375【襲撃翌朝】進捗すさまじいです!
驚愕のしんじじつ!
なんと『にじキャラ』第Ⅰ期生のハデスさまは……激シブでダンディなナイスガイでありながら、メイドさんをこよなく愛する紳士だった!!
わー、しらなかったー(棒)。
「いや、あの、えっと……本当助かりました。ありがとうございます、皆さん」
「……我々だけでは、此処まで作業は捗らなかったでしょう。……感謝致します」
「いやいやなんのなんの! 一宿一飯の恩義、ってなぁ! そうだろお前ら!」
「「(ぜーはー、ぜーはー)」」
「し、しんでる……」
まず昨晩……ハデスさまの『メイド服好き』が発覚した、おれの公開処刑配信。
加えて、今朝……わが『のわめでぃあ』の新メンバー(まだ未公表)、DIY専属職人メイド大天狗ガール天繰さんとの遭遇を果たし。
そして……現在。
おれは予定通り、天繰さんとガレージの作業の続きに取り掛かったわけだけど……おうちでゆっくりしていてもいいのに、ハデスさまが(あからさまに嫌そうな表情の刀郷さんとウィルムさんを巻き添えに)手伝いを申し出てくれまして。
そのお陰でなんと、壁を張って梁を掛けて屋根板まで打ち終わるという……もう『ほぼ勝ち』が見えるあたりまで作業が進んだ次第でありまして。いやぁ男手ってすごいですね。
ところで、えーっと、まぁ……なんでこうなったか……と。それに関しては、おれのエルフ的知覚能力が告げているんですが……
多分ハデスさま……かなりストライクなんじゃないかな、天繰さん。
「いやーいやー……手際すげーのな、テグリちゃん」
「……恐縮に御座います」
「そのメイド服……良いね。自前? どっかで買ったの?」
「……知人の伝手にて。……針仕事の職人が居ります故」
「へぇー凄ぇ!! ……って事ぁ、他にもそのメイド服着てる知り合い居んの?」
「……さて、其処までは。……手前は家仕事が主に御座います故、『正装』と聞き重用して居りますが」
「おうおうおう。その通りよ! やっぱハウスメイドの仕事着っつったらメイド服っしょ!」
「……矢張り、左様でしたか」
……うん、めっちゃ興味津々でしたね。
見れば刀郷さんとウィルムさんも、妙に生き生きとコミュニケーションを図るハデスさまにどこか唖然とした様子だ。
ハデスさまが『メイド好き』ということは情報として知っていたんだろうけど、実際に(メイドカフェではない)メイドさんと対面したのは初めてだったのだろう。
天狗の半面で目元は隠れているとはいえ……天繰さんの艶やかな御髪や引き締まった腰まわり、程よいサイズのおむねや整った体幹……そして何よりもメイド服の自然な着こなしは、ありありと見てとれる。
天繰さんの魅力を感じさせるには、充分だった……ということだろうか。
そう……何が凄いって天繰さん、メイド服姿がすごい『自然』なんだよな。服そのものがすごいのかもしれないけど、いわゆる『コスプレっぽさ』が感じられない。
もし仮に、天狗面とツールバッグを装備解除していれば……およそ完璧な『メイドさん』に見えるのではなかろうか。もっともお料理は現在勉強中だけど。
まぁ何はともあれ……男性陣お三方のお陰で、ガレージ作業はとてもとても捗った。
撮影のほうもモチロン抜かりはない。カメラの位置と角度を調整することで、『にじキャラ』男性陣お三方のお顔は九割九分がた映らずに済んだはずだ。
そして残りの一分に関しては……編集のときにちゃんとチェックすれば、どうとでもなるだろう。
基本n倍速でタイムラプス掛けるだろうし、お顔が映っちゃったところはそこだけボカシを入れたり。そこは局長の編集技術の見せ所だ。
……というわけで、作業のほうは終了だ。おれたちの都合に付き合わせてしまった彼らにも、帰る前にひとっ風呂浴びていただいたほうがいいだろう。
木材の粉や土であちこち汚れているだろうし、いくら冬とて体を動かせば汗をかく。そもそも人間は寝てる間も汗をかく。
そこんとこ、よーくご存じなのだろう。お嬢さん方は朝食のお片付けを終えるや否や、荷物を纏めて『朝風呂行ってくるわ!』と出掛けていってしまった。
棗ちゃんの分身がこっそり様子を窺っててくれるらしいので……とりあえずは安心だろうか。えらいぞ棗ちゃん。あとで○ゅ~るをおごってあげよう。
「思い残すことがないなら、お荷物ぜんぶハイベースに積んじゃいますか? チェックアウト……じゃないですけど、帰る前にもうひとっ風呂浴びて、落水荘さんから直接帰るとかでも」
「あー…………良いかね? 正直助かる。おじさんこの汗だくで電車乗りたくないわぁ」
