323【復路騒動】よろしくおねがいします
ねこです
よろしくおね
がいします
ともかく、これで『にじキャラ』さんとのお約束である【変身】魔法の実用化に目処が立った(らしい)。
その【変身】を使って、おれたちが何をしようとしていたのか――仮想配信者という概念の話から、それを現実世界へ持ち込もうとするおれたちの企み――を聞き、モタマさまは大変嬉しそうな歓声を上げてくれた。
この神様……可愛らし過ぎやしませんか。
……と、いろんなことがありました『囘珠宮』でございますが……片付けるべき課題はすべて片付け終えたので、そろそろおいとまの時間が近づいて参りました。
おれたちを助けてくれることになった、錆猫神使の棗さんを伴い……おれたちは名残惜しくも、第零会議室を後にする。
「また東京に来たら、いつでも遊びにおいでね! 第零会議室なら金鶏ちゃんに言えばすぐ開けてくれるからね!」
「あの、素朴な疑問なんですけど……本殿とか、そっちのほうじゃないんです……か?」
「うふふふ。だってほら、私たちが間借りしてるがわなわけだし」
「「「ええ!!?」」」
「聞いたことなぁい? 囘珠は過去の天皇陛下をお祀りした社だ、って。だから主神が盟和ちゃんで、実は私たちが相殿なのよね。私たちが主神を務めるお社は、また別にあるのよ」
「ほへぇー…………」
驚愕の新事実を思わぬ形で知ることとなったが……たぶん知ってる人にとっては既知の事実だったんだろうな。フツノさま(分身)も澄まし顔だし。
そんなこんなでキンケイさんたちとも別れ、神使たちに盛大に見送られながら……おれたちと棗さんは『囘珠宮』を後にした。
ちなみに……例の【蓄魔筒】充填設備は、第零会議室近くの倉庫に置かせて貰っている。
ついでとばかりにラニの【座標指針】もセットさせてもらったので、これで【繋門】を繋げば迅速に充填具合を確認することができるようになったわけだ。
しかも副次効果として、『にじキャラ』さんの事務所まで徒歩圏内という好立地なアクセスポイントを得ることができた。とてもべんり。モタマさまありがとう。
『――――クルマ、とは……斯様に心踊る装いであっただろうか?』
『どれどれ……ほぉ、此は確かに。……良いな、寝床と茶ノ間が備わった車か』
「フツノさまなんで居んの!?」
『当然、去って居らんからな』
合歓木公園駐車場で駐車料金を支払って、われらが移動拠点ハイベースを発進させようと乗り込んだおれたちだったが……棗さんは良いとして、妙にご機嫌な帯刀美少年までもが乗り込んできたもんだから、そりゃもうびっくりよ。
往路はラニの【蔵】の中にて、神剣(模造体)の状態で眠りについていたフツノさまだったが……ラニに振り回されモタマさまとの交渉のために目覚めてからそのまま、交渉そのものが終わっても姿を消すことなく顕現し続けていたのだった。
そして……その流れで、こうして車に乗り込み、興味津々で車内各所を眺めているということは。
……誠に、誠に光栄なことではあるのだが……復路はこの賑やかな神様と共に過ごすしかないのだろう。
「おれはもう諦めたからね。じゃあ出発しまーす揺れにお気をつけくださーい」
『有無。良い心掛けだ』
運転手はわたくし木乃若芽、終点浪越市までご案内いたします。
からからと良い笑顔を浮かべる獰猛系帯刀美少年フツノさまは、眺望良好な助手席に収まってシートベルトをばっちり締めてくれている。同乗者のシートベルト非装着は運転手の罰則になるので、そこんところ従ってくれるのは素直にありがたい。
『――――お。……ぉ、おぉ……動いているのか、この小部屋が』
「なつめ様、なつめ様。こちらの窓より外の風景がご覧いただけまする。疲れましたら、霧衣めのお膝をお使い下さいませ」
『――――うむ。礼を言おう、白狗里の娘よ』
「光栄にございまする」
「……かわいい……えへへぇ」
セカンドシートでは、窓際に霧衣ちゃんと通路側にミルさんが収まる。安定の白ロリコンビは見た目的にも性格的にもとても癒されるので、二人には是非とも仲良しでいてほしい。
加えて……新たなる癒し効果が期待される棗さんも、現在はダイネットテーブルの上に香箱座りの体勢で、流れ行く外の景色をじーっと眺めている。
……神使ならある程度は大丈夫だと思うけど、本来走行中の車内でねこちゃんを放すのは良くないハズだ。
視聴者の皆さんは真似しないで、是非ともペット用おでかけケージを使ってあげてください。
おれも細心の注意を払って安全運転します。
「これはこれで新鮮っすね。電車みたいですし。……あーでも外の景色見るにはこっちのが楽っすね」
「ふふふ。男どうし仲良くしようぜ、モリアキ氏」
「男どうし、ってのはさすがに無理があると思うっすよ……あとちゃんと座ってください白谷さん。ヒラヒラでチラチラっす」
「おーいモリアキ、度が過ぎるようならシンクに投げ込んで蓋しちゃって良いからね!」
「了解っす」「そんなぁー」
最後尾、横向きのベンチシートにはモリアキが腰掛け、ひと仕事終えて元気いっぱいにはしゃぎ回るラニちゃんがその周囲を飛び回る。
走行中の車内での飛行は疲れる、とか自分で言っていたにもかかわらず……よっぽどの解放感なのだろうな。本当にお疲れさまだ。
セイセツさんと共同での研究と、魔法や機器の試作や開発。もともと研究や考察が好きだとは言っていたけど、まさかここまでやってのけるとは……正直、予想以上だった。
これはラニちゃんにも……ご褒美を買ってあげるべきだろうな。
「ねぇーラニー」
「ん、なぁにノワー」
「帰ったらご褒美買ってあげるね。何がほしい?」
「今なんでもって言ったよね!?」
「言ってねぇよおいこら何させる気だ不健全エッチ妖精め!!」
「ノワのおしりを枕にしたい!!」
「や、やめなさい! 清純派美少女も乗ってるんですよ!!」
あまりにもひどいやり取りに、危うく道を間違えるところだったけど……なんとかナビ通りの交差点で曲がり、首都高速に乗ることに成功した。
ここまで来れば、あとは簡単。緑色の看板に従って適切に車線変更を繰り返し、東越基幹高速へと合流……『浪越』の表示めがけて突き進めば良いだけだ。
現在時刻は……お昼どきのすこし前、といったところか。道中サービスエリアで休憩を挟みながらでも、陽が暮れるか暮れないかくらいの時間には浪越市に帰れるだろう。
そう、思っていた。
そのはずだった。
『呵ァッ々ッ々ッ々!!』
「どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!」
「違うんす! 仕方が無かったんすよ!」




