325【復路騒動】さつえいします
「ヘィリィ! 親愛なる人間種視聴者諸君! 魔法情報局『のわめでぃあ』たび部、部長の木乃若芽だよ!」
「こんにちは。しちょうしゃ、の、みなさん。新人れぽーたーの、霧衣でございます」
「わたしたちはですね、ほんじつは中日本基幹高速の『崇覇湖』サービスエリアへとやって参りました!」
「まぁ他の企画でのね、用事の帰り道なんだけどね。せっかくだからサービスエリア満喫してこうって魂胆なんだよね?」
「そうだぞぉー。元はといえばラニやんのせいで道間違えたからだからなぁー」
「えへへ…………」
イメージとしては……成人男性四人組が仲良く(?)旅する、某人気番組な感じでどうでしょう。演者が二人でカメラに映れない組が二人だから、パーティー編成としては丁度良いのではないだろうか。
というわけで、白谷さんと烏森さんの支援のもと、おれたち二人は崇覇湖サービスエリアでの撮影を敢行する。
ちなみに撮影許可のほうはあっさりと頂けました。ありがとうございます、一般のお客様の迷惑にはならないようにします。
とはいえ残念なことに……お食事に関しては、ほんの一、二時間ほど前に恵比奈サービスエリアで済ませてしまったばかりだ。レストランの名物グルメをいっぱい堪能するというのは、残念ながらちょっと難しい。
せいぜいが二人で一食、あとはテイクアウトの品を車の中でD陣と一緒にちょこっと摘まみ、のこりはラニやんに保管してもらう作戦ならば、現在のお腹すき具合でも何とかなるだろうか。……そうしようか。
「というわけで! こちらがその名物の『さくら丼』です! おいしそうでしょう!」
「お、おっ、おっ、おにっ、おにくっ、おにぅっ、ぅにぅぅぅ……っ! わ、わかめさま! おにく! おにくでございまする!」
「ヴッ可愛ッ……霧衣ちゃんどうどう、おちついて。おにくは逃げないよ」
「はぅ……っ、わうぅぅっ!」
(良い画が撮れたよノワ、これはやばい)
(マジかよラニやんGJ)
信州名物のひとつ、『さくら丼』。
新鮮な赤身馬刺をごはんの上にたっぷりと乗せ、県内産のわさびと生姜醤油ベースのタレで頂く、ワイルドかつボリューミーなひと品だ。
馬肉は肉厚で食べ応えがあり、馬肉ならではの食感と旨味と風味が噛めば噛むほどにじみ出てくる。臭みや嫌なエグみもないので、見た目の肉の量に反して、意外なほどサラッと食べてしまえる。馬肉のお刺身すごい。
おにくだいすきガールは目の色を変えて、かつ極めてお上品に、それでいて非常に幸せそうに……新鮮馬肉を堪能していたようだった。
ごちそうさまでした(二つの意味で)。
その後は当初の作戦に従い、テイクアウト可能な名物料理を幾つか購入。
おみやげメニューひとつとっても、伝統を引き継ぎながら流行りのテイストを取り込んでいたりもして、なかなか見ていて楽しい。
クリームチーズおやきとか、山賊焼バーガーとか……あとは鯖ドッグなんていうのも美味しそうなので買ってみた。どのお店も快く撮影に協力してくれ、みんな霧衣ちゃん(おにく摂取によるニッコニコモード)にメッロメロでデッレデレの様子だった。
わかる、これはやばいぞ。全方位にKAWAIIをぶち撒ける危険なやつだ。よっしゃ勝手に写真撮るのも今回は許しちゃう。みんな道連れにしてやるからな。◯ぬがよい。
その後もサービスエリア内をふらふらと散策し……おみやげコーナーのオリジナルロボットシリーズのプラモデルやご当地キャラクターの大型フィギュア(かわいい)に大興奮したり、ワンコインミニサイズのフィギュアシリーズ(かわいい)に悶絶したりしながら売店エリアを見て回ったり、今回は尺の都合で堪能できなかったけど温泉施設(の入口)を見に行ったりと、動画として使えそうな映像を色々撮り貯めていたところへ。
なにやら騒々しい人々のざわめきが、おれの敏感なお耳へと届いてきた。
(し、しかし! ……って、そんな! ホント…………か!? なんで今いきなり!?)
(解んないけど! でも…………って……なら、早くお客さんに知らせないと!)
