322【追加項目】『宿題』だって怖くない
本日二回目です。
よろしくおねがいします。
ラニが率先して開発に臨んでくれている、おれたちや『にじキャラ』さんたちの今後の『要』ともいえる【変身】魔法……それを行使するためには、どうしたって外部からの魔力供給を必要とする形となってしまう。
そもそも、おれやミルさんのように『魔法を扱う』ための構造でもなく、元々身体の中に魔力を秘めているわけでもない、ごく普通の一般日本人――仮想配信者の方々の『魂』――にとっては……自力で魔法発動に至るまでの魔力を捻出するのは、至難の技だろう。
彼ら彼女ら『魂』本人が【変身】魔法を行使するためには、まずもって魔力を工面する手段を構築しなければならない。
「ボクは考えたわけだよ。ミルちゃんはナミコシに住んでるけど、他のユアキャスの子らはこのトーキョに住んでるわけでしょ? フツノ様に話聞いてみたんだけど、トーキョには超強力で超優しい神様がいるって言うじゃない?」
「あらあら! それってもしかして、私のことかしら? 布都ちゃんが私のこと褒めてくれてたの? そうなのね布都ちゃん!」
『…………ふん』
「それでね、まぁ勝手ながら……神様のもつ魔力を、固形化して持ち出し拝借できないかな、って考えたんだ。もちろんとっても失礼なこと言ってるってのは理解してるけど、だからこそ最後まで聞いてほしい」
「金鶏ちゃん、落ち着きなさい。早合点は『めっ』よ!」
「…………承知、致しました」
一瞬剣呑さと威圧感の増した、この『囘珠』の神域奉行であるキンケイさん。俺は思わず、神域に生える樹を伐ろうとしてマガラさんに連行されたときのことを思い出し……思えば遠くへ来たもんだなぁと、とても感慨深い気持ちになってしまった。
距離的にも……そして、立場的にも。まさか『神様』と面と向かってお話できるようになろうなんて思うまいよ。
「まず……神様のチカラの源が、他ならぬ『この国のひとたちの信仰』あるいは『感謝と尊敬の念』である、ということについて。神様のチカラを高めるためには、それらを集めれば良い。……つまり『人々の感謝や尊敬が集められる』のなら、それは神様にとっても望ましいこと。……の、はずだよね? フツノ様?」
『まァな。斯く云う吾も……まァ利害の一致が在ったとは云え、此奴等の『動画』には世話に成ってな』
「あっ、『鶴城さんシリーズ』ですね。その節はお世話になりました」
『有無。誠大義であった。年始めのあれ以降、あからさまに若年層と……異国からの参拝客が増えたとな、蓬乾が珍しく騒いで居ったわ』
「あらあらあらすごいじゃない。じゃあその……私たちも『お世話』になれば、若い子達からの信仰も増えるのかしら?」
「そう! そこでボクからの……いや、我々『のわめでぃあ』からの、『楽して儲ける』ご提案です!」
「あら」『呵々』
まず我々『のわめでぃあ』がわの要求としては、この『囘珠神域』に満ちる空間魔力を少しだけ拝借させていただくこと。
これは早い話が【変身】魔法のためのリソースとしてであって、形式としてはラニが完成させていた【蓄魔筒】に充填して持ち出しさせてもらう形となる……らしい。
その【蓄魔筒】に込められたモタマさまの神力を拝借して、仮想配信者の魂たちに【変身】魔法を行使して貰うというわけだ。
ちなみに……肝心の【蓄魔筒】への充填プロセスは、なんだか専用の設備も併せて試作していたらしい。この装置に【蓄魔筒】をセットしてしばらく放置するだけで、ノータッチで神力をチャージしてくれるスグレモノ。
なんでもラニちゃん、ひそかにセイセツさんから『この世界』の理化学知識の講釈を受けていたらしく……浸透圧やらイオン濃度やらを基に独自のアレンジを加え、大気中の神力を自動で集める機構を編み出したのだとか。ラニちゃんすごすぎない?
