203【観覧見学】先輩コンビのウデマエ
『こんばんしーっすー。あんりある水底配信者、『村崎うに』やよー。よろしうにー』
「よろしうにー! ……はぁ、かわいい……うにたその眠た目かわいい」
「ははぁなるほど? これが『おまかわ』ってやつか」
『今日も今日とてミル呼んで、FPEXペア練習してくっからねー。今日こそはチャンプ取れっかねぇー』
「うぉー! うにたそー! がんばえー!」
「わ、若芽様が……まるで童に……」
いつものことながら美味しい晩ごはんをいただき、食後に仕事部屋でせかせかとお礼メッセージ業務を進め……ふと気がつけば時刻は現在、夜の九時。
つまりはおれのコラボ相手である『うにたそ』こと『村崎うに』さんの……仮想配信者大手事務所『にじキャラ』所属の大御所の、生配信のお時間である。
以前はソロで高ランク帯に潜り、野良プレイヤーと小隊を組んでひたすらレートを更新していくプレイを行っていたうにさんだが……最近はどちらかというとソロでのプレイは鳴りを潜め、同じ『にじキャラ』所属の配信者を伴いペア・トリオでのプレイが多くなってきているようだ。
うにさん以外の『ゲームつよつよ配信者』と組むこともあれば、ミルさんみたいに『あまり得意じゃない配信者』と組むこともあり……ほかでもないおれ自身もそんな『得意じゃない子』の一員として、畏れ多くもコラボさせていただくこととなったのだ。
おれたち三人が見つめるPC画面……そこにはFPSゲームのタイトル画面と、右下には2D描画された『村崎うに』ちゃんのアバター、右上にはリアルタイムで流れる透過されたコメント欄が配された、ゲーム配信を行う彼女のライブ配信ページが映っている。
そんな中……画面右下へ新たに、別のキャラクターのバストアップ画像が表示される。白のロングストレートと青灰色の瞳をもつ、顔の輪郭やパーツ配置からして幼げなアバター。鎖骨のあたりから下は画面に映ってないが、そこには二枚貝をモチーフにした白のロングドレスが描かれているはずだ。
『今さらだし詳細説明とか省くけど、いいよね。ぱっぱか進めちゃお。……よい、しょっと。……あー、あー、ミル? ミルー?』
『聞こえておるよ。……問題無い』
『オッケー。じゃあまぁ今日も頑張っぞ。目指せチャンプ! コラボ当日までに上手くならないとね!』
『……っ、言われずとも、元よりそのつもりよ。余は余の全力を尽くす……それだけのことよ』
「ねぇラニ! 今うにたそコラボっていった! これおれたちのことだよね!」
「う、うん……そうだろうけど……ねぇノワ、この『余』って言ってる、この白い子……この子って」
『まぁミルは皆さんご存じだろうけど……でもいちお、自己紹介お願い。ノルマだし』
『……うむ。……ご機嫌よう皆の衆。余は仮想水底領主配信者、イシェル家当主『ミルク・イシェル』である。よしなに』
『よしなにー』
「よしなにー! ……うん、この子ね、ミルさん。この前ミーティングでお話ししたでしょ」
「ぇえ……キャラちがくない?」
「ミーティングのほうが『素』なんだろうね……でもやっぱキャラ演じるのって大変みたいでさ、ふとした拍子に地が出るんだよミルさん。……でもそこがまた可愛いっていう。男の子だけどね」
「ホェ!?」「……まあ、なんと」
ぽかーんと目とお口を開き、あっけにとられた様子のラニときりえちゃん。まあ無理もないだろう、だっておれを始めとした多くの視聴者が、公式プロフィールの性別欄を確認しておったまげたくらいだ。
ビジュアルで言えば、極めて正統派な白ロリである。髪もスカートも長く流れ、儚げな表情と相俟って非常に庇護欲をそそられる、幼げで可愛らしい配信者。だが男だ。
その声もまた物静かで優しげで、滅多なことでは大声を上げない。笑うときだって控えめであり、その容姿と相俟って『ご令嬢』という表現がぴったりだろう。だが男だ。
いったい『にじキャラ』運営はどうしてこんな可愛らしい子を『男の娘』キャラで行こうと決めたんだ、と某界隈では一時期話題だったのだが…………誰かが彼のモチーフであるらしい『白ミル貝(ナミガイ)』をなんとなく画像検索してみたところ、一瞬で納得してしまったらしい。
かくいうおれも画像検索してみて……恥ずかしながら秒で納得してしまった。なにがとはいわない。ユースクさんも『にじキャラ』さんもミルさん本人も、もちろんおれたち『のわめでぃあ』も健全です。いいね。
当然健全だし寿司ネタにもなる美味しい貝なんだけど、画像検索は自己責任で。いいね!!
「見た目と性別にギャップがあったからか、ミルさんは開き直って『ギャップ』を全面で押してくキャラになったみたいで。だからあんな可愛らしい癒し系のキャラなのに、設定としては一人称『余』で偉そうな口調の領主キャラにされちゃったらしい」
「お、おぉ…………詳しいね」
「ふふ……まーね。一時期ほかの同業者のこと調べまくってたし、単純に『にじキャラ』追っかけてたから。……まぁ結局同業者にはなれなかったけど」
「なるほどねぇ。……でもさ、アンリアルじゃなくてもキャスターなら……それは立派な同業者だよ。実際コラボするんでしょ?」
「…………そうだね。……おれも、あの子たちの同業者か」
混ざりもののおれでも、仮想配信者の方々と共演することが出来るのだと、ほかでもないうにさん達に教えて貰った。
おれが蓄えた仮想配信者の方々のプロフィールも、これから先もしかすると役立つ日が来るのだろうか。……来るといいなぁ、いっぱいコラボしたい。
そうとも、もとはといえば……この業界に飛び込むことを選択するくらいには、おれは仮想配信者が好きなのだ。
「『応援してます! 二人とも頑張って!』っと。……赤スパつけちゃお。えいっ」
「おぉー。一万円だっけ? ノワふとっぱら」
「へへ……『のわめでぃあ』活動費じゃなくて、おれのポケットマネー……年末年始のバイト代からだから、安心してね」
「いやべつにそこは心配してないっていうか……気にしてないっていうか」
『んおおーー!! ほらミル気合い入れーや! のわちゃん見とるぞ! のわちゃーん赤スパありがとー!!』
『っひゅ!!? ……っ、……こほん。……余とて『Sea's』の端くれ。……無様は晒さぬ、見ているが良い』
「ひゃあーーかわいいーーーー」
(おまえのほうが可愛いよ)
(若芽様のほうこそ愛らしくございまする)
彼女たちの立ち回りを、トークを、相方とのやり取りを、おれたちは存分に拝見し勉強させてもらいながら、たまに応援のコメントを送ったりしながら……今ばっかりは配信者ではなくいち視聴者として、おれは久しぶりに配信視聴を楽しんだのだった。




