313【最終関門】幻想コンバット
ほんじつ二回めだよ、よろしくね。
おれたちの暫定駆逐目標、通称『苗』。
それに感染したヒトがばら蒔くと思しき、ときに感染者の手助けを行う、人形の徘徊無生物……通称『葉』。
その身体の構成から察するに……流れとしては『葉』を系譜に持つものであろう、眼前に佇む巨大な『龍』。
前の二種……『獣』や『鳥』なんかとは、見た目からして危険度が桁違いだ。
≪――蟆乗焔隱ソ縺ケ縺ィ縺?%縺?°???≫
「ちょ、ちょっと勘弁してほしいんですが!?」
四つ足を踏ん張り、翼と口を大きく拡げ、口腔内に集まる高密度の魔力反応を、おれの視覚がばっちり捉える。
考えるまでもなくアレだろう。定番といえば定番だが、それは当然創作の中でのお話だ。この現実世界ではあってはならないことだし、有り得てはいけないものだ。
この国の首都で、『龍』の怪物が……魔力砲を放つなんて!!
「【防壁・改】【並列・四重列】!!」
≪――濶ッ縺?ヲ壽ぁ縺?≫
発射地点の座標とおれの座標から導き出された結論から最悪の事態を予感し、回避ではなく防御の体勢を整える。
有り余る魔力を一斉に紡ぎ、生半可な攻撃は容易く弾き返す安心と信頼の【防壁】の強化仕様を……出し惜しみせずに四重並列で顕現させる。
真正面から受け止めるのではなく、やや上方へ向けて傾斜させて。叡智のエルフの頭脳は一瞬で最適な角度を導きだし、高強度の四重防壁が展開され……
「ッッ、っぶねぇ!!!」
≪――縺縺縺≫
傾斜装甲の面目躍如、ヒト一人どころか鉄筋コンクリートの構造躯体でさえ塵と化す破壊光線を、何も存在しない遥か上空へと逸らすことに成功する。
……何も無いよな。飛行機とか人工衛星とか宇宙ステーションとか巻き込まれて無いよな。無いと信じるしかない。
しかし、初撃こそなんとか弾ける角度で放たれたわけだが……そう何度も理想的な角度で飛んでくるとは思えない。たとえば天頂から真下へ向けて放たれでもすれば、身体を張って真正面から受け止めるしかなくなるわけで。
そんな危険は冒したくないし、それ以外の危険も放置したくない。であれば取るべき手段は単純、可及的速やかにあの『龍』を駆逐するしかないわけで。
「【氷槍・圧縮・集束】!!」
≪――濶ッ縺?□繧阪≧≫
魔力砲を放った直後、足を踏みしめた砲撃体勢を取ったままの『龍』へ向け、単発高火力カスタマイズを施した氷属性魔法をブチ込む。
炎ではなく氷を選択したのは、おれの長年の経験がそうすべきだと告げていたからだ。翼の生えた『龍』なんて、そんなもん氷で四倍弱点取れるに決まってる。よしんば『植物』要素が優先されたとしても四倍取れるに決まってる。世の真理だ。
あんなナリをしているアイツに、つまりは氷が効かないはずがないのだ!!
「ぬぇい…………やァ!!!」
おれの渾身の一撃……長大な氷の槍に有り余る魔力を押し込めまくった爆発寸前の氷属性炸裂魔法は、狙いたがわず『龍』の魔物の胴体にブチ当たり、強烈な圧力を一気に解放して弾け飛んだ。
気になる効果の方だが、目論み通りちゃんと通っていた。さすがですゲー○リさん一生ついていきます。
ヤツのぶっとい胴体……胸郭のあたりには盛大に風穴が空き、上半身と下半身が今にもちぎれ、崩れそうなほどの大損傷を与えていた。
……与えていた、のだが。
≪――繧ー繧ー繧ー繧ー繧ー≫
「ッ、殺しきれなかった……っ!」
ブチ開けた風穴の周囲からは、うぞうぞと蠢く肉のような蔦が伸びていく。
それらは互いに互いを絡め取り、纏わり付き、編み上げ、欠損組織の修繕を試みようとしている。
「…………Hと、Bと……D。ふりまくった」
「あのクソバ火力で耐久型とか冗談でしょう!!?」
自己再生だか羽休めだか、はたまたその両方なのか知らないが……このまま黙って修繕を待っていては振り出しに戻ってしまう。
おれの攻撃だってちゃんと(たぶん四倍で)通ったのだ。効いていないはずは無いし、攻撃の手を緩める理由は無い。
「【加速】【氷槍】【並列・三十二条】」
自らに疾走の強化魔法を掛け、弱点属性(暫定)である氷魔法を従え、至近距離まで接近を試みる。
『龍』の自己修繕はまだ完璧ではない。あの傷目掛けて一斉に射掛ければ、再び少なくない損傷を与えられるはずだ。
そう思っての行動だったが、さすがに『龍』とて黙って見ているわけでは無かった。長大な皮膜の翼をはためかせ、一挙動で暴風を造り出す。
ほんの一瞬、一拍とはいえ……巨大な翼と小さな身体では、到底太刀打ちできようもない。おれの身体はあっけなく宙を舞い、盛大に吹き飛ばされる。慌てて【浮遊】を発現させるも既に『龍』との距離は大きく開き……自棄気味に【氷槍】を解放するも、損傷部位に突き立ったのはほんの数本にとどまった。
