表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/573

150【識者会議】保護者だからな



「貴様は如何どうやら……少ぉしばかし()()()()をしてるようだな? 『木乃若芽キノワカメ』」


「…………っ!?」



 ついさっきまで湛えていた笑みさえ消し、僅かながらに眉をひそめ……フツノさまの口から発せられたおれの名前に、思わずびくりと身をすくませる。

 眼前の神さま……その表情は深く考えるまでもなく、好意的なものであるとは言い難い。


 先ほどまでとはうって変わっての表情変化は、おれの要望――霧衣きりえちゃんを『のわめでぃあ』の出演者として登用すること――が不愉快なのだと言わんばかり。

 リョウエイさんやマガラさんにはそんなに悪印象じゃ無かった動画配信のおしごとだけど……フツノさまにとってはやはり、ネットコンテンツは気に入らないものなのだうか。




「……良いか? 其処そこ霧衣キリエ白狗里シラクリよりワレが預かり、いずれは依代シロとすべく鶴城ツルギにて面倒を観て来た」




 シラクリ、という単語には聞き覚えがある。

 この上ない激務だったお正月の助勤アルバイトを終え、なんやかんやで霧衣きりえちゃんの助けとなることを決めた際に……フツノさまよりお言葉を頂いたときだ。


 文脈から察す限りでは、彼女の苗字あるいは出身地だろうか。……などと考えていた記憶がある。




「……が、貴様も知っての通り今や『役目』を終え、ワレとの()は既に絶たれた。…………此処ここまでは理解して居るか?」


「えっと、はい…………あっ」




 フツノさまとの縁――いわゆる魔力を譲受するためのバイパス――が絶たれた代わりに、新たにおれと縁を結び……彼女が大人になるまでの間の保護者を、僭越ながらおれが務めることとなった。

 そこまでは……理解している。



 ……いや、違った。理解()()()()()()()()()()


 なるほど、そういうことか。それは確かに、フツノさまが許可なんてくれるハズが無い。




「…………痴れ者めが。ようやく思い至ったか」


「で、っ……でも、ホントにおれなんかが……決めちゃって良いん、です……か?」


「……何だ? 演目に霧衣キリエを使いたいのでは無かったのか?」


「そりゃ出てほしいです……けど……」



 ……しかし、本当に良いのか。

 おれなんかの一存で、まだ幼いこの子の向かう方向を……この後の人生を決めてしまっても。




「…………ええい埒が明かんな! 霧衣キリエ!!」


「はヒャいっ!!?」


「貴様は如何どうなのだ! の者の演目に惹かれ、道を同じくしたいと思うたか! それとも否か!」


「…………わ、わたくし、は」


「『(ダレダレ)うのなら』……などとは口にしてれるなよ。貴様自身で悩み、考えたの答を訊いているのだ」


「……っ!」



 おれの思考が行き詰まったことを察したのか、いきなり霧衣きりえちゃんへと矛先を向けたフツノさま。

 口調こそ荒々しく刺々しいが……そこに込められた温かな思いは伝わってくる。


 なればこそ、おれがこの後取らねばならない選択についても、おおよそ見当がついてきた。



「ハァ…………まァ我儘ワガママに育ててれなんだワレらにも一責在るか。……貴様は今や『依代(道具)』に非ず、おのが意思を持ついち個人。何をするも、何を考えるも自由の身なのだ。……少しは本心を主張をして見せろ。『りたい』……とな」


「っ!? な、何故」


ワレに二度も言わせるか? 貴様達キサマらは。人間ヒトカオを何千年も眺め続けて居れば造作(ぞうさ)も無い。してやソレが、寝食を共にした子であれば……尚のことよ」


「…………布都フツノ、様……」


「『木乃若芽キノワカメ』よ、聞いての通りだ。……貴様も、此奴こやつ()った自覚を持て。子の意思を理解し、信じ、ときに諭し、導き、正しき道を指し示すは貴様の役割よ。……まぁ、従順に育て過ぎたのは事実(ゆえ)、今回はワレが口を出すが……コレ以降霧衣(キリエ)が善き道を歩めるか否かは、貴様の舵取に懸かってる」


「まぁ要するに……もう霧衣キリエ若芽ワカメ殿の庇護下なのだから、布都フツノ様は口出しする心算つもり無い……って事だね」


「おい、龍影リョウエイ


「……そう、ですね。…………すみません。意識を改めます」



 ……そうだ。早合点したところがあったとはいえ、霧衣きりえちゃんの人生を背負うと決めたのは……ほかでもない、おれ自身だ。

 彼女の保護者だという自覚が、おれには足りていなかったらしい。


 要するに、おれは自分に生じた責任を見ないように……フツノさまに転嫁しようと、甘えていたんだろう。

 フツノさまが許可をくれたから、だから霧衣きりえちゃんを巻き込んでも良いのだと……彼女を巻き込むための理由づくりに、フツノさまを利用しようとしていたのだ。


 そんなことを赦してくれるほど、神さまは甘く無いってことだ。

 本人の意思さえよーく確認しておけば、彼女に掛けるべき言葉なんかは自然と口から出てきただろうに。





「……まぁ、しかし…………何だ。……如何いかな一人前の大人とて、ヒトとは所詮弱く、愚かで、儚きモノよ。……時には折れ、悩み、道を見失うことも在ろう」


「は、はぁ……」


の時は…………偉大なる先達、ソレこそ百年単位の年長者にでも教えを乞うが良い。しくは絶対的かつ()()な庇護者()る存在を頼れ。……()()程度ならば、ともすると授けて貰えるやも知れぬぞ」


「要するに……数百年生きて知識と経験は無駄に備えた僕達に、気軽に相談する。もしくは神様(※ただし鶴城に限る)に助言を求めると良い……って事だね。布都フツノ様は()に対しては見栄っ張りだし、素直じゃないトコ在るから」


「…………はいっ」


「…………龍影リョウエイ。次は無いぞ」


「存じて居りますとも。布都フツノ様」





 うん……前言撤回。


 やっぱこの神さま……甘々だわ。




「ははぁー…………なるほど。これがよく聞く『おまえがママになるんだよ』ってや」


「絶ッッ対に違うから!!!!!!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ( ゜д゜)ハッ! ゲームで鍛えてるのは踊ってみたへの布石か!? [一言] 若芽ちゃんになる前の主人公から言うと若芽ちゃんは娘だから霧衣ちゃん派孫(゜ω゜)?
[良い点] フツノさま、マジイケ神様 [一言] ※ただし鶴城に限る すき…
[一言] キリエちゃんの親……つまりワカメまま……?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