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35話 サポートヒーラーとカオスグリモア

 ドラゴニュートと化したライアスは、その巨体をもって四人に突撃してくる。

 だが、ミカが目の前に魔法障壁を展開して、その巨体を弾いた。


『グオゥゥ……邪魔な、バリアが……!』


 ライアスがドラゴン化して拳で、何度も魔法障壁を叩く。しかし、びくともしない。


「この攻撃に簡単に耐えるなんて、さすがはミカッね」

「この程度ならな。アゼル、次は頼めるか?」

「おうよ、こいつをひきつければいいんだろ? でも痛みを強くするパラディンのスキル程度で引き寄せられっかなぁ」

「大丈夫だ、こいつは処女の血に引き寄せられる!」

「おう! 処女……ってなんかわかんねぇけど、とりあえず血だな!?」


 そう言うと、アゼルは剣で自らの腕を切り付け、そこから流れる血を頭と盾にこすりつけた。


「い、いやアゼル、俺の血を使えばと思ったんだが。と、とりあえずヒールしとくぞ」

「ありがとな! んじゃ、タンクの仕事してくるわ! さすがにでかくてウチだけじゃ耐えられねぇから、バリアは頼んだぜ!」


 そう言ってヒールを受けたアゼルが、ミカの展開するバリアの外へ飛び出す。

 すると大声でライアスに言い放った。


「おおい! こっちだ! 新鮮な美味い血がこっちにあるぞ!」

 

 すると、くんくんと鼻で匂いを感じ取ったライアスが。アゼルへと向かっていった。


『グゥゥ……血、処女、処女の血!』


 そしてアゼルにライアスの敵視が向かったことで、三人はフリーになる。

 

「……アゼルも処女なんだな。いや、それよりも今は、二人とも」


 すかさず、ミカが二人に指示を行う。


「クロ、アゼルがひきつけている間に、弱点探しを頼む。リーナ、予定通り、倒れている人を集めてくれ」

「ああ、僕にまかせてくれ」

「頼まれたわ。の前に、この薬を飲まないとね」


 リーナがミカの作った薬をポーチから取り出す。


「……これ、最高級品じゃない。でも、もったいないとか言ってられないわ」


 リーナは薬を口にしつつ、広場の各所に倒れている人々のもとへ向かった。

 そしてクロは、ライアスへと接近する。

 クロの接近に気づいたアゼルは。


「んじゃ、タンクらしく仕事するぜ。セイントスキン!」

「アゼル、俺の防御バフもかける。痛みを与えるパラディンの技を使え!」


 自らに防御バフをかけつつ、ミカからの防御バフももらったアゼルは、盾を前に構えつつ、右手に持った剣を自分の背後の床に刺した。

 ライアスの振り上げたドラゴンの爪を、盾で受け止め、そのまま剣を振りかざし、ライアスの腕に切り付けた。


『グアアアウゥ……この、下等種族が……ぐ、い、痛み……なんだこの痛みは……痛い……血が、血が足りない』


 強い痛みを受けたことで、さらに血を欲するライアス。そしてその視線は、血を体に着けたアゼルにくぎ付けになる。これは、タンクにしかできない芸当だ。

 ミカ一人でも、最悪ライアスをひきつけることはできる。一対一であれば、まず負けることは無いだろう。

 だが、周囲に多くの人が倒れている現状、奴が血を欲すれば、周囲の人々に被害が及ぶ可能性がある。ミカであれば、彼らにバリアを貼ることで済むだろうが、リーナによる運搬は遅れることは必至だ。

 もう一つの方法として、魔法障壁にライアスを閉じ込めることもできる。だが、そうなれば外からも中からも攻撃できない。唯一ミカのグリモアバーストで攻撃ができるが、ライアスの謎の再生能力は未知数だ。何より、ライアスの攻撃を受け止める魔法障壁を常に貼るというのは、ミカの魔力の消耗も大きい。それでも数日持つほどの魔力をミカが有しているが、効率が悪すぎる。そして魔法障壁により、クロの分析もできなくなる。一つの方法としては有りだが、非効率極まりない方法だ。