「めっちゃ張り切ってましたもんね、ハデス様。そんなにテグリさんに良いトコ見せたかったんすか?」
「ちょ馬鹿野郎刀郷テメーコノヤロー」
「あーコレは図星だな。耳の後ろ掻いてやんの」
なるほど……ハデスさまにそんなクセが。これは覚えておいたほうが良さそうな情報ですね。
刀郷さんとウィルムさんの指摘に恥ずかしがるハデスさま……そんな意外な一面も目にすることが出来、この二日間で(おそれおおいが)とても親近感を感じるようになっていた。
「……大変、御立派で御座いました。……感謝申し上げます」
「…………へへッ」
「うわ、少年みたいなテレ顔っすよ」
「これネタにしばらく弄ってやりたいけどなぁ……天繰さんのこと喋っちゃマズいよね。どうやって伏せよう……」
「あっ、ガレージ完成し次第公開するんで、もう少しだけ待っていただければ」
「マジで。オッケー超待つよ。めっちゃ楽しみに待ってる」
「……お手柔らかに頼むわ」
有り体に言えば『推し』である天繰さんに御礼を告げられ、まんざらでもなさそうな顔をして見せたハデスさま。
うわ、常日頃からオトナびてるひとが不意に見せる無邪気さ……これまた尊いですわ。
さすがに同期相手ともなれば、頭ごなしに『おいやめろ馬鹿』とは言いづらいのだろうか。『にじキャラ』配信者の中でも年長者の部類に入るハデスさまは、観念したように両手を広げて苦笑して見せた。
……はー、かわいいかよ。
そのあとは……まぁ、ダイジェストとしてご報告させていただこうか。
お嬢様方は大荷物もキチッと纏めてくれてあったので、とりあえずそれらをぽいぽいとハイベース号に収容。
しかる後に男性陣と、お風呂に行きたそうな棗ちゃんを乗せて、落水荘さんまでハイベース号を回しまして。
男性陣をお風呂に送り出し、棗ちゃんには言伝てを頼んで送り出し……一方おれは喫茶コーナーで優雅にプリンパフェとアイスコーヒー(計一〇五〇円)を頂きつつ、お礼メッセージを録りながら時間をつぶす。
というのも……休憩座敷を覗いてみたところ、お嬢様方のお姿は無かったからだ。恐らくお風呂で棗ちゃんが合流してくれただろうと思い、あの子を信じることにした。
自分で行けば良いじゃんって?
……いや、無理だよ。おれ純粋な女の子じゃないし。中身おじさんだもん。いくら身体がこれだからって、平気な顔して女湯に入り浸れるほど開き直れてないし……さすがにあの子たちに会わせる顔がない。
まあともかく、そうしてこうしてどうやら言伝てはしっかり伝わっていたらしく(棗ちゃんえらい。おやつ追加)……予定時刻の十一時には、みんな揃って落水荘を後にすることができた。
本予約を決めてくれたこともあってか、支配人も大変いい笑顔で見送ってくれた。
その後は昨晩お世話になった和食処『あまごや』さんにて、今度はランチのご利用。丼ものやお蕎麦や定食なんかをいただき、大満足のみなさん。
うにさんと刀郷さんのコミュ力が半端なく、店員のおばちゃんとあっという間に打ち解けてたのは衝撃的だった。
……っとまぁ、終盤は駆け足だったけども……以上で『にじキャラ』の皆さんのお泊まり会は、無事終了のはこびとなった。
カモフラージュの意味も含めてハイベース号にご搭乗いただき、しかし実際にはラニちゃんの【門】にて、ほんの数瞬で渋谷区の事務所へひとっ飛び。
いや、確かに今日は月曜だけどさ。ほんとに直通でいいのか株式会社NWキャスト。
「じゃあな、わかめちゃん! また練習よろしく頼むわ!」
「のわっちゃんまた明日なー! 楽しかったでー!」
「助言、ありがとうございます。セラちゃんとも共有して、身体使いこなせるよう頑張りますね!」
「ありぁとぅーね、わかめちゃん。今度おれともFPEXやろうぜぇ」
ほんの僅かな間の滞在だったけど、皆さんどうやら満足してくれたようで……【門】に飛び込み際には皆さん口々に、感謝の言葉を掛けてくれた。
アッ、もぅヤバい。マジ無理。しんじゃう。推しからのお礼の言葉やぞ。印刷して壁に貼りたい(※無理です)。
とはいえ……おれも束の間とはいえ夢みたいなひとときを過ごさせてもらったので、こんどは真面目にがんばるターンだ。……いやおれはいつだってまじめだけど。
徐々に厄介なことになりつつある、【苗】を巡る騒動……おれたちの対応能力を底上げするためにも、われらが万能系大天狗少女天繰さんに、ちょっとばかし稽古をつけて貰うことになっているのだ!
遊んだ分は、がんばらないとね。
天繰師匠、どうぞよろしくお願いします!!




