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273【遠足計画】ゴーユートラベル

※作中時空はまだ一月下旬です



「ありがとうございます! すみません本当すみません、大切な休日のお昼どきに()()()()()お願いしてしまって……!!」


『いえ、お気になさらず。此方としてもどんな形であれ、木乃様の……『局長』のお役に立てるのなら、幸いです』


「いえいえこちらこそそんな…………オマケに、こんな……あの、ほんとに…………いいん、ですか?」


『私の上司に木乃様のポテンシャルを思い知らせるには、これが手っ取り早いかと思いまして。……勿論、木乃様の気が乗るのなら……ですが』


「ののっ、のっ、のります! 乗りますよこんなの!」




 日曜の午前にもかかわらず、いきなりの音声通話に出てくれたお相手は……現在のわたし(おれ)にとって数少ない、東京在住の知り合いである大田さん。

 つい先日、おれに三納オートサービスさんを紹介し、おれたち『のわめでぃあ』が活動範囲を拡げるの切っ掛けを与えてくれ、移動拠点ハイベースを借り受ける道筋を作ってくれた……広告代理店『ウィザーズアライアンス』の担当者さんだ。


 休日の朝いきなり送りつけられたおれからのREIN、しかも仕事とは全く関係のない内容――東京のホテル事情に関して訊きたい、などというおれのお願い――にもかかわらず、快く対応してくれた。

 おれたちの希望と予算にマッチする、たいへんステキなホテルを紹介してくれ……しかもしかもそれだけではなく、非常にオイシイ条件をも付けてくれたのだ。



「……御社事務所で、大田さんとミーティング…………という建前の()()()、ですか。……お茶をご馳走になるだけでわたしたちの知名度が上がるなんて、旨すぎるお話じゃないですか」


『ええ。いち視聴者である私の見解ゆえ、多分に贔屓目ではありますが……木乃様のビジュアルは、他に類を見ない類稀たぐいまれ()()があります。せっかく東京へお越しになられるということで……弊社の他の奴らと、特に私の上司にですね、『のわめでぃあ』の方々のお姿を見せ付けて頂ければな……と』


「…………その、お手柔らかにお願いしますね。……えっと……わたしはまだしも、あの子にとっては初めての場でしょうし」


『光栄です。……生『のわきり』が拝めると思うと、今からもう楽しみで楽しみで。お陰様で仕事も捗りそうです』


「大田さんクールに見えて結構()()人種ですよね」


『よく言われます』





 実をいうと……紹介してもらったホテルというのは、大田さんの勤める『ウィザーズアライアンス』社の保養施設(として客室利用権を購入しているホテル)ということらしい。


 会員制のリゾートホテルグループであるそのホテルは、全国各地の保養地に幾つものリゾートホテルを擁しており、会員として契約を交わした法人にそれらホテルの客室に泊まる権利を『年間合計○○泊まで』あるいは『半年あたり○○泊まで』のような感じで貸し与えているらしい。

 そのホテルとの契約内容に依るのだろうけど……たとえば年間三十泊コースだった場合は、一室を三十泊――もしくは二室を十五泊だったり、三室を十泊だったり――利用する権利が賦与されるらしい。



 今回大田さんが提案してくれたプランは、要するに『ウィザーズアライアンス』社が所有している『保養施設宿泊の権利』を、二泊分もおれたちに与えてくれるというものだ。……たぶん相当余ってたんだろうな。


 どのみちこの会社では元々その『年間○○泊』の権利を消化しきれていなかったらしく、このままでは今年度分の権利が三月末に自然消滅する見込みだったこと。

 会員権利の価格そのものは年額固定であり、実際に宿泊する際の実費は宿泊者本人(今回でいうとおれたち)の負担となる(※しかしそれでもグレードを考えれば周辺相場より圧倒的に安い)ので、『ウィザーズアライアンス』社としては何も痛手が無いこと。

 以上の理由から提案してくれた作戦であり…………いわく『私の名前で予約を入れ、木乃様ご一行を『商談相手』という体裁でご案内するのであれば、何も問題はありません』とのこと。

 手慣れている大田さんがそう言いきるならそういうものなんだろうということで、お願いすることにした。



 そしてそして、その見返りとして要求……というか提案いただいたのが、大田さんの勤める『ウィザーズアライアンス』さんへ赴いての『顔見せ』というわけだ。

 なんでも……大田さんが白羽の矢を立てた『商談相手』を、同僚や上司に見せびらかしたいんだそうで。……おれにそんな価値あるのかなぁ。




『では……明日月曜から二泊、朝食ブッフェ付のプランで押さえておきます。チェックインは二十日の十五時以降、チェックアウトが二十二日の十時です…………宿泊費の方は一室二泊で……』


「…………うん。…………それで、お願いします!」


『承知しました。…………少々お待ちを……あっ、オーケーです。無事に予約完了しましたので、一応エビデンスをREIN(チャット)のほうへ送っておきます』


「ふへぇ……ありがとうございます、大田さん。……ほんと助かりました」




 都心の高層リゾートホテルに、二泊二食。金銭感覚がまだまだ庶民のおれにとって、これは決して安いお値段ではなかったけど……喜んでくれるであろう二人のひまわり笑顔が拝めるならば、これくらい安いものだ。

 それに実際、立地とグレードを鑑みると……あの内容で五桁で収まったのは、ある意味奇跡かもしれない。実際、大田さんの協力無しでは無理だっただろう。



『いえいえ。私こそ……()()に名前を呼んで頂けて、光栄です。それでは当日……もう明日ですね。お昼過ぎに弊社までご足労頂ければと』


「わかりました。品川区の住所で良いんですよね。……駐車場って、あります?」


『来客用平面駐車場を押さえておきます。車種は……()()車ですか?』


「はいっ。大変良い感じです。……そっちの方も、ほんとうにありがとうございます」




 そこからいくらか世間話して、今後の『のわめでぃあ』の作戦を(ネタバレにならない範囲で)お話しして……改めてお礼を述べて、音声通話はお開きになった。



 それから少し後、明日月曜日の行動タイムラインと宿泊先の詳細情報が綴られたメッセージが送られてきた。

 さすが、見た目クールなやり手の営業マン(濃いめ)だ、フォロー体制に抜かりがない。この人はぜったい仕事できる。将来伸びるひとだ。……コネありがてぇ。





 …………自撮り送っとこ。



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― 新着の感想 ―
[一言] えっちなのはダメですぜ
[良い点] 下手なアイドルよりアイドルしてるんじゃなかろうか、 [一言] 相変わらず、相手によっては嫌みになりそうな位自己評価の低さ、
[一言] 良いファンサですねw
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