333【国展催事】ハーフタイムナイト
――勝ったッ、第一日目……完!!
まぁ、ざっとこんなもんですよ。
鶴城さんで年末年始鍛えられたおれたちにとっては、たかだか八時間か十時間そこらの肉体労働なんて……
「ああーーーーーー!!」
「ああっ、こらノワ! まずはお着替えしないと! シワになっちゃうでしょ!」
「この服の性能ならシワにならないかなって」
「それもそうか」
「いや……今ここで着替えられても困るんすけどね……」
限界こそ迎えなかったものの、かなり良いところまで体力を削られていたおれは、自室へたどり着くなり盛大にベッドに倒れ込んだ。
一日目の撤収を終え、ひとあしお先に解放されたおれたちは……徐々に【認識阻害】の魔法を纏いながら臨海公園の多目的トイレに滑り込み、そこから【門】で即時帰宅をキメたのだ。
なおハイベース号は、今晩は会場に置きっぱなしである。仕方無いね。
そんなわけで、霧衣ちゃん以外の面々はおれの私室にて、会議というか反省会というか……まぁ、なんかそんな感じのお話し合いを始めようとしていた。
ラニちゃんのお小言を軽く流し、モリアキの呆れを含んだ声をも聞き流し……危うく睡魔に負けるところだったが、強固な精神力で見事打ち勝ち起き上がる。
ほんとうに精神力強いひとはベッドダイブしないとか、そういうのは言わない方向で。
「はいじゃあノワが早くお休みできるように、さっさと始めちゃおうね」
「うっす。じゃあ軽くなんすけど……とりあえず多治見さんから。今日一日だけでなんと成約が二名、クロージングフェーズが四名、継続フォローベース乗ったのは十六名、と……なんていうか、いわく『夢かと思うほど』の成果だったみたいっす」
「ボクが見た感じ、会場のほうも良い雰囲気だった。ブースの周りで楽しんでくれてたお客さんは……百人くらいかな? みんな楽しんでくれてたよ。さっすがノワ」
「き……恐縮でしゅ」
いかに体力回復魔法でドーピングを施したとて、おれ本人の感覚としては丸一日動き続けたことに変わりはない。
もちろん使わなかったことに比べれば圧倒的に楽なんだろうけど、多少とはいえ疲労は溜まっていってしまう。
まだまだ働けと言われれば、ぶっちゃけ働くことは可能なのだが……『疲れた』が溜まっているのは事実なのだ。
だが……しかし。
おれがこれだけ『疲れた』ぶんの成果が得られたというのなら。
しかもそれが、良い意味で『夢かと思うほど』『ありえない』ほどの大戦果だというのなら……おれも丸一日、頑張った甲斐があるというものだ。
関係ないけどなんで甲斐があるっていうんだろうね。やっぱり山梨県に関係があったりする故事成語なんだろうか。まぁ今はどうでも良いけど。でも山梨も良いな、こないだは蓋場で降りたあと通過しただけだったもんな。
嗚呼……山梨。甲州地鶏。鳥もつ煮。桔梗印の信玄餅。ワインビーフ。清泉寮のソフトクリームとミルクプリン。……そしてそして、めくるめく魅惑のワイナリー。すてき。
「…………なことが予測されるわけだけど……ノワ大丈夫? 話聞いてる?」
「は、はい! 大丈夫です! あとほうとうも食べたいです!」
「??? なに、ホウトウって。ウドンみたいなやつ?」
「先輩…………」
「わ、悪かったですって……」
二言も三言も言いたげな『じとーっ』とした二人の目が、揃いも揃っておれへと注がれ、突き刺さる。
ちゃっかり扉を開けて会議室への侵入を果たしていた棗さんもいつのまにか加わって、これで六つのおめめがバッチリこちらを向いている形となる。見ちゃらめ><。
いや、でも……まあ、今回ばかりはミーティング中に食い意地トリップしたおれが悪いので……ちゃんと反省させていただこうと思う。この通り。すま○こ。
「……まぁ、そういうわけで。ネックとしては、やっぱりノワの休憩時間なわけだよね。生配信垂れ流しって時点で、これはある程度仕方ないとは思うけど……」
「提案なんすけど……要するに、休憩時間でも視聴者さんに楽しんでもらえれば良いわけっすよね?」
「だなぁ。今日は崇覇湖サービスエリア動画あったから良かったけど……でも問題は明日だよ、おれの視聴者さんにとっては見たことあるやつばっかりだし、尺だって三十分もなくない?」
崇覇湖サービスエリアの動画は、どのみち近々公開するつもりの動画だったので、休憩時間捻出のために公開したのは良い判断だったと思う。
きりえちゃんかわいいを盛大にブチ撒けられたと思うし……それになにより崇覇湖の御神渡りのシーンは、アウトドア系動画配信者の人にも褒められていた(って聞いた)。
だが……問題は、明日だ。新作動画作戦は弾切れにより、もう使えない。鳥神さんに依頼を掛けている『きりえクローゼット』は完成間近ではあるらしいのだが、残念ながら明日には間に合いそうもない。
というわけで、既出のキャンピングカー紹介動画(きりえちゃんかわいいのやつ)でお茶を濁そうと思ったのだが……だからといって見たことある動画だったら、そりゃあ初見のお客さんは喜んでくれるかもしれないけど、既に見たことある視聴者さんはガッカリしてしまうかもしれない。
「せっかちちゃんっすよ先輩、まだオレ話してるんすから。……まぁ、手っ取り早く結論から言うとっすね……実はまだ先輩にも見せてないFA、いくつか溜め込んでるんすよ」
「「おおーー!!?」」
「それでですね、とりあえず適当な動画一本……まぁここは主に会場で初見のお客さん向けに、『のわめでぃあ』の活動記録として動画を流しまして……それが終わったらですね、もうオレの新作に『休憩中』『再開時刻:○○時』みたいな感じで文字入れて、あと適当なフリーBGM流せば……ほら!」
「な、なるほど……モリアキママの新作なら、おれの視聴者さんも喜んでくれるだろうし……三十分休憩が確約されるなら、おれもたすかるし」
「FAは三枚あるんで、ローテ組んでゆっくり切り替えてけば……まぁ、視聴者さんも飽きずに許してくれるんじゃないっすかね?」
「………………まま……」
あ、ありがてぇ!
