324【復路騒動】しゅっぱつします
とつぜんですが、地理のお勉強です。
日本の首都である東京……ここはひと昔前は『江戸』と呼ばれていまして、日本各地からその『江戸』へ向かうための街道というものが、色々と整備されているわけです。
この江戸からおれたちの住む浪越市方面に向かう『東海道』のほかに、東北方向は兎津宮を経由して日興東照宮へと向かう『日興街道』、その途中の兎津宮から分岐して臼川へと向かう『奥州街道』……また江戸から鷹崎や軽伊沢を経由して滋賀県へと抜ける『中山道』と、そのショートカットルートとして下崇覇まで繋がる『甲州街道』とがございましてですね。
これらがいわゆる『五街道』というやつで、このうち『東海道』と『中山道』は草都で合流し、ゴール地点は同じ御条大橋と……まぁつまり、目的地は同じでも辿る道が大きく二パターンあるわけです。
それでですね、現代の高速道路というのはですね、往々にしてその街道とほぼ同じルートを辿っていてですね。
つまりおれが走っていたはずの『東越基幹高速』はですね、『東海道』を爆走するルートなわけですね。
……そのはず、なんですよね。
「なんで!!! ねえ!! なんで!!!」
『呵ッ々ッ々ッ々!!』
おれの記憶が正しければ……東越基幹高速道路に『蓋場』なんていうサービスエリアは無いはずであって。
そしてそして……その蓋場サービスエリアが存在するのは、中山道を通る中央基幹高速道路のはずであって。
「モリアキおまえ!! ルートおもいっきり外れとるやんけ!! おまえ恵比奈から八央地行きやがったなおまえ!! なんで!? どう見ても中央幹方面じゃねえか!! 誰に唆された!? 言え!! 正直に言え!!」
「いやあのちがうんす! 違うんすよ先輩!」
『呵ッ々ッ々ッ々!!』
おれが記憶しているのは……確か恵比奈サービスエリアでテイクアウトごはんを買い込んで、車内でわいのわいの昼食を摂ったところだ。ここまでは覚えている。
だが……問題なのはその直後。妙に休憩を勧めてくるラニちゃんとフツノさまに押される形でおれが客席へと移動し、モリアキが代わりに運転手を務めることとなり。
そして……なぜかその直後、心地よくも猛烈な眠気に誘われたことまでは……覚えている。
……いや、まぁ……考えるまでもない。
こんなことを企み、そして周囲に強いるような存在なんて……一柱しか思い浮かばない。
『呵ッ々ッ々!! 急ぐ旅でも在るまい? 寄り道もまた佳いものぞ』
「いや、あの……で、ですが! おれたちだけならまだしも! お客さん……ミルさんにも都合ってもんがあるんですよ!?」
「あっ、ぼくは楽しそうなんでオッケーです」
「そんなぁ!!?」
「それに最悪、ボクが【門】で送るから。ミルちゃんちまで一瞬だよ」
「きさまらァ!!」
『――――姦しい一団よな』
「わああん棗さんんんんん!!」
ちくしょう、なんてこった。フツノさまの暴走を止められる者は居なかったのか。居なかったな。
……まぁ、実行犯の一人にはまた今度入念におしおきしてあげるとして。
しかしよくよく考えてみれば――ラニちゃんをこき使うことにはなるけども――いつでもどこからでも、おれたちは自宅に一瞬で帰宅することが可能なのだ。
そしてこの中央道ルート、なんと明日打ち合わせでお邪魔する予定である三納オートサービスさんの近くを通っていたりする。
ミルさんとかフツノさま(の分体が宿ってる刀)はラニに責任もって送って貰うとして……つまり、これは実質ショートカットルートということになるのだ。所要時間は伸びてるけどショートカットなのだ。ちくしょうやっぱり赤石山脈の存在はデカかった。
「……もう…………じゃあ、このまま崇覇湖のほうまで行って、丘屋ジャンクションから帰る方向で……それでいいんだね? 本当に満足なんだね?」
『有無。流石に此以上の我儘は云うまいて。呵々、いや何……写身とはいえ鶴城の宮から出たは久方振りであった故、な。少々吾欲が勝った。赦せ』
「ウグ、ッ……今回だけにしてくださいね! おれだって鬼じゃないんですから、相談してくれればちゃんと応じましたって」
「オレは悪くないんす。不可抗力なんす」
「ボクもボクも! 不可抗力なので」
「きさまらは許さんからな覚えておけ」
「「ゥエエエエ!?」」
ラニちゃんには、帰ったら新作『でんぷんのりの刑』を試すとして……モリアキには新しい動画のサムネでも描いてもらおうか。相場の七掛くらいに勉強して貰って。
ふふ、恨むならおのれの軽率な行動を恨むがいい。おこだよおれは。ぷんぷん丸だよ。
……というわけで。
まぁせっかく中央基幹高速道路を通るのだから、こっちがわの観光名所もいくつか回っておきたいよね。
こっち方面には霊験あらたかな大きな湖があり、しかもそれは高速道路のサービスエリアからでも眺められるとあっては、立ち寄らない手は無いだろう。持っててよかった小型カメラ。
眠らされている間にルート変更され、いつのまにか到着してしまっていた蓋場サービスエリアを出発して……およそ一時間ほど。
到着したのは、中央基幹高速道路の崇覇湖サービスエリア。北陸方面と東海方面に分岐する丘屋ジャンクション直前の大規模サービスエリアとして、観光やビジネスや物流ドライバーさんなど多くの人々で賑わっている。
しかしながら……一月末の信州は、流石によく冷える。このサービスエリアの名前の由来ともなっている巨大な湖『崇覇湖』も、カッチコチに凍ってしまっている。
例によって『こんなこともあろうかと』仕様のわれらがハイベースは、冬仕様のスタッドレスタイヤを装着済だ。念のためのチェーンもラゲッジには収まっているので、冬の高速道路も怖くない。
一方のおれたちは……おれとミルさんは、温度調整の魔法を使ってなんとかなっている。霧衣ちゃんも昨日くろさん(の魂)がコーディネートしてくれた、暖かそうなコクーンコートが役に立っているようだ。
モリアキは……少し心許ないだろうけど、がんばって。保温魔法かけてあげるから。
「おれも冬の崇覇湖は初めてだな! せっかく来たんだし、サービスエリアレビュー動画とか良いかもしれんな。レストランでオススメフード食って、オススメおみやげ買って」
「あっ、じゃあぼく映らないほうがいいですかね。せっかくなので、ぼくもゆっくり回ってきて良いですか? スタマの長野限定マグ見てみたくって」
「そういうことなら……自由行動にしますか。集合時間決めて、車に戻ってくる感じで」
『相分かった。其れならば尚のこと都合が良い』
「う、うん……?」
『呵々。……気にするな、もう迷惑は掛けぬよ』
「そ、そう……ですか?」
まあ、せっかくの寄り道だ。このままマイナスで終わらせるのも勿体無い。動画一本分でも撮れるなら完全にプラスだろう。
そう思うことにして、おれたち『のわめでぃあ』組はミルさんおよびフツノさまとは別行動……サービスエリアレビュー動画の撮影へと踏み切ることにした。
ころんでもただでは起きない!




