337.5【季節撮影】まごにも衣装 ◇
突貫工事のため各所に粗があるかと思いますが、どうか気にせずお願いします。
時系列とかも深く考えちゃダメです。局長が泣きます。どうか宜しくお願いします。やめろって。お願いします。まって。かわいそうだろ。ちょ、やめっ、……ヤメロォ!!
「…………は? …………アッ! いえ……す、すみません」
「いえいえ。……まぁ、無理もないでしょう。まだ一月ですし」
「そうなんですよねぇ……もうそろそろ一年終わりそうな錯覚もしますが、まだ一月なんですよね……」
「えぇ、不思議なことに……」
配信者向けの広告代理店ウィザーズアライアンス社の、暫定おれの担当営業マンである大田さん。彼に『その話』を頂いたのは……時期的に言えば少し前、それこそキャンフェスの打ち合わせを終えた日の午後のことだ。
つい先日、二泊三日の東京出張に際してお邪魔したときに、『自分達にできそうな案件があったら積極的に受けたいです』と宣伝しておいたお陰だろうか。
まだ提案段階とはいえ……某量販店催事イベントの案件候補者として、おれに話を回してくれたのだ。
その催事イベントとは……ハロウィーン。
元々は古代ケルト人の文化が発祥とされる、現代においては主に海外、米の国で広く親しまれているお祭りだ。
その起源を辿れば、合言葉でもある『トリックオアトリート』……ともすると『災厄か供物か』とも解釈できてしまうことから、それこそ『災いを防ぐために人身御供を捧げる生け贄の儀式』にも通じるとの見解もあるとか。
実際――その再現度はどうであれ――子どもたちが悪鬼悪霊の姿と化して市中を練り歩き人々に襲いかかる、など……ともするとやっぱ絶望的な光景なのかもしれない。
しかしながら、おなじ日本語でも使われ方が時代とともにその姿を変えていくように……現代のハロウィーンに、そんなおどろおどろしさは見られない。
このご時世、日本での『ハロウィーン』と言われれば、様々な仮装――今となっては悪鬼悪霊に限らない――に身を包み、皆で集まり騒ぎまくるというだけの……とてもにぎやかなお祭りだ。
とはいえ……そのハロウィーン。
例年行われるのは、もちろん十月の末のことだ。
……えぇ、何度でも申し上げましょう。
今は、なんと、まだ一月末なのです……!
おれたちの感覚では、シーズン的にはまだまだ遠く先のことだが……なんでも広告系の分野では、半年以上先のことについて動き出すのは、別段珍しくないことらしい。
まだ一月なのに十月のイベントの話をするという今回の件も、きっとそういった類の理由によるものなのだろう。
きっとそうだ。そうに違いない。そうに決まってる。そうと言え。
……というわけで、気を取り直してお話を聞かせていただこう。
今回おれに持ってこられたお話とは、某量販店のハロウィーンイベントのイメージキャラクター……の、候補。まぁ、存在そのものが百鬼夜行な我々『のわめでぃあ』には、ある意味もってこいなのかもしれないな。
とはいえ本格的な選考および活動は今後少しずつ進めていくようで、じゃあ何をするのかと言われれば……要するに、商材写真の撮影だという。
「……魔女っこ、ですね」
「えぇ、まぁ。……大丈夫ですか? その……羞恥心、というか」
「お仕事であれば、割りきれます。……大人なので」
「いえあの、成人の方が袖を通すには……なんというか」
「…………遺憾ながら、とても似合う気がするので……大丈夫です。傍目に見る分には……可愛らしいと思いますので」
「そ、そう……ですか」
手渡されたビニール包みの真新しい衣装、その着用イメージ写真を、心を殺した目で『じっ……』と見つめる。おれの葛藤が雰囲気として表れていたらしく、大田さんにガチで心配されてしまったのだが……まぁ、問題ないと判断する。
長い耳と緑色の髪を持つおれであれば、ぶっちゃけこのイメージ写真の女の子よりも着こなせる自信がある。
……考えてみれば、これはおれの『日本人離れした容姿』を最大限に活かせるシチュエーションではないか。おれにしかできない役回りなのではないか。
そう考えると、やる気が出てきた。
「……っというわけで、着てみました!」
「おぉー……」
(ぶっちゃけ可愛いと思うんだボクは)
(奇遇ですね、おれもです)
更衣室をお借りして『すとん』『ぶわっ』『すちゃっ』と着替えを済ませる。凹凸の少ないおれの身体であれば、ワンピース状の衣装はこのように大した引っ掛かりもなく迅速に着ることができるのだ(半ギレ)。
鍔広帽子とマント付きノンスリーブワンピース、そしていわゆるカボチャパンツと呼ばれる形状のボトム。カラフルなアクセサリーで飾り立てられるよう、衣装はダークトーンのカラーで纏められている。
カボチャパンツなので生の下着がコンニチワする危険もないし、露出度としても健全なレベルだろう。
なかなか可愛らしく着こなせてると思うのだが、それはあながち思い込みでもなかったようで……事実おれが戻ったときには、大田さんはじめスタッフの方々から感嘆の声が漏れていた。ふふん。
「それでは、何枚か撮っていきます。本番じゃないので、気楽に」
「いつでも大丈夫です!」
今日の撮影は、あくまでクライアントさんに参考として提出する用なので、ぶっちゃけそこまで深刻なものではないという。
通常の子役であればある程度揃っているであろう、その子のポートフォリオともなる資料写真……それがおれには絶望的に不足していたので、大田さんが気を利かせてくれただけ。まだ選考のスタートラインにも立てていないのだ。
だが、しかし。だからといって手を抜くつもりは無い。
この写真がおれの名刺代わりとなるのなら、なおのこと気合を入れなければならないだろう。
茶目っ気も含ませ、愛嬌よく、躍動感たっぷりに。
今この瞬間は『おませなちびっこ魔女』そのものとなったおれは……全身全霊で写真撮影へと臨んだ。
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「……ということで頂けたのが、こちらのお写真です」
『おぉ、可愛いっすね』
「でっしょーーー」
『ふむ……ほう……なるほど。ちょーっと待ってくださいよ』
魔女っこのコスプレ衣装そのものは、特に守秘義務とかあるわけでもない、いわゆる普及型の一般衣装らしい。
おまけに、おれの今回の撮影も企業案件そのものではなく、いわば履歴書に貼る写真を撮った程度のスタンスらしい。
ということはつまり、どうなるかというと……
こちらのお写真、公開に際しての縛りが、無いんですよ!
