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33話 狼耳ガンナーと赤ずきん

 アゼルの言う通り、レストランに現れたのはライアスだった。

 だが、一目で様子がおかしいことがわかる。レストランの中は一瞬で静まり返った。

 そんな中、ヒューマン族の男性店員がライアスに尋ねる。


「あの、いかがなされました?」


 その男性が尋ねた瞬間だった。

 

「邪魔だねぇ」


 ライアスが店員の襟元を掴み、持ち上げた。そのまま、店員を店の奥へと投げ飛ばす。


「うおおおお! キャッチでありまーす!」


 一番最初に反応したのはルシュカだった。ルシュカは店員へと飛び込み、自らがクッションになり店員が壁へ激突するのを防いだ。


「ぐえっ、い、痛いであります」

「ルシュカさん! 今ヒールを……」


 投げ飛ばされた衝撃で気絶した店員を床に寝かせ、ショーティアからヒールを受けるルシュカ。

 店内は騒然としていた。明らかに様子のおかしい男。成人男性を片手で持ち上げ、簡単に投げ飛ばした男が、レストランの出口に陣取っている。

 ライアスの蛮行に、レストラン内に居た、おそらくはAランクと思われる、鎧を纏った冒険者らしき男性が立ち上がる。


「おいてめぇ、突然現れたと思ったら、何してやがるんだ」


 続いて、別のテーブルから魔導士らしきローブを纏った、エルフ族の男性が立ち上がって言った。


「ここはレストランです。食事をする場所では、荒事は好ましくありません」


 さらに二人の冒険者らしき男性が立ち上がり、ライアスへ詰め寄った。


「さっさと出ていきな。これ以上暴れたらただじゃすまねぇぞ」


 しかしライアスは物怖じするどころか。


「うるさいねぇ」


 笑った。歪んだ笑みを浮かべ、男たちの腹を切り裂いた。

 そう、切り裂いた。手にはナイフも何も持っていない。男たちは、冒険者らしく最低限の防具を身に着けている。鎧であったり、魔力の練りこまれたローブであったり。

 それを、ライアスは切り裂いた。


「ぐ、あああああ!」


 男たちが悲鳴を上げ、倒れる。レストランの各所から悲鳴が上がる。

 そしてライアスは、爪についた血を舐めた。


「不味いですねぇ。これだから下等種族は」


 そう、爪だ。ライアスの右手は、明らかに人間のそれとは異なるものになっていた。

 手の先は灰色の鱗で覆われ、恐ろしく鋭利な爪が生えている。それはまるで、ドラゴンの手だ。


「まだ足りないですねぇ、もっと美味しい血はありますかねぇ……?」


 まるで吟味するように、レストラン内を見渡すライアス。その時だった。


「でやああああ!」


 鎧を纏い、剣と盾を手にしたアゼルがライアスに斬りかかった。ライアスは瞬時に反応し、アゼルに爪を突き立てようとする。


「喰らうかよ、そんなもの!」


 アゼルはライアスの爪を盾で弾き、剣を胸元に突き立てようとした。しかし剣の先はライアスの胸にわずかに刺さっただけ。致命傷には至らなかった。

 だがすかさず。


「にゃ……!」


 アゼルの背後に居たシイカが、アゼルを注視しているライアスの右腕に斬りかかった。

 アサシンの技術を用いて、切り落とさない程度に、しばらく腕が使えなくなる程度に深い傷を、一瞬にして複数負わせる。


「これで、寝てるであります!」


 さらにルシュカが、手にした斧の平たい側面部分で、ライアスの体を横から打ち付けた。

 ライアスの体が壁に激突し、ライアスが地面に蹲った。


「ショーティア、そいつらは大丈夫か!?」

「ブレッシングヒールをかけていますわ……あと少しでも遅れていたら、手遅れでした……」


 ショーティアが腹を斬られた冒険者達にヒールをかけている。

 

