204【観覧見学】先輩たちの戦い方
相変わらず良い動きを見せるうにさんと、慎重に慎重に進もうとするミルさん……彼女たちペアはときに生き残り、ときに打ち負け、結果としておよそ一時間ほどで一位を獲得することが出来た。つよい。
戦績レート的には、そこまで高レベル帯の戦場じゃ無かったとはいえ、それでもすごいことに変わりはない。
おれたちとしても、非常に楽しませて貰った。うにさんのプレイがうまいのはもちろんのこと、プレイしながらも平然と視聴者さんのコメントにトークで返したり、敵を華麗にキルしながらも自身のおもしろエピソードを語ってみせたりと……視聴者を楽しませるエンターテイナーの同業者として、学ぶべきところをたくさん見せて貰った。
……ちなみにきりえちゃんはというと、やっぱり平衡感覚とか感覚器官がヒトよりも鋭敏なせいだろうか。グリッグリ動き回る一人称視点に耐えられず、ゲーム開始から三十分くらいで見事に『酔って』しまっていた。
そのため今は自室で横になっているらしく、若干ふらつきながら『もうしわけございませぬ……きりえは、きりえは弱い子にございまする』と言い残して去っていった。……うう、かわいそう。そんなことないのに。
しかしながら……この部屋にもちょっと横になれるソファというか、マットレスみたいなの置いとけばよかったなぁって思った。……たぶん、おれも今後お世話になるだろうし。また今度シオンモールで探そう。
「アッやっべ、もう十時じゃん」
「んん? あぁー……そいえば何かあるって言ってたっけ」
「うん、他の仮想配信者さんの麻雀配信が」
「……ほう、マージャン。四人対戦形式のボードゲームだっけ?」
「そうそう。初心者でも運次第で勝てたりするし、意外と競技人口多いんだよ。……おれはルール詳しくないけど」
残念ながらペア双方ともキルされてしまい、反省会しながら新しいゲームを始めようとしている、うにさんミルさんペアの配信……その画面をちょっと縮小し、新たにタブを増やして再び配信サイトを開き直す。
マイページから『見たい配信』リストに飛び、そこへ登録しておいたとある仮想配信者のライブ配信ページへと飛ぶ。
どうやら時間通りにライブ配信はスタートしたらしく……現在は参加者四人の自己紹介が行われているところのようだ。
「詳しくないのに配信見たいの? 何でまた」
「いやぁ、ね? じつは……おれが今気になってる『にじキャラ』の配信者さんがですね……お二人ほど参加してまして」
「へぇー? 誰と誰?」
「えっとねぇ、このひとと、このひと」
おれが指差したのは、四人並んでいる参加メンバーのうち三人目と四人目。
ちょうど今から自己紹介するらしいゲストの三人目と、このチャンネルの主である主催の四人目だ。
『こんばんどすー。仮想エルフ皇女配信者、トールア・ド・ショットヘーゼ・ル・ナッツバニラ・アーモン・ド・キャラメルエ・キスト・ラ・ホイップ・キャラメ・ルソース・モカ・ソースラン・バチップ・チョコレー・ト・クリーム・フラペ・チーノ・ティーリット……どす。よろしうどすえー』
『相変わらず長いっすね! ……えー以上、たいへん豪華かつクセの強いゲストの皆様をお招きしての一席ですが……主催はワタクシ、絶滅危惧の仮想男子高校生配信者、刀剣ボーイこと刀郷剣治でお送りいたします!』
『お前ホント一回とうらん好きに怒られろ』
ゲストの一人である男性仮想配信者にツッコまれ、主催の男子高校生仮想配信者がぺこぺこと頭を下げる。
その様子を眺め、おれが気になっている仮想エルフ配信者のトールア・R・ティーリット様が、もう一人の女性ゲスト配信者と一緒に朗らかな笑い声を上げている。ちなみに彼女のミドルネーム『R』は『略』の意味らしい(公式情報)。
「えっと……トールアっていう女の子と、トーゴケンジーっていう男の子?」
「彼女の出身地では名前が最後に来るみたいだから、ティーリットが名前だね。刀剣くんはそのまんま、ケンジが名前でトーゴーが苗字」
