154【新装開店】何かお探しですか?
インテリア関係のセンスが皆無……というわけじゃないと思うけど、おれはぶっちゃけそんなに自信がない。
なのでまあ……下手な意地やら見栄を張らずに、素直にプロの手を借りることにする。
「お話いただいた条件ですと……このあたりでしょうか? 掛け敷き枕のカバー三点セットです。シングルサイズは……この段ですね。和風っぽいデザインとなりますと……このあたりでしょうか?」
「お……おお! すてきです! 霧衣ちゃんどうですか? 気に入った柄あります?」
「ほ、本当によろしいのですか!? わたくしのために新品など……わたくしの好きな柄など!!」
「もちろん! いいんですよ! 桜色でも若草色でも柿渋色でも一斤染色でも!」
「っ、……でっ、では…………こちらの、桜の柄で。……えへへっ」
((かわいい…………))
霧衣ちゃんが選んだのは、ホワイト地のベースに薄桃色の花びらが盛大に散らされた、上品ながら華やかなカバー。数ヵ所にあしらわれた枝のブラウンがアクセントとなり、間延びさせず良い感じに引き締めている。……と思う。
一方でおれが選んだのは、図柄化された枝葉の意匠が全体にあしらわれたカバー。似たようなモチーフなのに華やかさには大きく差が開いており……生粋の女子力の差を早くも実感することとなった。
「……まぁ、お布団はこれで良いとして。……店員さんすみません、さっき言った家具なんですけど、和室に合いそうなものってありますか?」
「ございますよ。ご案内いたしますね」
シングルサイズの布団セットと、同カバーセット。品がかさ張るものであるだけに、カートは早くもぎっちぎちだ。
すると付き添いの店員さん――おれたちが助言をお願いしたお姉さん――は襟元のマイクに何やら話しかけると、他の店員さんが新しいカートをもって駆けつけてきてくれ、布団が詰まったカートと交換してくれた。
どうやら……買い物の邪魔にならないように、レジ付近で預かっていてくれるらしい。結構買い込むつもりだったので、これは助かる。
こうして身軽になったおれたちが案内されたのは、リクエスト通り『和風』テイストで固められたエリア。
衣装箪笥やローボード、ちゃぶ台や文机やローテーブルに始まり……箱階段モチーフのシェルフや収納つき畳ベッド、行灯型のフロアランプなどなど……シックな木の色で纏められた家具類は、どれもなかなかカッコいい。
デザインはしっかりと古式ゆかしい和風家具なのに、その実体は現代の技術がこれまたしっかり用いられているらしい。部品単位で分解されており、持ち帰りはコンパクト。ドライバー一本で組み立てられるのだとか。
言うまでもなく、霧衣ちゃんのお部屋(二階和室)に置く家具を見繕うためなのだが……肝心の霧衣ちゃんは『自分のための家具(新品)』ということを受け止めきれずに早々に硬直してしまったので、仕方がないので勝手に選んでいくことにする。
……とはいっても、セレクトは店員さんにほぼ丸投げなんだけどね。いちおう『年頃の女の子・おばあちゃんっ子(捏造)で和風が好き・初めての自分のお部屋』という体で選定基準を伝えてあるので、必要であろう品々を次々と紹介してくれる。
まぁ、実際は『買わせたいもの』を勧めて来ているんだろうけど……おれの『いっぱい買うから、なるべく安い品を探したい』というお願いを覚えてくれているようなので、良いとしよう。
高級品を勧められてきたら……即さよならしていたところだ。
こうして無事に――当事者の和装美少女をなかば置いてけぼりにしてしまったままだったが――台車三台を追加で召喚してもらい、和室の家具類ピックアップを終えることが出来た。
あとは…………おれの部屋だ。
……なんとか、なんとか予算内に収められそうだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「モリアキ氏。モリアキ氏」
「ッウォォ!? ……っ、と……ビビったっすよ。いるんすね? 白谷さん」
「ははは、ごめんごめん」
先輩からの要請に従い、ダイニングとキッチンまわりの品々を見繕っているオレの肩の上に……いつのまにか微かな重みが載っかっていた。
しかもそれだけではなく、そこからはほんの微かな声が聞こえる。視線を向けてみても何も見当たらないというのに、だ。
「すっげ、何にも見えね。……姿を消す魔法ってやつすか」
「うんそう。ノワに言われてね、カード持ってきた。はい」
「カード? あぁ、クレカ……って!? …………いや、マジすかあの幼女」
「あとね、ノワたち今から家具選ぶから、結構かかりそうだって。だから先に買って、車に戻って、家まで運んどいてほしいみたいで。それでカード届けにボクが派遣されたわけだね。それで暗証番号は」
「待て待て待て待て待て! 良いです! 言わなくて良いっすから!」
何もないところから、突如出現した(ように見える)プラスチックのカード。ホログラムの印刷とICチップがあしらわれたそれは、赤と黄色の丸印でお馴染みのクレジットカード。
これで会計を行え、ということなんでしょうけど……品物確認しなくて良いんすか。これでもしオレが変なのカゴに入れてたら、どうするつもりなんすかね。……どうもしなさそうっすね。
まぁ、オレもそこまで落ちぶれちゃ居ないので、先輩に『買え』と言われたもの以外はカゴに入れちゃ居ませんが……以前にも増して警戒心がガバガバになってる気がしてしまい、さすがにちょっと頭が痛い。
「……先輩は……大丈夫なんすか?」
「今店員さんと一緒に動いてるから、大丈夫だとは思う。……まぁ、あの子は割と常に心配な子だから……そういう意味じゃ大丈夫じゃないかもね」
「了解っす。とりあえずコッチすぐ終わらすんで、したら白谷さん先輩んトコ戻ったって下さい」
「オッケー。心得た」
耳に当てていたカモフラージュのスマホを下ろしてメモアプリを開き、拾い忘れが無いかどうか再度確認する。
カート上段のカゴに入れられた食器類とカトラリー、あとは取っ手の取れる鍋セットと、包丁とまな板等の調理小物。冷蔵庫や電子レンジなんかはさすがに家電店で調達するとして……ダイニングのテーブル椅子セットは、レジ横でキープして貰っている。……とりあえずは大丈夫そうか。
「ほいじゃレジ行きますか。……暗証番号は白谷さん入力して下さい。テンキーは隠しとくんで。……数字わかります?」
「大丈夫。抜かり無いよ」
「さすがっす。……じゃ、行きますか」
白谷さんの安心感を実感する反面……こんな強キャラを先輩が手放したことに対する不安が、ふつふつと沸き上がってくる。
この不安を解消するためには、やはり白谷さんには一刻も早く戻ってもらうべきだろう。
レジに到着し、キープしてあったダイニングセットと合わせ、カゴの中身を会計する。
預かったカードを読み取り機に挿入し、左手でテンキーを隠して右手をテンキーに添える(フリをしながら白谷さんへ合図を出す)。どうでもいい会話でレジ打ちの店員さんの注意を引くことも忘れない。
幸い白谷さんの介入を怪しまれることもなく、暗証番号を受け付けたクレジットカードによって会計が済まされ……おまけに駐車場まで店員さんと台車を借りることが出来た。
こちらはもう問題ないだろう。あとは店員さんと別れてから、白谷さんに荷物を送ってもらえば良い。
心配なのは……やっぱり、あちらっすね。
いろんな意味で安心できない美少女二人組のことを……オレはさすがに、心配せずにはいられませんでした。




