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32話 メインヒーラーと猫耳ソーサラーの元パーティメンバー

「え、処女の血?」


 ミカの言葉を聞いて、クロが驚いた。そんなクロに、再度ミカが言う。


「ああ、まず間違いないと思う。リーナに合成されたフェンリル……実は文献にも残っている、過去にも現れたことのあるモンスターらしくてな。文献には、血に反応して狂暴化すると書いてあった。でもリーナは最初他の血に反応しなかったからな。トリガーは違うものだと思ったが、血には関連していたようだ」

「ねぇミカッ。なんでよりにもよって、処女の血なの?」


 リーナのその問いに、ミカはすぐに返した。


「血に反応するモンスターは多くてな。たとえばグール。これは死んだ人型種族が呪いでアンデッドにされたモンスターだが、血の臭いに強く反応する。ジーバットという巨大なコウモリ型のモンスターも、人間の血に強く反応するんだ」


 血に反応するモンスターは数多く居る。だからこそ。


「血に反応するモンスターの研究は進められていたんだ。キメラ術式は、召喚獣でなら使うのを許可されている。血に強い反応を示す召喚獣を血に反応しづらくするよう、術式に組み込む技術もあるんだ。ただ、血に反応することで、本能を刺激し、一時的にモンスターを強化するという方法もある。だから、『特定の血にしか反応しなくする』ことが多いんだ」

「つまりリーナは、処女の血に反応するようにされたんだね」

 

 クロの言葉に、ミカが頷いた。


「太古から存在する、ユニコーンというモンスターが居てな。処女に反応を示すモンスターで、研究されつくしてる。おそらくリーナをキメラにした術式は恐ろしく複雑なもの。そこに組み込めて、なおかつある程度限定的な血となれば、処女の血だったんじゃないかと思う」


 人とモンスターを合成しキメラにし、人間の形態を維持出来たとして、ある程度は変身状態をコントロールできないと話にならない。

 しかし混ぜられているのは強力なモンスター。魔法や薬では簡単にはコントロールできない。だからこそ、本能を書き換えるという形で、ある程度任意に変身できるようにしたのだろう。

 と、話をしていたところでリーナが。


「ミカッ」

「なんだ?」

「その体、処女なのね。どうやって知ったの?」

「そりゃ、その……」


 と、ミカが言いかけて、顔を赤くする。首をブンブンと振ったミカは。


「し、しょうがないだろ! ほら、この体の事も色々と知らないといけないしな、調べたんだよ!」

「……ミカッも男ね。でもそんな小さい体に欲情するのはどうかと思うわ」

「欲情じゃない! 仕方なくだ仕方なく! それに魔法を使って調べたからやましいことはしてない! と、とにかく、この話は置いといて」


 リーナの体の事がわかったとなれば、次に考えねばならないのは。


「どうやってリーナの暴走を防ぐか、だ。良い方法を考えないとな」


 とミカが言ったときだ。これまでの話を聞いたクロが、ミカに尋ねた。


「ねぇミカ、血に反応して変身してしまうのは、お腹に入ってからだよね」

「ああ、そうだな。お腹に入って、初めてそれが体の中に吸収されるんだ」

「なら、お腹に入る前に血をどうにかできないかな」

「どうにかってどうするのよガリ猫」

「えっと、血が口に入ったら、首をキュッと絞めるとか?」

「ガリ猫、それ冗談で言ってる?」

「僕は大まじめだ」


 一見冗談にも思えたクロの提案であったが。ミカはというと。


「……そうか、なるほどな!」


 ミカは何に感心したように、クロの両肩を掴むと。


「その方法があったか! ありがとうクロ、これでリーナの暴走を止められる!」

「そうかい? 僕が手助け出来たのなら良かった」

「え、ど、どういうことよミカッ」

「内部から根治しようとすると難しい。だからこそ、別の方法がある。待ってろ、夜までにリーナの暴走問題、解決できるぞ! 必要材料は……確か魔狼の皮が残っていたはず。狼系統であれば親和性も……よし、早速取り掛かるぞ!」

