361【誘客遊戯】ワクワクの第一試合
――――第一試合。
『ひよこ組』からは霧衣ちゃんと棗ちゃん、『なかゲ部』からは村崎うにさんとハデスさま。
……これは、あれですわ。猛獣の檻に入れられたチワワですわ。
「よろしうな、霧衣っちゃんと……棗ちゃん? うわーこらまた可愛ぇ子やんなぁー」
「ん。むらさき……うに殿、であらせられるな。お噂は家主殿からかねがね。宜しく頼む」
「ほぉー? 小さいのにきちんとご挨拶できるんだ。おぉーえらいねぇー。おじさんはね、『はです』って言うんだ。よろしくな、棗ちゃんと……霧衣ちゃん」
「成程、はです殿……貴殿が。家主殿が『声めっちゃせくしー、好き』と褒め称え「わあああああああああ!!!」な。宜しく頼む」
「よっ、よろしくおねがいしますっ!」
「ハッハッハ! いやー……賑やかでいいね、微笑ましくて。俺様羨ましいわ」
「ウチら大抵殺伐とした罵り合いになるもんなぁ……」
「大体お前と青のせいだけどな」
試合前のご挨拶は(棗ちゃんの暴露を除き)とても微笑ましいものだったけど……まぁしかしそうは言ってもこのお二方、『にじキャラ』が誇るゲームユニット『なかよしゲーム部』の一員、その指折りの実力者だ。
ひよこ組の二人が相手だからって、こと試合においては正々堂々、真っ向勝負を繰り広げることだろう。
つまりは……容赦がない。
「わたくしは練習と同様、『ねずみさん』で参りまする!」
「むう、我輩も……此奴しか慣れておらぬからな」
「いちいちセレクトが可愛らしいもんなぁー癒されるわぁー」
「ハハッ。その割にはヤル気満々のセレクトじゃねぇか」
黄色いねずみさんと、青いハリネズミさん、それにミリタリー系装備の傭兵と、浅黒い肌の肉弾系魔王。
第一試合の選手四名はキャラクターセレクトを終え、対戦ステージがランダムで選出され、そのステージへとプレイヤー達が召喚されていき……カウントダウンの後、ついに試合の幕が上がる。
おれは各々のプレイヤーキャラの下へと立ち絵配置を頑張った。
ギリギリ間に合ったよほめて。
「ッオラァ○ねやオッサン!!」
「誰がオッサンだ! まだ四千代だ!」
「よ、四千!? 斯様に永き時を生きた御方であったか!」
「棗ちゃん真に受けちゃダメですよ! いやあながちウソって訳でもないんすけど……ああもう説明しづらい!」
「わちらはまだまだ三桁歳の若者やよー。ねー、わかめちゃーん」
「は、はいっ! そうでしゅ!」
開幕動いたのは、うにさん操る傭兵。……さすがに初手でひよこ組を食らうほど落ちぶれてはいなかったのか、もう一人の身内であるハデスさま操る魔王へと仕掛ける。
キャラクターの特徴でもある遠距離攻撃をばら蒔きつつ、地雷や爆弾を投げまくって回避の選択を迫っていく。
「ぅお!? 床が!」
「ああっ! 爆発してございまする!」
ばら蒔かれたそれら火器を回避しきれず、また地雷を踏んづけ、ひよこ組が初々しい悲鳴をあげているが……そんな中仕掛人である傭兵は付かず離れずの距離を維持しながら、中距離から魔王をじわじわと削っていく。
しかし、一方の魔王もやられっ放しではない。鈍重な代わりに防御と攻撃力の高いキャラクター、その攻撃範囲を最大限活かし、攻撃を掻い潜りときに防御しながら、果敢に近距離戦に持ち込んでいく。
中距離戦を得意とする傭兵とて、機動力は魔王より『やや上』程度。そこまで素早いわけでもなく、ましてや近接攻撃の範囲が広い魔王に追い立てられ、こちらもじわじわと被ダメージが蓄積していっている。
「ゥオオ怖ぇ! あれ捕まったらアカンやつやん!」
「チッ、外したかぁー。タイミング合ってたんだけどなぁ」
「小指一個分届かんかったなぁ、っと……ほれお返し、やっ!!」