 この状況で、タンクとしてライアスの攻撃をひきつけてくれるアゼルの存在は、非常に大きかった。タンクへの魔法障壁という、最低限の魔力消費で済むからだ。

 アゼルがライアスをひきつけている間、リーナは広場の中を駆けていた。


「一人目……二人目……あの子が引き付けてくれるから、運ぶのが楽ね」


 リーナは続けて、広場の中に倒れる人々を、ライアスから一番離れた場所へ連れてゆく。

 すると、広場を囲む魔法障壁、その外に立つ兵士たちと目が合った。


『わ、我々もお手伝いを!』

「無理よ。正直足手まとい。せっかくタンクがひきつけてくれてるのに、あんたたちが来たらめちゃくちゃじゃない。それに、あなたたちを入れるには魔法障壁を消さないといけないわ。せっかく周囲の安全のためにミカが広場に張った魔法障壁を解除するリスクの方が高いのよ」

 

 リーナはさらに怪我をした人々を運搬した。

 そこにミカは、アゼルがライアスをひきつけていることを利用し、一瞬ライアスの側を離れ、怪我をした人々が集められた場所へ駆けつけると。


「持続回復の陣を展開する!」


 先ほど路地で張ったような陣を展開し、継続的なヒールが行われるようにした。


「リーナ、引き続き頼む」

「ええ、まかせて。倒れている提督も、皆ここに運んでくるわ」


 ミカはすぐにライアスのもとへと戻り、アゼルにヒールと防御バフ、そして魔法障壁を張り続ける。

 アゼルはミカのサポートもあり、ライアスの敵視を稼ぎ続けていた。


「しつけぇなてめぇも、そんなだからモテないんだぜ?」

『グオゥゥ……黙れ、黙れ、下等種族ガアアア!』


 すると、息をスゥと吸ったライアスが、勢いよく口から火を吐き出した。

 だがその火は、ミカの張った魔法障壁に弾かれる。


『グゥゥ、足りない……血が、足りない……!』


 その時だ。くんくんと鼻をならしたライアスの視線が、アゼルとは別の方向を向いた。

 そこに居たのはリーナ。そして、リーナに抱えられた提督だった。

 提督は、命に別状はないものの、ライアスに手で締め付けられた際、爪が食い込んだことによる出血があった。その匂いをライアスは探知したようだった。

 ライアスの気配に気づいたリーナが、ライアスに向かって銃を放つ。だが、銃弾程度ではライアスは止まらなかった。


「リーナ、心配するな! 俺が魔法障壁を張る!」

 

 とミカが魔法障壁を展開しようとしたときだ。


「フォトンショット!」


 クロの声が響き渡る。クロの放った魔法が、ライアスの背中にぶつかった。

 しかしクロの攻撃では、致命傷には至らない。ライアスは、すぐにクロの方を向き直った。


「ライアス……宿で押し倒すほどに欲した、僕の血だよ。どうだい? 食べたくなったかい?」

 

 その腕からは血が流れている。見れば、落ちた建材の破片で自分の腕を傷つけていた。

 まるであえて自分の方へ誘おうとしているクロ。クロの声に反応して、ライアスがうめく。

 

『クロ……黒猫……一番食いたい、食いたいぃぃ!』

 

 クロがヒューマン族を苦手になった理由。その相手と対峙しようとも、クロは一切臆していなかった。それは仲間、そして誰よりも頼りにしている、サポートヒーラーへの信頼によるものだ。

 その時、ミカとクロの視線が交わった。クロがコクリと頷くと、ミカはクロの意思を察し、次にアゼルの方を見た。

 ミカがアゼルに目くばせすると、アゼルは一瞬首をかしげたが、すぐにミカの意思を理解してか、クロの側に近寄る構えを見せた。


『クロォォ! 食わせろおおおぉぉ!』


 ライアスがクロへと突進する。すぐさま、アゼルがクロの前へ出て盾を構えた。

 そしてミカは、二人に魔法障壁を貼る。

 その魔法障壁に、ライアスが衝突した瞬間、クロが反応を見せた。


「見えた! そこだ!」


 クロがグリモアを手に、魔法を詠唱する。


「フォトンフレア!」


 クロが呪文を詠唱すると。ライアスの右わき腹に、魔法による小爆発が起こった。

 魔力を凝縮した小爆発により、ライアスの右わき腹がえぐれる。

 その傷口から骨とは違う、何やら棘のようなものが一本、顔を出した。


「ミカ、それだ! それがライアスの中にある異様な魔力だ!」

「ミカッ、それはあたしにまかせて!」


 そう言って飛び出してきたのは、リーナだった。リーナは手にしたかぎ爪ロープをライアスの首に向かって投げ、その鱗にひっかけた。ライアスがそのかぎ爪ロープに反応して振り向くと、かぎ爪ロープは引っ張られ、その勢いで、ロープを手にしたリーナの体が宙に浮いた。


