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中編:提督からの依頼 その3

 そして二日後の昼。青空のパーティハウスには、提督の姿があった。

 パーティハウスの広間には、青空の尻尾が一人を除き全員集まっている。ただ一人、ミカが居ない。

 そしてミカの代わりか、クロが提督に差し出す刀を持っている。そして、その刀を提督へ差し出した。


「どうぞ、これが完成した刀です」

「ああ、感謝する。では、早速失礼」


 クロが刀を差し出す。それを受け取った提督は、刀を抜いた。

 その輝くように美しい刀身を見て、感嘆する。


「素晴らしい……この手に馴染むような感触。そして、逆に私の手から吸われてしまいそうな。魔力の通り具合。これは断言して良い。今までで一番、素晴らしい刀だ」


 すると、クロだけではない。次にリーナが提督の前に出てくると。


「はいこれ。これもミカッが作った物よ。最終調整はあたしが済ませてあるから」


 そうしてリーナは、黒光りする、一本の巨大なリボルバー式拳銃を差し出した。


「これは……頼んでいないが」

「ミカッ提督にって。銃も大分痛んでいたから、おまけに作ったって言ってたわ」

「……これも素晴らしい。代物だ。これほど大きい銃でありながら、手に馴染む。私は銃をサブウェポンとしているからな。ありがたい」


 銃と刀を受け取った提督は、懐から袋を取り出した。その袋を、ショーティアに差し出す。

 ショーティアが袋を開くと、そこには。


「あらあら、素敵な宝石……いえ、これは魔力結晶ですわ」

「なんと! すごいであります! とても綺麗でありますー!」


 興奮するルシュカをよそに、提督はショーティアに話を続けた。


「刀と銃の代金だ。過去にSランク冒険者であったころに、大空洞で手に入れたものだ。宝石としても、素材としても価値が高い。五百万ギニーは下らないだろう。足りるだろうか」

「はい。むしろ多いくらいですわ。ミカさんにお渡しして、使い道を決めさせて頂きます。感謝致しますわ」


 そうして代金を渡した提督は、周囲を見渡し、ミカの姿を探した。


「して、そのミカは居ないようだが」


 と提督が呟いた時だ。広間の入り口に、一人の男性が姿を表した。


「で、なんか弟子が、俺と戦いたいって言ってる奴が居るって連絡が来たが」

「……ミルドレッド」


 そこに現れたのは、ミルドレッド、つまり男性の姿に戻ったミカだった。

 ミルドレッドは、提督の近くに寄ると、尋ねた。


「にしても、提督さんが、何でSランクパーティを追放された俺と戦いたいって?」

「そうだな。手合わせを望んだのは私だ。一つは、貴君の弟子に作ってもらったこの刀を試したいこと」

「それなら他のSランク冒険者に頼めばいい」

「他のSランク冒険者では相手にならない。そして、アンジェラから、貴君はS+ランク並の実力を持つと聞いた。もう一つは……手合わせの際に話そう」

「そうか。それじゃ、早速手合わせするか。とは言っても、どこでやるか……」


 とミカが考えていたところ、それを見ていたアゼルが提案した。


「なぁミカァ、クロがいつもひっそり訓練しているところなんてどうだ?」


 と発言したアゼルに、クロが「に゛ゃっ!?」と声をあげ、アゼルに詰め寄った。


「あ、あ、アゼル!? な、なんでそれを!?」

「お? 気づいていないと思ってたんかぁ? クロがいつも朝、一人でひっそり魔法の特訓してるの、皆気づいてっぞ?」


 クロがアゼル以外の皆の顔を見る。すると。


「自分も知っているでありますよ? 毎朝、ミカどのよりもさらに朝早くに起きて特訓して、再度寝ているでありますな!」

「あらあら。せっかく見守っていましたのに、アゼルさんったら」

「嘘、ガリ猫、一人で訓練してたの!? あたしも負けてられないわね」

 

