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中編:提督からの依頼 その1

「ミカァ、この鋼鉄ってのは、ここに置いておけばいいのか?」


 青空の尻尾のパーティハウス。その敷地内に、新たに小さな建物が作られていた。

 窓が複数設置された、比較的解放感がある建物で、壁には耐熱の魔法素材が練りこまれた土壁が使用されている。

 その中に鉱物の入った袋を持ってきたアゼルは、中で材料の確認をしていたミカに尋ねた。

 するとミカは。


「ああ、ありがとうアゼル。そこに置いてくれ」

「おうよ! にしても、この玉鋼の材料ってのは中々高けぇな! 提督の金とは言え、買ったときの値段にびっくりしたぜ!」

「ヤマトの国の貿易船から買った、最高級の鋼鉄だからな。値が張ってしかるべきだ」

「にしてもよぉ、提督から直接依頼もらうなんてな。やるじゃねぇかミカァ!」


 アゼルの言う通り、ミカはヴェネシアート海軍の提督から依頼された、彼女用の武器作成の準備を行っていた。


「にしてもよミカァ。その依頼のためだけによぉ、よくこんな所作ったな!」

「中々作成が難しい武器なんだ。今まではパーティハウスの外に鍛冶道具持ちだして装備作ってたが、依頼されたのは専用の施設が無いと、中々作るのが難しくてな。せっかくの機会だから、専用の施設を作ったんだ」


 ミカとアゼルの居る、土壁の建物。これはミカが作ったものだ。そして中に入っている、鍛冶用の様々な器具。それもミカの手製のものだった。

 ミカの話を聞いたアゼルは、ミカに尋ねた。


「そんな難しいのか? ミカァが依頼された武器を作るってのは」

「ああ、何せ……」


 ミカが提督に作成依頼された武器。それは。


……

…………

………………


『刀か』


 それは昨日のこと。急きょ海軍から呼び出されたミカは、ヴェネシアートの海軍本部へと赴き、提督の執務室へと案内された。


『そうだ。私の刀を作ってほしい』


 そこで、ミカは提督から刀の製造を依頼された。

 しかし、ミカは提督に聞き返す。


『刀の作成を頼みたいというのは、先日うちに来た時に言ってたよな。にしても、何故俺に依頼を?』

『その時に話しただろう。君が腕の良い職人だと聞いたからだ』


 腕の良い職人。それは間違いないだろう。ミカの手にかかれば、それこそDランク級の素材から、A以上、もしくはSランクに匹敵する装備を作れる。素材の質の悪さゆえ、耐久力には難があるが、それでもかなりの代物となる。

 だが、そのことは提督は知らないはずだった。男性の、ミルドレッドの姿ならともかく、今のこのリテール族の姿は、腕の良い職人には一切見えない。

 

『腕の良い職人……師匠ならまだしも、俺も職人と……誰から聞いたんだ?』

『無論、アンジェラからだ。質の良い武器を求めていると聞くと、彼女は君を推してきた』

『……なんとなく察してたよ』


 王女であるアンジェラの勧めであれば、提督も信じざるを得ない。そして、さらに提督は腰につけた刀を抜き、その刀身を眺めた。刀には、ひどい刃こぼれがある。


『先日の、ドラゴニュート襲撃の際、君も見たであろう。私は剣や刀に魔力を込めて戦う、近接アタッカーのクラスだ』

『ああ。それもかなり強い。Sランクか、S+には匹敵する』

『S+か。冒険者時代はよく言われたものだ。だが、そう呼ばれるようになった頃から、私の魔力に武器が耐えられなくなってしまった。弱いモンスター相手であれば問題は無い。だが、あのように強力なモンスターであれば、全力を出さねばならない。そうすれば、私の魔力ですぐに武器は駄目になる。そして私はリバウンドで蝕まれる。劣化が早すぎて、手入れも追いつかない』

『ヴェネシアートにも腕利きの職人は居るはずだし、これだけ貿易が盛んな国だ。刀であれば、ヤマトの国から仕入れることもできるはずだ』

『無論、試した。だが、腕利きの職人に頼んだ武器もすぐに劣化した。そしてこの刀も、ヤマトの国から仕入れた、最も良い刀だ。一度使用しただけでこのざまだ。だが、これでも持ったほうだ』