これでおれは休憩時間を獲得しつつ、その間も視聴者さんたちを飽きさせずに済むわけだ。
それになにより……おれがまだ見たこと無い、ってところもポイント高い。めっちゃたのしみ。どきどきがわくわくだが。
ほんとたすかる……モリアキママすき……
「じゃあ休憩時間問題はそれでカバーするとして……あと多治見さんが気にしてたのが、プレスとか現地取材に対しての対応について」
「ぅえ!? おれなんかマズった!?」
「いやいや違うっす、その逆っすよ。『そこまで頑なに弊社を立てなくて大丈夫です』って言伝てを預かってます」
「……ぇえ、良いの?」
……実をいうと、ですね……実際本日も何度か、三納オートサービスさんにではなくおれに対して、色々と質問を投げ掛けられることもあったわけです。
ま、まぁ……こんな見た目ですし、一般的な『キャンペーンガール』っぽくないのも理解してはいましたけれども……しかし今回のおれは、あくまで三納オートサービスさんに雇われた身の上だ。雇用主様を蔑ろにしておれが目立つことは好ましくないからと、おれ個人へ向けた質問や取材なんかは片っ端からパスさせて頂いてたのだ。
だって……おかしいでしょ。なんでキャンピングカー情報紙の記者が、肝心のキャンピングカーを無視しておれのことばっか聞いてくんのさ。ハイベース号の性能におれの年齢は関係ありませんことよ。
「なので、そのへんも。もちろん多治見さんは先輩の意図を理解してくれてましたが……その上で『多少は自分達のことも宣伝して下さい』とのお触れを頂きました。……ですんで」
「……うーん、まぁ…………わかった。多少、ね?」
「そのへんの采配は任せる、とのことでしたが……そんなに『のわめでぃあ』を犠牲にしなくても良いよ、というお言葉ですんで、ありがたく頂きましょう」
「…………わかった。そうする」
正直に言うと、同業者さんたちとの……特にアウトドア方面に明るい方々との意見交換とか、憧れてたりするんですよ。
なのでこの……いうなれば『私的交流の解禁』は、申し訳なくも非常にありがたかったりする。
このお触れのおかげで……明日のフリータイムが、より楽しみになったな!
「……お取り込み中、失礼いたしまする。みなさま、夕餉の支度が整いましてございまする」
「ありがと霧衣ちゃん! 今いく! ……ほか連絡事項ある?」
「いえ、以上っす。大丈夫っすよ」
「ヨッシャごはん行こうごはん! ゆでたまごのにおいする!」
待ちに待った、霧衣ちゃんお手製の晩御飯。それはずばりラニちゃん大好きなゆでたまご……ではなく、みんなだいすきカレーライスである。
ゆでたまごはつけあわせだね。スライスして乗せるとおいしいんだ。
まぁ……例によって『たくさんの肉じゃがに香辛味噌を溶いた煮込み料理』という、霧衣ちゃんフィルターで和風解釈されたカレーライスらしいけど……あの子の料理センスには全幅の信頼が措けるので、不安は無い。
実際にカレーライスを食べたことがある天繰さんがお手伝いと味見を買って出てくれたので、なおのことだ。なおカレーは甘口とする。
おいしいごはんをたべて、お風呂に入って、ゆっくり休んで……東京でお仕事中とはとても思えないのんびり具合だが、決して悪くない。ラニちゃん様様だな。
コンディションしっかり整えて……二日めの明日も、最後まで気を抜かずに頑張ろう。
えいおー!




