315【事後始末】これから忙しくなるね
『コントラクト・スプラウト』前回までの三つのできごと!!
ひとつ、美少女に釣られて人けの無い場所へ誘い出された、おれことわかめちゃん!
ふたつ、突如吹っ掛けられた『試験』は……なんと妙にリアルな白昼間だった!
みっつ、目を醒ましたおれが急ぎ部屋へ引き返すと……相棒がおれのぱんつを漁っていた!
「痛ぅっ! ちょっ、ノワ……いたい」
「!!! ご、ごめん! ごめんラニ……大丈夫?」
「……ボクは、大丈夫だよ。肌も傷ついてないし、膜だって無事。…………キミの方こそ、大丈夫なの?」
「…………はは……」
いやぁ……やっぱり隠し通せるわけがないか。
本人は『なにわろてんねん』とおキレになられているけども、この鋭敏きわまりない感性には笑うしかない。
痛みにしかめた顔から、可愛らしく寄せた眉根はそのままに……あからさまに『心配』の表情を浮かべておれを見つめる、素っ裸の可愛らしい相棒。
おれが憧れ、尊敬する本物の『勇者』には……隠し事をするのは、難しいみたいだ。
「……隠せるとか、思わないでね? 一割とか二割なんかじゃなく、八割そこらも目減りしてれば……さすがに『何かあった』って気づくよ」
「……いや……ごめん。隠そうとしてたわけじゃなくて……なんていうか、おれ自身よくわかんないっていうか……未だにいまいち信じられないっていうか……」
そう前置きを置いてから……おれは観念したように、少しずつ思い起こしながら説明を試みる。
【睡眠欲】の使徒を自称する少女との遭遇と……可愛らしくも底知れない彼女が企てた、『性能試験』とやらについてを。
「…………うん。……ボクに相談が無かったのも、その『シズちゃん』に釘を刺されたからだ、ってことで納得してあげる。……色々と言いたいことはあるけど」
「……ッス。ありがとうございまッス」
どっぷりと夜も更け、お部屋の広々バスルームでお風呂を堪能している、おれたち二人。
お仕置きも兼ねて、その小さな身体を隅々まで『はぶらし』していたおれは……ついさっきの摩訶不思議な出来事について、頼りになる(けど割とえっちな)相棒の意見を求めていた。
有無を言わさぬ口調で命じられた、謎だらけの『試験』と……おれにそれを指示した、これまた謎だらけの少女について。
「それにしても……なるほど、『【睡眠欲】の使徒』を自称する長女、と。……そうきたかぁ」
「妹たち、って言ってたし……やっぱ、すてらちゃん達も……」
「そうだね。……【食欲】のつくしちゃんと、【愛欲】のすてらちゃん。ノワやミルちゃんと同様、それぞれの『欲求』や『渇望』を叶えるために……あの『苗』の力で生まれ変わった子、ってことか」
「…………三大欲求じゃん。……強いわけだよ」
「ほんとそれ」
おれたちが――というよりかは、全身鎧に身を包んだラニが――かつて相対した、『佐久馬星』ちゃんと『水田辺つくし』ちゃんの、なかよし少女二人組。
あのとき彼女達の撤退を支援したという、ラニがその存在を推測していた『転移系の異能力者』こそが、今回おれが相対した『宇多方鎮』ちゃん……あの二人のお姉さん、ということなのだろう。
魔王直々の手勢、三人の使徒たちが……満を持して動き始めたということなのだろうか。
あの『試験』で用いられた魔物たちが、今回の結果を踏まえて改良され……また近いうちにおれたちの前に立ちはだかるということなのか。
「『獣』と『鳥』と…………『龍』、ね」
「うん……今までの『葉』は無抵抗な『ただの的』だったけど……あいつらは……」
「好戦性を賦与されたか。……厄介だね」
「……天繰さんにも相談したいなぁ」
「バッチリ稽古つけてもらうといいよ。あの子は見た感じ……まじで強い」
「まじで」
とりあえず、今回の襲撃で改めて実感した懸念要素として……やはりおれ単独での通常戦闘能力は、攻撃魔法での面制圧一辺倒になりがちだということ。
それで撃ち漏らさずに倒しきれるなら言うこと無しなのだが……今回のように『敵の周囲に被害が及ぶことは許されない』『絶対に的を外せない』状況に追い込まれた場合、やはり近接攻撃で仕留めるしかなくなってしまう。
……まぁ、今回のところは結局『夢オチ』だったため、万が一誤射してしまっても実被害は無いようだったが……今後あのクソ耐久の『龍』が街中に現れでもしたら、駆除し終えるまでにどれほどの被害が生じることか。
