259【在宅勤務】続続・MTG
※ミーティングつづきです。
もうしばしご容赦ください。
「ラニどーお? 斜めってない?」
「おっけーおっけーまっすぐ。いい感じだよ!」
「若芽様! 天繰様より『例のもの』をお借りして参りました!」
「ありがと霧衣ちゃん! …………いや、まさかまじで持ってるとは……」
「へぇー? これまた興味深い」
おれの頼れる同僚ふたりの知恵を借り、めでたく方針が定まった旅行企画……のわめでぃあの『せっかくとりっぷ』。
その企画の『流れ』に関しては、おおむねミーティング通りで良いとは思うのだが……ただあとひとつ、どうしても決めなければならないものがある。
それは……ずばり、目的地。
日本全国津々浦々の、果たしてどこに行くのか。視聴者さんからの不満がでないような、可能な限り公平を期す抽選方法とは、いったいどんなものが考えられるだろうか。
……ということで、見つけました。ありました。ほめていいのよ。
「このあたりかな……うん、この距離なら大丈夫そうね」
「ここから……投げれば、良いのでございますか?」
「うん、そう。……いけそう?」
「……この形のものは、いまひとつ慣れておりませぬが……ご期待に応えて見せまする」
「ありがとう霧衣ちゃん! ……って、そんな種類あるの? 棒手裏剣って」
「はいっ。わたくしどもが手遊びして居りましたものは、『針型』と呼ばれておりました。天繰様のこれは……筆型、槍穂型と呼ばれるものでございましょう。打ち易そうな良い子でございまする」
「「へぇぇぇー…………」」
えっと……まさか種類がいくつもあるとは思わなかったが、要するに『棒手裏剣』……西洋風にいうところの『ダーツ』と呼ばれる投擲武器だ。
……なにをやろうとしてるのか、もうわかったね。
しかし例によって丸パクリだとジョージさんに申し訳ないので、やんわりとピントをぼかしてパクる。
先ほどエッサホイサと壁に掛けたのは、ぶあつい発泡系断熱材に貼り付けた大きな日本地図……ではなく、ランダムにナンバーを振り分けたいくつものマス目の集合体が印刷された、A3用紙二枚分の特製ポスターを貼った構造用合板。
イメージとしては、デタラメにマスの数が多くて細かいビンゴカードのようなものだ。数字は『1』から『144』まで、ただし数字の歯抜けは無く、全部で百四十四マス。あくまで順番がランダムなだけだ。
そしてこちらのポスター、先述のようにA3用紙が二枚なので、簡単に作り直すことができる。数字の順番をランダム選出する専用のプログラムを導入することで、数字の配置をその都度変更したシートを作成して印刷し、あとは貼り付けるだけ。
そして、つまりはこの巨大ビンゴカードポスターにダーツを投げるのだが……このときダーツが当たった番号が、そのままこちらの全国地図帳のページ数と対応しているというわけ。
「ボードのナンバーの順番はランダムだし、ダーツだからどこに当たるかもわからない。これなら視聴者さんも納得してくれるでしょ」
「ノワは投げなくていいの? 局長でしょ?」
「……あのね…………おれ実は見えるんだわ、あの数字。あと多分、集中すれば狙ったとこ当てれる。それじゃフェアじゃなさそうだし……」
「ぇえ…………ドン引きなんですけど」
「あと単純に……霧衣ちゃんのかっこいいシーン、人気出そうだし」
「ひゃふゎ!?」
「…………まぁ、そうね」
的である巨大ビンゴボードを掛けた壁から投擲ラインまでは、およそ三メートル。
このラインから霧衣ちゃんに棒手裏剣を投げてもらい、目的地となる都道府県市区町村の地図ページ抽選を行う作戦だ。
てれてれもじもじしているかわいい霧衣ちゃんに、まずは何発か練習してもらうべく、抽選ボードの上にべつの合板を立て掛ける。
いつものような和服を纏ったまま、そのお手手に棒手裏剣を携えた霧衣ちゃんは……相変わらずはずかしそうな表情を浮かべながらも佇まいは凛として、非常にかっこいい。かっこかわいい。
「まだカメラ回さないから、何回か練習してみて。気楽に気楽に」
「はぅうぅぅ…………し、承知つかまつりまする……」
「キリちゃんがんばえー!」
「がんばえー!」
おれとラニの激励を受け……おそらくスイッチが入った霧衣ちゃん。何度か深呼吸して棒手裏剣を構え、目はまっすぐ標的の合板を見据え……そして大きく振りかぶられた彼女の腕がついに、張りつめた空気を裂くように勢いよく振り抜かれる。
その瞬間……『直感』とでも呼ぶべきだろう感覚に突き動かされ、おれは標的である合板――二枚重ねたうちの一枚――に向けて防護強化を叩き込む。
傍らのラニが『ぎょっ』とした顔でこっちを見るが……それとその異音が鳴り響いたのは、ほぼ同一のタイミングだった。
「「うわァァァ!?」」
「あ……っ!」
ガレージの建築用に調達しておいた、厚さ十五ミリ程の構造用合板……念のためにと二枚重ねて立て掛けておいたそれに、鉛筆のように尖った鉄器の先端が深々と突き刺さり。
それは一枚目を易々と貫通し、防護強化が張られた二枚目の表層へと、その先端を僅かに食い込ませていた。
「…………えっと…………ごめん、きりえちゃん」
「わっ、わっ、わっ、わっ、わかっ、わっっ、さまっ、」
「かるーく……そーっとで良いから……ね?」
「も、ももっ、もっ、申し訳、っ、ございませぬ!!」
「おぉぉ……無附与のハガネでこの威力……」
とってもかっこよくて、凛々しくて、それでいてめっちゃ可愛いかったけど。
この超人的な投擲技巧は……残念だけど、これもお蔵入りだな!!
本番までに、よーく言い聞かせておかないと!!!
次回定例配信です。
宜しければよろしくお願いします。




