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30話 サポートヒーラー、調査を開始する

 そして、リーナの体の調査が始まった。

 調査を主に行うのはもちろんミカだ。その間、残りの青空の尻尾のメンバーは手伝えることは少ない。

 

「というわけで、わたくしたちは依頼をこなしてきますわ」


 翌日、広間でミカはショーティアに提案された。アゼル、ルシュカ、そしてシイカも同じ反応をしている。

 そして、リーナは彼女の部屋で休んでいる。あまり外に出ないほうがいいという、彼女の提案だ。


「おうよ! ウチらは依頼をこなして、冒険者パーティとしてちゃんと活動するぜ」

「ミカどのがリーナどのを調べている間、自分らはできる事が無いでありますし、ミカどのから学んだ立ち回りを上手くできるか、Cランクの依頼を受けつつ練習するであります!」

「……にゃ」


 とミカに言う4人であったが、1人だけその内容を把握していないような人物が居た。


「え、みんな、僕はその話聞いてないんだけど」


 それはクロだ。すると、クロに対してショーティアが。


「クロさんは、ミカさんをサポートしてあげてください」

「なんだかんで言って、クロどのは自分らの中で一番博識であります。それに、魔道具の扱いや魔力の調整などは、ソーサラーが得意としていると聞くであります」

「ま、ミカの手伝いには最適ってこった!」

「でも……ミカ、キミはどう思う?」


 言わば、クロが調査の助手をしてくれるということだ。

 ミカは考える。確かにクロは、他の皆に比べると、細かい作業や魔力の扱いに長けている。おそらくは、天性の才能というよりは、努力のたまものだろう。

 リーナの調査では魔道具を扱ったり、細かな作業をすることも多い。魔道具の扱いで言えばショーティアもできるだろうし、手先の器用さではシイカが一番だろう。だが、青空の尻尾の中で言えば、広く浅く色々と行えるクロは適任と言える。

 

「俺からも頼みたい」


 ミカがクロに頼むと、クロの顔がパァっと明るくなった。

 

「そうかい? ミカの頼みなら断れない。ぜひ手伝わせてくれ!」

「ああ、頼りにしてるよ。ただ、リーナとはあまり喧嘩しないでくれよ?」

「ど、努力はするよ。そもそも僕は悪くない。昨日はリーナから先に言ってきたんだからね」


 と、クロがリーナと喧嘩しないかを心配するミカだったが……


〇〇〇


「なんでガリ猫が居るのよ」

「僕はミカの助手だからね」

「ふーん……ミカッが言うなら、まぁいいわ」

「ま、僕もリーナが元に戻れるよう手助けするよ。感謝してほしいね」

「ミカがいればいいんじゃない?」

「それは否定しないけどね。素直じゃないねリーナは」

「そう? あたし素直な方だと思うけど?」


 リーナの部屋へとやってきたミカとクロ。そしてクロは早速、リーナと言い合いを始めてしまった。

 ミカは言葉の裏で棘を刺しあう二人を見て思う。


(……かわいいな)


 青空の尻尾の中で、外見が幼い順で言えば、リーナ、ミカ、クロになる。そんなリーナとクロがいがみ合っている姿。昨日は初めてだったために少し慌てたが、こうして冷静に見れば、小さなリテール族同士の、子供の喧嘩にも見える。


(その小さなリテール族に、俺も含まれるんだがな)

 

 そう考えればなごむ光景ではあるが、いつまでもこうしてはいられない。


「リーナの体について調べる。二人とも、手伝ってくれ」


 そう言われて、クロとリーナはしぶしぶ言い合いをやめた。


「ミカが言うなら」

「ミカッに言われたら仕方ないわ」


 ミカは呆れた表情を浮かべつつも、肩をすくめて呟いた。


「先が思いやられるな。っと、そうだ」


 何かを思い出したようにミカが、とあるものをリーナに手渡す。


「ミカッ、これは……?」


 ミカが手渡したのは銃だ。銀色に輝く、小型の自動拳銃だ。


「凄い……あたしの前の銃……ウルフェンとまったく同じ。それを小型化するなんて……そこらの武器職人じゃ絶対無理だわ。さすがはあたしが認める腕ね!」

「これでよかったか?」

「ええ。あたしの前の武器は……おそらく紅蓮の閃光、ドランク共に売られちゃってたらしいし、こうしてまたミカッの武器を手にできて嬉しいわ」


 リーナが銃を手に取る。手に取った瞬間、リーナの手が一瞬ガクっと落ちるが、それでもすぐに持ち直す。

 慣れた手つきで銃のジョイントやマガジンと言った部品を調べるリーナ。


「うん、やっぱりこれが無くっちゃ始まらないわ」


 喜ぶリーナに、クロが一言。

 

「次は服だね。いつまでも僕の服じゃ嫌だろう?」

「そうね。いつまでもガリ猫に服を借りるのは癪に障るわね」

「はいはい、それで、どんな服が着たいんだい? 小さな頃に着てた服とか、慣れた服があれば、僕がそれらしいのを買って来るよ」

 

 クロに言われて、少し考えたリーナは。


「赤ずきん……」

「赤ずきん?」

「ええ、小さなころは、赤ずきんを着けていたわ」

「わかった、何か僕のほうで良い服を探しておくよ。とりあえず、リーナの体の調査が終わったら、探してみよう」

「ガリ猫のセンスだとどうなることだか。期待はしないでおくわ」

「はいはい」


 と言ったところでミカが。


「んじゃ、話も終わったところで始めようか。まずは魔法陣を描くから乗ってくれ。魔力がどうなっているかを調べよう」


〇〇〇


 ミカはクロと協力しつつ、数日に渡ってリーナの体を調べた。

 