「森ではよくこうして、移動したものよね!」


 リーナがライアスの脇腹に飛び掛かると、脇腹に掴みかかり、そのまま傷口の中にあった棘を引っ張り抜いた。


『グギャアアァァ!』

 

 獣のような、声にならない声をあげて爪を振り回すライアス。

 すぐさまリーナはライアスの体から離れた。しかし。一つの不運がリーナを襲った。

 ライアスの爪の先には、血がついている。それは冒険者や兵士を傷付けたり、もしくは先ほど掴んだ、提督の血だ。

 わずかについてた血が、腕を振り回す勢いで飛び散る。その一部が、リーナにも降り注いだ。

 そしてリーナの顔が、爪から飛び散った血しぶきで染まる。無論、リーナの口の中にも血液が入り込んだ。


「リーナ、大丈夫か!?」


 ミカがリーナに問いかける。リーナは自身の胸を押さえて、立ちすくんでいた。


「あたし……血……なにこれ……美味しい……なんで、こんなに美味しいの……」


 立ちすくみ、震えるリーナ。しかし。


「美味しい……でも、それだけね!」

 

 リーナが不敵な笑みを浮かべた。リーナの姿は変身することなかった。その首には、ミカより渡された首輪が着けられている。

 一方でライアスは、なおも血を欲している。


『体が……重い……血、チィィィ!』


 そして広場の一角に、リーナが負傷者を集めた一角を見つけたライアスが、そこへと走り向かう。だが。


「ミカッ、やれるわよね?」

「信頼してっぞ、ミカァ」

「あとはまかせたよ、ミカ」


 三人の声に応えるように、ミカが魔法を詠唱する。


「魔法障壁、展開!」


 瞬間、負傷者の集まる一角の周囲に、魔法障壁が展開された。その魔法障壁に爪を弾かれるライアス。そして。


「拘禁式魔法障壁、展開!」


 ライアスの周囲に魔法障壁が展開される。その魔法障壁は、明らかにライアスを捕らえるためのものだった。


『血、血イィィィ!』


 内部から魔法障壁を破ろうとするとライアス。だが、魔法障壁はびくともしない。

 そんなライアスに近寄るミカ。


「……哀れだな」


 血を欲する化け物と化したライアス。産まれながらの血統しか誇れるものが無く、故に他種族を見下し、卑下してきた者の末路だ。


「ライアス、聞こえてるかわからないが、お前のその様相。ドラゴン種でも下級も下級、グレイドラゴンにそっくりだ。たぶん、それがベースになってるんだろう。正直変身したリーナよりずっと弱い。それでもその強さ。お前をそうした奴が凄い。正直ヤバいって思うのが感想だ」


 だが、ミカの語りはライアスに届かず。


『リテール族ぅ……食わせろぉ! 血肉を! 食わせろぉ!』


 血を求めるその姿は、まるで本能に従うだけの、下級のモンスターにしか見えなかった。


「……届いていないか。でもまぁ、安心しろ。こう見えてヒーラーだ、加減はわきまえている。だから」

 

 ミカの持ったカオスグリモアが光りだす。


「半殺し……いや、9.999割殺しで済ませてやるよ。グリモアバースト!」


 瞬間、ライアスの閉じ込められた魔法障壁内で、凄まじい爆発が起こった。

 だがそれは、紅蓮の閃光の時や、変身したリーナと戦った時とは比べ物にならないほどの、凄まじい爆発だった。

 その爆発は十分以上続く。そして頃合いを見計らい、ミカが指をパチンと鳴らした。

 すると、一瞬のうちに爆発と魔法障壁が消える。そこには、裸のまま地面に倒れる一人のヒューマン族の男性の姿があった。

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