101【報告配信】今後の方針
中部地方でも屈指の神格と規模を誇る、浪越市神宮区の『鶴城神宮』。そこを動画配信者として取材し、動画を作る許可を貰ったと言ったところで……一般的な反応としては『そ、そっか。頑張れよ』といったところだろうか。
それが悪いというわけでは勿論無いし、むしろ中部日本以外に在住の視聴者さんにとってはこの反応のほうが普通だろう。
今日日テレビは勿論、旅行雑誌やインターネット記事、果ては個人ブログなどで……全国各地の観光地の情報は――鶴城神宮も含めて――自宅に居ながらにして得ることが出来る時代なのだ。
まぁ、かくいうおれも今まさにそれに乗っかろうとしているのであって。
しかしながら、おれがわざわざ『重大発表』と銘打ってこのことを告げたのは……ただの個人ブログなどとはひと味違う、とっておきの内容を詰め込むつもりだからに他ならない。
『決め手に欠ける』との印象が拭えていないだろう視聴者さんに、それを今から教えてあげようではないか。
「『鶴城神宮』……鶴城さんの名で呼ばれ親しまれているお社さまなんですが、みなさんご存じですか? 加賀見さんと御霊さんと並んで日本三大神宮とも呼ばれ、日本の神話にも登場するあの神剣が厳重に祀られているという……たいへん霊験あらたかなお宮さんなんですね」
「スゴかったよねー……なんかもう、境内の空気からしてもうなんか……すごい。すごく、すごい。少なくともボクにとっては、非常に居心地が良い森だったよ」
「そう、すごいところなんですよ。本殿以外にも境内には様々な名所やパワースポットがありましてですね……その密度がまたすごいんです。名所の密度がすごいんです」
「二回言ったね。大切なことなので」
「そしてそんな数々の名所の中にはですね……知る人ぞ知る、ある一つの名所があるんですよ! その名はずばり……『鶴城神宮宝物殿』です!」
「『刀』を携えたキャラクターでお馴染みのゲームが流行ってから、一気に注目を浴びた施設なんだってね。ゲームのユニットにもなってる『刀』が、何振りかはなんと実際に収蔵されてるんだって」
「今回わたしたち『のわめでぃあ』が重大発表として触れたのはですね……なんと! 普段は撮影が全面的に禁止されている『宝物殿』内部の撮影許可を頂いたからなんです!!」
「特例っていうか、異例のことみたいだね。普段は撮影禁止の場所を、バッチリ撮影させて頂きました。……鶴城神宮関係者の皆様、ご協力ありがとうございます」
「ありがとうございます!!」
インターネットで入手できる他の観光情報とはひと味違う、おれたちならではのアピールポイント……それはずばり『撮影禁止区画での撮影許可を特別に頂いた』という一点である。
歴史的・学術的価値のたいへん高い収蔵品を保護するため、それらの展示区画は厳重な環境管理のもとで保管されている。
カメラのフラッシュ等のような強力な光は、収蔵品によってはその劣化を早めてしまう一因とも目されているため、万全を期するためにカメラの使用禁止・撮影禁止を掲げる博物館は、決して珍しいことではない。
そんな撮影禁止区画での、特例ともいえる撮影許可。しかも最近の若者に大人気の、世界に名だたる刀剣が多数収蔵されている『宝物殿』である。
何かのタイミングで直接足を運べる近郊の視聴者さんならばまだしも……遠方にお住まいで、かつ刀剣に興味が深い視聴者さんにとっては、朗報と言えるのではなかろうか。
「それでですね……この『宝物殿』を含め、鶴城神宮の魅力を余すところなくご紹介する動画シリーズをですね! 近日ご紹介予定です! こちら、全三弾を予定してまして……第一弾は鶴城神宮の概要と本殿および境内全体の総合案内、第二弾は鶴城さん参拝の際は欠かせない、境内や近郊の美味しいグルメについて重点的に……そして」
「〆の第三弾で、その例の『宝物殿』をたっぷりとご紹介するって寸法だね」
「そうなんです。全部纏めてしまうと長くなっちゃって、皆さんが興味ある部分が探しづらいかなって思いまして……なので、ジャンルごとに三つに分割して作ることにしました!! グルメ動画好きな視聴者さんは第二弾、うわさの『宝物殿』に興味がある方は第三弾だけを見られるようにですね!」
「それぞれ特化した分、専門性と密度が高いからね。きっと楽しんで貰えると思うよ。……楽しんであげてね、ノワ頑張ってるから」
「がんばってます!!!」
白谷さんと二人、掛け合いでの概要説明を淡々と行い、これから年末へ向けての動画公開スケジュールまで公表する。
……とはいっても、大晦日まではもう一週間も無い。明日からさっそく『第一弾公開予定日』『第二弾公開予定日』『第三弾公開予定日』と続き……やけにゴテゴテと飾り付けられた『大晦日』、そして『元旦二〇二〇』へと続く。
ほぼ日刊で動画を投稿していくおれの頑張りを褒めてくれる声も多く、やっぱりちょっとほっこりする。
そしてこのあたりで……この今回のおれの装いがこうである理由を、視聴者さんが察し始める。
これから鶴城さん動画シリーズを公開していくための、その宣伝の一環としての巫女装束なのだろうと……動画公開に向けた話題作りなのだろうと、コメント欄の雰囲気が良い方向へと集束し始める。
それも決して間違いではないのだが、さすがに本当の理由まで思考が及ぶ視聴者さんは――おれの最大の理解者である神絵師を除き――居なかったようだ。
「さてさて。シリーズ動画の予告も宣伝できたことですし……やっとこの衣装の説明に移れそうですね!」
「おお? ついに! ……やっとだね。スタートからごく一部、本当に熱烈なコメントが止まなかったよ」
「えへへー。わたしもここまで喜んでもらえるとは思いませんでした……ぷみやさん、へちょさん、goddesuさん、茎ワカメさん、KUROUDOさん、ほか多くの皆さん! 熱い声援をありがとう! 注目してくれてありがとう!」
「ありがとうね。……ところでノワ、そもそもその衣装……誰がどんなときに着るものなの?」
「これはですね、いわゆる巫女装束……つまりは巫女さんの仕事着なんですね。カッコよくて、可愛らしくて……なかなか根強い人気がある装束なんですよ。鶴城さんとかにも巫女さんいっぱいおつとめしてますし、年末年始参拝される視聴者さんなんかはよく目にする衣装だと思います」
「ふぅーん…………じゃあ何? 今ノワがその装束を着てるってことは、年末年始ノワも鶴城さんでおつとめするってこと?」
「うん。そうなの」
「ほぉー。よく似合ってるよ。がんばって」
「えへへ……うん。ありがと」
非常に……非常にあっさりと告げられた、燃料投下みっつめ。
コメント欄が大混乱の様相を呈し、感嘆符が乱舞したのは言うまでもなく。
正直おれたちが予想していた以上に、視聴者さん達のリアクションはすさまじかった。
ちょっ、あの……スクロール速度が半端無い。早い早い早い。
これはやばい。おれの目じゃなかったら見逃しちゃうね。
んふふ。良いリアクションを、ありがとう。