そしてモタマさま……というよりかは金鶏さんとしては気になるところだろう、結局のところ『囘珠宮』にとってはどんな恩恵があるのか、という一点。
最大の争点であろうそれに関しても……自信満々な自慢顔(かわいい)を浮かべたラニちゃんは、既に効果覿面なセールストークを固めていたようだった。
「要するに……モタマ様、ひいてはマワタマさんのことを、人々……特に若い子や異国の子たちが、いっぱいいっぱい感謝するようになれば良いわけでしょ?」
「そうねぇ……そうなれば、私たちも嬉しいのだけど……」
「……そんな大々的にプロモーションを打つための予算など、我らには与えられておりません。それどころか、隙あらば予算を削られ倹約を強いられる現状です。……『裏』の部署は、特に成果が目立ちませんから」
「うんうん。大丈夫、めっちゃ効果覿面な一言があるから。マワタマさんには『この一言』を表向きに公表して貰うだけで、全世界から感謝の気持ちがガッポガッポだから!」
「そ、それは……気になるけど…………いったい、私に何を言わせるつもりかしら?」
囘珠神域に充填装置を設置させてもらい【蓄魔筒】への環境神力チャージに協力をいただく見返りとして、おれたちが『囘珠宮』へとお返しできるお礼――若者を中心とした、全世界規模での感謝と信仰の収集――それを可能とするための『魔法の一言』。
金鶏さんたち神使の皆さんも思わず前のめりになってしまう、気になるその一言とは。
「ボクらは『にじキャラ』さんに、囘珠宮に多大なる援助を戴いたことを報告するつもりなんだけど……その裏付けのための声明を『にじキャラ』さん宛に出してほしい。いち企業に肩入れするのは不本意かもしれないけど、残念だけどボクらもここ以外にコネは無いんだ」
「……つまり、『にじキャラ』さんが開発した新世代演出案は、囘珠宮のおかげで完成にこぎ着けた、ってことに?」
「あぁーそういう。……そうなれば、消費者である視聴者……それこそ若年層を中心とするユースクユーザーは、確かに囘珠さんに滅茶苦茶感謝するでしょうね。『推し』がリアルに出現するんすから」
「なんなら、『にじキャラ』に広告動画でも打たせれば良いと思いますよ。アーカイブ見るときに囘珠さんのCM流れる、みたいな」
そう、つまり結局のところは『鶴城さん』のときと同じ……おれたち配信者の特色を最大限活かした、大規模プロモーション活動だ。
囘珠さん側には目立ったデメリットも無く、実質無料で大幅な『信仰』を集められる。おまけにフツノさまからの援護射撃も加わるとあれば……さすがに気になってきたようだ。モタマさまもかなり目を輝かせてくれている。
「うーん……その、環境神力、っていうのも……そんなにたくさんじゃないのよ、ね?」
「そうだね。適切な喩えがわかんないけど……神使の子が【変化】のマジナイを六回分使うくらい」
「……その、【蓄魔筒】? 一個を満タンにするのに……?」
「いや、一昼夜で。充填装置一基あたりの最大装填数である十二本を、全部チャージさせたときの消費」
「あらぁ……ずいぶんと安いのねぇ」
「装置を増やせば、当然もっと嵩むけど……とりあえずテストってことで」
「……わかったわ。やってみましょうか」
「やったァ!!」
こうして……心強いスポンサーを得たおれたち『のわめでぃあ』は。
仮想配信者業界に革命をもたらす、一世一代の大勝負……そのすべての前提条件を、無事クリアすることに成功したのだった。
「……ところで……ラニちゃん、でいいのよね?」
「合ってるよぉモタマ様! 覚えてくれて光栄だよ!」
「うふふ。……それでね、聞きたいんだけど……その【蓄魔筒】って、何に使うつもりなの?」
「あー、そのあたりは……専門家のノワから」
「ぅえ!? おれ!? ま、まぁ……いいけど」
神様相手にスマホで動画見せたことある現代人なんて……おれだけだって断言できるね。
神様に名前覚えてもらった系配信者って書いたらバズるかな。不誠実だからさすがにやらないけどね。