 そしてシイカは、両手の親指を立ててダブルガッツポーズ。明らかに知っているようだ。


「う、うわあああ!」


 クロが恥ずかしそうに、耳をたたんで蹲ってしまう。そんなクロを見てミルドレッドは。


「そうだったのかクロ。俺は知らなかったよ」

「うう、恥ずかしい……」

「でもアゼルが言うのなら、その訓練してる場所って、戦うには適した場所なのかもな。よかったら教えてくれないか?」

「……キミが言うなら」


 そう言ってクロの案内のもと、青空の尻尾および提督は、その場所へと向かった。


〇〇〇


 クロが訓練していた場所というのは、パーティハウスから比較的近場であった。

 崖際に建つパーティハウス、その崖を降りると、開けた場所がある。

 足元は砂利のような細かい石だらけだが、パーティハウスの広間が数個はすっぽり入ってしまうような、広い場所だ。

 そこは以前、密輸船と接触した商船に乗っていた商人が流れ着いた場所であり、青空の尻尾が海軍と特別契約するに至ったきっかけの場所だ。


 そこへやってきたミルドレッドは、周囲を見て唸った。


「確かにあちこちに魔力痕がある。クロ、かなり練習してたんだな」


 そしてミルドレッドの目の前には、提督の姿が、二人から離れた場所で、他のパーティメンバーの話し声が聞こえる。


『ショーティアどの、なんでこんなに離れるでありますか!? もっと近くで見たいであります!』

『あらあら。お二人はS+ランクとも言える実力の持ち主ですわ。近くでは危険なので』

『そうだぜルシュカ。ウチももっと近くで見てぇけど、こればっかりはな。んじゃ、ウチとルシュカが前の方で見るぜ。万一攻撃が飛んで来たら、皆を守らねぇとな』


 と、皆遠くからミルドレッド達の様子を見守っていた。

 そんな最中、提督がミルドレッドに話しかける。


「貴君と戦いたいもう一つの理由を話そう。貴君は、八年前に起きた、大クラーケン撃退戦に参加していただろう」

「大クラーケンか。懐かしいなぁ。まだ紅蓮の閃光がBランクの時だったか。ヴェネシアートから少し離れた海の上で、Sランク冒険者と海軍総出であたった撃退戦だな」

「その通りだ。クラーケンは巨大なイカのモンスター。強さはBランクほどだ。出現頻度も比較的高く、出現次第通常ならば海軍が対応にあたる。だが、あの時現れたクラーケンは、海軍だけでは対処しきれぬものだった」

「クラーケンクイーン。数多のクラーケンを従える女王のような存在。一つの町をも飲み込める大きさで、強さもSランク級、そしてそれに従えられたクラーケンも、Sランク級の強さになる。最も、確か海底ダンジョンから出現したモンスターで、歴史上初めて出現したモンスター。まだその時は名前も無かったな」


 そのクラーケンクイーンが、ヴェネシアートへ接近しつつあり、撃退が必要になったというのが八年前だ。


「私は元々海軍に所属していた。だが友人となった少女から力を貸してほしいと頼まれ、海軍より許可を貰い、一時的に冒険者パーティへ加入した。それが十一年前だ。そして八年前、母国の一大事と聞きつけ、所属していた冒険者パーティと共に撃退戦へ参加した」


 しかし長い歴史上、初めて出現するモンスター。そしてそのモンスターの数。海軍とSランク冒険者の力を借りて、ようやく互角といったところ。バレンガルドや近隣国へ支援を要請したが、増援が来るよりもヴェネシアートが襲われる方が早い可能性が高かった。

 

「だが、当時の提督であった『白髭』の称号を持つ老齢の提督……ベルセルクというタンクのクラスであり、私の恩師でもあった提督が命を賭けてクラーケンクイーンを引きつけ、ヴェネシアートに到達することなく、撃退に成功した。だが私の恩師は、その時の傷が元で……今こうして私が提督の地位に居るのも、恩師の推薦があったからだ」

「推薦だけじゃない。周囲からの評価も高かったもんな提督。俺が前のパーティで参加したとき、そこに提督が戻ってきたとき『来た! 姐さんが帰ってきてくれた!』『メインアタッカーが来てくれた!』『これで勝てる!』ってお祭り騒ぎだったもんな」

「皆が慕ってくれるのは、嬉しいことだ。そして、改めて貴君に尋ねたい」


 すると、提督はミルドレッドに改めて尋ねた。


「あのとき、私は十五体目のクラーケンを倒したあと、クラーケンクイーンに挑んだ戦闘で負傷した。血を流しすぎ、意識さえ朦朧とするほどに。そして恩師の船に落ちたことまでは覚えている。その時、恩師は船に迫ったクイーンの攻撃を、隣に立っていた『学術士』と共に弾き返した。あれが無ければ恩師の船は沈んでいた。意識が朦朧としていた故、記憶が曖昧であるが……そんなことが出来るのは、S+ランクの冒険者しかあり得ない」


 そして提督は一呼吸置いて、言った。


「あの時、恩師の船に乗り、私を、そしてヴェネシアートを救ったのは、貴君ではないか?」


 その質問に対してミルドレッドは、腰に着けていたグリモアを手にして言った。


「そうだな。その話はあとでいいか? 手合わせがメインだろ? 時間が無くてな」


 時間が無い。そう、ミルドレッドには時間が無い。


(男の姿で居られるの、あと40分くらいか)


 早く終わらせないとミカの姿に戻ってしまうからだ。


「手合わせはアリーナ形式でいいか? 身代わり魔法人形を用いた模擬戦だ。お互い、一撃でも攻撃を受けた方が負け。一撃なら、身代わり魔法人形で無効化できるからな」


 と、ミルドレッドは二体の小さな魔法人形を取り出し、一体を提督に渡した。

 提督は魔法人形を懐へしまうと。


「承知した」


 ミカが作った刀を抜く。その刀身が、魔法で水色に白光する。

 それを見たミカも、腰にかけたグリモアを手に取った。


「行くぞ、ミルドレッド。アンジェラの認めたお前の力、私に見せて見ろ」

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