224【納車記念】たのしい回送
「やっぱ運転しやすいっすか? キャンカーはめっちゃ揺れるって聞いてたんすけど」
「んー……ふつうのキャブコンはトラックベースだからじゃね? ハイエースはまだ一般乗用車に近い構造だろうから、キャブコンよりは跳ねないし……実際いい子だよ」
「あー確かに……サスまわりがトラックよりかは普通車に近いんすかね」
浪越市神宮区を出発し、浪越都市高速を経由して第二東越基幹高速へと合流し、そのまま東進することしばし。サービスエリアで休憩を取るべく停車させたおれに、モリアキが興味深そうに切り出してきた。
いまだに車内設備に目を輝かせている他のふたりに比べ、やはり幾らか現代機器に対する耐性がついているらしく、正気に戻るのも早かったようだ。
そんな彼と言葉を交わしながらもおれは華麗に駐車を済ませ、お昼の算段を考え始める。
三連休明けの平日、なんの変哲もない火曜日とあっては、お昼時とはいえさすがに人の入りもまばらである。これならばおれたちが闊歩していても、あまり注目を浴びずに済みそうだ。
フードコートを使うか露店でテイクアウトフードを調達するかで少し悩んだが……せっかくのプライベートゾーンを堪能したいところだし、昼食は車内キャビンで摂ることにする。たまにはラニも堂々とくつろぎたいだろう。
「というわけで、まずはごはんを買いにいこうか。パン屋さんとかお惣菜屋さんもあるみたいだし」
「オレも同行するべきっすか? あんま『わかめちゃん』に変な噂立つのもよろしく無いんじゃ……」
「うあう……おれも霧衣ちゃんも目立つからなぁ」
「ノワの『マネージャーさん』ってことにするのは? お仕事っぽい話題をアピールしとけば、見聞きした人は勝手にそう捉えてくれるんじゃない?」
「「それだ!!」」
それだ。そういえばうにさんやミルクさんもマネージャーさんに色々お世話してもらってるらしいし、かくいうおれだって実際にお話しさせてもらった。
八代さんという『にじキャラ』社の男性スタッフさんとは、おれもちゃっかり連絡先を交換させてもらった。うにさんミルクさんとのコラボの話しかしてないが、その人となりは何となく察することができる。
担当配信者のお仕事管理やスケジューリングだけでなく、ときにちょっとした外出や買い出しに付き合ったり、車を出してドライバーを勤めたりもしてくれるらしい。
まあ、単に『にじキャラ』さんが過保護なだけかもしれないが……とりあえず大事なことは、配信者の近くにマネージャーが付いているのは、何もおかしいことではない……という点だ。
「マネージャーさんマネージャーさん! 焼きそばありますよ焼きそば! あっ、から揚げ……チャーハンの屋台!? チャーハン! チャーハン買いましょうマネージャーさん! マネージャーさんチャーハン! マネージャーはん!!」
「落ち着いて下さいセン…………若芽さん。いっぱい買ったってどうせ食べきれないんですから」
「し、しかし…………ちゃーはんが……からあげが」
「…………じゃあチャーハンとから揚げは買いますから。あと二点か三点くらいにして下さいね。全店含めで」
「りょっ……了解であります! マネージャーさん!」
「よろしい」
お昼時の混み具合ではあるものの、かといってそこまで混雑しているわけではない……大変居心地のよい人口密度のサービスエリア内を、おれはモリアキ改め『マネージャー:烏森』さんを伴い堂々と闊歩していく。
紙どんぶりに詰まったから揚げと、箱状のテイクアウト容器に詰められたチャーハンを調達し、許可された残りの三品を探して自慢の鼻をひくつかせる。
まあ鼻だけにとどまらず……生まれ変わったおれの五感は常人よりも大変優秀なので、おいしそうな商品に関する探知能力ももちろん高い。
嗅覚はもちろん、視覚と聴覚を総動員して、できたて温かなテイクアウトフードを見繕っていく。
ちなみに、現在ラニと霧衣ちゃんは車内にてお留守番中だ。
姿を隠せるラニはもとより霧衣ちゃんはかなり人目を惹くであろう魅力的な子なので、スムーズに昼飯調達できなくなる恐れがあると踏んだのだが……心配せずともどうやら、そもそもおれ単体でもかなり注目を集めてしまうようだった。
「豚まんふたつ! 下さい!」
「はーい。ありがとうございまーす。お嬢ちゃん可愛いからシュウマイ内緒でオマケしちゃうね」
「やたっ!! ありがとうございますお姉さん!!」
「すみませーん! 焼きそばふたつお願いします!」
「はいよー。こりゃまた可愛いお客さんだねぇ……ヨッシャ、特別に大盛りにしちゃる」
「ほ、ほんとですか!! ありがとうございますお兄さん!!」
「いやぁ……何すかこの人タラシ(小声)」
「何ですかマネージャーさん(小声)」
意識の隅で行動アシストを入れてくれるお利口なおれの身体のおかげで、おいしそうなフードを大変おトクに調達することができた。
両手にビニール袋をぶら提げているマネージャーさんを引き連れ、おれはコンビニで人数分プラスアルファの飲料ペットボトルと紙コップを購入。今度こそ車に戻る。
おれたちの言動をちらちら気にしていた一般客の方々も、さすがにあえて隅っこの方に停めた車のほうまで追ってくることは無かった。このへんは日本人の習性に感謝である。
「「ただいまぁー(っす)!」」
「「おかえり(なさいませ)!」」
「うーわ、やっぱすげぇわ」
「よく出来てるっすね……」
どうやら二人はお願いしておいた通り、運転席と助手席を転回させた食卓モードを用意してくれていた。
フロントガラス側も含めて全開口部をカーテンとシェードで隠してくれているので、これでラニも堂々と姿を晒していられる。
そしてこの食卓モード、一応大人四人がテーブルを囲めるようになっているので、四人中二人がローティーンでもう一人が手のひらサイズの四人組であれば、充分すぎるほど余裕のスペースだろう。
買い込んだ温かフードとドリンク類をいそいそとテーブル上に拡げ、楽しい楽しいランチタイムの始まりだ。
「よしじゃあ……いただきゃす」
「「「いただきます」」」
せっかくこんな、ロマンの塊ともいえる便利な設備を手に入れたのだ。日常生活でも仕事においても、使わない手は無いだろう。
おれはこの装備をいろんな意味で『活かす』術を、おりこうな頭脳であれこれ考えながら……
「じゃあ霧衣ちゃんはおれと『はんぶんこ』しよう。ラニはモリアキと『はんぶんこ』ね」
「ふあ……ふかふか! ふかふかでございます!」
「白谷さんこれ半分、食えます? もっと小ちゃくした方がいいっすか?」
「そ、そうして貰いたいかな……この身体の唯一の欠点だよ」
とりあえず今はこの……賑やかで安らぐひとときを、しばしの間存分に堪能するのだった。
あっ肉まんヴッメ!!
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それではまた明日……ヴィーヤ!




