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31話 サポートヒーラーとキメラ術式

 リーナの血を採取したミカは、まず様々な薬品を混ぜたり、特定の属性の魔力を流し込んだりした。

 しかし、全く変化は見られない。


「となれば、モンスターの血と混ぜてみるか」

「ミカ、何故モンスターの血と混ぜるんだい?」

「アンジェラに前聞いた話で、リーナにはモンスターの力を付与する人体実験がされたんじゃないかって言ってただろ? それを確認するために、リーナの血とモンスターの血を混ぜてから、ヒールをかけるんだ。血液にヒールをかけることで抜いた血が活性化して、異物、つまり他の血を排除しようとする機能が強くなって、もしもリーナの血とモンスターの血の親和性が高かったら……」


 そう、他の血を排除しようとする機能が働かないはず。つまりそのモンスターが、リーナが人体実験によって力を与えられたモンスターになる。


「でもミカ、他の血を排除しようとするとか、どうやって調べるんだい?」

「さらに薬品と混ぜて、親和性が高くて血が沈殿するか、排除機能が働いて赤色透明の液になるかを調べる方法もあるんだが、ヒールをかける方法はもっと簡単でな。ヒールをかけた際、排除機能が働くと血液に自然と流れができるんだ。魔力によって活性化してるから、変化が独特でな。逆に排除機能が働かないと、ヒールをかけても何も変化が無い」


 そう言って、ミカはリーナの血と薬品、そしてモンスターの血を入れた複数の容器にヒールをかけていった。

 それぞれ、自然と流れができる。どうやら、入れたモンスターの血とリーナの血は親和性が高くないようだった。


「これを何度か繰り返す。少なくとも、150種類はやるぞ。リーナの血は一滴程度でいいから、それくらいは行えるはずだ」


 そうして何度も何度も、同じ実験を繰り返すミカとクロ、そしてリーナ。

 150種類目に差し掛かろうとした、その時。


「ミカ」

「どうしたんだクロ」

「この血、動かない」


 クロが持っている容器の中で、血が動いていなかった。


「クロ、その容器に入れた血は?」

「えっと、ちょっと待ってくれ。さっき入れたのは、こっちの容器に入っていた血で、たしか……フェンリルと言ったかな」


 フェンリル。その名前を聞いた瞬間、ミカは頭を抱えて呟いた。


「マジか……ヤバいな」

「ミカッ。フェンリルって何なのよ? あたしも聞いたことが無いモンスターなんだけど」

「……実はその血、アンジェラが『まさかとは思うけど』と言いながら、渡してきた血なんだ。十五年前だったか、山奥で数多の被害を出し続け、王国から直接依頼を受けて、Sランク冒険者が総出で、大きな被害を出しながら討伐した、強力な再生能力を持つ巨大な狼型モンスター……その血液なんだ」


 Sランク冒険者が総出で、ようやく倒せたモンスター。それはすなわち。


「S+ランクのモンスターだ。死体や血液が薬品漬けにされ、王国の研究所に保管されていたらしい。その血液をアンジェラが少し拝借して、俺に渡してきたんだ」

「ミカ、それはつまりリーナは」

「ああ。リーナ、お前はS+ランクのモンスター、フェンリルの力が、体に宿っている」


 ミカにそう告げられたリーナは、自分の両手を見て呟く。


「そんな……あたしの体に、そんなモンスターの力が……」

「……だが、これで大体リーナの体に起きていることがわかった」


 ミカは、これまでの調査でリーナについてわかったことから、自分の見解を述べた。


「リーナの体。まず間違いなく呪いの類ではない。おそらくは……合成獣キメラ術式を施された可能性が極めて高い」

「キメラ術式。それは僕でも知ってるよミカ。錬金術の力で、二つの生物を一つに混ぜる禁術だ。だが、これは王国の法律で、召喚獣以外に行うのは禁止されている。しかも人になってなおさらだ。何より、人とモンスターを混ぜたら、新しいキメラは必ず正気を失うって本に書いていたよ」

「クロの言っていることは間違いない」

「でも、ミカの話し方じゃ、リーナは言わばキメラだ。なんでそう思うんだい?」

「……リーナに別の魔力が混じっている。それが、キメラでも似たようなことが起こる。大型のモンスターに、小型のモンスターを混ぜると、同じような魔力の持ち方になると、俺も研究書を読んだことがある。だが、小型のモンスターの魔力は活性化することなく、キメラの中で隠れたままだとも書いてあった」


 そこで、ミカは一つの仮説を立てた。


「リーナの魔力と、血液の反応。二つからして、リーナがキメラ術式で、他のモンスターと混ぜられた事は間違いない。そして、俺が思うに……普通のキメラ術式じゃなく、キメラ術式によって『フェンリルの体のほんの一部だけ』を混ぜられたなんじゃないかと思う」

「ほんの一部かい?」

「ああ。血液とか、牙とか、そのあたりだ」

「……そういえばあたし」


 リーナが、人体実験をされていたときの事を話始める。


「薬を飲まされたり、変な魔法陣に乗せられたりもしたけれど……思い出したわ。確か、体に牙のようなものを突き刺されたのよ」

「牙のようなもの?」

「ええ。術式が書かれた牙のようなものを体に刺されて、あまりの痛みと熱さで気絶したわ。目覚めたら刺された傷も痛みも無かったから、夢かと思ったのだけれど……思えば、そのあとかしら。何か飲み物を飲まされて、気づいたらこの姿になっていたのは」