「ぬわーー!!?」「わうーー!!?」
「……酷ぇ事しやがる」
「ち、ちがうんやて!!」
繰り広げられる必殺技の応酬、巻き込まれるひよこ組、あちこちで上がる悲鳴、狩られていくいたいけな命……戦いとはかくも無情なものなのだろうか。
まぁゲームだからな。そういうこともあるだろう。ひよこ組のお二人には開き直ってがんばってほしい。
「オッラァ!!」
「なんのっ……ッだァ!!」
「ああーー!!」
「っしゃオアァ!!?」
復帰したひよこ組が『こわ、近付かんとこ』している間に、傭兵対魔王のほうに動きがあったようだ。
着地のチャンスに振るわれた傭兵の近接強攻撃、しかしそれを魔王は僅かに横にずれてギリギリで避け、お返しとばかりに振るわれた腕が見事に傭兵をかっ飛ばす。
画面外まで飛ばされて残機を一つ喪失する傭兵、しかしタダでは終わらない。最後っ屁として放られていた爆弾が時間差で爆発、攻撃後の硬直で回避も防御も取れなかった魔王がその爆風に巻き込まれて吹っ飛んでいき……僅差ながら傭兵と同様に残機をロスト。
「えいっ! えいっ!」
「ははは何の! そらっ!」
「むぅーーっ!」
超ハイレベルな攻防が繰り広げられている一方で、とても微笑ましいじゃれ合いも同時に繰り広げられ……その温度差に頭がいたくなりそうだが、とりあえず高度な試合であることは確かだ。
それにうにさんもハデスさまも、どうやら『ひよこ組』には(直接)手出しをしないつもりらしい。やだ紳士的。
しかし……自分がプレイしていると、どうしても画面に釘付けになってしまうから解らなかったけど……まぁ当たり前といえば当たり前なんだけど、ゲームをプレイしているひとはこんなにも楽しそうな顔をするものなのか。
ほほえましく一喜一憂するひよこ組の二人は、単純にひたすらに可愛らしい。加えて、うにさんとハデスさま、そのお二方の表情も……うん、とても活き活きとしてて楽しそうなんだよなぁ。
「あぁーーーー!!」
「ッ、しゃぁ!! ハッハァ!!」
「えいえいっ……ああっ! ねずみさんが!」
「すまぬな! ねえさ…………ん゛んっ、……霧衣殿」
「「ン゛ン゛ッ!!」」
そうこうしているうちに……野獣共とひよこたち、双方で決着がついたようだ。
激戦を制しリングに残った上位二人は……魔王と青いハリネズミ。
その後の結果はやっぱりというか、魔王が容易くハリネズミをぶっとばし……こうして一位と二位が決定する形となった。
「ではでは、第一試合の勝者はー? ハデスさんとナツメちゃんです! イェーイ!」
「イェェェイ!!」
「い、いえーい……?」
『いぇーい!』『さすハデス』『さすハデ』『なつめちゃんおめでとう!!』『さす冥王』『うにたそ……』『実質タイマンだったな』『うにたそ焦ったか』『なつめちゃんかわいい』『誰が勝ってもオレは嬉しい!!』『きりえちゃんざんねん』『さすハデ!!』『きりえちゃんがー!!』『きりえちゃんかわいかったぞ!』『うにたそ残念』
うにさんとハデスさまの激戦もあり、思っていた以上に白熱した第一試合だったのだが……やはり視聴者さんも楽しんでくれていたようだ。
順当に考えれば、当然うにさんとハデスさまの二人が勝ち抜けることもできたわけで……しかしながら棗ちゃんを残すという『予想外』の結果を見せることで、視聴者さんは大いに熱くなってくれているようだ。
さすがプロの売れっ子配信者さんだ、場の盛り上げ方をよくわかっていらっしゃる。
よし、それでは……われわれも後に続くとしましょうか。
おれは確かに、(最終的に納得したとはいえ)不本意な形で『優勝賞品』に仕立て上げられてしまったけど……なに。
おれが勝ってしまっても、構わんのだろう?