「へぇー……ってことはもしかしてこのティーリットちゃんが、以前ノワがいってた『共演したいエルフ族の子』ってこと?」
「ヴッ…………そう。よく覚えてるね?」
「えへへー」
エルフ族の皇女である(という設定の)ティーリット様は、うにさん達の所属する『にじキャラ』の第Ⅰ期生……つまりはこの仮想配信者ブームの草分け的存在だ。
同期とともにLive2Dのアバターとリアルタイムライブ配信を駆使し、仮想配信者としてのコンテンツを確立していった偉大なる先駆者のひとりであり……当然、おれなんかとは全くもって次元が違う『レジェンド』と呼ぶにふさわしいお方である。
来歴と本名と外見的特徴はコッテコテのファンタジー風味であり、そのビジュアル……というか装束のほうも、たいへん神秘的で個性的。金髪碧眼に長い耳に小さく華奢で幼げな体躯と、まさに典型的なエルフのお姫様といえる容姿。
独特な訛りながらきちんと日本語を操る彼女は、いわく『いっぱい勉強したどす』とのこと。日本かぶれというよりは『あいらぶ古都』と言って憚らない古都かぶれ。京都や奈良などの神社仏閣を愛し、言動の端々にエセくさい京言葉もどきが混じる……いろいろと可愛らしいエルフの皇女様だ。
『でも正直、わち麻雀あんま得意じゃないどすけども……なんで呼ばれたんどす?』
『どうせ刀郷の趣味だろ。……だとすっとオレサマが呼ばれた理由が解んねぇんだけど』
『べつに下心なんて無いですって! そんな失礼な理由で先輩呼びませんよ!』
『でもありえますよー? わたしとティー様が本命で、ハデさんはフェイクとか。できればロリ三人集めたかったけど、それだとさすがに燃やされるから、みたいな?』
『そそっ、そんなこと無いですって! 信じてくださいよ先輩!』
『まあまあ……ふふっ。…………しねどす』
『オアアアアアアーーー!!』
そしてもう一人、おれが気になっている配信者さんが……今しがたティーリット様の断罪魔法を受け爆発炎上している(らしい)、仮想男子高校生配信者の刀郷剣治さん。例によって大手事務所『にじキャラ』所属の第Ⅱ期生、うにさん達の二個上だ。
健全な男子高校生らしく(?)、小さくて可愛らしい女の子が好きだと公言して憚らない剛の者だが……本人いわく『ちゃんと一線は弁えている(※あたりまえ)』という、自称・紳士な仮想高校生である。
そんな彼のことを、どうしておれが気になっているのかというと……むしろなんというか、おれのことを先に気にしてもらってたからというべきか。
おれの『視聴者さん』たちからのタレコミや、おれのSNSへ寄せられるコメントから判断するに……なんと畏れ多いことに、この業界においては大先輩である刀郷剣治さんが、おれのことを度々自身の雑談枠やSNSで話題にしてくれていたのだという。
……っていうか昨日の配信見に来てくれて、おまけにスパチャまで投げてくれてたし。刀郷先輩おったやんけ。
まあ確かに、おれのビジュアルは『小さくて可愛らしいエルフの女の子』なので……なんというか、そういうことなのだろう。
しかしとはいえ、興味を持ってもらえたことは非常に嬉しいし、ほかでもないおれ自身そういう趣向を持ち合わせている健全な一般成人男性なので……同じ趣向をもつ男どうしとして、彼とはうまい酒が飲めそうだ。この身体でお酒が出してもらえるかは置いといて。
『というわけで! 以上の四名でお送りする質問箱消化麻雀『聞かせてほしい雀』! さっそく始めていきまッッしょう!!!』
『『いぇーい!』』
『あからさまに誤魔化したなコイツ……』
『ははははは(棒読み)』
表示された麻雀画面の下に仲良く並ぶ、四人の『にじキャラ』配信者のバストアップ。
おれたちの目指すひとつの形、気心知れた仲間同士での仲睦まじげなゲーム(兼お題消化雑談マラソン)コラボが、今始まろうとしていた。
大御所の方々のトークと進行……とても楽しみである。
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