311【最終関門】幻想ジェネレイト
「……じゃ……はじめよ。――【想起】」
「ちょ、待ッッ……!?」
「待たない。……ボクが……ルール」
誘い出されたホテル棟の屋上……緊急時用のヘリポートと申し訳程度の常夜灯が設えられた、嫌味なくらい解放感溢れる屋外空間。
夜の闇に融けるように悠然と佇むシズちゃんのすぐ傍らにて、突如空間が不自然に揺らぎ、軋みを上げながら歪んでいく。
それはまるで、魔力によって【門】が抉じ開けられるような……おれの親愛なる相棒が得意とする、空間魔法であるかのような。
この世ならざる異能の力で開かれた【門】から現れたのは……これまたどう見てもこの世のものとは思えない、見るもおぞましい名状しがたい怪物。
赤黒い蔦や葉や茎や芽が縒り集まり、組織のひとつひとつが意思を持ったように蠢きながら……無理やり四足の獣の姿を取ったもの。
狼とも大猿とも獅子ともつかない、ひどく不格好で薄気味悪い、大柄な男性ほどはあろうかという『獣』の魔物だ。
「…………戦力……テスト。……キミに……たたかって、もらう」
「っ、わたしに拒否権は!?」
「あるわけない。…………いけ」
≪――窶ヲ窶ヲ鄒主袖縺昴≧縺ェ縲?、後□??シ≫
シズちゃんの号令に忠実に従い、名状しがたい唸り声を上げながら『獣』が駆け出す。がっしりした体躯に似合わず滑らかに地を駆け、おれとの距離をほんの一瞬で縮めてみせる。
短い首の先の、やや小さな頭……そこに備わる異様に大きな口が『がぱり』と開き、ミミズの大群が蠢いているかのような気色悪い口内を覗かせる。
≪――繧ャ繧。繧。繧。繧。繧。繧「繧「繧「??!シ!≫
「ひぇ……ッ!!」
アレに喰いつかれたらロクな結果にならないことは、考えるまでもないだろう。自らに【加速】をはじめとする強化魔法を掛け、とっさに身を捻り突進を回避する。すぐ傍を通った大口が『ガチン』と嫌な音を立てるが、しかし無事にやり過ごすことには成功する。
飛び掛かった姿勢のまま背を向ける『獣』は、まだ体勢を立て直せていない様子。どう見ても好機であり、これを逃す手は無いだろう。
「【氷槍】【並列・三十二条】!」
≪――縺舌?∬イエ讒倪?ヲ窶ヲ繝?シ?シ!!!?!≫
無防備を晒す『獣』の背中に、氷の槍が雪崩打って襲い掛かる。射掛けた三十二本のうち数本は外れたが、殆んどは標的に突き刺さり、どうやら小さくない手傷を負わせることに成功したらしい。
不気味な『獣』は痛みに身をよじり、どこが目かもわからない顔を苦痛に歪ませ、声にならない怒声を上げている(ように見える)。
……が、まだ奴は活動を続けている。
まだ終わりじゃない。畳み掛けて……息の根を止めなければならない。息してるのか判らないけど!
≪――繧ャ繧ュ縺鯉シ∫峩縺舌↓縺ァ繧ょ眠繧峨▲縺ヲ……≫
「……っ! 【焼却・集束】!」
≪――繧ー縲√ぎ繧。窶ヲ窶ヲ繝!!?!!?縺翫?繧後♀縺ョ繧後♀縺ョ繧鯉シ∬ィア縺輔〓?∬ィア縺輔〓?∬ィア縺!!!!!!≫
「ひ、ッ」
≪――險ア縺輔〓!!!!!險ア――縺輔〓―――≫
魔法の炎に貫かれぽっかりと空いた風穴から、全身へと燃え広がった炎に焦がされ。
『獣』の魔物は絶叫を上げながらのたうち回ったかと思えば、やがて力無く倒れ伏し……小さな爆発と共に、幽かに燐光を散らして消え失せた。
生命活動を停止した、ということだろうか。……そもそも生物かどうか怪しいところだが。
「……っ、どうよ! 勝ったぞ!」
「ふぅん……? ……まぁ……いっか。じゃあ…………つぎ――【想起】」
「嘘でしょ!?」
「ほんと。…………実戦……経験……ひつよう」
情け容赦なく空間が歪み……先程と同様、名状しがたい怪物が姿を現す。
しかし今度のそれは、先程よりも一回り小柄。前肢の代わりに扁平な翼を、太い尾の代わりに扇のような尾羽を備えたそいつは……恐らくは何かしらの種を参考にしたとおぼしき『鳥』の魔物。
「…………新作……戦えるか…………試す。……がんばって。……情報……たくさん、ほしい」
「ぐ……新型の評価試験、ってことか!?」
「…………キミの……生殺、与奪。……ボクが……握ってる。……拒否権……ない」
「知ってるよ! あぁもう……どうせわたしが勝つんですから! 意味なんて無いと思いますけどね!!」
「ん…………その意気。……じゃあついで、もう一騎。――【想起】」
「ごめんなさい調子に乗りました! 勘弁してくださいやだもぉ! ちょっ、まっ……嘘でしょう!?」
「ほんと。…………がんばって、足掻いて」
赤黒い草で編まれた血肉を蠢かせ、二体に殖えた『鳥』の魔物が不気味に身構える。
さっきの『獣』とは異なる運用思想であろうそいつは、深く考えるまでもなく速度特化型。自在に宙を飛び回られるとあっては、なかなか骨が折れそうだ。
せめて『弓』でもあれば……相棒の【蔵】に収蔵された弾数無制限の魔弓さえあれば、あの程度の『鳥』ごとき一瞬で仕留められるだろうに。
魂を分けあった半身である相棒は、相変わらずおれの呼び声に応えてくれない。
やはりおれ単独で……このまま事に当たるしかないようだ。
≪――辟。讒倥↓雜ウ謗サ縺≫
≪――雋エ讒倥?蜉帙r隕九○繧≫
「ちくしょう! なに言ってっか解んねぇよバーカ!!」
悪態を吐きながら強化魔法を纏い、更に【焼却】の魔法を複数個集束させる。曲がりなりにも植物を模した組織は、どうやらそのまま炎熱に対する耐性が低いらしい。
魔法の炎を珠状に圧し固め、周囲に幾つも浮かべて戦闘体勢を整え……生理的嫌悪感半端ない造形の『鳥』を迎え撃つ。
【睡眠欲】を名乗った、魔王の従僕……可愛らしい見た目にそぐわぬ強大な異能を秘めた『使徒』が、ただただじっと観察する中。
いつ終わるとも知らぬ『評価試験』……その第二幕の幕が上がった。
※この作品は大したシリアスにはなりません




