417【夜襲会戦】レベルアップおれ
いきなりボス戦……というか、モンスターハウスに(主に勇者のせいで)遭遇してしまったおれたち。
ボス本体である聖ちゃんに加え、単体でも中ボスとして成立するであろう『龍』が三体、おまけに『獣』が…………わかんない。いっぱい。たぶん二十くらいだ。うっわ。
対するおれたち『勇者』パーティーは……『勇者』ラニと、『魔法使い』わかめちゃんの二人編成。うーん、定石的にはあと二人は欲しいところだな。
なんてったって、今回の防衛対象である朽羅ちゃん……この子と【隔世】にもしものことがあれば、この魔王の軍勢がそのまま現実世界を踏み荒らしていくだろう。
念のために霧衣ちゃんを残してきているので、最悪市街地に侵攻される前に【霧】で包んでしまうことは出来るだろうけど……それでも、『獣』や『龍』相手に試したことは無いのだ。確実とは言い難い。
それに……(性格はどうであれ)こんな小さくて可愛らしい子が命を散らすなんて、そんな目覚めの悪いことがあってたまるか。
敵は強力、かつたくさん。対してこちらは人手不足。
おれたちはどうすればよいだろうか。レベルを上げて物理で殴るべきだろうか。酒場に寄って仲間を募るべきだろうか。……残念ながら会敵した時点で手遅れだ。
なら……仕方無い。おれがちょっと無茶するしかあるまい。
(…………本当に、アレやるの? ……大丈夫なんだね?)
(大丈夫。天繰さんの言葉でハッキリした)
(えっ? な、何が?)
実は……おれの身にここ最近、ひっそりと生じていた違和感。
その原因を突き止める手助けとなったのは、なにげない天繰さんの一言だった。
『御屋形様が件の映像を公開して以降……手前の調子が頗る好調に御座いまして』
『つまり……天繰さんが『すこ』されればされるほど、天繰さんの……神力? が上がってく……みたいな?』
おれたちが配信したさまざまな動画、そこに映ったおれたちの活躍を……ときには語彙力を無くしながら、ときには『神』と崇め称賛しながら、全身全霊で『推し』てくれる視聴者さんの存在。
彼ら彼女ら、顔も知らぬ支援者さんたちの『信仰』ないしは『想いの力』とでもいうべきものが、神力を――つまりは、おれたちの言うところの『魔力』を――高めてくれるのだと。
以前、都心ベイエリアの高層ホテルで『評価試験』を強いられ、息切れしながらもアレを初披露してから……もう五ヶ月ほども月日が流れているのだ。
あれから知り合いもたくさん増えたし、みんなであちこちに脚を運んだし、頼りになるメンバーも増えたし、いろんなことに挑戦したし、おかげで知名度もぐーんと増えたし……もちろんチャンネル登録者も応援してくれる人々も、ずっとずーっと増えたのだ。
おれはもう……あのときのおれじゃない。
「理を越えて来たれ。今ひとひらの力を示せ。わたしが望むわたしの姿……気高き稀なる強者よ!」
あのときには『いっぱいいっぱい』だった術式でも。
そこそこの経験を積んだ今のおれになら、きっと使いこなせる。
なんてったって、おれは……この世界唯一の魔法情報局『のわめでぃあ』の、泣く子も笑う敏腕局長なのだから。
「【『創造録』・解錠】!」
つよく賢いエルフの頭脳は、工程をちゃーんと記憶してくれている。
無意識下でも、いつだって最適解を導き出し続けてきてくれている、おれの頼れる並列思考……超一流の配信を成功させるための超高精度並列演算能力を半ば強引に過大解釈し、おれの手助けをしてくれる『もう一人のおれ』として切り離す。
仮初の意識を与えられた『もう一人のおれ』に、相棒の編み出した【義肢・全身骨格】を骨格として、身体と装備を付与していく。
おれがこれまで見聞きしてきたものと自慢の妄想力から、彼女に適切な装備を見繕う。
おれたちパーティーの……『勇者』と『魔法使い』に続く、頼れる三人目のメンバーを想像し、創造する。
「【召喚式・『堅牢強固たる騎士』】!!!」
『ほぇー』「ちょ、おきゃ……えぇぇ!?」
現れたのは……重厚かつ堅牢な全身鎧に身を包み、身バレを防ぐためにも兜のバイザーをきっちりと下ろし、長大な塔盾と長銃槍を自信満々に振りかざす、(外からは解らないが)かっこかわいいエルフの護衛騎士。
護衛対象を確実に守りながら、襲い来る襲撃者を返り討ちにすることを目的とした、耐久力と単発火力に秀でた分身体。
「それじゃ……魔法使いは敵の掃討に向かうから、朽羅ちゃんは頼んだよ? 堅牢な騎士」
「お任せを。騎士のこの装備なら、十二分に役割を全うして見せるから……そっちこそ頼むよ? 叡智の魔法使い」
決戦に向けて、制限時間つきの人員補充を済ませたおれたちによる……この世界の防衛戦が幕を開けた。
「…………始まったようです、夜泉様」
「うん。視えてるよ」
「斯様に禍々しい化生めが……一体どっから湧いて出やがった」
「…………さて、ね。この国の妖由来じゃ無さそうだし」
「……夜泉様の眼でも、見通すことは叶いませんか」
「そういわれても……仕方がないね。わしの『眼』も『八洲』も、所詮は『日本』を視透すものに過ぎないし。……外つ国ならまだしも、異なる世界からの侵攻だなんて前代未聞。予測の立てようが無いし」
「…………だから、朽羅を外に出した……ってぇコトですか。……そのお陰で【隔世】の位置指定は遣り易くて……まぁ、助かるのですが」
「そう。……せっかく百霊のやつに『おもしろいモノ』貰ったことだし……あの長耳の小鬼の本気を、間近で視ておきたいし」
「……………………一体……何をお考えですか。夜泉様」
「…………べつに、なにも?」
「左様ですか。……では、質問を変えましょうか。…………『シズ』とは、何者ですか」
「………………へぇ、視られたか。……ふぅん……腕を上げたね? 荒祭。わしらの荒御霊の分際で……賢しい奴」
「儂とて、神域の厄を祓う『廻り方頭』なれば……此の程度。……して、夜泉様。よもやとは思いますが」
「……………………ばれちゃったか」
『ばれちゃった。…………仕方無いね』
「ッ!!?」
『神様は……嘘が下手だね。……まぁ、そっか。今まで……嘘ついたことなんて、無いか』
「その口を綴じろ! 夜泉様に何用だ!!」
『…………そんなに、警戒しなくて、いい。……神様たちに、直接危害は…………加えない』
「…………てめェが、『シズ』か」
『ん。…………【睡眠欲】、宇多方鎮。……ボクの名前、よろしく』
「ヨロシクする心算なんざ微塵も無ェ。……薄汚ぇ侵略者めが何の用だ。夜泉様に何しやがった!!」
「…………べつに……わし、何もされとらんし」
『……そう。ただ、神様は……ボクの『悪巧み』に、乗ってくれた……だけ』
「そう、それだけだし。……でも…………そうだね。根掘り葉掘り聞かれるのも……もう、ちょっと面倒だし」
『…………じゃあ、彼も?』
「そうだね。面倒になってきたし。
………………こっち側に、引きずり込んじゃおっか」
「……ッ!!?」
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