「まぁ、今はまだ季節柄でもないし、それこそ十月までお預けだろうけど」
『そっすね。今はまだ一月ですし。先輩あさってイベントですもんね』
「そうなんだよなぁ。不思議なことに」
『不思議っすねぇ』
われらが参謀にして広報担当でもあるモリアキに、撮ってもらった写真を纏めて送って自慢して……また、褒めてもらって。
また今後の進展についての相談や、あるいはとりとめのないお話に興じ……嵐の前の静けさに浸ること、なんと一時間ほど。
『……こんなもんすかね。出来ましたよ先輩』
「ホェ? 何が? う◯ち?」
『自室で脱糞するヤベェ奴みたいに言わないでくださいよ失礼な!! 工口同人描いてやっても良いんすよ!?』
「ごめんなさいゆるしてください! ……んでもホントのところ、何が?」
疑問を発するおれのPC……会議通話アプリケーションのアナウンスが、ファイルの受信リクエストを告げる。
送信主は、今まさに会話中のモリアキ。わが『のわめでぃあ』の参謀にして広報担当でもある彼だが……送られてきたファイルを開き、おれはひとつの『重大な事実』を思い出した。
おれの配信活動を助けてくれている、彼は。
まぎれもない、神絵師だったということに。
「…………速すぎひん?」
『ワンドロで鍛えましたんで』
「……いや、やべぇ。……ありがとう。めっちゃびびったけど」
『そうでしょうそうでしょう』
先ほどモリアキに渡した、おれの魔女っこコスプレ写真のうちの一枚。
ダークトーンのドレスに身を包んだおれの傍らに……わずか一時間で描きたされた、可愛らしい小柄な影。
ハロウィーン衣装のおれと合わせるように、ミイラの仮装(と呼ぶには少しセンシティブな気がする)に身を包んだ、小さく可愛らしい妖精の姿。
「ほぇー!? これボク? すごい! すごいよモリアキ氏!」
『へっへ。お褒めにあずかり光栄っすよ』
「ほうほう、ふむふむ。いやー……我が身ながら、エッチだね!」
「そうだよえっちだよ。……えっちだなぁ、モリアキは」
『いやー……まぁ、わかめちゃんがそもそもキワドイ格好でしたんで』
「…………えっ?」
わかめちゃんの。おれの。かっこうが。
…………きわどい。
「な、なんで!?」
『……先輩、落ち着いて聞いて下さいね。一通り目を通したところ『やらかし』ては居ないようでした。幸いと言っても良いでしょう。……R18も、R15も避けられました』
「なにゆってるの! おれわかんない! わかりやすくゆって!!」
いったい、彼は何をいっているんだ。今回の衣装ははだの露出も少ない、健全なものだ。小さな子だって着てるような衣装だぞ。
それを、どうして……まるでセンシティブなものであるかのように扱うのだ。
混乱しきったおれの疑問に対し、さんざん悩んだ末であろうモリアキは……ついに、その事実を告げる。
『……その衣装、多分なんすけど…………Tシャツとかの上に着るやつっす』
「…………………………は?」
『いえ、あの…………ですから……脇腹、めっちゃ開いてるでしょう』
「…………………………うん」
『つまり、それ……その衣装………………素肌に直接着るもんじゃないです』
「ッッッ!!!?!!?」
「(大爆笑)」
幸いだったのは……今回撮った写真は(クライアントへの提出分を除き)全ておれが頂けたので、直接表に出ることは無いだろうということ。
そして……モリアキのチェックによって、センシティブな先端部分が御披露目されている写真は無かったと教えてもらえたこと。
……たぶん、大田さんたちも気づいてなかったんだろう。下心とか邪念とか、そういう類の感情は……どうやら向けられていなかったみたいだし。
ならば、もう誰かを責めることはするまい。ぶっちゃけ肌着こと『すぽん』したおれが悪いのだ。ラフな格好を好みすぎた弊害か。ぐぬぬ。
「……うん、悪いけど……これ封印する。……おれ個人で堪能するわ」
『お任せしますよ。笑かして貰いましたんで』
「ぐぬぬ」
……もういい、わかめちゃん半裸事件は忘れよう。今は気を取り直して……あさってのイベントのことを考えるんだ。
与えられたおしごとを、ちゃんとこなすのはもちろんだけど……『待った』の効かないリアルイベントなのだ、絶対に『センシティブこんにちわ』するわけにはいかない。
……きちんとインナー、着とかないとな。
おれはそう心に……強く、強く決めたのだった。
雲耀昇 様(@laiden09)より、かわいい季節イベント挿絵を頂戴いたしました!
おかげでやる気が出せました!!ありがとうございます!!(ぜえはあ)