今回は一種の『禁じ手』である『勇者』の召喚を行ったが、あれはひたすらに燃費と効率が悪い。あそこまでの大業を使わなくとも、適切な装備と修練を積んでさえいれば、もっとスマートに対処できるハズなのだ。
……そうでないと困る。
というわけで、都合よく『師匠』を見つけることができたことだし……かえったら新たな『日課』に勤しまなければならない。忙しくなりそうだ。ただでさえビッグイベントの直前だというのに。ぐぬぬ。
「……気負いすぎないでね、ノワ」
「ラニ?」
思考に沈むあまり、いつのまにか『はぶらし』する手が止まって久しく……それだけにとどまらず眉間に皺を寄せているおれの苦悩を、機敏にも察知してくれたのだろう。
おれたちの頼れる万能アシスタントさんは、真っ平らな胸を堂々と反らし……自信満々に、高らかに宣言する。
「ノワが一人だけで戦う必要なんて、ないんだからね。……そりゃあ、『夢』に引きずり込まれた今回は、ちょっとどうしようも無かったにしても……この世界での戦いなら、霧衣ちゃんや、ミルちゃんや……そしてこのボクが、必ずノワの傍にいるから。絶対に一人に背負わせないから」
「……ありがとね、ラニ」
「なんのなんの。『推し』の助けになれるんなら、ボクだって本望だよ……相棒」
「ふふっ。……頼りにしてるよ、相棒」
…………信じられるか。この妖精さん、ほんの数分前まではおれに『はぶらし』されて身悶えながら『これだめ!』『やめておねがい!』『ボクがとけちゃう!』なんて……それはそれは可愛らしい嬌声を上げてたんだぜ。
まったくもう……いたずら好きで、セクハラが大好きで、憚ることなく『ノワすき』と公言して……隙あらばおれを輝かせようと、あの手この手で(おれの無許可で)暗躍してくれる妖精さんだけど。
ここぞってときには……やっぱり、とっても頼りになるんだなぁ。
「まぁそれはそれとして、お仕置きはちゃんと済ませるけどね」
「ゥエぇ!? 誤魔化せたと思ったのに!?」
「残念だったねぇ。はいじゃあ次おしりね。今度は痛い痛いしないようにちゃんとやさしくスるからね。安心してね」
「いやあのここはボクの献身に免じてこのへんでゆるしてもらえrちょっと! ちょっと待って! こっ、こころの準備が! こころのじんにゃっ!? あっ!? あっ!!」
「そういえば妖精さんの蜜って『ものすごい上質な魔法触媒になる』って聞いたことあるんだけど、そこんとこどうなんですかラニちゃん」
「し、知らない! ボクそんなのしらない! だ、だめぇ! ああー!」
日頃の貢献のお礼の気持ちを籠めて、丁寧に丁寧に小さな身体の凝りをほぐしていく。
身体じゅう至るところのツボを『はぶらし』で刺激されて、血行がよくなっているのだろう。おれの手のひらに収まるサイズの身体はみるみる火照って赤みを帯び、ラニもとっても気持ち良さそうだ。
これはマッサージだから。医療行為だから。健全な入浴のついでに、労いの意を籠めて身体を洗ってあげているだけだから。
だから至って健全。いいね?
「……!! …………! !!!」
「!! シズちゃん! もぉ……どこ行ってたの!? 心配したんだから!」
「…………ん。…………なんでも、ない。……ただの、お散歩」
「あー……そういえば、シズちゃんホテル全然満喫してなかったもんね……眠ってばっかで」
「…………ん……お昼寝、は……良いよ」
「…………、…………。…………。」
「……うん、あたしも別にとやかく言うつもりは無いけどね。ただちょっと、びっくりしただけ。帰ってきたらシズちゃん居ないんだもん」
「…………ごめん。……心配、かけたね……すてら」
「ううん、大丈夫。…………でもなぁ、シズちゃん起きたのが昨日だったらなぁ……一緒にプール行けたし…………そうそう、聞いてシズちゃん! お風呂でね、すっごい可愛い子見つけたの!」
「…………そう。……嬉しそうだね」
「うん! できればあの子ともヤりたかったけど、家族のガードが固そうだったし……仕方ないなって」
「ふふっ、…………そう」
「…………、…………? …………?」
「……言われてみれば、そうね。……何か良いことあったの? シズちゃん」
「…………ん。……そう、だね……ちょっと」
「へぇー! 良かったねシズちゃん!!」
「…………ん。よかった。……ほんとうに」
「あの子なら…………いい感じに……ボクの、思い通りに…………動いてくれるだろうから……ね」