 術式。牙。その二つから、ミカはある一つの答えを導き出した。


「間違いない。牙にキメラ術式を埋め込み、中にフェンリルの血液を満たして、リーナに打ち込んだんだ。そして何かのきっかけ。おそらくは何かを飲まされたことがきっかけで、体内でキメラ術式が発動して、リーナはフェンリルとのキメラになったんだ。本来であれば生物と生物でしか行えない術式だが……なるほど、モンスターの体の一部を埋め込むことで、埋め込まれた人と埋め込んだものを一つの生物として、キメラ術式で身体の再構成を行うってことか。理論上は可能だ。かなり高度な術式が必要だがな」


 そしてリーナは、その術式によってキメラになり、体に変化が生じた。


「リーナに埋め込まれたフェンリルの体はごく一部だけだ。だが、フェンリルはS+ランクの強力なモンスター。ごく一部だけでも、フェンリルの再生能力によって体が若返り、一部が獣の体……狼耳や尻尾が生える変化を起こしたんだろう。そして何かのきっかけで、体内の『フェンリルの部分』がリーナという人の部分を一時的に浸食して……」

「あたしが……人狼に変身するってことね」

「そう、そしてそのきっかけを制御できれば、もしかしたら『人間の意思を持ったまま、S+ランクの強さを持つキメラ』にすることができるかもしれない」


 それは多くの組織や国が、裏で求めてやまない技術だ。


「それとリーナ……残念だが」

「わかってるわ。キメラの話は冒険者として簡単な知識は持っているわ。戻れないんでしょ?」

「……ああ」


 生物と生物を混ぜたキメラ。一度混ざってしまえば、戻すことは出来ない。


「……あたしの体、思っていたより面倒くさいわね」


 と強がるリーナであったが、その声は少し震えていた。

 無理もない。自分が人でなく、キメラになっていた。そして、もう二度と普通の人間には戻れない。その事実が、リーナに重くのしかかった。

 だが、リーナは一人の冒険者であり、Sランクの実力を持つ。そして、精神的な心構えも相応に持っていた。


「でも、後ろは向いていられないわ。戻れないなら、うまく付き合うしかない」


 そう呟いたリーナに、クロが言う。


「……強いね、リーナは」

「あら、ようやくあたしを褒めたわねガリ猫」

「ふん、強いけど性格は可愛くないよ。しょんぼりしてたら慰めてあげたのに」

「ガリ猫に慰められなんてしたら、それこそSランク冒険者と傭兵の名折れね」


 ミカは気づいた。リーナはクロと会話したことで、少し元気を取り戻しているようだ。

 ミカは考える。リーナは自分の体について、かなり前向きだ。なら、自分のできることは。


「あとは、どうやってコントロールするかだ。暴走のきっかけは何なのかを調べればいいんだ。そうすれば、対策は取れる」

「そうだねミカ。僕はたぶん、リーナが飲まされたっていう飲み物が怪しいと思うんだけど」

「たしかリーナ、その姿になったときだけじゃなく、人狼に変身したときも何か飲まされたって言ってたな。その飲み物の情報は何か無いか? 味とか」

「わからないわ……ほとんど覚えていない。甘ったるく味付けされていた記憶があるわ。あとは、どこか生臭い味……あれは……」


 すると、リーナはハッとして言った。


「血だわ」

「血か?」

「ええ、血よ。今ようやく思い出せたわ。たぶんあの飲み物に、血が混じっていたと思うわ」


 するとミカは少し考え込んで、リーナに尋ねた。


「さっきの血を混ぜる実験のとき、モンスターの血や、海軍に協力して採取させてもらった、男女の血液も使ってたが、それを見てリーナはどうだった?」

「別に何も感じなかったわ」

「なら……」


 するとミカは注射器を手に取り、それを自分の指先に少しだけ刺した。じわりと、ミカの指先から血が出てくる。

 それを見たリーナが。


「……なに、これ」

「大丈夫かリーナ」

「大丈夫、だけど、心臓が、熱くて……」

「……昨日の反応が気になってたんだ。昨日、俺が指先をけがをしたとき、強い反応を見せていたから」


 ミカが自身の指にヒールをかけて、すぐに血をぬぐった。するとリーナは落ち着きを取り戻す。


「はぁ……はぁ……なんだったのよ、いったい……他の血には反応しないのに……」

「クロ、ちょっとデリカシーに欠ける質問かもしれないが……男性経験はあるか?」

「一切無いよ?」

「よ、よく平然と応えられるわねガリ猫」

「ミカを信頼してるからね。それにそれを尋ねるということは、その情報が何かの役に立つということだろう? ミカ」


 ミカはこくりと頷いた。


「ああ。変な質問をしてしまなかったな。もう一つすまないが、クロも指先から血を流してみてくれ」

「う……それはちょっと怖いけど、わかったよ。ミカが刺してほしい」


 ミカが目を背けるクロの指先に、注射器の針を刺した。

 クロの血が指先から出てくる。そしてそれを見たリーナが。


「ま、また……体が、熱くて……その血……舐めたく……」

「クロ、ヒールをかける。すぐに血を拭いてくれ」


 そしてヒールにより傷がふさがり、血を拭う。

 

「……確率はかなり高そうだ。おそらく、リーナの体が反応するのは」


 リーナが強く反応する血。おそらくは人体実験の際に飲まされ、人狼化などのきっかけになるもの。

 それが何か気づいたミカは、一呼吸置いて言った。


「処女の血だ」

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