縺!!!!!≫
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」
咆哮を上げながら突っ込んでくる『龍』の巨体、ものすごい勢いで突き込まれる鼻先、禍々しく尖った先端衝角……直撃すれば刺し貫かれて投げ飛ばされて、まぁ控えめに言って死ぬであろう衝角突撃を、しかし騎士は微塵も圧されずに受け止める。
装備に魔力を通わせ破壊不可能にする魔法。魔力を纏う装備への物理的な衝撃を弾き返す魔法。そして……魔力を通わせた装備の座標を『固定』する魔法。
それら防御魔法の複合による戦闘技能、おれが長きに渡って練りに練った妄想力の結晶。それこそがこの対質量攻撃用複合防御技能【耐衝撃防御体勢】。
全リソースを『防御』に充てるため、それこそ側背面を『獣』に突かれたら悲しいことになるのだが……そこは騎士が絶対の信頼を置く魔法使いが、ちゃんと仕事をこなしてくれていたようだ。やれば出来る子なんだよなぁ。
こうして発動した【耐衝撃防御体勢】、その効能はすさまじく……おれの構えた塔盾からこちらは全く平和なものだが、あちら側はそうはいかない。
衝突の衝撃で周囲の空気は揺れ、地面は捲れ上がり、突っ込んできた『龍』本人は跳ね返されたその衝撃をそのまま頭部に叩き込まれ……カチ上げられた顎から苦悶の声を漏らしている(ように見える)。
衝突の衝撃は、質量と速度に大きく影響されるらしいので……あんなに重たそうな身体であんな速度で突っ込んできて、その衝撃が集中する鼻先をそのままの勢いで殴り返されれば、そらまぁ痛いやろなぁ。
そしてその無防備きわまりない体勢を、おれが黙して見逃す理由も無いわけで。
「【砲門開け】【城塞主砲】!!」
≪――――縺翫>繧?a繧埼ヲャ鮖ソ!!!!!!≫
予め塔盾の砲郭に組み込んでおいた長銃槍から、意趣返しとばかりに魔力砲を思いっきり叩き込む。
長槍に組み込まれていた魔法呪紋に魔力を流し込み、勢いそのまま攻性魔力の塊として吐き出し、そうして放たれた城塞主砲は……まぁこの距離だもんな。外さんわ。
鼻先を弾き飛ばされて体勢を崩し、回避も防御もままならない状況で、ほぼゼロといえる至近距離からの、おおよそ完璧なカウンター。
奇しくもそれはあのときの『評価試験』の再現。胸郭に風穴を開けられた『龍』は、千切れそうな上半身を苦しげに身動がせる。
……そう、こいつはこの攻撃能力を備えておきながら、なんとびっくりHBD特化型。
厄介なことに堅さとしぶとさには定評があり、普通の生物であれば致命打となる攻撃を喰らってなお、往生際悪く自己再生を試みる程なのだ。
だがしかし、そのことは知っている。
知っているなら、それを踏まえて対処すればいいだけだ。
「うっす。お疲れっす」
≪――――繧、繝、繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「!!!!!!!!≫
防御体勢【耐衝撃防御体勢】を解除し、小脇に抱えるように保持していた長槍を大きく突き出し、長く鋭い穂先で『龍』の下顎を刺し貫く。
そのまま槍を通して超超高密度の光属性魔力を流し込み……その攻性魔力の奔流は標的の魔力回路をずたずたに侵食し、ほんの数瞬の後に臨界を起こして盛大に炸裂する。
対象を内から崩壊させる魔力を流し込む魔法剣技、【滅却】。
これで制御中枢たる頭部を破壊すれば、さすがに自己再生は叶わない……ということも、おれは知っていた。
こうして護衛騎士たるおれは、数ヵ月前に『評価試験』で予習した通りの対処にて……特に手こずることもなく『龍』一体の駆除に成功したのだった。
「魔法使いのほうは……まぁ、大丈夫そうかな。勇者のほうは」
「あ、あの……お客人?」
「んう? どしたの、朽羅ちゃん。大丈夫? ケガ無い?」
「あっ……えっと、その…………は、ぃ」
「よかった。朽羅ちゃんに何かあったら(結界が)大変だからね」
「……っ!! あっ! アッ、あっ、あっ、あっ……えっと、あの…………はぅぅ」
お、おぅ……なにやら顔をおさえてそっぽ向いてうずくまってしまったが……きっとそれほどまでに『龍』が恐ろしかったのだろうな。
こんな小さな子が、たった一人で『獣』の群れから逃げ続けていたのだ。とりあえずの危機が去って、安心感のあまり腰を抜かしてしまったとしても、それは仕方の無いことだ。
……足下に広がる水溜まりは、見なかったことにしておこう。騎士の情けだ。
そうこうしている間にも、どうやら魔法使いのほうも片付いたようだ。
となれば、あとは指揮官と護衛二体を相手取っている勇者のほうだけだ。
さすがのラニとて、かつておれがあんなに苦労した『龍』二体を相手取るのは、少なからず苦労していることだろう。一刻も早く魔法使いを援護に行かせないと。
……なーんてことを考えていたおれの目の前、突如飛んできたモノを目の当たりにして。
朽羅ちゃんの『がまんゲージ』が、再び決壊した。