●1日目

 

 初日に行ったのは、リーナの体に流れる魔力の分析であった。

 魔力分析に使われる魔法陣にリーナを乗せて、リーナの魔力を分析した。


「魔力の質の大半は、一般的な人型種族の物と相違ないな。だが」

「何かあったのかい?」

「少しだけ、別の魔力が混じっている。例えるなら、水の上に一滴だけ、油が浮いているような感じだ。人の魔力とは異なる魔力が、混ざりあうことなく、リーナの魔力に含まれている」

「あたしには何も感じないわ」

「リーナは俺たちと違って魔法系クラスじゃないからな。自身の魔力の変化に気づかず当然だよ」

「えー、ガリ猫よりあたしが魔法的には鈍感ってこと? なんか嫌ね」

「リーナは一言余計だよ」



●2日目


 次に行ったのは、リーナの肉体的な変化の調査だった。

 リーナには狼の耳や尻尾が生えている。それ以外に変化が無いか、もしくは体内に変化が無いかをミカは触診で調べようとした。


「だからその、リーナ。すまないが、服を脱いでもらえないか?」

「え」


 ミカは恥ずかしがりながらもリーナに尋ねた。すると。


「い、嫌よ、ミカッはそんな恰好でも、中は男でしょ? その、恥ずかしいし……」

「そうだよな。だとしても、どうするか。出来れば体に触れて調べたい」

「う……わ、わかったわ。ただ、一つ条件を出すわ」


 リーナが出した条件。それは。


………………

…………

……


「り、リーナ、これは」

「僕に手伝えって、これか……」


 今、ミカは目隠しをされている。そしてミカの隣にはクロが立っていた。


「いい? 絶対目隠しを取るんじゃないわよ。そしてガリ猫。ミカッが触りたいと言った場所に、ミカッの手を誘導しなさい。今から服を脱ぐわ。絶対見るんじゃないわよ!」


 目隠しをされているミカの前で、クロから借りた服を脱いでゆく。衣服を脱ぐ音が、ミカの耳に入って来る。


(これは。何かクルものがあるな)


 暗闇に染まる視界。衣類を脱ぐ音。どこか、何とも言えない雰囲気を醸し出す。


「ぬ、脱いだわよ」


 目隠しされているミカの前に、一糸まとわぬ姿のリーナが。


「それじゃクロ、リーナの腹部を触りたい。触診で、体内の状態もある程度わかるんだ」

「ああ、わかったよ」


 とクロがミカの手を誘導しようとしたのだが。


「あっ」


 クロが言う、ミカの手の誘導を間違え、ミカの右手は、リーナの胸もとに。


「こ、このガリ猫……!」

「ごめんよ。次はちゃんと……」

「ん? ここが腹か? 確かに平らだから腹かな?」

「っ!? う、うるさい!」

「おぶっ!?」


 リーナのビンタが、ミカの頬に炸裂した。



●3日目の昼


 2日目の触診により、リーナの体の内部構造は、ほぼ普通の人型種族と変わらないことがわかった。どうやら、ただ人間の耳が消え、そして体が若返り、耳と尻尾が生えただけのようだ。


「魔力的にも、体内的にも調査を終えた、あとは、一つだけ調査したいことがある」

「なんだい?」

「リーナの血を調べたい。薬剤を使用しつつ色々な生物の血と混ぜて、反応を試したい。注射器ってのがあってな。本来はモンスターに針を刺して、血を抜く道具だ。人に刺せるほど針は細くないんだが……人に刺しても大丈夫なように、俺が針を極限まで小さくしたものを作った」


 それは、鉄とガラスで出来た注射器というもの。それを使って、リーナの血を採取する計画だ。


「そ、それを刺すの……?」


 少し怯えていたリーナに、クロが言う。


「リーナも案外憶病なんだね」

「むっ……べ、別に怖くないわ! ミカッ、さっさとあたしの血を抜いて!」

「ああ、少しチクっとするから我慢してくれ。右手から採取するぞ」


 右手を差し出したリーナ。その腕に、ミカが注射針を刺そうとする。


「このあたりかな。この血管の血は、体の中に戻る血が流れてる。ここの血管は、針を刺しても血があまり出ないんだ」


 ミカが針をリーナに刺す瞬間、リーナは目をつむり、顔を背けてぷるぷると震えた。

 その間にミカの針がリーナに刺さり、血を抜き取り終える。

 そして針を抜いたところに絆創膏を貼ったのだが。


「ね、ねぇ、まだ刺さないの?」

「いや、終わったぞ?」

「へっ!? う、うそ、刺されたのに気づかなかったわ」

「やっぱりリーナ、鈍感なんじゃないかい?」

「うっさいわガリ猫」


 そして抜き取った血が入った注射器を見たミカは。


「クロ、何か感じないか?」

「その血からかい? ……たしかに、なんというか、血の中にある魔力が活性化しているように感じるよ」

「そこまでわかるのか。魔力の分析に、クロはやっぱり長けてるな」

「いや、ミカが色々教えてくれたおかげだよ」

「……血が怪しいな。念入りに調べてみるか」


 そして、リーナの血の調査が始まった。

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