 あまりに強すぎる魔力。それに耐えられる武器が無い。


『大空洞の素材を使用した武器。それであれば、私の力に耐えうるだろう。だが、それらはダンジョンを踏破する冒険者が握るべきものだ。私が持って良いものではない。だが万が一の事態に備え、極力良い武器を手にしておきたいのだ。それこそ、数度は私の魔力に耐えられるような』


………………

…………

……


 そうして依頼を受けたミカは、刀を作る準備を始めた。

 提督から材料費などを受け取り、ミカができる限り、最上級の一品を作ることとなった。

 その話を青空の尻尾にしたところ、皆は「材料調達や鍛冶場を作るくらいは手伝わせて欲しい」と自ら申し出て、準備を手伝ってくれた。

 アゼルが鋼鉄を運び、ルシュカやショーティアも素材を運んでくれていた。


「ではミカどの! この煉瓦はここに置いておくであります!」

「助かる。それは玉鋼というものを製鉄するのに使うんだ」

「ミカさん、火属性と風属性に偏重したマナストーンもお持ちいたしましたわ」

「ありがとう。これは製鉄ってのをするのに使うんだ。本場のヤマトの国では、たたら製鉄って、本当はもっと大規模な施設を使ってやるんだが……さすがにそこまでのものは作れない。以前何とか工夫して、マナストーンを利用すれば、かなり近い製鉄ができることに気づいたから、その方法を取るんだ」


 そして窓から外を見ればシイカが、刀の柄の素材になる朴木を置き、そのまま素早い動きで遠くへ隠れている。


 そうして、一通りの素材が揃ったところで。


「皆、あとは大丈夫だ。それと、良かったらクロを呼んできてくれ」


〇〇〇


 ミカが一人、鍛冶場となった小屋で準備を進めていたところ、そこにクロが現れた。


「ミカ、僕を呼んだみたいだけど何だい? お使いでもなんでも手伝うよ。ミカに言われて休んでいたおかげで、元気いっぱいだ」


 ミカはクロに、事前の素材集めなどは手伝わなくて良いと言っていた。そのためクロは暇していたのだが、ミカに呼ばれたことで、逆に元気が一杯になっている様子だ。


「ああクロ。実はな……結構キツい事を頼みたい」

「なんだい? 僕に手伝えることなら、なんでも言ってほしい。ミカの力になれるなら」


 すると、ミカは集めた素材の一部である、火属性と風属性に偏重したマナストーンをクロに見せた。


「刀を作る上で大切な事の一つは、製鉄だ。刀の素材、玉鋼という素材を作る過程の一つだ。ヤマトの国ではたたら場という施設で作るらしい。だが、そこまでの施設をここで準備するのは……できなくはないが、難しい。そこで、ここにある最低限の施設で、火属性と風属性のマナストーンを用いて、製鉄を行う」

「二つの属性を……」

「ああ。風属性は、火属性を強化する性質がある。これを使って、加熱して製鉄する。だが、かなり神経を使う作業だ。マナストーンを用いても、半日以上はかかる。製鉄後も、刀を打つのに火が必要だ。長時間安定した火力調整を、二つのマナストーンを用いて行ってほしい。魔力の調整に長ける、ソーサラーのクロにお願いしたい。頼めるか?」


 すると、ミカの言葉を聞いてクロはとても明るい笑顔を浮かべた。


「わかったよ。ミカの力になれるなら、半日くらいへっちゃらさ」

「かなり大変な作業だ。火傷だってする可能性が高い。もちろん、あとでヒールをかけるが……」

「僕が手伝わないと、ミカがその作業を一人でするんだろう? ミカの負担が減らせるなら、ちょっとの火傷くらい平気さ」

「……本当に助かるよクロ。それじゃ、もう少ししたら早速始めるぞ」


 とミカとクロが話していた時だった。

 鍛冶場となった小さな小屋の入り口に、一人の女性の姿が現れる。


「ほう、町で出会った、あの赤ずきんのリテール族から、既に準備をしていると聞いたが、まさか既に作り始める直前とは」


 そこに立っていたのは、ヴェネシアート海軍の提督、その人だ。


「提督? 何でここに?」


 ミカが尋ねると、提督は。


「ドラゴニュートの一件の後処理が、ようやく落ち着いてな。周りから強く勧められたもあり、今日は休暇だ。故、私の武器が産まれる瞬間に立ち合いたく。すまないが、見学とさせてもらおう」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 97/97 ・イラストいいね! [一言] 武器が耐えられないという強者特有の悩み。 他作品では、刀を捨てて素手で殴るようになった女神や、刀を身体の一部にしたスライムなんかがいますね。
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