344【一派団欒】旅番組といえばお風呂
※『のわめでぃあ』は健全な放送局です
とても可愛らしい棗ちゃんのお洋服(へそだしキャミとダボ袖パーカーetc)だが、あれは要するに【変化】の呪いの一種によるものらしい。
おれの予想した通り、やはり合歓木公園に遊びに来ていた都会っこガールの服装を真似たようで、棗ちゃんの神力で再現されたものであり、立場でいえば『ヒトの姿を真似た身体』と同等のもの……要するに、実際の商品では無いらしく。
いやー、びびったわ。いきなり『ぼんっ』て音したかと思ったらさ、振り向いたらもう素っ裸なんだもん。
いやーいやー……それにしても、ちっちゃかったわ。ちっちゃくてぺったんだったわ。おれのほうが大きかったわ。どこがとは言わないけど。ふふん。
「わかめさま! お背中をお流し致します!」
「アッ、アッ、エット、アッ…………ッス」
「うふふふ。わかめさま、お肌が大変お綺麗でおられますゆえ、霧衣めが丁寧に磨かせて頂きまする」
おれのほんの微かな優越感を粉微塵に打ち砕く、整ったボディラインの白髪美少女に手招きされ……おれは自らの眼に【視力低下】の阻害魔法を掛け、なかば手探り状態で洗い場へと引っ立てられていった。
いや、けっして巨じゃないんだよ。そんなにおっきくないんだよ。……なんだけど、とにかく形がきれいなんだよなぁ。なにがとは言わないけど。
子どもそのものの棗ちゃんはともかく……魅力的な女性として成長しつつある霧衣ちゃんの裸身は、未だ性自認が男性のまま踏みとどまっているおれにとって、非常に刺激が強いものなのだ。直視などできるはずがない。
東京のリゾートホテルのときは水着着用の上だったので、まだ刺激が控えめ(とはいっても別の意味での魔法使いを◯すには充分すぎる凶器)だったのだが……この密着距離で裸の付き合いとあっては、これは死人が出んとも限らない。おれしんじゃう。
視覚に阻害魔法が掛かっていようとも……おれのこの鋭敏な耳があれば、物音や水音を聞き分けることで周囲の状況は把握できる。
椅子に座ったおれの背後、身体洗い用の手ぬぐいを丁寧に泡立ててくれている霧衣ちゃんの、とても嬉しそうな吐息まで……おれには手に取るようにわかるのだ。
「なつめ様、もう暫しお待ちくださいませ。わかめ様へのご奉仕が終わりましたら、霧衣めがお身体を磨かせて頂きまする」
「……うむ……気にするでない。……我輩は暫し…………んぅーっ……もう暫し、こうして……融けておるよ」
「いー感じにふわふわしてるね、ナツメちゃん。温泉気に入った?」
「……うむ…………此の姿で、湯を堪能するは……また格別、よな」
ちっちゃな身体を仰向けに浮かべ、気持ち良さそうな声を出しちゃってる棗ちゃん。ヒトの身体を……見るからに幼げで小柄な身体を真似たのには、本人いわく『きちんとした理由』があるらしい。
なんでも『ヒトの手足が在れば便利だと解っては居るのだが、かといって大きな身体では機敏に動けまい』『『カワイイ』と云う音が、容姿を褒める音だと解ったのでな。そう言われていたヒトを真似ようと試してみた訳よ』とのことで。
実際にこれまでにも何度か【変化】そのものは試しており、金鶏さんからも『カワイイ』のお墨付きを頂いていたとのこと。
……なるほど、あのコーディネートは金鶏さんチェックによるものか。
まぁもっとも……ヒトの姿では木の上で昼寝することもできないし、木陰で眠っていたら騒ぎになるし、妙に注目を浴びて落ち着かなかったり、軍服を着た集団(多分おまわりさん)に絡まれたり、といったことが数多くあったらしく……普段は本来の姿である、気楽な錆猫の姿でいたらしい。
しかしながらここ数日、おれたちの活動を間近で観察していく中で……光栄なことに、彼女は自らの意思で、我々の活動を『手伝いたい』と思うまでになってくれたという。