「くそっ、なんてことをしやがる……ルシュカ、一緒にライアスを捕まえて……!?」


 アゼルがライアスを捕まえようとしたその時だった。

 壁に全力で打ち付けられたはずのライアスが、立ち上がる。


「ひどい冗談であります……あれほど強く打ち付けたのに、立ち上がってきたであります……」

「あの腕といい……普通の人間では、ありませんわね」


 さらにライアスは、シイカに傷つけられた自身の右手を見て、言った。


「面倒だねぇ」


 すると、ライアスの左手が変化を始める。右手と同じように、鱗に覆われ、鋭い爪が伸びる。その爪で自身の右腕を。


「こうしようかねぇ」


 切り落とした。

 再三、レストランの中に、客の悲鳴が響き渡る。

 さらにライアスの切り落とした腕から流れる血が、泡立ち始める。すると、みるみる内に右手が再生し、そこには先ほどと変わらない、ドラゴンにも似た右手があった。

 その姿に、その場に居た皆が畏怖した。アゼル達も同様だ。


「おいおい、あいつ、人間やめちまったのか……?」


 皆が畏怖する最中だった。ライアスがレストランの片隅を見て、何かを見つけたような反応を見せる。


「おや?」


 ライアスが反応を見せたのは、かつてのライアスのパーティメンバーの三人だった。

 二人は恐怖のあまり立ち上がることすら出来ず、一人、先ほどショーティアと話していた女性は、震えのあまり椅子から転がり落ちてしまう。

 そんな椅子から転がり落ちた女性に近寄るライアス。


「さ、させるか! 行くぞルシュカ!」

「了解であります!」


 アゼルとルシュカは斬りかかるが、ライアスの腕の一振りで吹き飛ばされる。さらに二人の背後に居たシイカも巻き添えになってしまった。


「……にゃ」

「いってて……くっそ、なんだってんだあいつは……」


 他の冒険者もライアスを制止しようと掴みかかり、魔法を詠唱するなどしていた。だが掴みかかれても意に介さずというように振りほどき、魔法の詠唱をしている魔法使いには、瞬時に椅子を投げつけ、詠唱を中断させてしまった。

 そして、ライアスは元パーティメンバーの女性の元に。


「おや、お久しぶりだねぇ」 

「ライアス、あ、あんた、一体……」

「ヒューマン族だから見逃していましたが、あなたは、処女だね?」


 ライアスが顔を女性に近づける。くんくんと女性の首元の匂いを嗅ぐ。女性は、恐怖で顔を真っ青に染めていた。


「ひっ……」

「いい……恐怖の匂いだ……そして、美味しそうな処女の香り……」


 その瞬間だった。その女性の腹を、ライアスの爪が貫いた。


「カハッ……!」


 その瞬間、比較的近くまで近づいていたショーティアが、ヒールを詠唱する。


「なんてことを……ファストヒール! リジェネレーション! ポイントヒール!」


 ありったけのヒールを女性に打ち込むショーティア。そのかいもあってか、女性の腹から爪が抜かれた瞬間、その傷は完治し、出血はすぐに収まった。

 女性は腹を貫かれたショックで気絶したまま、床に投げ捨てられる。そして、引き抜いた爪に付いた血を舐めながら、ライアスは。


「ああ、美味しい……実感する。自分が、上位種族、人間を越えた種族になったことを……下賤な下等種族とは違う、奴らの捕食者に、偉大な存在になったことを……!」


 女性の血を舐めたライアスの姿が、みるみる変貌してゆく。

 体が膨れ上がり、身に着けていた衣服を破る。その肌には灰色の鱗が現れ、全身を覆ってゆく。

 そして背中を突き破り、ドラゴンの翼が生える。

 その体の多きさは、元のライアスの五倍を誇り、レストランの天井を突き破った。

 

「みなさん、外へ! アゼルさん、ルシュカさん、気絶した方々を!」


 ショーティアの指示で、外へと逃げ出すレストランの客たち。気絶した冒険者や店員を、アゼルやルシュカ、そして他の無事な冒険者が外へ運び、なんとか大事を逃れた、かに思えた。


「みなさん、無事ですか!?」

「無事、って言いたいところでありますが……」


 レストランから飛び出した4人と、他の客たち。彼らの視線は、レストランであった建物、崩れ、瓦礫の山になったそこに居る者に注がれていた。


「ミカァ風に言うと……ヤバい状況ってやつだぜ、これは」

「……にゃ」


 レストランだった瓦礫の山にたたずむは、灰色のドラゴン。いや、ドラゴンと人間を足したような、人間に近い骨格を持ち、二足で立つドラゴンの姿。

 人はその姿を持つドラゴンのことを、こう呼ぶ。


「あの姿はまるで……ドラゴニュートですわ」

「ショーティア、それウチでも知ってる。Sランクモンスターの代表格じゃねぇか」


 レストランがある場所は、ヴェネシアートでも大き目な広場。

 騒ぎを聞きつけてか、周囲があわただしくなり、海軍の兵士が無数に集まってくる。

 そしてその中には、海軍と契約しているらしき、Aランクの冒険者や、ごくわずかであるがSランク冒険者らしき姿もあった。


「これで安心でありますか……?」

「……にゃ」


 ヴェネシアートのど真ん中に現れたドラゴン。すぐに海軍が対処をしてくれるだろう。

 だが、周囲に海軍が集まっても、ショーティア達は、不安を拭うことが出来なかった。

 そしてドラゴンは、ゆっくりとショーティア達の居る広場の方を振り向く。そして。


『ああ、美味そうな下等種族だ。血がたりない。もっと飲みたいねぇ!』


 ドラゴンの声を人間の声が混じったかのような声が、響き渡る。


「ショーティア、ドラゴニュートって喋るのか!?」

「喋るなんて聞いたことがありませんわ!」


 そして、そのライアスだったドラゴンは、顔を闇夜の空に向け、咆哮した。


〇〇〇


「リーナ、これを着けてくれ」


 パーティハウスの中。リーナの部屋で、ミカがリーナに差し出したのは。


「ミカッ」

「なんだ?」

「これ、首輪よね」

「ああ」

「……どういう趣味してるの?」

 