(ですね。とりあえず館内放送…………、聞いてみます)
(わかった、そっちは頼む! 俺は……の様子見て来る)
「……んん? 何かあったんでしょうかね? なにか慌ただしいような」
「わうぅ…………崇覇湖? の方角を気にしているようでございまする」
「展望デッキありましたよね。見に行ってみましょうか」
「はいっ。お供致します!」
サービスエリアの建物から外に出て、広々とした展望デッキへと場を移す。湖がわ、安全のために張り巡らされた金網フェンスには、どこかの何者かの願掛けらしい南京錠が数多く掛けられている。
……これ、撤去の手間と費用が問題になってるって聞いたことある気がする。縁結びだかなんだか知らないけど、そういうのよくないとおもうぞ。はぜろリア充。
まあ、そのへんは置いておこう。
とりあえずこの眺望デッキ……その名に恥じない見事な眺めで、崇覇湖とその周囲の市街地がよく見える。
この崇覇湖サービスエリアは山の斜面の高台に作られているため、遮るもののない大パノラマが堪能できるらしいのだ。
そんな広大な展望デッキ……いちばん眺めが良さそうな、一段高くなっているあたりに。
このサービスエリアのスタッフと思しき中年男性のすぐ隣近くに、安全フェンスのてっぺんに腰掛けているふてぶてしい帯刀美少年の姿。
……どうやら【穏形】のたぐいの呪いを行使しているようで、すぐそこの職員さんには気付かれていないらしい。
『よぉ! 間に合うたか! 呵ッ々、此方へ来い。……始まるぞ』
「?? 間に、合った? ……始まる?」
「えっ? ……あっ、お嬢さん良いところに! 良いところに来ました! あの湖、崇覇湖があるでしょう! あれがですね!」
『……何だこの小僧。手首でも落として呉れようか? 吾の話相手を掠め取ろうとは生意気な』
「ォワー待って! 落ち着いて! 鎮まり下さいお願いですから!」
「……えっ? ど、どうしました? お嬢さん」
「気にしないで下さい! なんでもないですので!!」
『呵々! 騒々しい奴よな!』
「…………ッ!!」
幽霊でも見るような目でおれを見つめてくる職員さんに軽く会釈を返し、フツノさまの隣へと進んでいく。
おれへの理不尽な物言いに反論してやりたくもなるけど、残念ながら一般の方の手前言い返してやることもできない。ぐぬぬ。
「先……わかめちゃん? どうしたんすか、何かあったんすか?」
「え!? …………えー、っと…………その、『呼ばれた』っていうか……」
「?? …………あぁー、なんとなく解りました。『呼ばれた』んすね。またですか。……楽しそうにしてます?」
「そりゃあもう。めっちゃ楽しそうですよ」
『何を訳分からん事を云うて居る小娘めが。……ホレ、今に始まるぞ。小僧、とっとと其の機構細工を構えぬか』
「あっ、どうやら始まるみたいです。モリしーカメラ回して下さい。あっち……湖だそうです」
「始まる? ……あいえ、カメラは回ってるんすけどね」
一般の方にしてみれば、まるで要領を得ないであろう、おれ(とフツノさま)とモリアキとの会話……事実そこの職員さんは、まるで死んだはずの人間を見たかのような名状しがたい壮絶な表情になってしまっている。正直、非常にいたたまれない。
いったい何が始まるのか解らないが、できることなら場を移したい。だが上機嫌なフツノさまに見咎められては踵を返すことも難しいだろう。この居心地悪い空気に慣れるしかない。
まぁ、だが……幸いにして。
その微妙な空気は、そう長くは続かなかったわけだけども。
――――ゴギャンッ!!
「「「「『!!?』」」」」
突如として響き渡った轟音に、おれたち一同(と職員さん)は思わず身をすくませる。
ディレクターを気取っていたラニちゃんもおれの肩に緊急着地して、しきりに周囲を警戒しているようだ。
――――ゴゴ、ゴギュゴゴ……
――――グ、グ、グキュグゴゴキュ……
――――パシンッ、ビシ……パギャンッ
「こ、れっ、て…………まさか」
「わかめ、さま……みずうみが……」
おれたちの背後、サービスエリアの館内放送が、来場者たちへと緊急の連絡を告げる。
それに導かれるように、多くの人々が展望デッキへと飛びだし……目の前で起こっている変化に、息を呑む。
全面が凍っていた巨大な湖は、その表面を覆う氷に巨大な亀裂が走り。
互いに隣接し合った氷の特大プレートは、それぞれが激突し擦れ合うごとに、重々しく迫力のある独特な音を響かせ。
割れ砕けた巨大な氷塊が、長大な亀裂に沿うように……まるで道か山脈かのように長く長く連なる、極めて稀少な自然現象。
『御神渡り……と、呼ぶらしいな? ヒトの子等は』
「………………すっ、ごい……」
「みずうみが……割れ…………」
まさか、と思い……フェンスのてっぺんに腰掛けたままの、一般の人にはそのお姿が見えていない神様へと視線を向けると。
自信満々な笑みを崩そうともしない、フツノさまの鋭い視線に……正面からぶつかり合う。
『吾を愉しませた、その褒美だ。八朔めは吾の系譜故な、吾の命には逆らえぬ。適材適所と云う奴よ』
笑い声が騒々しくて、横暴で、横柄で、狂暴で、ただちょっと幼馴染には弱くって……そして意外なところで面倒見が良く、義理堅い。
そんな神様からの……全く思ってもみなかった『恩返し』に。
「……職権濫用、だと思うけどなぁ」
『呵ッ々ッ々! 云うでは無いか!』
おれはそのことをとても嬉しく、この神様とのご縁を心強く思う反面……
いきなり無理難題を吹っ掛けられたのであろう、まだ見ぬ『ヤサカさま』の心労を……心の底から案じたのだった。
※かみさまとかは割と架空の設定が多分に含まれています