似たような出自・境遇の霧衣ちゃんが日々を楽しそうに……幸せそうに過ごしていたことも、この姿を披露しようと考える切っ掛けになったようだ。
「……んぅぅ、んふぅぅ…………極楽、よな」
「ふむふむ。ノワよりもぺったんこだけど……これはこれで」
「おい破廉恥妖精。よそ様の娘さんに狼藉働いたらメン◯レータムの刑だからな」
「そッ、それなに!? こわい!!」
「じゃあ大人しくしてること。合意無しにガン見したり、おさわりしたりは禁止」
「じゃあじゃあノワ、みていい? さわっていい?」
「………………しょうがないなぁ」
「ヨッシャ!!」
まぁ……おれもラニにお世話になってることは確かなわけで、彼女のフラストレーションを解消するためにこの身を差し出すくらい、霧衣ちゃんや棗ちゃんがセクハラされるよりはマシなわけで。
女の子らしい反応が期待できるわけでもない、中身三十路男性のおれ相手で、それで彼女の欲求が解消されるなら……まぁいっか、減るもんじゃないし。
「それはそうと……ノワ」
「なあに? まだ何かあるの?」
「うん。入浴シーン撮らなくて良かったの?」
「と、ッ!? 撮りません! 健全なので!」
「えー! キリちゃんに洗われてるノワとか絶対みんな喜ぶよ! てぇてぇだよ!」
「霧衣ちゃんの裸をネットに上げられるわけないでしょおばか!」
「ぐぬぬ……そっかぁ」
「そうだよお」
「でもでも、こんな素敵なおフロだよ? 映像に残さないの、もったいなくない?」
「ぐぬ、ぐぬぬ…………おれひとり、なら……バスタオルきちっと巻いとけば良っか。……明日の朝にでも撮るかなぁ」
「(ヨッシャ!!)」
確かに……せっかく温泉旅館に来たのに、温泉についての情報がないというのも、映像としては寂しいものだ。
だいじなところが見えちゃわないように、きちんと対策した上での撮影なら、配信サイトさんはもちろん地上波テレビでも度々放映されている。問題は無いだろう。
生粋の女の子にそういう撮影を強いるのは、ちょっと『のわめでぃあ』のコンプライアンス的によろしくないと思うので……であれば、そこまで羞恥心を感じづらいおれがその役を負うべきだろう。
その気になれば、おれは上半身すっぱだかでもいけるぞ。追放されるし捕まるから絶対にやらないけどな!
「……はいっ! わかめさま、玉のようにつやつやお肌に仕上がりましてございます! お疲れさまでございました!」
「アッ、アリガト……ッス。……ッヘヘ」
「わかめさま、気持ちよかったでございますか? 霧衣めは、わかめさまのお役に立てましてございますか?」
「も、ももッ、もちろん! スッゴク気持ちよかったデス! さっぱりすっきり! ありがとね、霧衣ちゃん!」
「っ!! お、おそまつさま……で、ございます。……えへへぇ」
水分を含んでぺたんと纏まった白髪から、ぽたぽたと雫をしたたらせながら……水も滴る狗耳美少女霧衣ちゃんは、とてもうれしそうにはにかんでみせた。
霧衣ちゃんに解放され、内湯の岩風呂へと戻るおれと入れ替わりで、ほんのり桜色に色づいた棗ちゃんが洗い場へと呼び寄せられる。
湯に身を委ねたおれのちょうど目の前を、棗ちゃんのおしりが横切ったときには……不覚にも、ちょっとドキッとしてしまった。あんな『すとん』『ぺたん』なのに色気があるなんて。……くやしい。
おれは自分自身の性癖と業に、ほんのちょっとだけ辟易しながらも……
生まれも育ちも髪色も所属も異なる美少女二人が仲睦まじげに触れ合うその様子に、非常に尊いものを感じていた。
けもみみ美少女の絡み……正直めっちゃこうふんしますね。
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