「わっ、ミカ!」

「ど、どうしたのよミカッ!」


 そう言ってミカは、クロとリーナの手を引っ張り、部屋の外へと飛び出した。


〇〇〇


 夜のことだった。

 そこは、ヴェネシアートにあるレストラン。以前青空の尻尾が、カゴンに連れられて訪れた店だった。

 その中で残りの青空の尻尾のメンバー、ショーティア、アゼル、ルシュカ、シイカが食事を取っていた。


「今日で三日目だぜ。やっぱり調査って時間がかかんだなー」

「あらあら、場合によっては数か月かかる可能性もありますわ」

「マジか! でもミカァの奴なら、数か月どころか三日で終わらせそうな気がするけどなー」

「そうでありますなー! ミカどのは本当に凄いでありますから!」


 ちなみにシイカは、テーブルの下でフライドポテトをシャクシャクと食べている。

 ミカの手を煩わせないため、四人は外で食事を取ることにしていた。そうしてやってきたのが、この店だった。


「ミカァやクロにも、何か飯買っていかないとな。あ、あの店のドーナツなんてどうだ!? めっちゃ美味くて、名物なんだぜ?」

「アゼルどの、ドーナツはおやつでありますよ」

「ここのお店で、食事をお持ち帰りできないか聞いてみましょうか」


 と、三人が談笑していたときだった。

 ショーティアがハッとして、レストランの一角を見る。


「お? どうしたんだショーティア?」

「いえ……ただ、もしかしてあの方達は」


 ショーティが見ていたのは、レストランの一角のテーブルに座る、三人の冒険者だった。 女性が三人。全員ヒューマン族だ。

 彼女たちを、ショーティアは知っていた。


「彼女たちがどうしたでありますかショーティアどの?」

「あの方たちは……あのライアスと一緒に居た冒険者ですわ」


 ライアスとショーティアが初めて会ったのも、このレストランだ。その時、ライアスの後ろに居たのが、彼女たちだった。

 すると、彼女たちもショーティアの姿に気づき、見てきた。その三人が、ショーティア達のもとへとやって来る。

 そのうちの一人、おそらくは魔術師であろう、腰に杖を携えた金髪の女性が、ショーティアの前に立つと、口を開いた。


「あの、あなたはあの時のリテール族……ですよね」

「ええ、そうですわ」

「……ごめんなさい!」


 その場で、その女性がショーティア達に頭を下げた。


「あのとき、私達はリーダー……ライアスを止められなかった。リテール族の差別なんて駄目な事だって知っているのに。ライアスはリーダーだったから、逆らえなくて……」

「あらあら……」

「それに私達のパーティリーダー、ライアスは、ヒュートックの一員だってわかって、王国から追われているわ。私達のパーティからも追放申請を行ったの。メンバーも大半が抜けちゃって、残ったのは三人。あの時、ライアスを止められなかった私達が言えたようなものじゃないけど、あの時はごめんなさい……このお詫びは必ず……!」

「過ぎたことですわ。それに、不快な思いをさせられたのは、ライアスだけです。今はライアスの追放申請で大変でしょうし、よろしければ落ち着いたところで、お食事でもどうです?」

「お食事?」

「ええ、わたくしたちのパーティメンバーも全員揃っていないことですし、よろしければお食事の場を改めて設けますわ。そこで、腹を割って話す、というのはどうでしょう? わたくしはあなたたちの行いを気にしてませんし、残りのメンバーの意見もその場で聞けますし、交流も深められますわ」


 もしも許していないのなら、この場で彼女たちを突っぱねるだろう。

 しかしショーティアは、自分がされた行いについては彼女たちを許し、そして他のメンバーとも話せる場を設けた。

 ショーティアの提案に対して、その女性は。


「ありがとう……ぜひともお食事にご一緒させて頂きます」

「あらあら! では、改めてご連絡致しますわ。ご連絡先を教えて頂けるかしら?」


 ショーティアが連絡先を女性から受け取ると、その女性はショーティアに頭を下げて、自分の席へと戻った。

 そしてショーティアも食事を再開する。そんな一連の流れを見ていたルシュカが尋ねた。


「ショーティアどの、なぜお食事に誘ったでありますか?」

「おそらくですが、あの方々は決して悪い方ではありません。一応の罪悪感をお持ちです。ゆえに、わたくしから許したとしても、残りのメンバーからの許しが聞けなければ、ずっと気にされるでしょう。ゆえにお食事の場を設けて、後ぐされなくしようと考えまして」

「そうでありますか。確かにミカどのやクロどのなら、あの方々を許してくれるかと思うであります」

「ちょっとした後ぐされが、いつまでも後を引いて、後々嫌な影響を及ぼすこともありますわ。無くせるなら、無くすが吉ですわ」


 といったところで、ショーティアが改めて食事を始めようとした。


「さぁ皆さん、早く食事を終わらせて、ミカさんのもとに……」


 とショーティアが食事を口にしようとした、その時だった。

 勢いよくレストランの扉が開かれる。

 その扉から姿を見せたのは、一人の男性だ。

 だが、明らかに様子がおかしい。身に着けた衣服はボロボロで、荒く呼吸をしており、その目は血走っている。

 

「お、おいショーティア、あいつって……」


 アゼルが驚く。それもそのはずだ。そこに現れたのは。


「あいつって……ライアスじゃねぇか?」

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