108【年末騒動】あゝ哀しき同調圧力
「えーっと、つまり相談っていうのは……【変化】のまじない? が込められた髪留めを支給するので、それでおれに黒髪を装ってくれ…………ってこと?」
「……左様。……申し開き様も無い。一方的かつ後付での契約条件変更など、誉められた事では無いと理解して居るが……」
「あー……なぁるほど、やっぱこうなったか……」
「…………えーっと?」
マガラさん特製のトテモメッチャオイシイ茶を堪能したおれたちに、苦々しさを滲ませたマガラさんより告げられた……折入っての相談。
いったい何事かと身構えていたおれに告げられたその内容とは、要するに『黒髪になってくれ』といったものだった。
「いや、ね。ボクもノワがどんなお仕事するのかなって……タブレットとか借りて、巫女さんのアル……助勤、について調べてみてたんだけどさ? …………どこの神社もものの見事に『黒髪』指定なんだよね」
「然り。……知我麻殿も幾度と無く、其こそ今しがたも訴求を試みて居られたのだが……」
「あーなんかわかった気がする。連盟……ていうのかは解らないけど、なんか横の繋がりから苦言を呈されたとか。もしくは上から『待った』が掛かったとか」
「茶髪でさえ難色示されるらしいし……そんな中で緑の髪だもんね」
「生配信で大々的に告知しちゃったもんね、おれが『鶴城さんで助勤やる』って。……問い合わせっていうか、『緑髪なんて相応しくない!』的なクレームとか入っちゃった系かなぁ」
「……面目無い」
「うぅ……申し訳無うございます」
「「いやいやいやいやいやいや」」
いかにも申し訳なさそうに頭を下げるマガラさんと、その横で同じく『しゅん』として項垂れるシロちゃん……特にシロちゃんに至っては、頭上の三角耳も『しゅん』と萎れてしまっていて、たいへん可愛らし…………もとい、たいへん可哀想である。
そもそも、二人……というか、鶴城さんには何も落ち度は無い。宮司のチカマさんに至っては、最後の最後ギリギリまで『なんとかしよう』としてくれていたらしいし……感謝こそすれ、恨むなんてことがあるハズが無い。
そもそも……容姿がこんなであるおれが、無理を言って採用していただいている側なのだ。
「自分の髪色がそぐわないっていうのは、充分理解してます。そのままで行けるならそれで良かったですけど、ぶっちゃけ数日だけ染めることも覚悟してたので……【変化】のまじないを借りられるなら、それがいいです。髪も傷まないだろうし」
「……其所は、御安心戴けるかと。シロ達も常用する装具に御座います故」
「あぁー……そういうことだったんですね。何でシロちゃんがチカマさん呼びに行けたのかって、割と不思議に思ってたんですよ」
ともあれ、どうやらこれでおれも黒髪巫女エルフになれるらしい。
おれの特徴的な頭を探しに来てくれる(……と思う)視聴者さんには申し訳ないけど……SNSでの告知で気づいて貰えれば良いんだけどな……見てもらえるかな……。
……ううむ、やっぱ後日何らかの形でお詫びしないと。
「とにかく、仔細承知しました。わたしとしては何ら異存ありません。……予定通り、宜しくお願いします」
「……感謝、致します」
その後は、あらためて当日……ていうか今日だな。今日明日の全体的な流れを確認させてもらった。
おれを含む助勤巫女さん軍団の勤務地は『授与所』という施設で、要するに御守りや御神籤を販売……もとい、頒布するところのようだ。
また……これは覚悟の上だが、助勤そのものは明日の夕方まであるという。つまりは丸一日以上戦う必要があるわけで、かといってずっと戦い続けるのは……特に女の子にとっては、過酷というかふつうに無理。冗談や誇張じゃなく死んでしまう。
そのためシフト制で休憩、ならびに食事や仮眠に行くことになるのだが……その際に解放されている関係者専用休憩室ならびに仮眠室も、この後ちゃんと案内して貰えるらしい。
おれ一人だけの空間があるんだったら、白谷さんの【門】で一時帰宅することも簡単なのだが……この最繁忙期に一人っきりになれることなんて無いだろう。ズルは出来ないと考えている。
まぁ……色々と便利な魔法が使える時点で、だいぶズルっこなんだけどね。
「では……差し支え無ければ、装具の具合を見て頂けるだろうか。鶴城の神気にて作動する装具故、ワカメ殿の纏う神気と干渉せんとも限らぬ」
「わかりました。お願いします。……そういえば、リョウエイさんは? お仕事中ですか?」
「…………龍影殿は……現在、御客様の応対中に御座います」
「お偉いさんだもんね。そりゃ忙しいか」
「アッ、そっか。大晦日だもんね。……えっと、じゃあ試着? お願いします」
「うむ。承知仕る。……シロ」
「はいっ! ではワカメ様、此方へ」
「マガラさん、お茶ごちそうさまです。失礼します」
「……御粗末様……である」
シロちゃんに案内されるがまま、いつも更衣室として使わせて貰っている部屋へと移動する。
おれたちの長い長い激闘の一日が、いよいよ始まろうとしているのだ。