 とツッコむリーナであったが、ミカは至って大真面目で。


「ああ、その首輪は、リーナの暴走を止めるためのものだ」

「そうなの? なんか悪趣味としか思えないんだけど」


 と疑問を呈するリーナに対して、今度はクロが。


「リーナ、ミカが作ってくれたんだ。ミカが嘘をつくと想うかい?」

「それは……あたしだってミカッの事は信頼してるけど……」

「なら着けたほうがいいよ」

「むぅ……」


 しぶしぶ、首輪を着けるリーナ。首輪は赤い革製の首輪だ。

 それを身に着けたリーナに、クロは。


「野良犬が、飼い犬になったね」

「ガリ猫、今なんて言った!?」

「クックッ……なんでもないよ」


 と二人でまた言い合いを始めてしまった。

 そんなリーナの首に着いた首輪を見て、ミカは安堵する。


「とりあえず、これで安心だ」


 と言った、そのときだった。

 どこかから響く、獣の咆哮。その咆哮は、ミカ達の耳にも届いた。


「ミカ、今のは!?」

「わからない。だが、ドラゴンの咆哮にも似ていた……外に様子を見に行くか」


 とミカが外に出ようとしたときだった。

 リーナの部屋にある窓。そこを、何者かがドンドンと叩いた。


「ミカ、海軍の人みたいだ」


 すると、海軍の軍服を来た青年が、窓越しにミカに告げた。


『報告します! ヴェネシアートに、突如ドラゴニュートが現れました! 現在海軍が対処を行っていますが……万一に備え、提督より直々に、ミカさんにも来ていただきたいと! 報告は以上であります! 私はこれよりヴェネシアートに向かいます!』


 そう言って、軍服を来た青年は立ち去ってしまった。


「ミカ、ヴェネシアートが! もしかしたらショーティアたちも!」

「ああ。その可能性はある。急いで向かうぞ! リーナは残っていてくれ! クロ、行くぞ!」


 そう言ってミカはクロを連れて、リーナの部屋に置いていたグリモアを手に、パーティハウスを飛び出して行った。


………………

…………

……


「……あたしは残ってて、か。ま、当然よね」


 一人残されたリーナ。ミカからもらった首輪があるため、おそらくはもう部屋を出ても大丈夫だろう。

 そう判断したリーナは、自室から出て広間へと向かった。

 するとそこには。


「あれ、これって……」


 広間のテーブルには、衣服と、弾薬が詰まった革製のポーチとガンホルダーが置いてあった。

 リーナが衣服を広げる。おそらくは、クロが買ってきた、リーナ用のものだろう。


「まったく、ガリ猫にしてはセンスいいじゃない。それにこのポーチと弾薬、ミカッが作ったのね。弾薬はあたしも作れるって言ってるのに……にしても、さすがね。素晴らしい弾薬じゃない」

 

 とリーナが弾薬を吟味していたときだ。


「……あら?」


 リーナは、広間のソファにグリモアらしきものが置かれているのに気づいた。

 それを手に取ったリーナは。


「これ、ミカッのよね。たしかカオスグリモアとか言う」


 たしか、ミカのメイン武器であったはずだ。おそらくミカは、誤って、以前ダルフィアで買ったという中級のグリモアを持って行ってしまったのだろう。

 届けなければ。だが、嫌な予感もする。最低限、準備を整えてから家を出るべきだ。そうリーナは判断した。


「……まったく、仕方がないわね。服に弾薬、そして銃。あとは倉庫の備品に、かぎ爪ロープがあるって言ってたわね」


 そう呟きながら、リーナが衣服を着替える。

 クロから借りていたワンピースを脱ぎ、白いブラウスに袖を通す。茶色いコルセットベルトを身に着け、小さなマントを羽織り、胸元でピン止めする。

 白いフリルの着いた赤いスカートを履き、白いタイツに足を通した。

 そして、子供用サイズの茶色いブーツを履く。


 弾薬の入った茶色い革製のポーチ、そして銃を入れるためのガンホルダーを両脇に身に着け、そこに銀色の拳銃を格納した。

 そして倉庫から取ってきた、かぎ爪ロープをまとめ、ポーチ用のベルトに挟む。


「あ、これを忘れてはだめね」


 最後に、獣の耳を出すために穴の開けられた、赤ずきんをかぶり、胸元でボタンをとめた。

 

 数分もしないうちに身支度を整えたリーナ。

 そこには、赤ずきんを身に着けた、狼耳の、小さな冒険者の姿があった。


「さて、さっさとこのグリモアを届けないとね」

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