とはいえその周辺、前肢や翼などにもきちんと突き刺さっていたので、被害そのものは小さくないはずなのだが……事実として『龍』はまだ活動を続けており、しかもその巨大な翼を何度も何度も翻しており。
「ウッソでしょ飛ぶの!?」
「…………翼……あるし」
≪――縺昴≧縺?繧!!!!!!≫
当たり前といえば当たり前なのだろうが……巨体を誇る『龍』はホテル屋上ヘリポートから飛び立ち、夜空に【浮遊】するおれ目掛けて突っ込んできた。
これはマズい。非常にマズい。今までもマズかったが、最大値を大きく更新するレベルでマズい。
さっきも言ったように、上空から投射攻撃を放たれては甚大な被害が生じかねない。跳弾させて無力化させることも難しい上、首都圏の地表ともなれば人が居ない場所がまずもって無いだろうし、道路や線路や送電線なんかが攻撃に晒されても甚大な被害が起きてしまう。地下鉄や地下街などの地下構造物も縦横に張り巡らされているだろうし、海上だってクルーズ船やらタンカーやらフェリーが多く行き交っている。
東京とは世界屈指の利便性を備える都市であるが……世界屈指の脆弱さを併せ持ってしまった都市でもあるのだ。
そんな脆弱な都市に被害を生じさせない、たったひとつの確実な方法。
それは……ほかでもない。被害を生じさせ得る敵性存在を、一刻も早く取り除くことだ。
≪――繧ー繧ェ繧ェ繧ェ繧ェ??シ!!!!!!≫
「ッッ!! やってやろうじゃねぇかこの野郎!!」
戦力試験だか期末試験だかなんだか知らないが、そっちがその気ならこっちだって試験してやろうじゃないか。
そちらの理不尽な幻想に抗うべく……こちらも非現実的な想像に魂売ってやろうじゃないか。
巨大な口を開き咆哮を上げる怪物に、恐怖感が沸かないといえば嘘になる。
しかし……今このとき、この場において、あいつをなんとか出来るのはおれだけなのだ。
「……理を越えて来たれ! 今ひとひらの力を示せ! わたしが望むわたしの姿! 気高き稀なる強者よ!」
大丈夫、大丈夫。わたしは木乃若芽。
熟練天才魔法使いであるわたしなら……きっとやれる。やってくれる。やってみせる。
わたしは、人々に『しあわせ』と『たのしい』と『うれしい』をお届けする……この世界を絶望から遠ざける、叡智のエルフであり。
遠く離れた異世界からの希望、強くて優しくて気高い(けどちょっとえっちな)【天幻】の勇者と縁を繋いだ……この世界で唯一無二の幻想戦力なのだ!
「【『創造録』・解錠】! 【召喚式・『剣を執りし勇者』】!!!」
思い描く姿は『勇者』。読んで字のごとく、そのままの意味での『勇ましき者』。
人々のために力を尽くし、巨悪に立ち向かい、戦いの果てにこれを滅す者。現代日本では様々なゲームや創作作品の主人公として取り扱われ、世界史を紐解けば太古の昔から物語に語られる……人々の心の支えとなる、英雄。
強くて、気高くて……かっこいい。
おれの思い描く理想の『勇者』……その身体を想像し、創造する。
「…………なに…………それ」
「……ふふふ……何を隠そう、わたしは『エルフの熟練魔法使い』ですので!」
骨格を造り上げ、筋肉を造り上げ、視覚や聴覚や嗅覚や触覚を造り上げ……そして鎧と剣を造り上げ。
おれの創造力によって、魔力を糧に造り出された人形に……『一』から『十』までおれの魔力と完全に馴染む身体に、中身を入れて覚醒させる。
この身体が備えている……配信者として考え得る限り詰め込んだハイスペックな技能の数々を、今こそ有効活用させてもらう。
おれであっておれではない、しかしおれの望む通りの結果を導くため、いつも適切にフォローを入れてくれる並列人格を……強引な解釈で切り離し、確立させる。
「かわいくてカッコよくて優秀な『使い魔』の一人や二人! 持ってたって不思議じゃないでしょう!」
「期間限定の特別バージョン! 本日限り・出血覚悟の大サービスです! 見逃す手はありませんよ視聴者さん!」
「…………うるさ」
呆れるほどの魔力量にモノをいわせ、『別解釈した自分自身を召喚する』。
熟練魔法使い(という設定)だからこそ成し得た、真っ当なファンタジー物語だったら反則間違いなし、大顰蹙間違いなしの荒業。
でもわたしは、そんなことは気にしない。
何故ならこれは、正当派王道ファンタジー作品なんかではなく……いち配信者が思いのままに紡ぐ、邪道・ご都合上等の愉快痛快娯楽作品に過ぎないのだから。
わたしは……人々に笑顔と希望を届ける、この世界の高みを目指す配信者にして。
人々の破滅を否定する、この世界唯一にして最高の……エルフの超熟練魔法使い。
魔法放送局『のわめでぃあ』の敏腕局長、泣く子も笑う『木乃若芽』なのだ!!




